AI法案、悪質事案を国が調査 世界で規制進み「やらないわけには」
政府が検討している生成AI(人工知能)に関する法案の概要が分かった。政府が悪質事案や安全性などについて調査や情報収集をし、事業者に指導や助言、情報提供をする一方、事業者には政府の施策への協力を責務として課すことを定める。有識者の議論などを経て法案をまとめ、来年2月の通常国会提出をめざす。
政府はAIについて、技術革新や外資による日本への投資を妨げることがないよう、法的拘束力のないガイドラインで事業者に適切な対応を求めてきた。ただ欧米で法規制の動きが進み、安全保障上の懸念や人権侵害などのリスクも指摘される中、日本でも法制度の検討が必要になった。
法案では、目的として「国民生活の向上、国民経済の発展」を掲げ、AIのリスクを考慮しながらも、国際競争力の向上や透明性を確保した適正な研究開発・活用をめざすとする。
一方で、AIを開発したり活用したりする事業者に対して、政府の施策に協力しなければならないとする責務を規定。国は、悪質な事案や、重要なインフラにおける導入実態、能力が高いAIの安全性などを対象に調査・情報収集し、結果に基づいて事業者や国民に対して指導や助言、情報提供を行うとする。
開発や活用における透明性や適正性を確保するために国際規範に則した指針を国が整備することや、政府内で司令塔機能を担う「AI戦略本部」の設置なども法案に盛り込む。
法制度を検討してきた政府の有識者会議「AI制度研究会」では、考え方として、リスク対応と技術革新促進の両立、国際的な整合性、技術変化への適応を基本とする方針。リスクについても、刑法や著作権法、経済安全保障推進法といった既存の法律や様々なガイドライン、事業者の自主的な取り組みなどで総合的に対応するとし、一方的な法規制の強化で開発や活用の停滞を招くような事態は避ける方向だ。
政府は年内にも、AI制度研究会を開き、こうした考え方を取りまとめ、法案作成に向けた議論を進める。
「何もやらないわけにはいかない」
生成AI(人工知能)の規制に動き出した世界の潮流から遅れまいと、日本政府も法制化の議論を進めてきた。技術革新を妨げない緩やかな法制度とする方向だ。政府関係者は「日本が何もやらないわけにはいかない」と話す。
これまで政府は、強制力を伴わない対応を基本としてきた。今年4月に公表した「AI事業者ガイドライン」では、開発者にはAIの適切なデータ学習を、利用者には安全を考えた適正利用などを求めた。
規制を強化すると技術革新を妨げかねず、外資IT大手による日本への投資を遠ざけてしまう懸念があったためだ。
ただ、昨年10月にバイデン米大統領が開発企業に情報開示を義務づける大統領令を出すと、風向きは変わる。日本政府は今年8月に有識者会議「AI制度研究会」を立ち上げ、安全性の確保と技術革新の両立ができる制度の検討に着手した。
政府内には導入への慎重論として、刑法や著作権法など既成の法律で対応できるのではないか、という見解が根強くあった。法制化が必要との判断は「米国をはじめとして各国が規制に動く中、日本が何もやらないわけにはいかない」(政府関係者)という理由だった。
これまで政府は、来年の通常国会への法案提出を慎重に見極めてきた。法案を審議する政治家の中でも見解は分かれている。その上、衆院で過半数を持たない少数与党の石破政権の不安定さもあるためだ。
世界で進むAI規制
ChatGPT(チャットGPT)などの生成AIサービスの普及を背景に、世界各国ではAI規制の整備が急速に進んでいる。未知の新技術は社会を揺るがす深刻なリスクが懸念されることから、高度なAIの開発企業に対し、安全評価やリスク情報の政府との共有などを義務づける動きがある。
欧州連合では今年5月にAI法が成立した。AIサービスをリスクごとに4分類し、リスクが高いほど厳しい制限をかける。
一方で、生成AIの開発企業に対する義務も別途定めた。社会に重大な影響を及ぼすリスクのあるAIモデルの提供者には、安全性テストやリスク評価の実施、重大インシデントの報告などを義務づける。オープンAIやグーグルの最新モデルが対象に含まれるとみられる。
中国では昨年8月に「生成AIサービス管理暫定弁法」が施行された。社会への影響が大きなモデルの提供には、安全性評価の実施義務を課す。
米国も、安全保障や国民に深刻なリスクとなりうるAIは、開発段階から安全性テストを実施し、結果を提示するよう義務づける。昨年10月にバイデン大統領が大統領令に署名した。だが、トランプ次期米大統領は規制より技術革新を重視してAIに関する大統領令を廃止する意向を示しており、先行きは見通せない。
政府が検討中のAI法案の概要
【目的】
国民生活の向上、国民経済の発展
【基本理念】
安全保障を考慮し国際競争力向上
AIの透明・適正な研究開発・活用
国際協調
【開発者・活用者の責務】
事業者は政府の施策に協力しなければならない
【基本的施策】
国は、透明性・適正性を確保するため、国際規範に則した指針を整備
国は、調査・情報収集を行い、結果に基づき、事業者・国民に対して指導・助言・情報提供
司令塔機能としてAI戦略本部の設置
基本計画の策定
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