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平成の事件ジャーナリズム史

元社会部長の小川一が個人的体験を交えながら「平成の事件ジャーナリズム史」を振り返ります。

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平成の事件ジャーナリズム史

(11)綾瀬母子殺人事件のえん罪と容疑者呼称の採用

「呼び捨てをやめます」と宣言した毎日新聞の1面社告
「呼び捨てをやめます」と宣言した毎日新聞の1面社告

 1989年11月1日の毎日新聞朝刊1面に「呼び捨てをやめます」の見出しで社告が載りました。少し長くなりますが引用します。

 「毎日新聞社は『事件・事故報道における被疑者の呼称』について見直しを検討してきましたが、本日11月1日付紙面から呼び捨てをやめることにしました。捜査当局に逮捕されたり、指名手配された被疑者には、その氏名の後に法律的立場を示す『容疑者』の呼称などをつけます。毎日新聞はこれまで報道される側の人権に配慮しながらも、犯罪の内容、被害者・市民の感情、その時の社会通念などを考慮し、逮捕された被疑者の氏名は原則として呼び捨てで報道してきました。しかし(1)逮捕された段階で呼び捨てなのに、起訴され裁判の段階では『被告』の呼称を付す現報道には矛盾がある(2)法的には、有罪判決確定までは無罪と推定される--などの理由もあり『容疑者』の呼称を付けることにしたものです。ほかに肩書、職業なども併用することがあります」

 今は、新聞、テレビのどの事件報道の記事をみても、逮捕された人物を呼び捨てにしているものはありません。しかし、新聞が生まれた明治初期から平成の最初にかけての長い間、ほとんどの事件報道は逮捕された人物を敬称も呼称もつけず呼び捨てにしていました。「被告は、マスコミに報道されるなどすでに社会的制裁を受けており」という文言が裁判所の判決文によく出てきたように、事件報道を社会的制裁のひとつとみる社会通念もあ…

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