兵庫県知事選で「斎藤氏は被害者だ」と信じたのは誰か: 論理的思考能力との関連
0. はじめに
2024年11月17日の兵庫県知事選挙において、斎藤元彦氏が当選した。パワハラ疑惑や内部告発への対応などで批判にさらされ、県議会で不信任決議案が全会一致で可決されて失職した斎藤氏の逆転劇に対して、「大手新聞やテレビなどのオールドメディアを信じず、SNSや動画サイトでの真偽不明の情報に踊らされた民衆が斎藤氏支持に回った」などの論評が、一部でなされている。筆者は社会心理学を専門とする大学教員であるが、「論理的思考が苦手なほど、SNSの情報を信じ、斎藤氏を支持したのか?」という問いを立て、選挙後の11月21日と22日にオンラインでのアンケート調査を実施した。すると、必ずしもそうとは言えない結果が得られた。むしろ、兵庫県民においては、論理的思考が得意な人の方が、“斎藤氏は被害者だ”と考える傾向が、非常に弱くではあるが認められた。研究者による調査結果は、本来学術論文の形でまとめるのが筋であろうが、テーマの性質上、速報性が大事だと考え、ここで簡単に報告したい。なお、この研究は、昭和女子大学の榊原良太准教授との共同研究で、このnoteも大薗がメインで書いたうえで、榊原が内容をチェックし、修正している。初めてnoteに投稿するため、見にくい、こなれていないなどの問題があるかもしれないが、ご容赦いただきたい。
1. 調査のきっかけ
筆者らの専門は、それぞれ協力関係の形成(大薗)と感情のコントロール・野球の俗説の検証(榊原)であるが、サブとして陰謀論信念に関する共同研究も行ってきた。その中で、「科学的思考や熟慮するのが苦手な人ほど、陰謀論的信念を信じやすい」という結果が見出された[1] (読売新聞のオンライン記事でも紹介された)。この論文では、陰謀論一般について問う一般陰謀論信念[2, 3]とコロナウィルス陰謀論信念[4]を扱ったが、2024年7月に行った筆者の調査(未発表)では、コロナワクチン陰謀論信念などでも同様の傾向が見出されている(詳細は、補足1を参照)。そして、この傾向は、筆者らの調査だけではなく、世界中の多くの研究で得られている頑健な結果である(メタ分析として[5])。
陰謀論の定義を、「強大で悪意ある集団による秘密の陰謀の存在を前提とした、重要な出来事についての主流とは異なる別の説明[6]」とすると(この定義には、「それが事実か否か」の判断は含まれていないことに注意してほしい)、今回の兵庫県知事選の中で生じた、「斎藤氏は既得権益層から改革を阻まれた被害者だ」というのも、陰謀論的なニュアンスを含んでいる。そうであるなら、この「斎藤氏は被害者」説を信じる人は、他の陰謀論と同様、論理的思考が苦手な人に多いのかを検討するのは意義があると感じ、調査を行うこととした。
2. 調査の概要
調査実施日:2024年11月21日(水)日本全国対象、22日(木)兵庫県民のみ対象
調査対象:Yahoo!クラウドソーシング登録者(18歳以上)
調査の手続き:Yahoo!クラウドソーシングサイトからエントリーした登録者は、Googleフォームで作成されたアンケートに回答し、回答後に定額の謝礼を得た。なお、質問項目の詳細と回答データはこちらからダウンロード可能である。
分析対象者:全国(兵庫県以外。以下、「全国」というのは、兵庫県以外を指す)で405名、兵庫県のみで473名。ただし、「斎藤氏が再選された」という事実に「知らない」と回答した15名、「斎藤氏が失職した経緯」について「全く知らない」と回答した15名は分析から除いた。さらに、質問文を深く読まず、労力を最小限化して回答する人(「サティスファイサー」と呼ぶ[7])を検出するためのトラップ質問2問のいずれかに不正解だった140名も分析から除いた(なぜこんなにも多いかについては、補足2を参照)。その結果、全国で339名、兵庫県で384名が最終的な分析対象となった。
分析対象者の偏り:性別、学歴、年収について、全国と兵庫県で統計的に有意な違いはなかった。年齢においては、兵庫県の方が有意に高かったが、軽微なため(全国:50.7歳、兵庫県:52.4歳)、結果の解釈に大きな影響を与えるほどではないと考える。
まず、斎藤氏への印象や疑惑に関する評価に、全国と兵庫で違いがあるかを検討した。それぞれ、1(全くそう思わない)~7(非常にそう思う)で回答を求めた。数字は平均値(標準偏差)である。
