「色名の連想しやすさの起源:人間とAIの比較」について
2022年11月29日
先月の10月28日に「色名の連想しやすさの起源:人間とAIの比較」という非常に興味深い研究論文が発表されました。
『色名の連想しやすさの起源:人間とAIの比較' ~自然言語処理ができるAIの心理研究プラットホームへの応用~』
プレスリリースリンク
https://www.nibb.ac.jp/press/2022/10/28.html
「どんな内容の論文なの?」ということについては、上のリンク先から飛んで読んで欲しいのですが、プレスリリースから抜粋、引用しますと、
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__「色の名前を一つ挙げてください?」と聞かれたら、あなたはどのような色を答えますか?これまでの研究で、ヒトが挙げやすい色名には偏りがあり、赤、青、緑、黄などの色名をよく答えることが示されています。興味深いことに、このような色の答えやすさの程度は、話し言葉や本・新聞などに印刷された膨大な言語の中で色名が使われる頻度とは一致しないことが分かっており、なぜ、ヒトが特定の色名を好んで答えるのかはよく分かっていません。____
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実験の結果、AIが色名を連想するときの色名の頻度は、ヒトが色名を連想するときの色名の頻度と非常に似ていることが判明しました。この色名の頻度は、本やインターネット上に現れる色名の頻度とは異なるもので、高度に自然言語処理能力のあるAIが獲得した色の概念が、ヒトが持つ色の概念と類似していることを意味しています。ヒトは獲得した情報を脳内で概念化しており、関連深い概念同士は強くリンクされ、関連の遠い概念同士は弱くリンクされており、巨大な概念のネットワークが形成されています。__
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というような内容です!
研究論文は英語なので英語のできない私は日本語のプレスリリースをもとに、この研究について考えたことを書いていきます。このような「サイエンス」についての記事を書くことの難しさも感じております。僕が書いているこのコラムは、学術的に全く意味がないということは、あらかじめ強く言っておきます。
この研究論文、「ナゾロジー@科学ニュースメディア」というサイトでも取り上げられております。非常に上手く面白くまとめてあります。
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ナゾロジー@科学ニュースメディア
「Aは何色だと思う?」AIに質問した結果…AIも「概念」を持つ可能性が判明!」
https://nazology.net/archives/117062
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Twitterで、この「ナゾロジー」の記事のリンクが色々な人にTweetされており、この研究についての様々な(批判を含めて)意見を読むことができますが、不思議なのは、元のプレスリリースのリンクを貼ってるものはほとんどなく、この「ナゾロジー」の記事のリンクを貼って意見をしているものばかりです。(ナゾロジーの記事内に元のリンクも貼ってはありますが)
その中には、明らかに見出しだけ見て記事を読まないで感想を書いてあるものもありました。まあそれらは論外として、見出しの
『AIも「概念」を持つ可能性が判明!』
という、部分に引っかかって意見している人が多いということに驚きます。この見出しの「概念」という言葉の意味が、元のプレスリリース記事の文脈の意味とは、別のニュアンスを持ってしまっているのです。
ただ元の記事も「概念」という言葉は使っているのは使っているので、ややこしいのです。ここでいう「概念」は日常的に使っている意味とはちょっと違うような気がします。この「概念」の意味の違いは説明するのが難しく、例えば、美術作家のいう「質感」と認知科学でいう「質感」では、意味が違うというような感じでしょうか。
ナゾロジーの記事も間違ったことは書いてはいないのですが、面白く書いているので、何かもともとの研究の意味から話が微妙にズレてきてしまっているのです。
誤解しているのが分かりやすいTweetを紹介しますと
『AIが実はそんなに大したことは無いって事を知られまいとする動きの一つ』
というような内容のTweetです。
逆に、研究を肯定的に捉えているようなものでも
『人工知能ってすごいね!』というような反応だったりします。
「人間の色の偏り」の根拠に関して、疑問視する意見もありました。
あの芥川賞作家、小説家の平野啓一郎さんも、ナゾロジーのリンクに、アルチュール・ランボオの「地獄の季節」を例に出して「人間の色の偏り」に疑問を呈するようなTweetをしてます。(Tweetをそのまま引用したいのですが、著作権がよく分からないので自粛)
Tweetのリンク
https://twitter.com/hiranok/status/1587770271725137925?s=46&t=sBfn4m_2AWv-2xlRz7lgoA
「平野さん!誤解だよ!そういうことじゃないんだよ!僕の話を聞いてくれ!」
(このマイナーな連載コラムを平野さんが読むことはないと思って安心して書いてます。僕は平野さんのファンです!)
この「人間の色の偏り」は、過去の研究論文のデータを元にしているようです。僕は専門家ではないので、このデータを疑問視する意見に正確に反論できないのです。しかし、僕個人の見解では、もし仮に「人間の色の偏り」と「人工知能の色の偏り」に類似性がなくとも、そして、この人間側のデータが、もし仮に正確でなくても、「膨大な言語の中で色名が使われる頻度とは一致しない」ということ自体は確かで、入力された情報とアウトプットの情報の間にある「何か」が、目的がなくても「ある状態になると」と、意味もなく結びつく、その『「何か」の「ある状態」』というものの構造が浮かび上がってくるということに着目してます。
話がそれました。
この研究、「人工知能がすごい!」ということを言うための研究ではありません。
そこのところが1番の誤解です!ただ、めんどくさいのは人工知能はすごくないのかといえば、すごいはすごいですが、そこを問題にしているのではありません。そして、また、もう一つの大きな誤解が、人工知能と人間を比較はしていますが、「人工知能」の対義語として人間の知能「自然知能」があるということではないです。
いや、まあ、対義語としてはそうかもしれませんが、そういうことではありません「暗算」の対義語が「電卓」か?犬の対義語が犬型ロボット?馬の対義語が車か?そういうことじゃない。「機械なのに人間と同じようなことができてすごい」「人間よりも優秀ですごい」「犬の嗅覚は人間よりすごい」というような類の話ではないのです。
「じゃあなんなのよ!?」
それをいまから説明します!!!!
