現場起点のイノベーションを。ボトムアップで切り開く新たな働き方改革
三菱ケミカルグループ株式会社(以後、MCGグループ)で働き方改革プロジェクトが立ち上がったのは2022年の4月。松村はその取りまとめ役として、取り組みをボトムアップのアプローチで進めてきました。
「これまでも、特定の課題に対してメンバーを集めてプロジェクトを組成することはありましたが、『そもそもの困り事は何か』というところから掘り下げようとしたのは今回が初めて。総務部の働き方改革グループが旗振り役となり、経営企画、広報、人事、ITといった所管部署の責任者にもアドバイザーとして参加してもらって、ボトムアップ型で進めてきた点が今回のプロジェクトの大きな特徴です」
プロジェクトを進めるにあたり、働き方改革グループがまず実施したのがアンケートでした。
「当グループでは、リモートワーク時に場所や距離にとらわれることなく、柔軟に職務を遂行する仕組みの構築をめざして、2020年から業務改革プロジェクト(GSK/業務を素敵に改革する)を進めるなど新しい働き方への適応に取り組んできました。
しかし、われわれコーポレート側の人間がどれだけ頭を捻ったところで、現場のことは現場にいる人にしかわかりません。100の現場があれば、100通りの困り事があるはず。今回の働き方改革プロジェクトでは、業務改革プロジェクトをさらにスケールアップしようと、各部署の課題を拾い上げるところから取りかかりました」
ポータルサイトを使ったアンケートに寄せられた回答数は100件以上。部署や役職を超えてさまざまな意見が集まりました。
「回答の多くは、縦割り組織の弊害やコミュニケーション不足に関するものでした。アンケートでは働き方に関する困り事について質問していたので、残業が多いテレワークやペーパーレス化が思うように進まないといった声が出てくると思っていましたが、そうした業務上の課題は当グループではすでに解決済み。働き方改革が次のフェーズに移っていることを知れたのは大きな収穫でした」
その後、社内でプロジェクトに参加するメンバーを募ったところ、25名の定員枠に集まったのは100名以上。性別や職種、役職など多様性に配慮しながらメンバーが選出され、プロジェクトは始動しました。
「One Company, One Team」改革の焦点は、働き方から組織風土へ
集まった意見を集計し、重要度と緊急度の2軸で整理した松村ら。「One Company, One Team」というスローガンのもと、5つの課題へと絞り込んでいきました。
「1つめが、会社が縦割りの構造になっていて部門間の連携が少ないこと。2つめが、コロナ禍で出社の機会が減少したことでコミュニケーションが不足していることです。3つめが、グループ内の個社ごとに組織風土が異なること。
あとは、経営層と社員との間の情報の流通に関するもので、経営層が社員に対して伝わりやすいかたちでメッセージを伝えていくこと、受け取る側の準備を整えることをそれぞれ4つめと5つめの課題としました。
そこから抽出したのが、『One Companyでの新たな社風をつくりあげたい(縦割り文化と仕事のサイロ化の解消)』『会社が好きな人を増やしたい(帰属意識を高めたい)』というふたつのテーマ。いわゆる働き方改革の範疇を超えた、組織風土改革と呼べるようなものになったと思っています」
半年間プロジェクトを推進した結果、これら5つの課題の解決に向けて多数の施策が提案されましたので、必要に応じてその成果物を所管部署と共有し、解決に向けて取り組みが始まっています。約3カ月経った現在も、さまざまなプロジェクトが同時並行で進行中です。
「たとえば、コミュニケーション向上や会議のより効率的な運営を目的として、認定ファシリテーター制度の導入を進めています。各部署にひとりの割合でファシリテーションスキルを備えた人材を配置するのが目標です。
部署を超えた連携を評価する取り組みも始めていますし、経営層と社員との間の情報の流通に関する課題については、部署や役職を横断しての座談会の実施を計画しています」
中でも、松村がとくに関心を持って取り組んでいるのが、トップと各事業所長との対談企画です。
「当グループでは社員に向けて社長がメッセージを伝える施策に取り組んできましたが、各事業所の隅々にまで行き届いていないのが現状です。そこで、思い立ったのが社長と事業所の社員のあいだに仲介者を置くこと。
