HIROTSUバイオサイエンス(本社・東京都千代田区)が2020年にサービスを開始した線虫がん検査「N-NOSE」。「尿を検体として提出すれば15種類のがんのリスクがわかる」という手軽さが受けて急速に売り上げを伸ばしている。
一方でその検査性能について、医療者から疑問の声が上がり、陽電子放射断層撮影(PET)検査を専門とする日本核医学会のPET核医学分科会PETがん検診ワーキンググループ(以下、分科会WG)は23年10月に全国調査を実施した。線虫がん検査で「高リスク」と判定されて検査を受けに来てもがんが見つからないケースが相次いだため、その実態を把握するのが目的だった。今年9月に放射線診療研究会の論文誌「臨床核医学」に発表された調査結果とはどのような内容だったのか。昨春の医療プレミアにおける報道後のN-NOSEを巡る問題を追った。
「尿1滴のにおいで15種のがんリスクが調べられる」
改めてN-NOSEの概要を確認しておこう。体長約1mmの線虫ががん患者の尿の匂いに反応する、という性質を利用した検査法で、九州大大学院助教だった広津崇亮氏(現HIROTSUバイオサイエンス社長)が開発した。「1万6800円(1回検査コース)と比較的安価な費用で、早期の段階から15種類のがんリスクがA~Eの5段階で調べられる」のが売りだ。
だが「がんリスクが高い」とされるD~Eの結果が出ても、どの臓器にがんがあるかはわからない。そのため、高リスクと判定された受診者の多くは、国が推奨する五つのがん検診(肺、胃、乳房、大腸、子宮頸<けい>部)や、PETやコンピューター断層撮影(CT)といった画像検査装置を備えた施設での検査を受けることになる。
分科会WGが全国調査を開始した背景には、高リスク判定となりPET検診を受けに来た人を検査してもがんが見つからないケースが相次いでいるという実体験があった。分科会WGでは「N-NOSEの精度を検証するというより、N-NOSEで『高リスク』と判定された受診者がPET検査を受けに来た際に、どれくらいの頻度でがんかみつかるか、どのような情報提供をすればいいのかを明らかするのが調査の狙いだった」と説明する。
「高リスクでも『がんがある状態』を意味しない」
調査対象としたのは、PETとCTを組み合わせたPET/CT検査を実施している全229施設。N-NOSEが発売された20年10月~23年9月にがん検診を受診した人のうち、N-NOSEの結果が受検のきっかけとなった人数や、がんが見つかった人数などを書面で尋ねた。回答したのは102施設(回収率45%)だった。
102施設での検診総数は6万5585人。このうちN-NOSE受診を機にPET/CT検診を受けた人は33施設に合計1285人いたが、がんが見つかったのは11施設の23人。がんの発見率は1.79%だった。
がん検診では、陽性と判定されても実際にはがんではない偽陽性や、陰性と判定されても実際にはがんがある偽陰性が一定割合で発生する。「陽性と判定された人を精密検査した結果、実際にがんが見つかった人の割合」は陽性適中(的中)率と呼ばれる。
N-NOSE受検を機に33施設でPET/CT検診を受…
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