20241218日、信州大学雇止め事件@長野地裁松本支部で復職和解が成立しました。

原告のブライアリー先生は、従前とほぼ同一の労働条件で来年20254月から信州大学の教壇に復帰します。

2024430日に提訴し、5月、7月、10月の期日を経て第4回目の期日での和解成立と訴訟としては早期の勝利解決となりました。

 

各紙・各局が報じてくれています。
長野:雇い止め信大側と和解 元准教授:地域ニュース : 読売新聞

4月から復職へ イギリス人元准教授が「雇い止めの無効」求めた訴訟 信州大学側と和解成立 | SBC NEWS | 長野のニュース | SBC信越放送

雇い止め地位確認求めた裁判 元准教授が信州大学に復職で和解「4月から大学で教えることを楽しみに」(2024年12月18日掲載)|テレビ信州NEWS NNN

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イギリス国籍の元教員、信州大に復職へ 地位確認訴訟で和解成立|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト
 
信州大学から「不当な雇い止め」を受けたとしてイギリス人の元准教授が起こした裁判 和解が成立し復職へ「日本の充実した労働者を守る法律によって復職できた」 | 長野県内のニュース | NBS 長野放送


信州大学もウェブサイトでコメントを発表しました。

本法人を被告とした地位確認等請求事件の和解について | お知らせ | 信州大学

 

 

裁判には、毎回傍聴席に入りきれないほどの多くの支援者が駆けつけてくれました。

また、提訴時より地元の記者のみなさんに大きく報じていただき、毎回の期日後の記者会見でも熱心に取材をしていただきました。

法廷内での論争においては、羽衣学園事件弁護団の中西先生に提供いただいた各種の文献・資料、信州大学教職員組合から提供された様々な情報が大いに役立ちました。
法廷での論争の中で、本件では任期法の適用の余地がないこと、無期転換を阻止するためだけになされた本件雇止めに合理性がないことを明らかにすることができたと自負しています。

法廷内での論争と法廷外の世論による圧力、そして最後は信州大学教職員組合の粘り強い交渉力により、本件の早期和解を実現することができました。

みなで力を合わせて勝ち取ったこの復職和解を誇りに思います。


なお、和解条項には、復職後の労働条件や解決金とともに、

「被告は、今後本件のような紛争が生じないよう、有期契約労働者の雇用の安定を図ることを目的とした労働契約法の趣旨を十分に踏まえた対応をすることを真摯に検討する。」
との条項も入りました。
信州大学には、他の有期契約労働者の雇用の安定・待遇改善についても取り組んでいただきたいと思います。

 

解決にあたっての声明を以下に貼り付けます。

信州大学雇止め事件の復職和解解決にあたっての声明

 

20241218

 

信州大学教職員組合

全国大学高専教職員組合(全大教)弁護団

原告弁護団

弁護士 今泉義竜

同   今村幸次郎

同   早田由布子

同   笹山尚人

同   小部正治

 

第1 事件の概要

原告(ブライアリー マーク アラン氏)は、19年にわたり信州大学の「外国語・外国事情担当教員」(准教授)として12年生の英語教育に携わってきた。しかし信州大学は、2015年の就業規則改定で定めた10年の上限を迎えること、「外国語・外国事情担当教員」制度の廃止をすることを理由に20243月末日をもって原告を雇止めした。当時外国語・外国事情担当教員は原告含め5名いたが(英語3名、ドイツ語1名、韓国語1名)、そのうち4名が同時に雇止めされた。2024 430日、原告は長野地裁松本支部に地位確認を求め提訴した。

 

第2 本件の争点

本件の争点は、①無期契約への転換が認められるか(労働契約法18条)、②雇止めが許されるか(労働契約法19条)の二点であった。

争点①について、信州大学は、原告に労働契約法18条の特例である大学教員任期法(任期法)71項が適用される結果、無期転換申込権の発生までの通算契約期間は10年であり、労働契約法18条施行(2013年)後最初の契約更新時である2015年から未だ10年を経過していないため無期転換権は発生していない旨主張した。これに対し原告は、原告の職は任期法の「先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」に該当しないとして、労働契約法18条の原則どおり5年の経過により無期転換権が発生している旨主張した。

 また、争点②について、原告は長期間の更新、更新手続の形骸化、必修科目である英語の授業の恒常性などから、本件雇止めは認められない旨主張した。この点について信州大学は、更新上限を説明していたことや「外国語・外国事情担当教員」の廃止が中期計画に基づくものであることなどを理由に雇止めを正当化した。

第3 本件和解の成立

 訴訟上の主張の応酬と並行して、信州大学教職員組合による復職交渉が信州大学との間で行われていたが、このたび信州大学は原告を復職させることを受け入れ、和解に至った。

 和解の内容は、大学側が解決金を支払うとともに、准教授として、従前とほぼ同一の労働条件で20254月から原告を復職させるというものである。無期契約ではないものの、本件のような紛争が再び起きることはないと言える内容となっており、実質的には全面的勝利解決と評価できる。労働組合と多数の支援者、弁護団が力を合わせて勝ち取ることができたこの解決を喜ぶとともに、原告と組合の要求を受け入れて復職による解決を選択した信州大学の決断を高く評価する。

 本件和解において信州大学は、「今後本件のような紛争が生じないよう、有期契約労働者の雇用の安定を図ることを目的とした労働契約法の趣旨を十分に踏まえた対応をすることを真摯に検討する。」と約束した。信州大学には、原告のみならず、他の有期契約労働者についても雇用の安定と待遇の改善を実現することを強く求めたい。

 

第4 任期法についての課題

任期法の解釈を巡っては、2023118日、学校法人羽衣学園(羽衣国際大学)事件大阪高裁判決が任期法の適用を限定解釈する判断基準を立てて専任講師の無期転換を認める判決を出したものの、20241031日、最高裁は「各大学等の実情を踏まえた判断を尊重」すべきとして大阪高裁判決を破棄・差戻をする判断をした。

労働契約法18条の趣旨をないがしろにする最高裁の不当判決は、いかなる場合に任期法の適用があるのか明確な判断基準を立てておらず、ほぼ結論だけの事例判断のため先例的価値はほとんどないに等しい。もっとも、最高裁判決の考え方を踏まえても、もっぱら語学教育を担当していた本件の原告に任期法が適用される余地はないと考えられる。

大学はじめ教育機関における有期契約労働者の雇用の不安定は大きな問題であり、今回のような任期法の解釈・適用をめぐっても多くの紛争が起きている。

有期契約労働者の雇用の安定を図ることを目的とした労働契約法18条の趣旨を貫徹した法解釈が司法には求められるし、そもそも国会において必要な議論がなされないまま拙速に制定され現在の混乱を招いている任期法の10年特例については廃止する方向での法改正が必要である。

信州大学教職員組合及び弁護団は、今後も労働者の権利擁護のため力を尽くす決意である。

以上

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松本城をバックに、ブライアリー先生と信州大学教職員組合の成澤先生と。

提訴時の記事はこちら👇
信州大学英語教員雇止め事件、長野地裁松本支部に提訴。 : 東京法律事務所blog