ロイター

日本の守りを揺さぶる異例の事態が相次いでいる。

2024年夏以降、中国軍やロシア軍が従来の挑発の一線を越えて日本の周辺に踏み込み始めた。空と海で続発するトラブルは偶発的な衝突につながりかねない。安全保障の今を読み解く。

東シナ海から日本南西部に向かう中国軍機の飛行ルート地図

初の領空侵犯

8月26日

中国軍機が東シナ海上空に現れた。そのエリアは日本が国防上、監視するだ。高性能の「Y9」情報収集機だった。

日本南西部にさらに迫るY9の飛行ルート

8月26日

午前10時40分ごろから長崎県の男女群島の南東沖合で旋回を始めた。

8月26日

11時29~31分ごろ、ついにに入った。中国軍機による侵犯の確認は初めてだった。

九州各地にある自衛隊主要拠点の位置

空自は一帯をカバーする西部航空方面隊の戦闘機を緊急発進(スクランブル)し、警告した。中国当局は「いかなる国のにも侵入する意図はない」と説明した。日本側には意図的だったとの見方がある。

男女群島からさらに南西にある尖閣諸島と八重山諸島の近くを航行した中国軍空母のルート

9月17~18日

前例のない事態は続いた。次は海だった。中国軍の空母「遼寧」が沖縄県近海に姿を見せた。の外縁で日本の法令の適用範囲でもあるを駆逐艦2隻とともに航行し、与那国島と西表島の間を通り抜けていった。

遼寧の航行を確認した海域

9月20日~10月1日

海上自衛隊は24時間365日、日本近海の艦船の状況把握に努めている。不測の事態に即応するための警戒監視だ。遼寧は戦闘機とヘリコプターが2週間弱で計約630回、発着艦した。

日本海から北海道に向かうロシア軍機の飛行ルート

9月23日

ロシア軍の哨戒機「IL-38」が北海道の礼文島北方沖のを侵犯した。軍用機では2019年以来だった。

礼文島北方沖を旋回するIL-38の飛行ルート

9月23日

侵犯は午後1時台から3時台にかけて3度に及んだ。空自は無線で退去を要求した。従わなかったため、光と熱を放つ「フレア」による強い警告に初めて踏み切った。

日本列島北部を航行した中国軍とロシア軍の艦艇のルート

9月22~23日

ロシアの動きは中国と関係があるとみられる。近年は共同のパトロールや演習が増えている。9月22日から23日にかけても艦艇を共同航行した。

日本海から東シナ海にかけて飛び交う中国軍機とロシア軍機の飛行ルート

11月29~30日

両国の軍用機が広範囲で共同飛行した。戦闘機や爆撃機など計27機と異例の多さだった。

八重山諸島に南方から近づき北に抜けるロシア軍潜水艦の航行ルート

12月3日

ロシア軍の潜水艦が与那国島と西表島の間の海域を航行しているのを初めて確認した。

異常が日常に

周辺国の挑発に自衛隊や海上保安庁が対応する。異常事態のはずが今や日常の光景になっている。

中国軍機とロシア軍機の
特異飛行ルート
(2024年度上半期)

空自が公表する警戒事案は大半が中国とロシアにかかわる。2000年代のスクランブルは対ロシアが多くを占めた。2010年代に入って対中国の割合が上回るようになった。

空自のスクランブル件数

(出所)防衛省

尖閣諸島周辺の海域で、日本の海上保安庁に相当する海警局に属する船舶の数は2024年も高水準で推移した。

中国船の尖閣諸島周辺での活動

(注)中国海警局に所属する船舶など
(出所)海上保安庁

北朝鮮の動きも一段と不穏になっている。2024年のミサイル発射実験の回数は9月時点で23年通年を上回った。

北朝鮮のミサイル発射実験回数

(出所)ジェームズ・マーティン不拡散研究センター

示威強める中国

台湾を取り囲むように実施した中国軍の演習エリアを示す地図。(出所)中国当局

アジアの安保を考えるとき、やはり焦点は地域最大の軍事力を持つ中国だ。示威行動はエスカレートしている。極めつきは「台湾包囲演習」だ。軍用機や空母などで台湾を取り囲む示威行動を2024年は2度にわたって繰り広げた。

南シナ海に散らばる島や浅瀬などのうち中国が実効支配する地点の地図。(出所)アジア透明性イニシアチブなど

南シナ海の島しょ部ではフィリピンやベトナムなどと実効支配を激しく争う。

台湾海峡を通過し南シナ海で訓練した日本の護衛艦の動きを示す地図。(出所)アジア透明性イニシアチブなど

挑発を繰り返す中国をけん制するために各国は手を取り合う。日本の護衛艦「さざなみ」は9月25日、オーストラリアとニュージーランドの艦艇とともに台湾海峡を北から南に抜けた。海自艦艇の通過は初めてだった。9月28日には南シナ海で米軍やフィリピン軍などと共同訓練を展開した。

中国が自国南部から太平洋に向けて発射した大陸間弾道ミサイルの軌道イメージ。(注)飛行軌道はイメージ。各国報道を基に作成した

中国は各国の連携に神経をとがらせる。さざなみの台湾海峡通過と同じ25日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射してオーストラリアの東、米ハワイ州南方の公海に落下させた。

日本を含むアジア太平洋の安保環境は予断を許さない。北朝鮮と対峙する韓国では14日、国会が大統領の弾劾訴追案を可決した。非常戒厳の宣言と解除を巡る政治の混迷は長引く懸念がある。

2025年1月には米国でトランプ政権が再始動する。こと経済では対中強硬路線を貫きつつ、安保は自国優先で多国間連携を軽視する可能性もある。緊張の終わりは見えない。