お絵描きするなら木製グリップハメ技コンボをキメろ
August 10th, 2022 00:00・All users
以前、この記事でXencelabsのペンタブレットをポチったと書いた。
購入に踏み切った理由として「前代を10年使って満足したから」を挙げているが、実のところもう一つある。
このメーカーのペンに対応する木製グリップが販売されたからである。
木製グリップとは、文字通り木から削り出して作られたグリップのことだ。
元からついているゴムグリップを取り外し、代わりにこのグリップを装着する。すると木に込められた自然の恵みパゥワーが手を通して体内に流れ込み、画力が上がったような気になれるというえげつないお絵描きアクセサリだ。諸説ある。
冗談はさておき、数多の絵描きに「一度使ったら二度と手放せない」と言わしめるほどの呪われた装備であることは事実だ。
自分自身も例にもれず、Xencelabsタブレット登場の際も「木製グリップがない」という理由のみで解散、購入を見送っていた。それほどお絵描きには欠かせないアイテムとなっている。
今回は創作活動向上計画の一環として木製グリップの魅力を伝えるべく、この記事を書いた。「お絵描き(人生)、はかどんねぇな…」という人はぜひご一読頂きたい。
①滑らない・汚れが目立たない
久々にやる気が湧き、ペンを取ろうとしたらホコリまみれでベトベトだった。気を取り直しペンを拭く。すると部屋の汚れが目につき、ついでに周りの拭き掃除もしておこうと思い立つ。気がついたら当初の目的を忘れて掃除に没頭していた。キレイになった部屋の中心でこんなはずでは…と頭を抱える。
長くペンタブレットに触れている人ほど共感を得られるペンタブあるあるだと思うが、ゴムグリップは使い続けると謎のローションが出てくるようになる。比喩ではなく、リアルにヌルヌルしてくるのだ。
最初はサラサラ手触りが良くても使い続ける(放置し続ける)うちにテロテロのビロビロになってホコリを吸着し、最終的に汁とボロボロした何かを吹き出す。
人間の一生みたいでもの悲しくなってくるし、見た目もかなり最悪である。これではお絵描き以前に、ペンを握るモチベーションが溶けるというものだ。
仮に握れたとしてもローションでペンが滑り、思い通りの描画が難しくなる。手汗多めだとダブルローション配合でとんでもない事になる。
滑らないように強く握り込めば今度は手が疲れやすくなり、作業に必要な集中力や持続力を欠いてしまう。ひいては身体の故障にもつながるだろう。
自分の手汗や手脂のせいでこんな事に…とおちんこでる人もいるかもしれないが、ぢっと手を見つめる必要はない。
インターネット集合知によれば加水分解とかブリード現象とかいう特有の経年劣化で、れっきとした科学現象だ。使い方はまったく関係ない。細かいことについては各自調べてほしい。
拭き取るという選択もあるにはあるが、ヌルヌルローションお絵描き大会を数年間強行し続けた経験から言うと正直まったくおすすめできない。
ローションは無限湧きエネミーなので、描いている最中でもヌメってくる。締切前だろうがゾーンに入っていようがお構いなしだ。
ただでさえ貴重な時間や創作意欲の一部を「ペンを拭く」という行為に費やすこと自体生産的ではないし、そもそも拭いている間にやる気やアイデアが行方不明になってしまっては元も子もない。
ともかくゴムには隠居して頂き、代わりにローションを分泌せず常にサラサラな木製グリップを据えてしまえばこういった現象とはすべてオサラバできるというわけだ。
創作活動においては何よりまず手を動かすことが大事と言われるが、ふと湧き上がった意欲という燃料をスムーズに作業に注ぎ込むための環境作りも割と重要である。
その点において木製グリップは大きく貢献できるだろう。
②鬼コスパ・高耐久
『ものはすべからく朽ち果てるさだめにある。
ゴムから木に変えたところで、経年劣化は避けられないのではないか?』
もっともである。だが木という素材に関しては経年変化とか経年美化と呼ばれている。使い込むほど色味に深みが増していくのだ。
これに関しては「木 経年変化」で画像検索してもらうのが最もわかりやすい。
また耐久性も高い。
元となる樹種にもよるかもしれないが、虎の子がごとく崖から叩き落としたり象の足で踏んづけたりと、よほど故意に扱わない限り壊れないのではないだろうか。
これは7年使用したグリップだ。ペン回しに失敗して何度も落としたりぶつけたりしてた気がするが、見ての通り割れや欠けもなくピンピンしている。
メンテナンスの類もこれといってやっていない。気が向いた時に硬く絞った布巾で水拭きする程度である。
木もいずれは朽ちるが、ゴムグリップよりもはるかに長い時間が必要となるだろう。