どの項目においても、兵庫県民の方が全国の人よりも、斎藤氏に好意的な評価をしていた(t検定で、全て5%水準有意)。ただし、兵庫県民においても、「好感」や「再選してよかった」で中点の4を下回っており、必ずしも過半数が斎藤氏を支持しているわけではないことがわかる。このことは、今回の斎藤氏の得票率(約45%)ともおおむね一致する。
3. 各メディア情報への信頼と斎藤氏への評価の関係
「新聞・テレビなどの大手マスコミの情報」や「SNSやYouTubeなどで発信された情報」などが、「どれぐらい信用できるか」を7段階で問い、それと斎藤氏への評価との相関関係を検討した。なお、ここでのメディア情報とは、兵庫県知事選にまつわる情報だけでなく、一般的にすべてのメディア情報を指す(斎藤氏に対する評価などを聞く前に、メディア情報への信頼の質問をしている)。
ここで報告されているのは相関係数で、*は「5%水準で統計的に有意」であることを意味する(相関係数の意味と有意性については、補足3を参照)。この結果を読み解くと、全国でも兵庫県でも「オールドメディアを信じず、ニューメディアを信じる人の方が斎藤氏を支持していた」という傾向が見て取れる。具体的には、以下のようであった。
・新聞・テレビなどの大手マスコミの情報を信じる人ほど、斎藤氏への評価(「好感」「県政評価」など)は低く、疑惑(パワハラや告発への不適切対応)は事実だと認識し、斎藤氏が陥れられた(「斎藤氏は被害者」「大手メディアの印象操作」など)とは考えていなかった。
・SNSやネットメディアを信じる人ほど、斎藤氏への評価は高く、疑惑は事実ではないと認識し、斎藤氏が陥れられたと考えていた。
NHKの出口調査でも、投票において「SNSや動画サイト」を最も参考にしたと答えた人の70%以上が斎藤氏に投票したことが示されている。オールドメディアの情報への不信、ニューメディアの情報への信頼が斎藤氏支持とリンクしていることが、本調査でも示された。なお、「年齢によって、各メディア情報への信頼や斎藤氏への評価も異なるため、それが影響しているのでは?」という疑問を持つ読者もいるかもしれないが、年齢の効果を統制した偏相関でも、傾向は変わらなかった(偏相関の説明は省略する)。
4. 論理的思考とメディア情報への信頼の関係
では、「論理的思考が苦手な人やリテラシーの低い人が、真偽不明のSNSの情報を信じてしまった」という言説は正しいのだろうか。本調査での結果を示す。
本調査では、「論理的思考能力」をSRSとCRTという2つのテストにより測定している(テストの詳細は、補足4を参照)。それぞれ、正解数が多いほど、「科学的推論能力」「熟慮的思考能力」が高いということになる。これらと各メディア情報への信頼の関係は、全国と兵庫でやや異なっていた。全国では、SRSが高いほどSNS情報を信頼しない傾向が有意に見られた(黄色部)。これは、「論理的思考が得意な人は、SNSの情報を鵜呑みにしにくい」という言説と一致する。一方、兵庫では、SRSが高いほど新聞やテレビの情報を信頼しないという傾向が見られ(青部)、また、CRTが高いほどネットメディアの情報を信頼するという傾向が見られた(緑部)。これは、全国の傾向とは異なり、「論理的思考が得意な人は、むしろオールドメディアに不信を抱き、ニューメディアを信じる」という傾向を示しており、興味深い。
ただ、どれも非常に弱い相関であり、また、SRSとCRTで一貫した傾向になっていないところもあり、この結果そのものがどれだけ信頼できるものなのかには、注意が必要である。
5. 論理的思考と斎藤氏への評価の関係
次に、論理的思考能力と斎藤氏や斎藤氏を巡る問題への評価との関係について、相関係数の結果を以下に示す。
全国においては、ほとんど有意な相関はなく、斎藤氏への評価と論理的思考はあまり関連していなかった。ただし、パワハラについての事実認定において、SRSが高い人ほど「パワハラは事実ではない」と認識しており(黄色部)、興味深い。一方、兵庫県民においては、SRSやCRTが高い人ほど、斎藤氏の県政を評価していた(青部)。これについては、論理的思考能力が高い人は、様々な疑惑とは一線を引いて、県政を客観的に評価する傾向があるのかもしれず、そこまで驚く結果ではないだろう。興味深いのは、CRTが高い人ほど、斎藤氏が陥れられた(「斎藤氏は被害者」「大手メディアの印象操作」など)と考えている傾向があったことである(緑部)。先に述べたように、「斎藤氏は陥れられた」というのは、“陰謀論”的な要素を持っている(事実か否かは別にして)。しかし、他の陰謀論信念(補足1参照)とは異なり、論理的思考が高いほど「斎藤氏は陥れられた」と考える傾向が見出されたのである。これは、「斎藤氏が既得権益に陥れられた被害者だと考えるような人は、SNSの真偽不明な情報を深く考えずに信じてしまった、リテラシーの低い人だ」という見方とは大きく異なる結果であり、極めて興味深いと考えている。
