ファシリテーターの存在が創造的な対話を実現する鍵に

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三菱ケミカルグループ(以後、MCGグループ)では、2023年5月に社内の認定ファシリテーターを育成する「ファシリテーター認定プログラム」をスタート。「ファシリテーター」という言葉に込められた意味について佐藤はこう話します。

「『ファシリテーター』と聞くと、会議の司会進行役を連想される方が多いと思いますが、当プログラムでは、ファシリテーションを『メンバーの関係性を活発にし、納得感のある創造的なアウトプットを引き出す力』と定義しています。

ファシリテーターに期待されている役割は、組織を活性化し、結果的に創造性や生産性の向上につなげていくこと。

会議の準備や進行といった『やり方』だけでなく、心理的安全性を担保し、しかるべき立ち振る舞いによって共創を促す『あり方』も重視しています」

同プログラムの発足の背景にあったのは、組織を活性化できる人を増やしボトムアップで組織を強くしたいという想い。すでに社内で動いていた働き方改革グループと連動させるかたちで取り組みが進められました。

「職場のコミュニケーションの質を高め、創造性や生産性向上につなげたいという共通ゴールのもと、働き方改革グループと私たち人材組織開発グループが、それぞれの強みを掛け合わせ、効果の最大化を図っていこうと考えました。

職場のコミュニケーションの質を高めるには、気兼ねなく声を掛け合うことができ、役職や経験にかかわらずお互いがひとりの人間として尊重し合う関係性が大事だと考えます。関係性が変わればものの見方や考え方が変わってくる。思考の質が変われば、それに伴い行動が変化していく。結果として、創造性や生産性といった成果の質を変えることにつながっていく。関係性を出発点として、このサイクルを良い方向にドライブさせていくのがファシリテーターだと考えます。

ファシリテーターに必要なスキルとして整理したのが「あり方」と「やり方」です。心理的に安全な場で人と人とのかかわりをつくり、人の力を引き出すなどの基本的な立ち振る舞いである「あり方」を土台とし、話し合いの進め方、議論の方法など過程にかかわる「やり方」が備わっていることで初めて、集団による問題解決やアイディア創造、合意形成のスピードを高まっていくと思います。

当グループには200~300の部署がありますが、2025年までに各部署にファシリテーターがひとり在籍するような状況をめざしています」

人事の仕事を通じて感じていた、組織に対するもどかしさが原点に

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▲ファシリテーター認定プログラムに込めた想い

Japanリージョンの人材組織開発部に所属している佐藤。同プログラムに関わるようになった背景をこう振り返ります。

「社内のエンゲージメント調査結果や経営が示すメッセージからも、自分が受け止められるという安心感のもとに率直に発言し、建設的に意見を戦わせあえる環境づくりが重要だと考え、心理的安全性を醸成する取り組みを進めてきました。

具体的には、相互理解を深める対話ツールの開発や心理的に安全な場の設計方法・コーディネートを実践形式で学ぶ研修を試験的に実施するなどしてきましたが、職場の日常的なコミュニケーションや職場づくりの手法としてまだ効果が限定的でした。成果として見えにくいこともあり無駄な時間だと捉えられることもありました。

ちょうどそのころ、働き方改革グループで、『会議の生産性を高めるにはファシリテーターが必要』という話があがっていました。会議での課題として『意見がでない、雰囲気がこわい、決まったけど納得できない』といった心理的に安全な場ではないことから出てくる課題もあり、これまでわれわれが取り組んできたことが活かせると思い、プログラムを協力して立ち上げることを提案し現在に至っています」

一方、それ以前からも、佐藤には長く人事の仕事に携わる中で募らせていた想いもありました。

「給与計算や社会保険、税金などに関する業務を担当していたとき、従業員のプライベートに関して確認する機会が多くあり、信頼関係を築いた上で相手から話を引き出すスキルを体系的に学ぶためキャリアコンサルタントの資格を取得しました。

その後、社員のキャリア相談に乗ることが増えたのですが、相談者が一歩踏み出すのをお手伝いできたとしても、その後、職場内の関係性が理由で退職される方や職場の環境で引き続き悩んでいる方がいることを目の当たりにし、1対1での支援も大事だが、働く人が活躍できる職場環境をつくることが必要だと感じるようになり、組織開発の仕事に関心を持つようになりました」