むしろ我々人間の方が先に朽ち果てる可能性すらある。こうなるとコスパどころの話ではない。実質無料だ。
③軽い
ペンタブレット用のペンはもとより究極の軽量設計だ。企業努力のたまものだろう。ヘタしたらそこらへんのゴツゴツした文房具より軽いまである。
だが木製グリップがあればさらに限界を目指せる。
条件にもよるが、ゴム製から木製に交換するだけで約40%軽くなるとされている。
元が元なのでその差は数グラムだが、たかが数グラムされど数グラムだ。羽のように軽いペンを求めるならば、木製グリップはよいパートナーとなるだろう。
逆に軽くなりすぎても困るという人は、あえて重ための木材で作られたグリップを選ぶとよいだろう。たとえばアイアンウッドや紫檀・黒檀などといった樹種は、木の中でも比重が大きい部類なので、軽量化を抑えられる。細かいことは「木材 比重」で検索してほしい。
あるいは太径を選び、物理的に体積を増やして相殺する手もある。
③実になじむ
木はゴムに比べて硬い。手が痛くなってしまうのではないかと不安を覚える人もいるかもしれない。
だが不思議なことに実際試してみるとそんなことはなく、むしろゴムより柔らかく感じられるまである。おそらく先述の①滑らない、③軽いという特性により、少ない力でペンを固定できるからだろう。
大雑把な話、木製グリップを装備すれば今より少ないHP消費でお絵描きクエストがこなせるようになるわけだ。
余ったHPで今描いている絵をオーバーキル(描き込み)してもいいし、より多くのクエストをこなして経験値稼ぎ(練習)するのもいい。
あるいは今より少ない時間でHPを全回復し、次のクエストに備える(遊ぶ)ことだってできる。戦略は無限だ。
EX.サイドスイッチの存在を抹殺できる
たいていのタブレット用ペンにはサイドスイッチが付属している。
マウスの代替として扱える便利な機能だが、誤爆の元にもなるので設定OFFにしているという人も珍しくないだろう。
だが機能を切ったところでボタンの存在は消えない。「何の役割も持たない謎の突起が常に手のひらの中にある」というカオス誕生の瞬間である。
だがそれも木製グリップならばスマートに解決できる。穴なしを選ぶだけだ。
通常はグリップをはめた上からでもサイドスイッチを操作できるようジャストサイズの穴があけられているが、穴なしはそれが一切ない。
そのまま取り付けるだけで、ボタンなど最初から存在しなかったも同然のなめらかボディに早変わりというわけである。
ゴムグリップどころかサイドスイッチも許せない人はぜひ検討したい。
どこで購入できるのか
木製グリップの魅力は一通り紹介できたと思う。ここからは興味を持ってもらえた人をスムーズにショップへご案内するためのリンク集だ。
Wacom公式で購入できるが、プロペン2専用かつ穴ありメープル/穴なしウォルナットとポケモ●のゲームソフト並みに潔い二択となっている。
同じメーカー製のペンでも品番によってグリップの形状が異なるため、互換性はほぼないと言っていい。他メーカーなどもってのほかだ。
木なのでゴムほどの柔軟性もないし、対象外のペンに強引に装着しても破損や故障の原因となるだけなので避けたい。
ゆえにプロペン2以外のペンを使用していたり、そもそもWacom以外のタブレットを使用している、あるいはもっと好みの色や素材にしたいというユーザーはその道の職人もとい個人業者を頼り、オーダーメイドする形となる。
とはいえ現在進行形で木製グリップの製作販売を行っている人はきわめて少なく、自身が把握している限りでは2名のみだ。
どちらも長く活動されており実績のある作家なのでそこは安心していいだろう。以下に紹介していく。
葉車堂細工所
メジャーなWacomだけでなく、XP-PenやXencelabs、Apple Pencil対応のグリップも製作しており、さらに通常より太さを持たせた太径・極太径グリップのオーダーも可能となっている。
非Wacomユーザーは実質葉車堂一択となるだろう。
また上記ショッピングサイトのほか、Creema、BASE、STORES.jpと各種マーケットプレイスにも展開しており、海外発送にも対応している所が強みだ。
オタクに馴染み深いBOOTHからも購入できるので、オシャンなサイトに着ていく服がなくても安心である。
BOOTHでは基本的にラミン材のホワイト・ブラウンの2色、あるいはPRO・PREMIUM・WAZAIといったレア木材19種からお好みの素材を選択し、必要に応じてグリップ形状・ボタン調整・表面仕上げ・インク染めなどといったカスタマイズオプションを追加していく、という流れだ。