なお、この結果についても、前節と同様、非常に弱い相関にとどまっている。そのため、「賢い人はみんな斎藤氏が被害者だと思っていて、そうでない人はそれに気づいていない」などというレッテル貼りはできないことに注意してほしい。また、斎藤氏への好感や「再選してよかった」では有意な相関は見られておらず、「斎藤氏を被害者だと思う」ことと「斎藤氏への支持」は必ずしも同じではない可能性も指摘しておきたい。
6. 論理的思考と立花氏への評価の関係
分析結果の最後に、立花孝志氏への評価について紹介したい。立花孝志氏は、今回の兵庫県知事選に立候補したが、斎藤氏の応援をする立場を取り、SNSやYouTubeなどで広がった情報の発信源の一つとなったと言えるだろう。一方で、時に過激ともいえる行動が物議をかもすことも多い人物である。論理的思考と立花孝志氏の評価の相関は以下のようであった。なお、立花孝志氏を「全く知らない」と回答した人(54名)のデータは除いている。
見てわかるように、兵庫県民では、SRSとCRTが高い人の方が、立花氏が「好き」で「発言は正しいことが多く」、「頭がよく」、「論理的」だと評価している傾向が、弱いながらも有意に認められた。立花氏がSNSなどで広がった情報の発信源だと考えると、兵庫では、論理的思考が高い人の方が、大手メディアでは報じられない情報を発信した立花氏への評価が上昇したのかもしれない。
7. 最後に
以上が、今回の調査結果の概要である。特に兵庫県においては、「論理的思考が得意な人の方がオールドメディアではなく、ニューメディアの情報を信じ、『斎藤氏は被害者である』『大手メディアは意図的に印象操作した』と考える」傾向が、弱いながらも認められた。これは、「リテラシーが低い人が、SNSに踊らされた」という言説とは逆の傾向と言える。ただし、この傾向をどう解釈するかは、斎藤氏を巡る問題をどうとらえているかによって大きく異なるだろう。斎藤氏を巡る疑惑が事実だととらえている人は、「論理的思考能力が高くても(高いからこそ)、SNSの真偽不明な情報に踊らされてしまうこともあり、論理的思考が高いだけではダメなんだ」などと考えるかもしれない。一方、斎藤氏は既得権益に陥れられたことこそが事実だととらえている人は、「論理的思考が高いがゆえに、SNSを含めた様々な情報から真実を見抜き、斎藤氏が陥れられたことに気づくことができた。やはり、論理的思考は大事だ」などと考えるかもしれない。そのどちらが正しいのか、もしくはどちらも間違っていて、他の解釈が正しいのか(他の解釈の可能性としては、補足5を参照)、筆者らは現時点で判断できない。また、執筆時の2024年11月末時点では、斎藤氏の公職選挙法違反疑惑も取りざたされており、今回の一連の問題の顛末がどうなるかによっても、本調査結果の解釈は変わってくるかもしれない。これを読んだ方々も、結論を急がずに、斎藤氏及び兵庫県政を巡る問題、オールドメディアとニューメディアの信頼性や社会的影響、選挙や民主主義の今後、論理的思考やリテラシーの意義など、様々なテーマについて考える際の、一つのデータとしてとらえていただけたらありがたい。
なお、今後の分析で新たな発見等があれば、また紹介したい。データは公開しているので、分析ができる方は、独自に色々分析をしていただいてももちろんかまわない。また、この件に関して既に他の研究者による興味深い調査結果が報告されてきている(田中辰雄氏の研究や三浦麻子氏の研究)。今後、それらの調査結果とも考え合わせて、一体今回の兵庫県知事選では何が起きたか、明らかになっていくことが期待される。
補足
補足1. 各種陰謀論的信念と論理的思考の関係
この調査(未発表)は、2024年7月23日にYahoo!クラウドソーシング登録者を対象に行われた。分析対象は270名であり、各種陰謀論的信念とSRS、CRTの間の相関を以下に示す。
