【SS】ナリタトップロードがトレーナーの手をあっためる話

　ふと、木枯らしが枯葉を運びながら目の前を通り過ぎた。東京の冬は気温だけで見れば北の大地のそれよりはいささか手心のあるものなのかもしれないが、それはそれとしてこの乾いた冷たい風はひどく身にしみるものである。とりわけ朝のぴしっとした寒気はこの身体をこわばらせるのには十分であった。惜しむようにトレーナー寮を出た俺は、心なしかいつもより早い足取りで職場に向かっている。上着を着ているとはいえ、早く暖かい室内に入りたい気持ちがそれによって慰められることはない。
　いささかみっともないくらい早く足を進める俺に、ふと後ろからよく聞き慣れた声が背後から飛び込んでくる。
　「トレーナーさん！」
　振り返ると、案の定トップロードがこちらに駆け寄ってきている。学校指定のコートに身を包みながらも、俺のように寒さに縮み上がっている様子はない。彼女の風のような駆け足は俺の隣でちょこんと止まり、あとはこちらに合わせるようにゆったりと収まる。
　「おはようトップロード。今朝も早いね。」
　「おはようございます！今朝はとっても気分がよくて、朝の走り込みのあといてもたってもいられずに早めに寮を出ちゃいました！」
　「そっか。俺の方は寒くて寮からなかなか出れなくてさ。」
　「あっでもそれわかります！最近は朝走ってるとすごく寒いですし、ポッケちゃんも寝起きが良くなくて大変で…」
　トップロードは相変わらず俺の歩調に合わせて話を進めてくれる。この思いやりが彼女をみんなの期待を背負うウマ娘たらしめているのだろう。トップロードに気を遣わせたことに若干負い目を感じながらも彼女との会話を進める。
　「はは、俺はどっちかというとジャングルポケット寄りのタイプだなぁ。」
　「でも最近はホントに寒いですよね。特に風が吹くと身体がブルッと震えちゃって。」
　「俺もこの風は苦手だなぁ。この際雪に降られる方がいいかも。雪ってなんかあったかいし。」
　「確かに！東京は雪降りませんもんね。」
　そう言うとトップロードはふと考え込むように手をあごに当てて俯く。こちらが反応しかねていると、ふとまさに電球が点いたように顔を上げ、こちらに意識を向ける。
　「トレーナーさん！手を繋ぎませんか！？」
　「え？」
　「ほら、ウマ娘はヒトより体温が高いって言うじゃないですか！私の熱でトレーナーさんをあっためられるかも…」

　なるほどその手があったか。トップロードの提案に目から鱗が落ちる心地がした。確かにウマ娘の体温は一般的なヒトに比べて1度ほど高い。指先は人体でも特に冷えやすい場所であり、ウマ娘と手を繋げばその部分から体の冷え込みを防止できるかもしれない。外気に晒されて冷え切っていた俺自身の手もちょうど温もりを求めていたところだ。　
　「な、なんて…いきなり変なこと言っ」
　「そっかじゃあ遠慮なく。」
　「へ？」
　ここはトップロードの好意にあずかるとしよう。俺は差し出されたトップロードの手をとってそのまま歩き始めた。
　「ちょっトレ…！」
　「おー確かにあったかい。」
　右手から伝わるトップロードの体温が冷たい肌に優しく染み込んでいく。彼女の言う通り、なんとも言えない温もりが身体だけでなく心からも湧き上がってきた。心なしか手に感じる温度もだんだん上がっているような気がする。
　「手が冷えてたから助かったよ。ありがとうトップロード。」
　そう言って彼女の方を向くと思わずぎょっとしてしまう。彼女の顔はまるでゆでだこのように赤く染まっていたのだ。さっきまで前をまっすぐ見通していたのと対照的に、トップロードは自らの顔を隠すようにじっと俯いている。
　「ど、どうしたのトップロード！？」
　「……」
　いつもはこちらの呼びかけに元気な返事をくれるトップロードはなおも顔を上げない。
　思いがけない展開に手をこまねいていると、俺の呑気な思考回路がようやく目の前の現象の分析結果を弾き出した。思えば彼女は全く冗談のつもりでさっきのような提案をしたのだ。同級生ならいざ知らず、多感な年頃の女性がどうして好んで年上の男の手など握りたがるだろう。しかも相手は自分を担当するトレーナーである。見方によれば、いや常識的に考えればどうみてもセクハラとしか言いようがない行為をされて不愉快にならないはずがない。それを見越した彼女は冗談めかしてさっきの提案をした。そこには些少ながら年相応のいたずら心もあったかもしれない。しかし俺はそれを額面通り受け取ってしまったのである。これを暴力と言わずしてなんと言おうか。
　「ごめん！」
　「あ…」
　途端に俺は罪悪感と無思慮な自分に対する怒りに突き動かされて勢いよく手を引いた。そして目の前のトップロードに深々と頭を下げる。