事業所の所長と社長との対談の場を設けることで、各社員が社長の言葉を自分事として受け止めやすくなるのではないかと考え、実現に向けて企画を進めています。事業所では三交代勤務する社員が多いこともあり、配信ではなくエッセンスを凝縮したかたちで記事化することを検討中です」
新たなコミュニケーションから生まれるシナジー。部署を超えた価値創出をめざして
働き方改革プロジェクトの取り組みを通じて、実際に部署を超えた連携が生まれたケースもありました。
「プロジェクトの一環としてさまざまな雑談の機会を設けていますが、出身地別で雑談会を開催した際、こんなことがありました。
仕事での困り事の話題になり、電池を専門とする方が電解液の容器の腐食に困っていると話したところ、耐食材料を取り扱う専門家の知人がいる方がたまたまその場にいたんです。その後、紹介を通じてMCGグループに新しい連携が生まれたと聞いています」
鍵となるのはやはり、コミュニケーション。そうやって人と人とをつなげる施策を積極的に打ち出し、社内リソースの最大化につなげていければと松村は話します。
「『これを専門にしている方はいませんか』『この分野で外部に付き合いのある方はいませんか』と誰もが自由に投げかけられるような、コミュニティのようなものをつくりたいと考えています。
社内には、自分の部署内で物事を完結させようとする傾向があり、『One Company, One Team』にはまだほど遠いのが現状。部署や個社を超えたつながりを促進するような仕組みづくりをしようと設計を進めている段階です」
また、今回のプロジェクトは現場から汲み上げた課題を起点としていますが、これまでの成果を経たボトムアップ型の構想も生まれています。
「会社が変わっていくためのアイデアを社員がそれぞれ持っていることがわかってきました。そうしたイノベーションの原石のようなものを拾い上げていけたらと、アイデア持参型のプロジェクトも計画中です。
われわれがめざす働き方改革は、ただ仕事を早く切り上げて早く帰ろうというものではなく、社会還元を視野に入れています。これからもMCGグループの事業活動にフィットしたプロジェクトに進めていきたいですね」
「変えたい」という意志が集まれば、組織は変われる。信じるのは、社員一人ひとりの力
働き方改革プロジェクトのこれまでを振り返り、想定していた以上の手ごたえを感じていると話す松村。
「公募で集めたこともあり、プロジェクトメンバーは『会社を変えたい』という気概に満ちた方ばかり。多様な立場からさまざまなアイデアが出され、議論も活発に行われていて思ってもみなかった成果が得られたと感じています。
『とにかくやってみよう』がわれわれの基本方針。種をまかなければ何も始まりません。芽が出るのが3割でもいいから、思いついたことはすべてやろうという気持ちでここまで取り組んできて、短期間で花を咲かせるに至ったことをとてもうれしく思っています」
そんな村松がめざすのは、プロジェクトのかたちを取るまでもなく、改革に向けて社員一人ひとりが自走できるような環境の整備。グループ長として働き方改革グループの将来をこう展望します。
「互いに学び合ったり教えあったりできるような場でもいいし、ただ雑談できる場でもいい。テレワークが進み、社員がひとりで仕事している機会も多いと思いますが、周りには常に仲間がいることを意識できることが大切だと思っています。
経営陣も変革にはとても前向きですが、なにせMCGグループは組織が大きい。『会社を変えたい』という想いが誰かの心の中に芽生えたときに、縦横を問わずそれを仲間と共有するための後押しをするのがわれわれの役目だと思っています」
社内の文化を変えようとトップダウンとボトムアップの両方から働き方改革に取り組んできたMCGグループ。そのかなめとなる役割を担う立場から、すべて社員に伝えたいことがあると松村は言います。
「『どうせ変えられない』と初めから諦めるのではなく、『変えたい』という強い意志を持ち続け、それを実現するにはどうしたらいいかを考えてほしいと思います。そうやって大きな目標に向けて人を巻き込める方が増えて、100人、1000人という単位で大きな塊をつくることができれば、やがてポジティブな力となり、この会社はきっと変われると信じています」
※ 記載内容は2023年7月時点のものです