説明の前に知ってもらいたい情報があります!2022年の赤ちゃんの名前ランキングです!
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___「たまひよ」では、2005年から毎年赤ちゃんの名づけに関する調査、「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」を発表しています。今年も2022年1月~9月に生まれた新生児297,255人を対象に人気の名前や読み方、漢字など、名づけについての調査を行いました。(たまひよ 赤ちゃんの名前ランキング より引用)___
2022年赤ちゃんの名前ランキング
https://st.benesse.ne.jp/ninshin/name/
男の子の名前 全体ランキング
1位 碧 あお 前年度:7位
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この1位の「碧」という名前、もし自分に男の子供がいたらつけたいと思っていた候補の一つでした。それは誰かと相談したり話したりしたわけではなく、漠然と思っていたわけです。
この「碧」という名前をつけた親たちは、集まって協議して一緒に「碧」にしたわけではないはずです。バラバラでつけたはず。偶然なのか、理由があるのか、つけた理由はそれぞれ違うのか一緒なのか、一人一人に聞いてまわらないとわかりません。僕も「碧」と思ったということは、社会の情報がそうさせているのでしょうか?分析みたいなものもあるはずですが、本当にそれが正解なのかはナゾです。「碧」というのも色なので、この色が持っているイメージがあるはずです。
「赤ちゃんの名前ランキングと人工知能と、なんの関係があるんだよ!!!」
と思われるかもしれませんが、
例えば、です。例えば、もし仮に赤ちゃん男の名前ランキングの1位が
「翔平」
だったら、どうだろうか?どう思いますか?
「大谷翔平選手の影響じゃないの?」
とならないだろうか?
「いや、そんな単純じゃないだろ、お母さんが翔子、お父さんが公平で、一文字ずつとって翔平にした人もいるかもよ?」
「いや、そういう個人的な事情の話じゃないです」
じゃあ、仮に1位が「聡太」だったら?
「それ棋士の藤井聡太さんの影響じゃないすかね?」
とならないだろうか?
そしてさらにさらに、1位が
「翔太」だったら?
「藤井聡太さんと、翔平を合わせたのかな?」
と思うかどうかは、微妙なところだ。
そこでだ、そこでですよ。
仮に「翔平」という名前が1位で、その理由が「大谷翔平選手」と全くの無関係だったと仮定する。
それを証明するには、「大谷翔平選手」の存在を知らない人を集めて子供の名前を考えてもらい、その中に「翔平」という名前が出てくるのかどうか?を調べる、という実験をしなければならない。
しかし、そんな条件の人を集めることができるのか?募集する際「大谷翔平選手の存在を知らない人募集」としても、その時点で「翔平」という名前が出てしまい、実験に影響が出てしまう。どうすれば良いのか?
もうお分かりだろう。
大谷翔平選手の情報を学習させていない人工知能に子供の名前を考えさせる実験をして翔平という名前が出てくるのか?という実験をすれば良いのです!!
(あくまでも例えで、技術的なことは知りません)
今回の「色名の連想しやすさの起源:人間とAIの比較」の実験の凄さは、人工知能がすごいということではなく、『もし仮に赤ちゃんランキングの名前が1位が「翔平」でも、その理由は大谷翔平選手と関係ないかもしれない!という凄さ』なのです!(あくまでも例え)
なんでもかんでも、人工知能で再現できるわけではないです。しかし、再現ができた時、その構造や仕組みが明らかになるかもしれない、ということです。
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補足情報
●文中で紹介した平野啓一郎さんの「地獄の季節」についてのTweetは
「地獄の季節」の中の一節
「俺は母音の色を発明した。__Aは黒。Eは白、Iは赤、Oは青、Uは緑。__」
(引用「地獄の季節」著:アルチュール・ランボオ 訳:小林秀雄 岩波文庫)
のことだと思われます。
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●『色名の連想しやすさの起源:人間とAIの比較' ~自然言語処理ができるAIの心理研究プラットホームへの応用~』
【論文】リンク
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20416695221131832
【発表雑誌】
雑誌名 i-Perception
掲載日 2022年10月26日
論文タイトル“Origin of the ease of association of color names: comparison between humans and AI”
著者: Hidehiko Komatsu, Ami Maeno, and Eiji Watanabe
基礎生物学研究所 神経生理学研究室の小松英彦 研究員(玉川大学 脳科学研究所 兼任)
京都工芸繊維大学 工芸科学部 情報工学課程の前野彩実
基礎生物学研究所 神経生理学研究室 渡辺英治 准教授(基礎生物学研究所 超階層生物学センターAI解析室 室長 兼任)
からなる研究グループ