日本画の最高峰「院展」元理事が告発「理事会に“盗作作家”の濡れ衣を着せられた」「偶然構図が似ただけなのに」

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「日展」と並び日本画最高峰の展覧会として知られる「院展」(日本美術院展)で穏やかならぬ騒動が起きている。昨年“盗作疑惑”をかけられ理事会から処分を受けた画家が処分を不服として裁判を起こしたのだ。いったいどちらの言い分が正しいのかーー?(前後編の前編)

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156年の歴史で117人しか選ばれていない「同人」

「本当に覚えてもいない絵だったのです。20年以上前に一度だけ審査した絵ですから…。それにたまたま構図が似てしまっただけで、理事会は私の言い分をきちんと聞きもしないまま事実上の“有罪”となる処分を下した。その結果、私は『盗作画家』のレッテルを貼られて、40年積み上げてきたキャリアを台無しにされました」

 こう語るのは日本画家の梅原幸雄氏(74)。院展を主催する公益財団法人「日本美術院」に所属する会員の中で最高ランクの「同人」に名を連ねる画家である。同人とは、1868年に岡倉天心が創設以来156年続く同院の歴史で117人しか認定者がいない、選ばれし画家に与えられる称号だ。現在も1000人超いる会員の中で37人しか存在しない。

 梅原氏は1993年に同人に選ばれ、騒動前までは日本美術院理事の立場にあった。2005年から18年までは東京藝術大学教授を務め、大観賞、文部科学大臣賞、内閣総理大臣賞など数々の受賞歴を持つ。

 梅原氏は「昨春すべてのキャリアは崩れ去ってしまった」と話す。「第78回春の院展」に出展した作品に対し、日本美術院理事会が「他人の作品と酷似している」という理由で理事解任を相当とする処分と1年間の出品停止処分を下したからである。

盗作の疑いがかけられた絵は「22年前に後輩が描いた絵」だった

 梅原氏の話を聞く前にまずは問題となった2枚の絵を見比べてみよう。

 白い長袖を着ている女性を描いた絵が、昨年春の院展に出品された梅原氏の「歌舞の菩薩」。黒地の半袖を着る女性の絵が、梅原氏に“盗作”の嫌疑がかかった國司華子氏の「発・表・会」である。後者は2002年開催の「第57回春の院展」に出品された。

 画風は全く異なるが、いずれも椅子に座った女性の人物画で髪型やフレアスカートの膨らみ具合がよく似ている。足の位置、膝下までの手の下ろし方といった構図もかなり近く、違うのは手の位置くらいだ。

 一方、背景、服装のデザインや色使いは全く異なる。パッと見、梅原氏が國司氏の作品を参考にしたのではという疑念も生じてくるが、細部に注目していくと無関係の絵に見えなくもない。

 騒動の始まりは、國司氏が春の院展開催中に梅原氏の作品を見つけ「私の過去の作品に酷似している」と理事会に訴え出たことだった。

 國司氏も2016年に同人に選ばれ、18年から藝大教授を務める画家である。2人は同じ藝大出身。日本画の大家・平山郁夫(09年に死去)研究室で共に学んだ「兄弟子・妹弟子」の関係だった。年齢は10歳ほど梅原氏が上で、梅原氏が平山研究室で助手を務めていた頃に國司氏は学部生として研究室に入ってきたという。

 だが、梅原氏は「特に親しいわけでもない、研究室にいた後輩の一人だった」と振り返る。

「研究室で一緒だった頃は先輩として面倒を見ていましたが、彼女は学部卒業後に研究室を出ましたのでそれ以降は会合などで年に1、2回顔を合わせる程度。そこまで仲良い関係ではなかった。ただ私としては特に嫌われていた印象もありません。だから彼女がなぜ私に何も確認せず、いきなり理事長に訴え出て私を貶めるようなことをしたのか理解できないのです」

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