順天堂大学 新病院整備断念 埼玉県に広がる波紋 さいたま市
- 2024年12月13日
9年越しの順天堂大学新病院の整備計画。その幕切れは、あっけないものでした。
2024年11月29日、大学側は、誘致を進めてきた埼玉県に計画の中止を伝え、新病院の整備は断念されることになったのです。新病院には、地元住民だけでなく、長年医師不足が課題の秩父地方や県北地域の医療関係者からも、大きな期待が寄せられていただけに、波紋が広がっています。(さいたま放送局/二宮舞子)
会談はわずか10分
2024年11月29日午前9時半、順天堂大学の代田浩之学長ら3人が埼玉県庁を訪れ、大野知事と会談しました。会談は非公開でしたが、その場で学長から知事に新病院の整備を中止することが伝えられたといいます。会談時間は、10分ほどでした。
順天堂大学 代田浩之学長
「大変ご期待をいただいていましたが残念ながら断念することになりました。期待していただいた県民の皆さんに大変申し訳なく思います」
続いて取材に応じた大野知事も、終始厳しい表情で話しました。
大野知事
「計画の見直しは必要だが、整備していく方針に変更はないと聞いていたので、大変驚いています。中止となったことは大変残念です」
なぜ新病院は断念されたのか
埼玉県が誘致を進めた順天堂大学の新病院。整備計画が決まったのは、2015年3月でした。当時の計画では2020年度の開院予定でした。しかし、延期が繰り返され、直近では開院は2027年11月となっていて、ことし7月には、完成がさらに1年8か月遅れる見通しが報告されていました。何度も延期されましたが、開院に向けて進んでいたはずでした。
新病院を断念した理由について大学側は、ホームページ上で主に2つの理由をあげています。
1つ目は、建築費が大幅に高騰したことです。
建築業界の需要の増加や資材の高騰、人手不足などで、施工会社の概算では、総事業費が2186億円に達し、当初の想定の2.6倍に膨らみました。
2つ目は、新型コロナウイルスの影響や、医薬品の価格高騰などで、大学が厳しい財政状況にあるためとしています。
大学側は、こうした事情から、新病院整備のための準備資金の確保や開設後の運営資金を捻出することが難しいと判断したということです。
【これまでの経緯】
2014年10月 県が新たな病院整備計画を公募。
2015年3月 県が順天堂大学附属病院整備計画の採用を決定。当初は2020年度開院予定。
2018年3月 順天堂大学が病院整備計画の変更を県に申請(整備スケジュールは作成中)。
2021年12月 順天堂大学が病院整備計画の変更を県に申請(2026年4月着工、2030年3月までに800床で開院)。
2022年1月~4月 医療審議会が整備スケジュールの前倒しなどについて照会。医療審議会が条件付きで病院整備計画の変更を適当と認める(2027年までの800床開院)。
2022年11月 基本設計開始。
2023年12月 実施設計開始。
2024年7月~8月 順天堂大学が県に整備費が2100億円余りとなることや完成が1年8か月ほど遅れることなどを説明。県はすみやかに計画変更申請書の提出を求める。
2024年10月 県が計画変更申請書の提出期限を12月2日に設定。
住民「驚いている」「土地活用を早く考えて」
近くに住む人たちの中には、新病院の開院を待ち望んでいた人たちもいて、落胆の声も上がっています。
40代男性
「近くに大きな病院がないので不便だったので、病院整備はありがたいと思っていました。いつできるのかな?と思っていたので、可能であればせっかく広大な土地があるので建てて欲しいなと思いますけど、残念です」
30代女性
「計画の断念は驚いています。妊娠していて小さな子どももいるので産婦人科があるといいなと思っていました。広い土地がもったいないので土地活用については早く考えてほしいです」
「医師不足」埼玉県は期待寄せていた
埼玉県が、新病院誘致を進めてきた背景には「医師不足」があります。
実は、人口10万人あたりの医師数が最下位の埼玉県。都内へのアクセスがいい埼玉県では都内のクリニックや病院に通院しやすいメリットがある一方で、人口に医師数が見合っていない状況が続いていました。特に、都内から2時間以上かかる秩父地方や県北部では、慢性的な医師不足の課題を抱えていました。そのため、埼玉県は、医師不足地域へ医師派遣を新病院の公募の条件としていて、開院後、将来的には年間20人が派遣される計画でした。
今後どうなる?医師派遣
開院に先立って順天堂大学からは加須市の済生会加須病院と秩父市の市立病院に医師が派遣されています。この医師派遣が継続されるのか、まだ明らかになっていません。医師が派遣されている病院は、動揺を隠せません。
秩父市立病院 石野雅禎 事務局次長
「派遣されている医師は、外来や診察だけでなく、手術や日直、それに夜間当直なども担っている貴重な人材です。医師派遣がどうなるのかはまだ未定だが、仮になくなった場合には、その穴をどう埋めるか検討する必要があると考えています。」
県は、大学側に医師派遣の継続を求めていて、今後、大学側と県、それに派遣を受けている病院が医師派遣について協議を行う予定だということです。
取材後記
新病院の整備は、長年にわたって埼玉県の懸案事項でした。新病院に期待を寄せている地域住民も多くいたなかで、「新病院整備計画の断念」に関する説明が尽くされたのか、疑問が残ります。
その一方で、病院の整備や医師確保は、行政だけで解決できる問題ではなく、大学や医療関係者との連携なども必要で、複合的な要因が絡まり合い、一筋縄ではいかない問題だと実感しました。
だからこそ、地域医療を担う人材をどう養成するのか、長期的な視点が必要だとも感じました。今後も、医師不足の解消や整備予定地の利活用などについて取材を深めていきたいと思います。