AI

2024.12.16 12:30

OpenAIの「著作権侵害」を主張した内部告発者の死は自殺と断定

Getty Images

Getty Images

人工知能(AI)大手のOpenAIの元従業員で、同社がAIモデルの訓練のために著作権で保護された素材を違法に使用していると非難した内部告発者スチール・バラジ(26)が、先月末にサンフランシスコの自宅で亡くなっているのが発見された。

地元警察と主任検視官事務所は、彼の死因が自殺だと明らかにしている。

バラジの11月26日の死については、サンノゼ・マーキュリー・ニュースが12月13日に最初に報じた。10月にOpenAIを退職したAI研究者の彼は、同社がインターネット上の情報を無断で収集し、著作権で保護された作品の権利を侵害してAIモデルを訓練したことが著作権法違反にあたると主張していた。また、このデータの使用がインターネット全体のエコシステムに害を与えると訴えていた。

バラジは、ニューヨーク・タイムズ(NYT)のインタビューで、OpenAIがChatGPTのトレーニングにデータを使用された企業や起業家たちに損害を与えていると主張していた。「私は、これまでの経験を通じて会社を辞めるしかないと判断した」と、彼は同紙の取材に述べていた。

バラジはまた、当時の自身のウェブサイトに次のように記していた。「生成AIモデルが、その訓練データとまったく同じ出力を生成することはごく稀だが、生成モデルの訓練プロセスには、著作権で保護されたデータをコピーすることが含まれている。これらのコピーが無断で作成された場合、そのモデルの使用がフェアユースに該当しない場合は、著作権侵害と見なされる可能性がある」

OpenAIは、彼の主張や同社が著作権法に違反しているという見方に反論していた。

バラジは、4年間OpenAIに勤務し、同社の主要製品であるChatGPTの訓練データの収集と整理に貢献した。NYTによれば、退職後の彼は個人的なプロジェクトに取り組んでいたという。

バラジの死は、彼の名前が挙げられた裁判書類が提出された翌日のことだった。この裁判書類は、OpenAIが複数の作家から起こされた訴訟に関連して、バラジの在職中のファイルを調査するという内容のものだった。OpenAIは、バラジが提起した著作権問題に関連するドキュメントが彼の保存済みファイルの中にあるかどうかを特定することに同意していた。

OpenAIは、バラジの死を受けての声明で哀悼の意を表した。「当社は、彼に関する悲しいニュースを知り、非常に心を痛めています。スチールを愛した人たちに心からのお悔やみを申し上げます」と、同社の広報担当者のジェイソン・デュートロムがフォーブスに宛てたEメールで述べた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

タグ:

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

Forbes BrandVoice!! とは BrandVoiceは、企業や団体のコンテンツマーケティングを行うForbes JAPANの企画広告です。

2024.12.17 11:00

3年で上場、M&A業界の革命児が目指す「時価総額1兆円超企業」

M&A業界の数々の常識を覆してきたM&A総研ホールディングスのCEO佐上峻作。

佐上には、グループ全体で日本企業の価値向上に貢献し日本経済を強くしたいという大きなビジョンがある。その真意とこれまでの成功要因について聞いた。

M&A業界の生産性をDXで改善

2022年6月、M&A総合研究所(現M&A総研ホールディングス)は、東京証券取引所グロース市場に株式を上場。23年には、プライム市場に市場変更した。

佐上の起業家としてのキャリアは、メディアやECを運営するAlpacaの創業から始まる。15年に同社を設立すると、翌年に株式を譲渡。そして、その譲渡の経験を通じ、M&A仲介業界の課題を痛感したことが、現業となるM&A業界に参入するきっかけになったと振り返る。

事業承継は今や日本の社会問題であり、救いを求める企業は全国に数多ある。しかしM&A業界ではなかなかDXが進まず、担当者の作業量も膨大。現状を変えたいと考えた佐上はM&A総合研究所(以下、M&A総研)を設立。システムをすべて内製し、DXによって業界の生産性を改善してきた。

「自社でシステムをフルスクラッチで開発しているので、システムが統合されています。それにより余計な作業をなくし、アドバイザーがアドバイザーとしての仕事にフォーカスできる環境を整えています」

