通称パワハラ防止法と逆パワハラについて、兵庫県知事・斎藤元彦氏の例で考える【京大ロースクール修了社労士執筆】

斎藤知事再当選おめでとうございます!

令和6年11月17日、斎藤知事が再選されました。

筆者もボランティアとして出来る限りお手伝いし、ゼロ打ち当確の瞬間事務所に伺っており大歓喜に包まれました。

本記事のこれまでの「斎藤前知事」の表記を、システム上変えられない部分以外を改めます。

斎藤県政二期目、職員とのコミュニケーションを改善するとおっしゃられていますし圧倒的な組織票を倒した斎藤知事の周囲も環境が変化することでしょう。

ますますのご活躍を期待いたします。

本題、はじめに

ハラスメントについて様々なタイプがありますが、パワーハラスメントについてはいわゆるパワハラ防止法、正式名称「労働施策総合推進法」が定められております。

詳しくは厚生労働省のPowerPoint資料P2~P4をご覧ください。

職場におけるパワハラ防止法は労働法の一種であり、その防止について社会保険労務士として労務管理のアドバイスを求められることは多いです。

その中であまり認知されていないこととして、「部下が上司に対して行うパワハラ」があります。

現在、その典型例として考えらえる身近なニュースがあります。それが兵庫県知事・斎藤元彦氏のケースです。

2024年3月以降から騒がれている兵庫県知事・斎藤元彦氏のケースは、調べれば調べるほどに単純なパワハラ問題なのではなく、

むしろ逆に上司であった斎藤知事が、部下から逆にパワハラを受けていたのではないかと考えざるを得ない、と思われるのです。

状況として、兵庫県知事問題は逆パワハラではないのか?

これを本記事では「逆パワーハラスメント(逆パワハラ)」として記載し(事実認定については今後もされていくでしょうが)、昨今の兵庫県知事の問題はこの典型例に該当するのではないかと問題提起をしたいと考えます。

現実として兵庫県知事・斎藤元彦氏が逆パワハラに遭っていたかどうかは、法律の専門家からなる第三者委員会の結論待ちです。

他方で、県職員による逆パワハラの可能性を考慮すると決定的証拠が何も出てこないアンケート及びそれに基づく「ほぼ全員が法律の素人の県議会議員による」地方自治法百条委員会は、法律家の端くれとしては茶番と筆者は考えます。

ただ、ここは事実認定はさておき、状況として起こりうる典型的状況であったという解説であることにご留意ください。

本記事では、兵庫県知事のいわゆるパワーハラスメント問題について、さらに踏み込んで本件は逆パワハラではないのかについて検討いたします。

水町勇一郎教授はパワハラ防止法、公益通報者保護法の改正担当者

なお筆者は法科大学院修了、かつ社労士として現在「労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)」「公益通報者保護法」の改正に立法・改正作業に携わっておられる水町勇一郎(前・東京大学教授、今年から早稲田大学教授)の

プロ向け労働法講義(一番詳しい労働法テキスト『詳解労働法』使用)を現在受講しており、これらの法律の立法・改正趣旨までもお聞きしているので、百条委員会参考人より正確だと考えます。

逆パワハラとは?その定義から対処法まで徹底解説

逆パワハラの概説書は現状では見当たらないものの、『ビジネスガイド 2024年10月号』(日本法令)において、

人事・総務担当者のための ハラスメント研修 設計・実践ハンドブック』(日本法令)著者の加藤貴之氏の特集記事がありますので、本件以外の一般的事例や解説詳しく知りたい方は上記ビジネスガイド2024年10月号をご覧ください。

逆パワハラとは?定義と概念

まず、前提として「職場において、部下が上司に対して行うパワー・ハラスメント」が存在します。

なぜ部下の行為がパワハラに該当するケースがあるのかというと、部下の方が上司より実際の権力を持っているケースがあるからです。

このようなケースでは、部下が結託すれば上司より力を持つため、部下による上司へのハラスメントが成立します。これを、上記ビジネスガイドに従い、本記事でも「逆パワハラ」と呼びます。

今回のケースではどうか

これまで県副知事からの知事就任が恒例となっていた今回の兵庫県のケースはまさにその典型と考えます。

戦後ずっと、新知事として就任する人物は副知事上がりでした。すると当然他のほとんどの職員より年上かつ元々のパイプがある人物の就任がずっと続いてきました。

しかし、2021年の兵庫県知事選で大異変が起こりました。

2021年に新知事として県職員幹部より年下の斎藤元彦氏(当時43歳)が選ばれました。幹部職員より年下である上に、副知事からではないために人脈がありません。

部下である県職員幹部が、上司として着任した知事よりずっと、自分たちの方が県庁や県政について詳しいと考えるのは自然なことです。しかも、前任者の井戸元知事は5期20年という長期政権でした。

すなわち、部下のほうが実権を持つ典型例になります。(もし仮に選挙に敗れた旧体制側が結託していたなら特に。)

