1 各種判例・裁判例
(1) 刑事・行政
・ 東京高等裁判所 刑事裁判例(H22.5.25) (抜粋)
「同条項(道路交通法38条1項)は、横断歩道における自転車自体を保護する規定ではない」と説示
・ 東京高等裁判所 刑事裁判例(S56.6.10) (抜粋)
本件被害者としては横断歩道を横断するにあたっては自転車から降りてこれを押して歩いて渡るのでない限り、接近する車両に対し道交法上当然に優先権を主張できる立場にはない
・ 東京地方裁判所 刑事裁判例(昭和46年(刑わ)5639号) (抜粋)
自転車の運転者が道路を横断するにあたつて横断歩道を利用する場合には、自転車に乗つたまま疾走し、飛び出すような型で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであつて、自動車運転者はこのような無暴な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる。
(2) 民事
・ 福岡高等裁判所 民事裁判例(H30.1.18) (抜粋)
自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず
・ 大阪高等裁判所 民事裁判例(H30.2.16) (抜粋)
自転車横断帯ではない横断歩道を通行する自転車について、歩行者と全く同じ扱いをすることはできないと解される。
したがって、控訴人が自転車に乗って横断歩道を横断中であったことをもって、本件事故につき控訴人に過失が無いということはできない。
・ 東京地方裁判所 民事裁判例(H21.3.3) (抜粋)
原告は、被告に道路交通法38条1項後段の規定する横断歩道の直前での一時停止義務がある旨主張するが、本件交差点に自転車横断帯は設置されていないことに加え、原告は自転車から降りて押して歩いていたものではないことに鑑みると、被告に上記義務は生じないものと解される。
・ 仙台地方裁判所 民事裁判例(H29.5.19) (抜粋)
原告は、道交法38条1項が、横断歩道における歩行者及び自転車の優先を定めているから、自転車にとっても横断歩道上は聖域であると主張する。しかし、同条項は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車を保護する規定であると解され、横断歩道上を横断する自転車について、歩行者同等の保護を与える趣旨とは解されない。
・ 神戸地方裁判所 民事裁判例(R1.9.12) (抜粋)
道路交通法上、自転車は軽車両に該当し(同条2条1項11号)、車両として扱われており(同項8号)、交差点における他の車両等(同法36条)との関係においても、車両に関する規定の適用により、四輪車や単車と同様の規制に服する(自転車の交通方法の特例が定められているものは除く。)。
交差点を左折する四輪車にもその進行にあたっては前方を確認すべき注意義務があることは当然であるが、歩行者用信号規制対象自転車であっても、横断歩道では歩行者が横断歩道により道路を横断する場合のような優先的地位(同法38条1項)は与えられておらず、また、他の車両との関係においてはなお安全配慮義務(同法70条)を負うと解されるから、安全確認や運転操作に過失がある場合は、自転車の運転者は、相当の責任を負わなければならない。
2 裁判例ではないが、各種書籍の記述(公式の見解)
・ 道路交通法ハンドブック(警察庁交通局交通企画課 編 (政府刊行物、官公庁刊行物))
(問) 法38条1項の横断歩道等における歩行者等の優先規定となっているが、横断歩道を横断している自転車もこの規定により保護されるのか。
(答) 自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。
法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。
ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象とした保護規定です。
・ 執務資料 道路交通法解説(道路交通執務研究会 編著 / 野下 文生(昭和58年に大分県日田警察署長だった人) 原著)
第3章
第7 横断歩道等の保護のための通行方法(第6節の2)
一 2 (2) オ (シ) 「横断歩道を通行する自転車乗り」は
(問) 横断歩道を自転車に乗って通行する者があるが、この者に対しても本条(38条)1項後段の義務はあるか。
(答) 歩行者とは、歩いている人はもとより、二輪の車両を押して歩いている人(法第2条3項参照)をいうから、自転車に乗って通行している人は、歩行者ということはできない。したがって、自転車に乗って横断歩道を通行している者がいても、本条1項後段の義務は生じない。もっとも、この場合に法第70条(安全運転義務)の義務があることは当然である。
なお、横断歩道を通行する自転車乗りに関して、昭47.8.12東京地裁の次のような判例がある。
「自転車の運転者が道路を横断するにあたつて横断歩道を利用する場合には、自転車に乗つたまま疾走し、飛び出すような形で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであつて、自動車運転者はこのような無暴な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる。」