現場のメンバーがシステムの開発依頼を出すことができ、社内に専業のエンジニアがいるため、改善のためのアップデートは日常業務だ。その成果は、数字にも表れている。

「同業他社から弊社に転職してきた社員にアンケートをとったところ、前職と比べ労働時間が27%削減されていることがわかりました。M&Aは社会問題を解決する大切な仕事であり、人材が重要です。働く人のために労働環境を整えなければ、山積している事業承継の問題は解決されません。それを変える環境を用意できたことは、日本の社会にとっても大きなことではないかと自負しています」

実際、業務が効率化されたことで、企業もスピード感をもって事業継承ができるようになったと顧客から好評を博しているという。

「お客さまの満足度は高く、私たちの存在が成果につながっている企業がかなりあることを実感しています。他の仲介会社で成約しなかった会社が当社で成約したケースも少なくありません」
佐上峻作 M&A総研ホールディングス 代表取締役社長 

佐上峻作 M&A総研ホールディングス 代表取締役社長 

従業員の頑張りに応える信託型ストックオプションの付与を開始

業務効率性を高め、働きやすい環境づくりに力を入れるM&A総研。

同社は成果を出した社員にさらに大きく還元しようと、今期より従業員への信託型ストックオプションの付与を開始した。

「上場前に一部の社員にはストックオプションを配っていましたが、上場後に入社して活躍している人に対してもストックオプションを付与したいと考えました」

その仕組みは「信託型ストックオプション」と言い、一般的なストックオプションとは大きく異なるという。

「従来のストックオプションでは、付与時点の株価が基準になります。例えば付与された時点の株価が3,000円だとしたら、株価が3,200円になれば得をするけど、2,800円になったら損をする。一方で信託型ストックオプションの場合は、上場前の株価で権利行使ができるようになっているので、これから付与される人でも上場前の低い株価で権利行使が可能です。そのため現在の株価との差が大きく、大きな金銭的メリットがあります。

さらに弊社では行使条件はなく、会社の業績によって行使の可否が左右されることがありません。自身が一定の成果を出して付与されれば、自由に行使をすることができます。従業員が頑張ったら頑張った分だけ、利益を得られるようにしようと考えた結果です」

M&A以外の領域や海外にも進出、次世代のためのモデルケースに

M&A業界で一定の成果を収めた同社だが、佐上は事業ポートフォリオの拡大にも着手している。昨年には、クオンツ・コンサルティングを設立した。

「国内には、テクノロジーを用いてもっと効率化して生産性を上げられる業界がたくさんあります。もともとは、それらを少しでも変えて世の中を良くしたいという想いがありました。

そうした産業において多くの会社が生産性を数%改善するだけで、日本の生産性はガラリと変わるはずです。しかし、いきなり取り組もうとしても説得力がないため、まずはM&A業界を変え、実績を築いたところで、その想いの実現に向けてコンサルティングの会社を立ち上げたのです。私たちが得意とするITやDXの知見を生かして、国内の企業に変革を起こし、日本の経済を再度盛り上げたいと考えています」

佐上は、コンサルティング業界の仕組みも変えようとしている。

「一般的にコンサル会社は、DXや経営戦略を手がけることが多く、料金体系は『人月単価モデル』が基本。しかしこれでは、成長に限界があります。

私たちは、実際のM&A実行やIRなどの金融関連の提案ができるのが強みです。そういった当社独自の提案で、プラスアルファの価値を生み出していく。そういったことを積み重ね、工数だけでなく、コンサルティング自体に価値を感じてもらうビジネスモデルにしていきたいですね」

クオンツ・コンサルティングは、大手企業向けにIT・DXだけではなく上流の戦略コンサルも手がける。特にM&A戦略の領域においてはM&A総研とのシナジーも少なくない。

「例えばM&A総研で手がけたディールのPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション/経営統合プロセス)にクオンツ・コンサルティングのメンバーが入る、あるいはクオンツ・コンサルティングのお客さまのM&A戦略を練った後にM&A総研がソーシングを行うなど、一気通貫のサービスを提供しています」