カスタマイズの追加料は100円からで、公式Twitterを「カスタマイズ」でツイート検索すると軸を三角形や六角形などに変更したり、重心を変更したり、サイドボタンの一部を塞いだりと様々な事例を見ることができる。
わりかし何でもできるようなので、明確な悩みや希望がある人はここで金に物を言わせて解決してしまうのも手だろう。
逆にどう注文すればいいか分からなくても心配無用だ。
ペンを握った手やサイドボタンを押している時の手の写真を送ると、ペンの持ち方に合わせた提案を受ける事ができる。
手指のタコなど、特に痛みや疲れが出やすい部位があればそれも添えて相談すると、より自分に合う形状を見つけやすくなるはずだ。
購入後の再調整や塗装の塗り直しなどといったアフターケアも充実しているので、初めてで右も左もわからないというような人にもおすすめできる職人と言える。
micchi-
Creemaというハンドメイド専用マーケットプレイスから購入できる。
寄木の文房具や小物を中心に販売しているが、よく見ると受注生産品としてWacom用グリップも数点取り扱っているのがわかる。
対応品種はWacomのプロペン(KP-503E)、プロペン2(KP-504E)、プロペン3D(KP-505)の3種類のみだが、そのぶん指定できる木材の幅が広い。
記事作成時点では17種類から選べることを確認している。
対象のプロペンを使用している人にとっては葉車堂に次いで有力な選択肢となるはずだ。
デザートアイアンウッドなど葉車堂が扱っていないレア木材もあるため、樹種にこだわりがある人は双方ともチェックしておきたい。
太さや形状のカスタマイズも可能とのことなので、気になる人は相談してみるとよいだろう。
EX.螺旋工務店
2015〜2017年にかけ、コミックマーケットやコミティアで木製グリップの頒布を行っていたサークル。
元々Wacom公式で販売されていた木製グリップだが、需要に反し数年で生産終了してしまったためにこちらのサークルが独自に製作を始めた、という経緯がある。
先ほど紹介したWacomの木製グリップはいつの間にか復活していたものだ。
残念ながらサークル主は2017年に鬼籍に入られてしまったため、新規入手はほぼ不可能となっている。
購入で気をつけたい点
木製グリップの相場は安価なものでも4000円前後だ。
さらにベースとなる木材のレア度が高いほど価格も上がる傾向があり、黒壇やパープルハートなどといった希少モノだと1万円台に乗ることもある。
決して安い買い物ではないため慎重に検討し、誤注文に気をつけながら購入したい。
またこれは木を使用しているもの全般に言えることだが、基本的に木材そのものがランダム要素を含む素材であることを理解しておく必要もあるだろう。
同じ樹種でも木目の調子や色の濃さにはムラや個体差があるし、凹みや黒ずみが混ざることもある。
言い換えれば均質化された量産品と異なり、世界にひとつとして同じものがない一点物だ。ぜひ波紋のようにうねる木目や、アクセントのように浮かび上がる凹みや黒ずみが織りなす木材特有のエモみを楽しんでほしい。
ついでに木製グリップは装着の際、自己責任でペンの分解・再組み立てを行う必要がある。
とはいえWacom製は全体的に素手で簡単に分解・再組立できるスーパーイージー仕様だし、Apple Pencilに至ってはほぼはめるだけでOKな設計がほとんどなので心配する必要はないだろう。1分もかからない。
問題となるのはXP-PenやXencelabsの場合である。
これらのメーカーはグリップ交換をまったく想定していないのか、分解からして難易度エクストリームとなっている。
自身もXencelabsのペンには苦労させられた。木製グリップの装着こそは一瞬だが、前後のゴムグリップとサイドスイッチのつけ外しに40分使ってしまった。
個人差はあるだろうが非常に神経を使う作業となることを注記しておく。
なおかつ力を求められる作業だったので、勢い余ってちょっと塗装がハゲてしまった(中央上部)が、実用上問題はないしメンテナンスでどうにでもできると思うので放置してる。
だがこういう事でテンションが下がりそうな人や、木製グリップ初心者などはタブレット選びの段階で取り外しが簡単なメーカーを選んでおくのもひとつの選択肢かもしれない。
あとがき
立派な大木も、はじめは小さな芽だ。
同じく神と呼ばれる絵描きも、はじめは名無しであっただろう。
どちらも日々目に見えない小さな成長を重ねた結果である。
お絵描きにおいて成長に欠かせないものは、一にも二にも絵を描くことだ。
その一歩としてペンを握るハードルを下げ、描き続ける力を与えてくれる木製グリップは小さな成長を大きく後押ししてくれることだろう。
そのグリップもかつては小さな芽から成長を重ね、大成した木であるのだから。