息子をいじめで奪われて◆SNS「質問箱」の投稿、凶器に

2024年12月10日12時00分

 「行政の対応はどう考えても納得のいくものではない」。大阪府門真市の市立中学校に通っていた中学3年の男子生徒=当時(15)=を亡くした母親が怒りを込めて語った。2023年12月、市教育委員会が設置した第三者委員会は調査報告書で、自殺した生徒へのいじめ62件を認定。いじめと自殺は「密接に関連がある」と結論付けた。母親は学校がいじめに対して組織的な対応を取らなかったとして、市と当時の同級生らに損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしている。(大阪支社編集部 足立尚次郎)

 残された悲しみ

 「息子は格好いい子だった。周りの人に無視されることをとても嫌っていて頑張ってコミュニケーションを取ろうとしていた」と、思い出を語る母の目には涙がたまる。一人息子が旅立ってしまった後、母親は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、眠れない日々が続くが、息子の無念を晴らすために訴訟に取り組んでいる。

 笑顔を浮かべる男子生徒の遺影が置かれた机には、進学がかなわなかった高校の合格通知書や、好きだったバスケットボールのシューズ、ボールなどが所狭しと置かれ、ろうそくの火がともる。

 母親は生前、いじめに悩む男子生徒に対して、「しょうもないやつらばっかり集合してるトコに行かんでいいねん」「これだけは言うとく、学校行かんくなった事を恥ずかしく思わんでいいんやからな」と励ましていた。母親はその会話が残されたLINEのトーク履歴を見ながら、両親を残して戻ってこない息子のことを何度も思い返している。

 ネットで中傷

 調査報告書や訴状によると、男子生徒は中学1年の秋、同級生が登録しているLINEグループで、「(雨の匂いより)お前の方が臭い」と侮辱された。実生活でも仲間外れにされるなどし、バスケ部に入部したものの、退部を余儀なくされた。その後、「質問箱」というインスタグラム上のサービスで中傷を受け始め、3年時には「しんでみてーや」「なんで4なないの?」「Sine」「Uzai」などと、存在を否定するような攻撃が続いた。授業中に居眠りをしてしまった男子生徒に対し、学年主任が筆箱にチョークを入れて、粉まみれにしたこともあった。

 男子生徒は22年2月、自宅で亡くなっているのが見つかった。死亡後も別の生徒のSNSに「(男子生徒)どっかいっちゃったねぇぇ」と投稿されたという。

SOS届かず

 母親は被告の同級生だけでなく、学校や行政の対応に怒りを抱いている。

 母親は繰り返し、息子がいじめを受けていると学校側に訴えたが、「特に避けられているようには見えません」などと対応された。生徒自身も「インスタグラムの質問箱でたたかれており、悪口もある」と担任教諭に助けを求めたが、学校としてのいじめ認知・組織的な対応には結びつかなかった。報告書は「『仲間外れ』をはるかに超えた『死ぬこと』を求める悪意に満ちた内容のSNSが執拗(しつよう)に届けられた」として生徒の苦しみを推し量り、学校に対しては「あまりにもいじめ問題への感度が低い」と断じた。

 母親は、いじめにかかわったとみられる一人が大学進学に際し、高校の推薦を受けるとうわさで聞いた。問い合わせを受けた府教育庁は、一般論として推薦の決定は「中学時代と切り離して評価をしている」と説明したという。母親にとっては納得できない理屈だった。

 「『切り離す』ってなんなんですか。進学は自由だけど、なんで中学時代にいじめをして、人が亡くなったのに、推薦で大学に行けるんですか」。やり場のない憤りを訴えた。

 匿名の危険性

 今回の事案では、「匿名質問箱」というSNSがいじめに使用された。自分のインスタグラムなどに外部サービスを利用して質問箱を設置。読者から自身に対する質問を受け付け、例えば趣味などを返信の形で投稿する。匿名で質問でき、誰が質問したのかが一見、分からないのが特徴だ。その匿名性のため、多数の人たちと気軽に交流を図ることができ、10代の若者を中心に根強い人気がある。一方で、今回のようにネットいじめに使われる場合もある。

 男子生徒は激しい中傷を受けながらも質問箱を閉鎖しなかった。調査報告書は「(友人らには)大丈夫であるかのように振る舞っていたが、内心相当のダメージを受けていたことは想像に難くない」と、生徒に与えた影響の大きさを強調している。

 日本スマートフォンセキュリティ協会の啓発事業部会で部会長を務める藤平武巳氏は「質問箱がいじめに使われる事例が中学校や高校から報告されている」と危険性を指摘。「質問箱は誰でも質問できるが、回答を見るのはフォロワーが多い。なので、質問するのもフォローしている知り合いが多くなるのではないか」と話す。匿名であっても法的措置などで特定できるといい、藤平氏は「(相手が物理的には見えない)インターネットの危険性を把握してほしい」と呼び掛けた。

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