一般のパワーハラスメントとの違い

逆パワハラもパワハラの一種なのですが、普通のパワハラと違い上司が被害の声を上げにくいという点があります。

いわゆるパワハラ防止法も、要件である「優越的地位を用いて」は普通上司にあると想定されていますから、逆パワハラに対応していないのです。

しかしながら、裁判例においても、部下からのパワハラは存在が確認・認定されています。

厚生労働省の定義と適用

厚生労働省のパワーハラスメントの資料によりますと

  1. 優越的な地位に基づいて行われること(要件1)
  2. 業務の適正な範囲を超えて行われること(要件2)
  3. 身体的、もしくは精神的な苦痛を与えること、もしくは就業環境を害すること(要件3)

の3つがいわゆるパワハラの主要素となっています。

なお、水町教授は「パワーハラスメントは他のセクハラやカスハラとは違い業務の延長で行われることが大半であって、指揮命令系統があるのが前提のところを、法的に取り締まることがそもそも困難である」という立法側の苦悩をおっしゃっています。

つまり、暴行罪など明らかな犯罪にあたる場合を除き、取り締まるにはこれらの要件にさらに「社会通念上許される相当な範囲を超えていると認定されること」が必要であると解されるのです。

今回のケースへのあてはめ

まず、本件では地方公務員法に基づき県職員には職務専念義務があります。そして知事には公務員への指揮監督権があります。その上で斎藤知事について、パワハラなのかをあてはめて検討いたします。

まず、お亡くなりになられたお二人のご冥福をお祈り申し上げます。

その上で検討いたします。確かに地位的に斎藤知事は上司でした。そして、法的には優越的地位はありますので上記要件1は満たします。問題は要件2と3です。

要件2について、知事として業務の適正な範囲を超えていたかですが、少なくとも認定されている事実では一般職員にではなく「県幹部への叱責や、副知事に対し付箋を投げる」行為が、日常的に異常な回数や頻度で行われていなければ業務の適正な範囲を超えていたとは言えませんが、そこまでの認定はされていません。

つまり、社会通念上相当な範囲を逸脱している行為は認定できません。

要件3について、身体的、精神的苦痛を与えたかですが、まず誤解されていることが多いパレード担当職員に対しては、認定された事実からは斎藤知事は関与していないので除外いたします。問題は、亡くなった元西播磨県民局長です。

~精神的苦痛について~

こちらについては確かに2024年3月の行為への処分は精神的苦痛を受けたでしょう。しかしながら、公益通報者保護法の適用を受けようとされたようですが(また別に記事を設け解説いたします)、少なくとも同法2条で「不正の目的でない」という保護を受ける要件を欠いている可能性が高く、

3号通報の場合に求められるいわゆる真実相当性(信じるに足る相当の理由)、法3条以下の要件を欠いており、停職処分はむしろ軽微であって逆恨みの可能性が高いと思われます。

真実でない内容を外部にまで流出させていたと考えられ、偽計業務妨害罪の構成要件を満たす可能性があり、正当事由がなければ懲戒免職が妥当な事案です。

現在、当該文書作成をされた元局長への公用パソコンへの情報公開請求が複数かけられていること、第三者委員会の調査が進んでいますが、百条委員会の今までの内容を全て拝見した結果、

参考人奥山教授はジャーナリストに過ぎず(大変失礼ながら)法学のプロではなく「前提事実の認識が歪んでいる」と断言でき、「斎藤前知事からのパワハラは認定できないでっちあげである」と、京都大学法科大学院修了者として現時点での結論を出します。

つまり元局長の精神的苦痛は、処分によるものであれば公務の時間を私的に濫用したことに基づくので当然受忍すべきものであって、それに基づく自死は仮に斎藤前知事が原因だとしても逆恨みであり、単純因果関係はあっても相当因果関係に欠きます。

斎藤知事の法的責任を問うには、故意責任どころか過失責任であっても相当因果関係が必要です。

逆パワハラが増加する背景と原因

厚生労働省の『令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書』によれば、パワハラのうち3.6%が部下から受けた、いわゆる「逆パワハラ」にあたるという返答がありました。

この逆パワハラが増えている背景には、多くの職場でパワハラ防止対策が進んでいることが挙げられています。もちろんパワハラが防止されることは良い事ですが、その反面で上司が部下に対して注意をしにくくなっているケースが多いのです。

上司と部下の関係性の変化

つまりパワハラ防止対策が進んだ副作用として、上司が部下に遠慮し萎縮しがちになっており、以前に比べて相対的に部下の力が増した結果、部下による逆パワハラの起こりやすい状況になっているのです。

今回のケースへのあてはめ

今回、斎藤知事が問題となったのは、職員への強い𠮟責があったという伝聞が多くありました。しかしながら、県の長である知事が一定の叱責は職務上当然存在するものであって、それが社会通念上許される範囲も昔よりはかなり狭くなったとはいえ、