有意でないものもあるが、いずれの陰謀論についても、SRS、CRT共に弱い負の相関が見られ、「論理的思考が苦手な人の方が、陰謀論的信念を抱きやすい」という傾向が広くみられることがわかった。なお、それぞれの項目の詳細は以下である。
・コロナワクチン陰謀論:既存のワクチン陰謀論尺度[8]を改変して、独自に作成。「コロナワクチンの有効性についてのデータは、しばしば捏造されている」など4項目。
・気候変動否定陰謀論:「気候変動を否定する論調は、大企業が利益を維持するための意図的な戦略である」([9]より)
・韓国左派操作陰謀論:「日本の左派系団体の多くは、韓国に操られている」([10]より)
・北朝鮮日本政府結託陰謀論:「政府に都合が悪いことがあると決まって北朝鮮からミサイルが発射されるのは、両政府が実は裏でつながっているからだ」([10]より)
補足2. サティスファイサーが多くいた理由
140名もサティスファイサーを検出するトラップ質問に間違えた人がいることに、疑問を感じた読者もいるかもしれない。トラップ質問の一つは、「この質問には2と回答してください」というもので、その不正解者は24名であった。もう一つのトラップ質問の難易度が高く、不正解者が126名生じたことが原因である。具体的には、SRSの項目の中に以下の質問を入れていた。
「ある企業で、自社が開発した自動車の部品の性能が他社の部品よりも優れているかを調べることにした。ハンドル、タイヤ、エンジン、窓ガラスは自社のものが最も性能がよかったが、ホイール、バッテリー、座席のクッションは他社の方が性能のよいものもあった。【ホイールは自社製品の方が性能がよかったと結論づけることができる。】」
この質問は、特に科学的思考は必要とせず、文章を正確に読めていれば、正解(「ホイールは他社の方が性能がよかった」と書いてあるので「誤り」)を導ける。逆に言うと、この質問に不正解だった人は、文章をよく読んでいない可能性が高く、分析対象から除くのが適切だと考える。
補足3. 相関係数の意味と有意性について
まず、相関係数(正確には、ピアソンの積率相関係数)についてごく簡単に説明したい。まず、数字の正負が重要である。例えば、最初の相関の表(表2)で、全国での「新聞・テレビなどの大手マスコミ」と「斎藤氏好感」の相関係数は、-0.31となっている。相関係数がマイナスになっているので、「大手マスコミの情報を信じている人ほど、斎藤氏への好感度が低い」ことを意味する(「負の相関」という)。一方、「大手マスコミ」と「斎藤氏パワハラ事実」については、0.47となっている。相関係数がプラスなので、「大手マスコミの情報を信じている人ほど、パワハラは事実だと思っている」ことを意味する(「正の相関」という)。次に、数字の大きさも重要である。相関係数は、-1~1の間を取り、1に近いほど「強い」正の相関、-1に近いほど、「強い」負の相関があることになる。「強い」とは、「両者の関係が顕著」ということである。相関係数が0であれば、それは「無相関」、つまり、「両者には全く関係がない(厳密には、『直線的な』関係がない)」ことを意味する。今回報告されている相関は、0に近い数字が多く、全て「弱い相関」もしくは「非常に弱い相関」とみなせる。
次に、「5%水準で有意」について説明する。*が付いた相関係数は、5%水準で統計的に有意である。これは、この相関が「無相関」ではないと統計的にみなせる、ということである。より正確には、「本当は無相関なのに、これほどの相関係数が偶然生じる確率は5%未満だから、無相関ではないだろうととりあえず結論する」ことを意味する。相関係数と有意性については、わかりやすく説明したサイトや動画はたくさんあるので、「相関 説明」「有意性 わかりやすく」などで検索して、理解を深めてほしい。
補足4. CRTとSRSについて
CRTは、認知的熟慮性テスト(Cognitive Reflection Test [11-13])のことであり、「バットとボールは合わせて1100円。バットはボールより1000円高い。ではボールはいくら?」などの問題7問から成り、直感的回答(100円)と正解(50円)が異なり、熟慮的思考能力を測る指標として、よく用いられている。
