元総合格闘家・大山峻護さんが代表理事を務める一般社団法人You-Do協会は、7月19日に交流イベント「アスリートと子どもを繋ぐイベント」を開催した。
このイベントは、障がいを持つ子どもたちとその保護者、アスリート・ファシリテーターらが集まり、叶えたい夢やワクワクすることなどをオンラインで語り合おうというもの。この日集まった約100名が各13分間・計2回のお話タイムを通して『みんなで夢を語り合い、応援し合い、歓び合う時間』を共有した。
子どもとアスリートにとっての「新たな一歩」
主催者である大山さんらの挨拶の後には、十数個のグループに分かれてのお話タイム。大山さんはファシリテーターとして参加した友人であり、筋ジストロフィーとたたかう歌手・小澤綾子さんと同じグループで参加した。参加した子どもたちは、「俳優や声優になって映画に出たい」「野球選手になりたい」といった夢を語った。中には保護者が初めて子どもの夢を知ったというケースもあったという。
大山さん、小澤さんが「僕が出版する本を日本中の人に読んでもらいたい(大山さん)」「病気を治して歩けるようになりたい(小澤さん)」とそれぞれ夢を伝えたところで、保護者から「将来なりたい仕事などがあった時にどのようにすればいいのか」という質問が飛んだ。それに対して大山さんが「ワクワクすることが一番大切なことなので、それを心に描くこと。これが勝手に自分を未来に引っ張っていってくれるので、たくさんワクワクしてほしい」と夢を描くことの重要性を説いた。
その後のシェアタイムでは、大山さんから指名されたアスリートたちが各グループで出た夢や目標を述べる。「大好きなディズニーのプリンセスのドレスを着たい」「歩けないという診断を受けたが、歩けるようになったので新国立競技場を歩きたい」といった子どもたちの夢が語られた。なかには「アリエルのように泳げるようになりたい」「一緒に体操をする約束をした」といったように、アスリートとのコミュニケーションを通して芽生えた新たな夢や目標を掲げる子どももいた。
「不可能を可能にした(子どもが)ヒーローのようだった」「自分の夢に子どもの夢を乗せて戦いたいと感じた」と話すように、アスリートたちもこのコミュニケーションから様々なことを感じ取ったようだ。
そんなイベントもいよいよ終盤へ。小澤さんとアーティストの谷村奈南らが中心となり参加者全員で『アンパンマンのマーチ』を大合唱。その後、大山さんより「今日をきっかけにみんなとはお友達になれた。これからも君たちの夢を応援するし、何かあった時は必ず僕たちが力になります。僕たちは君たちのヒーローでありたいと思います」と子どもたちにメッセージが贈られた。
そして『We Are the World』の音楽に合わせて流れたエンディングムービーの中で参加アスリート・アーティスト一同から子どもたちへの感謝の気持ちが伝えられると、「最高の時間でした!」「素敵な時間と出会いをありがとうございました」など保護者やアスリートたちからの感謝のメッセージがチャットルームに溢れた。こうして濃密な70分間のイベントは大盛況のうちに終了した。
大山さんは「当初思い描いていたように、みんなが笑顔で喜んでくれて、子どもだけでなく、保護者やアスリート・ファシリテーターにも良いエネルギーを循環させることができた。これが皆さんの新たな一歩になれば。」とイベントの意義を振り返った。
きっかけはHEROsAWARD授賞式で聞いた山下泰裕さんのスピーチ
大山さんがこのような活動を始めるきっかけとなったのは、2019年12月に行われたHEROs AWARD2019授賞式だった。
大山さんは、2014年に現役を引退してから、企業向けに、格闘技とエクササイズを融合したプログラム「ファイトネス」を提供してきた。これまでの活動を通して「皆で何かを共有する力の凄さ」を実感していた。そんなときに出席したHEROs AWARD2019授賞式で、日本オリンピック委員会(JOC)会長・山下泰裕さんがスピーチで話した、「アスリートの力はすごい。アスリートが社会貢献活動に関わることで世の中を変えることができる。自分はそれを信じている」という言葉に出会い、突き動かされた。
山下さんの言葉に感銘を受けた大山さんは、「アスリートと障がいを持つ子どもたちを繋ぎ、一緒にアクティビティが出来ればまさにこれは歓びの共有体験になり、参加者の人生を変えるかもしれないインパクトが作れる」と考え、すぐに行動に移る。
授賞式中に、イベントを実施したいという気持ちを、友人の小澤さんにメールで伝えたところ、「絶対に実現してほしい」との返事がすぐに届いた。さらに授賞式後に山下さんの所に出向き、社会貢献活動を行う決意を伝えた。山下さんからの「頑張れ」という一言と力強い握手に「人生すら変えてしまうかもしれない“アスリートの価値“を感じた」という。こうして、大山さんはイベント内容すらも決まっていなかったものの思いつくままに手帳を開き、スケジュールが空いていた2月24日にイベントを開くことを決意する。
まず友人のアスリートたちにイベントの支援を依頼するメール送ったところ、多くのアスリートから前向きな回答があった。「アスリートは応援されてきた身であるからこそ、応援の力も分かっているし、今度はそれを皆さんに返していきたいという想いが強い」と大山さんはアスリートたちの思いを代弁した。初めてのことだらけであった企画の実現に向け準備を進める中、小澤さんの紹介により障がい者事業を展開する事業者の人脈が広がっていき、様々なアドバイスを貰いながら、You-Do協会の設立やイベント準備を進めてきた。
オンライン開催にしたおかげで参加できた子どもたちも
2月24日のイベントでは、日本財団ビルで風船を使ったゲームなどのアクティビティを通して、子どもたちとアスリートが同じ目線で楽しむことを考えていたが、新型コロナウイルス流行の影響により、予定を変更。You-Do協会発足発表会と勉強会として開催し、子どもたちとの交流は先送りになった。だがこれが大山さんの想いに火をつけ、ディスカッションを重ね、試行錯誤を重ねながら、ようやくオンラインでの開催に漕ぎ着けた。
「Zoomがあると知った時、神様がいるのかもしれないと思った。重篤な病気を持った子どもが参加者に多かったので、保護者の負担などを考慮したらオンライン開催が結果的に良かったのかもしれない」と今回のオンライン開催をポジティブに捉えている。
新型コロナウイルスの影響が今後も続くと予想する中、「コロナ禍では待つだけではいけない。この先どれだけ変化出来るかを考えている」と今後の活動について口にする大山さん。リアルイベントの開催はコロナの収束がなければ実現は難しいと考えているものの、今はオンラインを中心に様々な活動を検討しているという。
厳しい状況下でも一歩を踏み出したYou-Do協会。「アスリートが持っている何があっても乗り越える心・経験は多くの人たちの何かを変えられる」と話す通り、アスリートのポジティブなメッセージや行動をしていくことで世の中を変えていくことを目指す彼らの活動に今後も期待していきたい。
〜参加アスリート一覧(五十音順・敬称略)〜
東俊介
岡部紗季子
金久保武大
菊池康平
菊池教泰
菊野克紀
栗原文音
今野顕彰
三枝大地
松田志保
高山樹里
瀧澤亮
田中亮
中嶋千尋
西口柄早
番場琢
草MAX
町田光
深田未央
三崎和雄
ミノワマン
和氣慎吾