演習主体の約4カ月間のプロセス。ここで育ったファシリテーターが組織を変革する力に

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▲キックオフ会議の一場面

ファシリテーター認定プログラムでは、約4カ月にわたる「レクチャー」「体験」「実践&フィードバック」を通じてファシリテーションスキルの習得をめざします。実際の場を想定した演習を主体とし、プロファシリテーターによる場の体験、的確なフィードバックの場が設けられているのが特徴です。

「受講者へのフォロー企画も充実しています。受講者の質問・疑問を解決する講師の個別相談会や、受講者が練習できる場の提供、1つの会議の設計・進行管理だけでなく、プロジェクトにおける会議設計、マネジメントに活かすための勉強会など。プログラム終了後に受講者が自信を持ってスキルを実践できるようなフォローの仕組みを整えています。

プログラムで学んだことを職場のファシリテーションで試してみるものの、予想していないことや、うまくいかないことが出てきます。たとえば、ゴール設定の難しさやアジェンダの時間配分、議論が発散しすぎてしまったときにどうするかなど、受講者の声を講師・事務局が拾って企画に落とし込んでいくスピード感もこのプログラムの強みです」

2023年7月現在は、実践&フィードバックのフェーズ。すでに手ごたえを感じていると言います。

「自ら手を挙げて参加してくれているメンバーばかりなので、意識が非常に高い人ばかり。『職場を良くしたい、会議をうまくファシリテートしたい、お客さんとの場をより良い場にしたい』などそれぞれ課題感を抱えているため、積極的に意見が交わされていて、とても高い水準の学びの場になっていると感じます」

このファシリテーター認定プログラムは、プロのファシリテーターによるファシリテーションをもとに生まれたもの。企画の段階から間近でその手腕を見てきた佐藤は、プロファシリテーターの実力の高さを実感すると同時に、ファシリテーションの価値を再確認したと話します。

「個人的に部署間で軸を合わせて議論するのは、ハードルがあると感じていましたが、総務働き方改革グループのメンバーとわれわれ人材組織開発グループのメンバーが、企画から運営までわずか3カ月ほど。これほどの短期間で協働体制が構築され、納得度高いアウトプットが出されたことに驚きました。しかもすぐにトライアルを始められるだけの品質。ファシリテーションの効果を体感した瞬間でした」

ファシリテーター認定プログラムを足がかりに多様性を活かしたイノベーションの創出を

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▲成果報告会を無事終えて(第1期生の皆さんと)

ファシリテーター認定プログラムがめざすのは、社員が自分の意見を自由に発信できる環境をつくり、それを組織の活性化、ひいては創造性や生産性の向上につなげていくこと。同プログラムの将来を佐藤はこう展望します。

「ファシリテーターの力で、縦横関係なく誰もが平等な立場で議論できるような場が生まれていけばと思っています。プログラムから輩出した認定ファシリテーターが社内の他部署の会議に参加するなどしながら、その価値の認知が少しずつでも広まっていけばいいですね。

MCGグループにはさまざまな職種があり、実に多彩な人たちが働いています。個社や部署ごとに異なる考え方や経験をグループ内で共有する機会があれば、思ってもみなかったようなシナジーが生まれ、新たな組織の力となるはずです。認定ファシリテーターたちがそのきっかけになることを願っています」

ファシリテーター認定プログラムはまだ始まったばかり。グループ内に向けて、佐藤はこんな言葉で参加を呼びかけます。

「とくに最近は、複雑化した物事にいろいろな観点からスポットライトを当て、対話を経て、その中から最適解をスピーディーに作り上げることが求められる世の中になっています。

その過程を、自らの言動でもって心理的安全性の高い場を作り出し、ファシリテーションのスキルや知識を駆使してリードするのがファシリテーターの大きな役割であり、何よりも『実践』を繰り返すことが大切なスキルです。

もし、日常のコミュニケーションや組織の活性化、組織の意思決定に至るプロセスに課題感をお持ちの方がおられれば、どこよりも安心して、同じ課題感をもつメンバーと専門家のサポートを受けながら、体系的に学べて、かつ効果的に実践ができるこの『ファシリテーター認定プログラム』に参加し、ご自身やご自身の周りをより良く変えていくヒントを持ち帰ってもらえればプログラム事務局としてもこの上ない喜びです。

現在、第1クールとしてトライアルを実施し、より良い形で第2クールを企画し、グループ社員の皆さんにお届けします」

200人の認定ファシリテーターが誕生することになる2025年以降、組織がどのように変化していくのか、いまから楽しみでなりません。