　「本当にごめんなさい！俺は今君をすごく傷つけることをしてしまった！」
　「と、トレーナーさん…？」
　彼女の顔を見ることすらできず、ひたすら顔を地に向けたまま言葉を続ける。
　「もちろん他意はない。でも下卑た思惑を感じ取られても仕方がないことを俺はした。本当にごめん。」
　「……」
　トップロードの口から出てくる言葉はない。俺にはそれを受ける価値すら無いのかもしれなかった。当然の報いだ。契約の解除を通告されてもおかしくないだろう。彼女にはそうする権利があるし、俺にはそうされても文句は言えない罪科があった。それに対して全く異議はない。ただ、これから彼女が歩むであろう頂点への道を見届ける権利を失ってしまうことを考えると、悲しさに身が裂かれるような心地がした。目の奥からは熱いものさえ込み上げてくるが、必死に堪えた。今の俺にそれを流す権利などないのだから。すると、ようやくトップロードの口が開く。
　「…トレーナーさん、顔を上げてください。私、全然傷ついてなんかないです。」
　彼女の言葉に思わず顔を上げる。優しい声色はむしろ怪我を負って泣いている子供をあやすかのようだった。
　「確かにちょっと驚いちゃったけど、全然嫌じゃないです。むしろ嬉しいくらいだったんですよ。トレーナーさんはいつも私のために色々なことをしてくれてるから、私もトレーナーさんに何かしてあげられないかってずっと思っていたんです。本当はレースで結果を出すのが一番だけど、いつもうまくいくわけじゃないし、いつでもできることではないですから。でも私からトレーナーさんにできることも多くはないし…だからトレーナーさんの冷たい手をあっためられたことがとても嬉しかったんです。」
　トップロードの言葉に違う、という声が出かかる。違う。それは君が優しすぎるだけだ。俺は普通だったらトレーナーとして許されないことをしたんだ。どうか俺を許さないでくれ。こちらの考えていることを見透かすように、トップロードが再び言葉を紡ぎ出す。
　「わかってます。トレーナーさんにもトレーナーさんの立場があるし、私のために守らなきゃいけないこともあるって。だけど、もしあなたの気持ちが本当なら…」
　トップロードが俺の前に左手を差し出す。
　「手、握ってもらえませんか？」
　「…本当にいいのか？」
　「はい。今は私があなたをあっためたいんです。」

　そう言われて俺は恐る恐るトップロードの手をとる。さっきと同じ体温がさっきよりも冷え切った俺の肌に伝わってきた。
　「…行きましょう。」
　「…うん。」
　トップロードに促されて俺たちは手を繋いだまま学園へと歩み出していった。彼女の手は俺の手を優しく包み込むように、それでいて話さないようにしっかりと結ばれている。その優しさにかえって空恐ろしくなって思わず言葉が飛び出てきた。
　「冷たいだろ？」
　俺の不安を察するようにトップロードは首を横に振る。
　「トレーナーさんの手、とってもあったかいですよ。」
　彼女の言葉に思わず首を傾げそうになる。体温が高いのは無論トップロードの方である。彼女のおかげで手の冷たさを忘れているとはいえ、温めた当人がこの手を温かいというのは道理ではない。
　「なんで？」
　「…なんでもです。」
　そう言うと彼女は少し拗ねたようにこちらから目線を逸らした。何か気に触ることでもあったのだろうか。心当たりはやはりさっきの言葉しかないのだが、どうもうまく飲み込めない。彼女に寄り添っているつもりでも、この程度のことがわからないのでは自分の未熟さを感じずにはいられなかった。
　しかし、焦る必要もない。なぜなら、俺の担当はナリタトップロードなのだから。たとえ遅くとも、歩みを続けていれば必ず目当ての場所に辿り着ける。俺にできるのはそのための努力を続けることだけだ。冬の澄んだ空気の中、残りの道を惜しむかのようにふたりは同じ歩みを進めていた。

スレ立てしてくれたか
いいぞ＾～これ
トプロのこの踏み込み始めた感じ好き

トップロードの勇気もトプトレのトップロードを慮る心意気も良いんだけどさ
こいつ…やっぱ鈍いぞ！！

>>3

>>4

>>6

>>8

>>9

>>10

>>14

報告はしておいたからこれ消した方がええで

いつもの創作荒らしや

スレ主が書き込み履歴出してくれれば疑いは晴れるな

>>14

もう消えてるから意味ないけどなりすましやめてもらえます？

特に手直ししないなら作者がこのままでいいって判断したんでしょ

いやでも元スレでスレ立てたらって話題にも出てるからな、本人かもしれんってのがなんとも

この無駄に丁寧な文体、前にトレトプが結婚するSS書きたいんだけどエンドを固定しちゃうことになるから良くないかもしれない……って書いて「自惚れんなとっとと書け」って一蹴されてた人？
悪いこと言わないから渋とかハーメルンに行きな
あなたみたいに荒らしに対しても真面目に接しちゃう人はちゃんと文章読みたい人がいるところじゃないと心折れるよ
カメムシのせいで筆折ることはないと思うけれどあなたにあってるのはそっちの方だと思うから

ちなみに小生先ほどから泥酔しております。賛辞や叱咤激励はありがたく受け取り、外野の罵声は都合よく受け流すという心理状態になっていますので悪しからず。

カメムシとまた違った凄いのが出て来たなぁ

匿名掲示板向かないタイプの人だったか……

荒らし対策でPixivアカ晒すのも考えものだな・・・

酔っ払ってるが本当だったとしても匿名掲示板に向いてなさすぎる