直近では、クオンツ・コンサルティングが、ある業界の最大手企業のM&A戦略の立案に携わるケースも複数出てきた。その際も、クオンツとM&A総研の協業により、戦略立案から、ターゲット企業の選出、接触、売買までができる点が評価されたのだという。

クオンツ・コンサルティングは領域を問わず、企業のニーズに合わせたサービスを提供する。最近では、サイバーセキュリティのチームを立ち上げ、採用も強化している。

クオンツ・コンサルティングに限らずM&A仲介業においても領域を広げている。そのターゲットは海外だ。この9月には、シンガポール法人「M&A Research Institute Singapore」を設立した。M&A総研のシステムは海外の企業にも対応しており、これまでも日本企業による海外企業のM&Aを支援してきたが、さらに本格展開していく狙いだ。

「海外の企業を買収したことのある日本企業は数多くありません。しかし機会が無いだけで、機会さえあれば海外企業を買収して海外に進出したいと考えている日本企業は多いと考えています。そうしたM&Aが増えれば、グローバル展開できる日本の会社が増え、日本経済にプラスになると考えています」

同社が海外展開を本格化するにあたり、拠点として選ばれたのがシンガポールだった。シンガポールであれば、航空網が整っており、アジア圏をはじめ世界中にアクセスしやすい。さらにもうひとつ理由があるという。

「シンガポールが建国されたのは1965年ですが、当時起業したオーナーの方々が引退の時期を迎えています。ところがお子様が海外で働いているケースが多く、後継者がいない。まさに日本と同じことが起きています。少子高齢化による後継者不足の問題は、おそらく日本が世界で最先端を走っています。M&A仲介のサービスの質も、海外に比べて非常に高い。日本の人口減少は確かに大きな課題ですが、プラスの部分もあるはずです。そうした日本の強みや高品質のサービスを世界に広げていきたいのです」

世界を見据える佐上だが、目指すのは単なるグローバル企業ではない。佐上がこだわるのは「時価総額」。それが日本経済の復活に寄与すると信じているからだ。

「2024年時点で日本には時価総額が1兆円を超える企業が約170社ありますが、残念ながら、この20年の間に設立された企業は1社もありません。優秀な人たちが集まって事業を立ち上げ、それを効率的に展開していけば、この時代においても1兆円を超える時価総額を実現できることを証明したいのです。それができれば、次世代を担う人たちがもっと頑張るためのきっかけになるはず。日本の国力を上げることに寄与できるような会社をつくりたいと強く思っています」


 M&A総合研究所
 

佐上峻作(さがみ・しゅんさく)◎M&A総研ホールディングス 代表取締役社長 。1991年生まれ。神戸大学農学部卒業後、マイクロアド入社。広告システムのアルゴリズム開発等に従事したのち、2016年に1社目である株式会社Alpacaを創業。約1年で株式会社ベクトルへ株式譲渡。2018年に2社目であるM&A総合研究所を創業し、2022年6月、創業から3年9カ月で株式上場を果たす。

Promoted by M&A総合研究所 / Text by Fumihiko Ohashi / Photographs by Shuji Goto / Edited by Akio Takashiro

北米

2024.10.20 10:00

OpenAIが密かに狙う「米国防総省」へのテクノロジー提供の舞台裏

OpenAIのサム・アルトマンCEO(Getty Images)

OpenAIのサム・アルトマンCEO(Getty Images)

OpenAIは今年初め、プロダクトの使用ポリシーから「軍事および戦争への使用」を禁止する文言を密かに削除し、CEOのサム・アルトマンや他の経営陣は同社を防衛関連の業務に開放した。

米国防総省(ペンタゴン)との取引を進めるため、OpenAIは最近、政府との緊密なつながりを持つ政府請負業者のCarahsoft(キャラソフト)と提携した。

キャラソフトのウェブサイトによると、OpenAIは国防総省の業務を請け負う「Computer Hardware, Enterprise Software and Solutions(CHESS)」と呼ばれる企業グループに追加された。この契約プラットフォームは、政府が民間企業からサービスを迅速に、かつ事務手続きの負担を最小限にして購入するために使用されている。