SRSは、科学的推論テスト(Scientific Reasoning Scale [14, 15])のことであり、「ある大学の研究員が、各都道府県の持つ公営公園の大きさが大きいほど、その都道府県では絶滅の危機にある動物の種類が少ないことを発見した。【このデータは、公営公園を大きくすれば、絶滅の危機にある動物の種類を減らすことができることを示している。】」などの文章の正誤を問うもので、この文章の場合、「相関と因果の混同」があるため、「誤り」が正解となる。
なお、今回の全国対象の調査では、CRTは尋ねていない。以前に別の調査(全国対象)でCRTを尋ねており、そのデータと今回のデータの紐づけを行う(個人情報を取得することなしに同一個人のデータを関連づける)ことが可能であったため、今回は尋ねなかった。なお、兵庫のみでの調査では、多くのデータは紐づけ不可能であったため、今回の調査でCRTを尋ねた。CRTは、個人の熟慮的思考能力を測るものであり、短期間による変動は小さいと考えられるため(CRTを尋ねた全国調査も、2024年内に行っている)、大きな問題はないと考えている。ただし、CRTにおいて全国と兵庫で有意な差が出ており(7問中の正解数平均で、全国:4.61、兵庫:3.82)、データ取得時期の違いが、何かしらの影響を及ぼしている可能性は否定できず、解釈には注意が必要である。
また、本文では、わかりやすさのために、SRSとCRTが高いことを「論理的思考が得意」とまとめて述べているが、SRSとCRTの相関はそこまで高くはない(全国:0.31、兵庫:0.25)。それぞれが具体的にどのような能力やスキルを測っているのかを加味した考察が、今後必要だろう。
補足5. 他の解釈の可能性:情報探求行動との関係
本調査で得られた論理的思考と各指標との関係は、「相関関係」に過ぎず、具体的にどのようなメカニズムで、これらの相関が得られているか、詳細はわからない。それでも、粗削りだが、一つのアイディアが浮かんできたので、ここで紹介したい。
本調査では、情報探求行動(Information seeking behavior)尺度[16]にも回答してもらっていた。これは、「特定の事柄についての自分の信念を裏付けるために、なるべく多くの証拠を見つけようとすることはありますか?」「ある事柄に関する主流の見方が間違っていると感じて、その事柄についてできる限り調べることはありますか?」など4項目からなり、1(全くしたことがない)~5(いつもしている)の5段階で回答する。先行研究[16]では、情報探求行動を積極的に取る人ほど、陰謀論を信じる傾向が見出されていたため、この尺度を取り入れた。本調査における、情報探求行動と各指標との相関を以下に示す。
全国でも兵庫県でも、情報探求を多く行っている人ほど、斎藤氏を評価し、「斎藤氏は陥れられた」と考える傾向が見られている(緑部)。興味深いのは、兵庫県でのみ、SRSやCRTが高いほど、有意に情報探求を多く行っているところである(青部)。ちなみに、海外での先行研究[16]では、SRSと情報探求行動は有意な「負の相関」を示しており、今回の兵庫県民とは逆の傾向を示している。これらから、以下のような経路がある可能性を考えた。
論理的思考能力の高い人は、普段は取り立てて情報探求をしているわけではないが、今回の兵庫県のように「何が正しい情報か」を判断する必要に迫られると、情報探求に駆り立てられるようになる。それは、論理的思考能力の高い人の方が、知的好奇心が高いからかもしれないし、情報の真偽判断に対する自信が高いからかもしれない。その結果、SNSなどの多様な情報に触れ、それが一定の説得力を持っていたために、「斎藤氏は陥れられた」と考えるに至った。以上のような経路である。
ただし、今回の兵庫のデータからは、SRS→「斎藤氏は被害者」の経路が、情報探求行動によって有意に媒介されているという結果は得られておらず(媒介分析による)、この経路の妥当性を強く主張することはできない。しかし、状況に応じて、人は情報探求行動を柔軟に変化させる可能性を、今回の全国と兵庫の結果は示唆しており、今後さらなる検討が必要である。
引用文献
1. Ozono, H., & Sakakibara, R. (2024). The moderating role of reflective thinking on personal factors affecting belief in conspiracy theories. Applied Cognitive Psychology, 38(1), e4142.
