(オトナの保健室)暴力的AV、男性の声は

 ■ThinkGender ジェンダーを考える

 前回、ソーシャルワーカーの斉藤章佳さんがアダルト動画の暴力的な演出やその影響について語りました。「日本は男性の性欲に甘い」「有害なものは自ら退けていくべきだ」。そんな言葉を男性たちはどう受け止めたのでしょうか。

 ■ポルノ雑誌、アダルトビデオ、インターネット。アダルトコンテンツの流行を追ってきた40代後半の男性会社員は、加害意識は希薄なまま楽しんでいたと話す。

 性加害は許されざる行為であることは重々わかっています。でも、そうした犯罪を語る文脈で、男性が女性を性的対象とすること自体を悪とみなすかのような風潮に、男性として居心地の悪さを感じてきました。しかし前回、斉藤章佳さんは性欲それ自体が悪なのではなく、加害的な欲求と結びついて初めて悪になると整理してくれて、納得感がありました。

 アダルト動画の及ぼす影響についても言及がありましたが、時代を経て、その性質は変わっていると感じます。かつてのAVが虚構を前提とした「プロレス」だったとしたら、いまのそれは虚実ないまぜの「リアリティーショー」に近いのではないでしょうか。

 一昔前のアダルトビデオは、女優のインタビューを挟み、「これは演技ですよ」というわかりやすさがあったと記憶しています。

 でも、時代の変遷とともに人気を博すようになったカテゴリーは「素人」。迫真の演技というより、誰かわからない、リアルそのものと思わせるものがネットに出回るようになりました。

 ◇見る側は「エンタメ」

 ジャンルも多様です。さすがにこれはないだろうというニッチなキーワードで探しても大概見つかる。私自身、抜く(射精する)ことを目的とするよりも好奇心を満たし、エンタメとして楽しむようになっています。

 一例として、盗撮系のコンテンツがあります。パンチラ表現も、かつての女優が見せつけるようなものではなく、駅のエスカレーターなどで下から映したもの、街中で座る姿を前から映したものなど色々あります。いわゆる「やらせ」なのか、リアルな盗撮映像なのか、識別しづらい。

 男性同士で飲んでいるとき、現実で「ラッキースケベ」に遭遇するとしたらどのアングルからがグッと来るか、その場で検索して盛り上がったこともあります。それはどのアイドルがかわいいかというのと同じノリで、盗撮という犯罪に加担しているという罪悪感は、率直に言ってほぼ皆無です。

 撮られた女性の悲しみや苦しみまで想像が及ばない。女性たちが日常生活の中で撮られているのではないかとおびえていることについても。身もふたもありませんが、身近な人間が被害者にならない限り、掘り下げて考えない男性が多いのではないでしょうか。

 ただ、男性同士の会話であっても、幼女の痴漢や集団レイプものなどはまず話題に上りません。どこまでならバカ話として消費できるか、無意識にラインを判別しているとも言えるでしょう。

 暴力性や加害性がストレートに出過ぎたアダルトコンテンツは、一定のルールで規制していくべきだという論は、男女問わず賛同が得られやすいと思います。

 ただ、直接的な暴力シーンはなくても、生意気な女子を屈服させる「わからせ」や、徐々に手なずける「グルーミング」なども巧妙な暴力のにおいがします。どこからが有害な暴力や支配になるのか、明確な線引きは難しいのではないでしょうか。

 当たり前のように享受してきたコンテンツが境界線ギリギリだったり、実はアウトだったりする。そんな自覚が男性たちにはより求められているのかもしれません。

 しかしながら、アダルトコンテンツは多くの男性にとってあまりに身近なもので、男性特権を享受しているとか、高みから女を虐げているといった自覚はほぼありません。だから、女性たちの怒りを出発点に、もっと規制や制限を加えるべきだといった論調は、男性としては正直、拒否感が先立ってしまうところもあります。

 アダルトコンテンツに相応の加害性が含まれることは認めつつ、ファンタジー的なエンターテインメントとして引き続き楽しみたいというのが少なからず男性の本音だと思います。

 ◇性加害、社会で考えて

 ■介護福祉士の47歳男性は「性欲を個人だけの問題にしていいのか」と問いかける。

 介護の現場では、性欲は切実な問題です。スタッフへのセクハラもあれば、認知症の高齢者同士が合意なく性的行為に及んでしまう場合もあります。でも、こと性に関しては「本人の好きにさせればいい」という考えの人もいて、語りにくい雰囲気があります。

 性は個人的なトピックですが、性欲は他者や社会との関係の中で生じるものだと思います。相手と調整や合意を繰り返し、修正していくのが望ましいと思います。

 また、例えば暴力的なAVを見て性加害に及ぶ人がいたとして、それを個人の性質や趣味嗜好(しこう)だけの責任にしていいのでしょうか。社会的な要因についても考えるべきではないでしょうか。

 ■読者のモヤモヤ

 ・暴力的なAVの作品紹介ページを見てしまい、ぼうぜんとしたことがあります。男性が女性の腹部を何度も殴ったり、動けない女性をエアガンで撃ったり。性欲の名のもとに、嗜(し)虐心を満たしたいだけではないでしょうか。出演者の同意を得たうえで、台本に沿って撮影されたか明示してほしいとも思いました。(30代、会社員)

 ・幼少期、家族が持っていた「痴漢もの」や「レイプもの」のポルノ漫画を読み続けてしまい、加害性のあるものでしか性欲を満たせなくなりました。私は女ですが、“女性は性欲処理道具”という認識が埋め込まれていました。ポルノ産業のコンテンツに満たされている人たちも決して幸せではないと思います。(30代、自営業)

 ・海外の大学に留学していたとき、男性のクラスメートが、「日本のAVは世界中の男たちが見ている。日本人の女は世界一みだらなやつらだ」と言った。怒りとあきれから言葉を失った。日本人女性である私を明らかに蔑視していた。誤った認識が流出している。(30代、会社員)

 ■あなたの「モヤモヤ」募集します

 AVは身近なもので、加害性を認識できなかった――そんな男性の吐露を聞きました。分断ではなく議論を深めていくために、ぜひ感想や体験をお寄せください。LINEはQRコードか「@asahi_shimbun」を「友だち追加」すると投稿できます。メールはgender@asahi.comメールするへ。

 ◆取材=机美鈴、田中ゑれ奈、平岡春人

 *「オトナの保健室」は原則第1水曜日に掲載します。1月は休みます。

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