これにより、キャラソフトはOpenAIだけでなく、グーグルやマイクロソフト、HPといった多くのテクノロジー企業から、クラウドコンピューティングやAIソフトウェア、Google Workspaceのような生産性ツールをペンタゴンに迅速に提供できる。軍自身が説明するCHESSの役割は、「商用ITの主要供給源」であり、追加の契約交渉や官僚的な手続きを回避して「既製品」を使い始めるのを容易にすることだ。

OpenAIは、5月にCHESS契約に追加されたことを確認し、その後すぐにキャラソフトとの協力を開始した。同社はこれまでCHESS経由の国防総省との契約をまだ実行していないが、キャラソフトは他の政府契約を獲得するのを助けている。昨年、キャラソフトはChatGPTのライセンスをNASAに10万8000ドル(約1600万円)相当で販売し、国立美術館には7万ドル以上のOpenAIライセンスを提供した。また9月には、米国農務省と10万ドルの契約を結び、複数のAI大規模言語モデルプラットフォームへのアクセスを提供したが、具体的にどのプラットフォームかは明らかにされていない。

OpenAIがCHESSのサプライヤーリストに加わったことで、国防総省との取引が容易になる道が開かれたが、AIの軍事利用とキャラソフトのビジネス慣行にはまだ疑問が残っている。

2004年に創業のキャラソフトは、アマゾンやグーグル、セールスフォースなどの製品を政府機関に送り込む仲介役として、最も収益性の高い政府向け技術請負業者の1つとなっている。バージニア州に本社を置く同社は、ほぼすべての連邦政府機関にサービスを提供しているが、ペンタゴンが最大の顧客だ。キャラソフトは、政府の公式契約データによると、過去18年間で国防総省から56億3000万ドル(約8430億円)の契約を獲得している。
次ページ > 米軍とOpenAIの取り組み

編集=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

AI

2024.07.30 08:00

学習データの不足に悩むAI企業を救う「合成データ」が抱える課題

Shutterstock.com

Shutterstock.com

アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者のマーク・アンドリーセンは、2011年に人工知能(AI)分野の投資を開始した際に、「ソフトウェアが世界を食い尽くそうとしている」と述べていた。それから10年以上が経って、彼の予言が現実になりつつある。

AIを支える大規模言語モデル(LLM)は、大量のデータを必要とする。しかし、そのデータは有限であり、尽きつつある。ChatGPTの開発元であるOpenAIのような企業は、YouTube動画の書き起こしや字幕、一般公開されたSNSの投稿、本やニュース記事などあらゆるデータを用いてAIモデルの訓練を行っている。しかし、それらの利用可能なデータは、いつか尽きる時がくる。

研究者たちはこれを「データの壁に突き当たる時」と呼び、早ければそれは2026年にも起こると予測している。このため、より多くのAI向けのデータを生成するための方法を、スタートアップが模索しており、解決策の1つに浮上したのが、人工的なデータの生成だ。

創業5年のスタートアップ企業のGretel(グレテル)は、「合成データ(シンセティックデータ)」と呼ばれるアプローチで、データ不足の問題を解決しようとしている。同社のAIで生成したデータは、事実情報を忠実に模倣するが、実際には存在しないデータだ。グレテルはこれまで、医療関連などのプライバシー保護を求められる分野の企業に、このデータを提供することで、評価額を3億5000万ドル(約540億円)に押し上げた。

同社のCEOのアリ・ゴルシャンは今、データ不足に悩むAI企業を新たな顧客にしようと考えている。「合成データは、質の高いデータを安全性に配慮しつつ提供できる」と彼は述べている。

この「AIがAIを養う」アプローチは、すでにメタやアンソロピック、マイクロソフト、グーグルなどに採用されており、彼らはモデルの訓練に何らかのかたちで合成データを使用している。グレテルは先月、データ分析プラットフォームのDatabricks(データブリックス)を使用してAIモデルを構築する顧客向けに合成データを提供することを発表した。
次ページ > 人間の労働力を活用しデータ不足を解決する

編集=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事