2. Brotherton, R., French, C. C., & Pickering, A. D. (2013). Measuring belief in conspiracy theories: The generic conspiracist beliefs scale. Frontiers in Psychology, 4, 279.
3. Majima, Y., & Nakamura, H. (2020). Development of the Japanese version of the generic conspiracist beliefs scale (GCBS-J). Japanese Psychological Research, 62(4), 254–267.
4. Sternisko, A., Cichocka, A., Cislak, A., & Van Bavel, J. J. (2023). National narcissism predicts the belief in and the dissemination of conspiracy theories during the COVID-19 pandemic: Evidence from 56 countries. Personality and Social Psychology Bulletin, 49(1), 48–65.
5. Yelbuz, B. E., Madan, E., & Alper, S. (2022). Reflective thinking predicts lower conspiracy beliefs: A meta-analysis. Judgment and Decision Making, 17(4), 720–744.
6. Goertzel, T. (1994). Belief in conspiracy theories. Political Psychology, 15(4), 731–742.
7. 三浦麻子・小林哲郎(2018). オンライン調査における努力の最小限化が回答行動に及ぼす影響. 行動計量学, 45(1), 1-11.
8. Shapiro, G. K., Holding, A., Perez, S., Amsel, R., & Rosberger, Z. (2016). Validation of the vaccine conspiracy beliefs scale. Papillomavirus research, 2, 167-172.
9. Hattersley, M., Brown, G. D. A., Michael, J., & Ludvig, E. A. (2022). Of tinfoil hats and thinking caps: Reasoning is more strongly related to implausible than plausible conspiracy beliefs. Cognition, 218, 104956.
10. 秦正樹. (2022). 陰謀論: 民主主義を揺るがすメカニズム. 中央公論新社.
11. Frederick, S. (2005). Cognitive reflection and decision making. Journal of Economic Perspectives, 19(4), 25–42.
12. Toplak, M. E., West, R. F., & Stanovich, K. E. (2014). Assessing miserly information processing: An expansion of the Cognitive Reflection Test. Thinking & Reasoning, 20(2), 147–168.
13. 原田佑規・原田悦子・須藤智. (2018). 認知的熟慮性検査 (CRT) における項目間等価性および呈示順序・教示効果の検証: 大学生集団実験による検討. 筑波大学心理学研究, 56, 27-34.
14. Drummond, C., & Fischhoff, B. (2017). Development and validation of the scientific reasoning scale. Journal of Behavioral Decision Making, 30(1), 26–38.
15. 後藤崇志・塩瀬隆之・加納圭. (2023). 日本語版科学的推論尺度の心理測定的特徴の検討. 大阪大学教育学年報, 28, 1-10.
16. Georgiou, N., Delfabbro, P., & Balzan, R. (2021). Conspiracy theory beliefs, scientific reasoning and the analytical thinking paradox. Applied Cognitive Psychology, 35(6), 1523–1534.


コメント