少なくとも百条委員会において認定された事実に「社会通念上許されないもの」は認定することができません。

さらに進んで考察すると

そして、異常なまでの伝聞の多さに注目すべきです。

つまり、斎藤知事の前からずっと県庁に勤務されていた職員のうち、2021年の兵庫県知事選挙で敗れた元副知事派が相当数います。

重要なのは今回の斎藤知事のケースはずっと続いてきた県副知事からの昇格という慣習を破ったことです。

普通に考えるとプロの県庁職員が私情でそのようなことを行うのは考えにくいのですが、

知事のさらに前の井戸元知事の県政が20年間という長期続いたこと、それが一気に新知事として元副知事を選挙で破って就任したこと、天下りの上限を65歳までに引き下げるなどの大幅な改革を行われたことを考慮すると、

片山元副知事が百条委員会で文書に書かれていたと述べられていた「クーデター」が少なくとも、「斎藤知事がやってもいないパワハラ・おねだりの伝聞」という形で拡散されていたのではないか。

身に覚えのないデマで辞めるわけにはいかない。だから斎藤知事は、辞職した方が楽な中職務を続けた。(そして、ついに圧倒的な民意を得て再選を果たしました。)

以上のように考えに自然となりました。

そもそもなぜ、そこまでパワハラなどの伝聞が広がっていたのなら、豊田真由子氏や泉房穂氏のときのような決定的な証拠が出て来ないのでしょうか。

仮にこの考察が正しければ、逆パワハラにあたるのではないか

少なくともいわゆるおねだり疑惑のうち、「スキーウェア」「ゆかたまつり」「ジェラート店」などについてはデマであるという、神鍋高原など当事者の方の証言や証拠が出てきており、

そうであるならば、明確に斎藤知事を陥れる意図が認定できるので、パワハラ疑惑も壮大なでっち上げと考えるほうが自然なのです。

特に、SNS上で県庁OBや現役職員と思しき人物や、前回選挙で斎藤前知事に敗れた金沢元副知事並びに井戸元知事に極めて親しい人物のアカウントがひたすら、斎藤知事を数年間ずっと叩き続けています。

その他労働環境の変化

他にも

  1. 能力優先主義になり年功序列の制度が崩壊した結果として年下の上司が妬まれやすいこと
  2. 年齢に関係なくIT化に付いていけない上司が部下に侮られやすくなっているということ
  3. 女性の昇進がしやすくなったこと

などが逆パワハラの原因として挙げられています。

本件でも能力主義で選ばれた斎藤知事は、これまでの慣習となっていた副知事からの昇格を破っているために、大きな意味で1の年功序列を破っている典型です。

モンスター社員の増加

モンスタークレーマーという言葉は近年よく取り上げられ、いわゆるカスハラ、カスタマーハラスメント対策も進んでいます。

他方で現在、各分野においてハラスメント対策が取られている一方、それの濫用も考慮しなくてはなりません。正当なクレームをカスハラだと扱われるからです。

これがパワハラ対策に当てはめると、いわゆるパワハラ防止法の濫用事例、社内の規律を乱すモンスター社員による逆パワハラという論点が出てくるのです。

本件における故・西播磨県民局長はどうだったか

故人については、反論不可能な立場であるのでむやみな非難をするつもりはありません。

しかし、百条委員会で証言することが可能な立場であり、その直前に警察発表によると自死されてしまいました。そこに「死をもって抗議する」と添えて。

まず、これがそもそも斎藤知事に対するものであったという前提自体に疑問が呈されて今調査が進んでおり、故局長のプライバシーを公開する意図の百条委員の県会議員に対する抗議であったという話も出てきていますが

その場合話が変わりすぎるので、斎藤知事による処分に対する抗議と仮定します。

認定された事実では、元局長は知事への批判はともかく、他の県職員のプライバシーに関する内容、特にパレード担当職員の疾患名のカミングアウトという絶対やってはならない行為を行っています。

筆者の知る限りでも現在有志が情報公開請求を複数かけていますが、「これらを作成した公用PCに倫理上許されない内容が含まれている」という情報があり、斎藤知事も内容は伏せられていますが、その旨を街頭やYouTube番組などで述べられています。

まず公用PCの私的利用自体が地方公務員法上の職務専念義務違反であって処分は当然であり、これに抗議するならば完全な逆恨みです。

公益通報者保護法も不正の目的は保護されない旨を定められているのは上記のとおりです。

さらに、天下り予定だった学校理事長への就任が、上記懲戒処分により不可能になった。それが悔しいのは察して余りありますが、これは自業自得と言わざるを得ません。

まとめ

今回は逆パワハラという新しい論点について、現在の兵庫県における状況はかなりの部分が該当していると考えられるために記事にしました。

事実認定はまだ完全になされておらず究明は第三者委員会待ちになります。

しかし、今回の「兵庫県知事のいわゆるパワハラ疑惑」は、むしろ逆パワハラが起こる典型的状況であったことはお知りおき頂けると幸いです。

最後になりますが、改めて亡くなられたお2人のご冥福をお祈りいたします。

(11/19加筆修正)

週刊現代2024年11月2日号にて、背景事情が大スクープとして出てきました。

ネット上では公然の事実でしたが、週刊誌がついにパンドラの箱を開きました。

今後の進展に期待です。

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