首都圏情報ネタドリ!

  • 2024年12月13日

重度知的障害の女性が活躍する仕事 川崎 “あるシステム”が決め手に 職場全体にメリットも

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重度の知的障害がある女性が、障害がない人と遜色のない作業時間で仕事をしているお店があります。

それを可能にしたのは、 “あるシステム”です。このシステムは、同じ職場で働く、障害がない人たちの働きやすさや効率の向上にもつながっているといいます。

開発のきっかけとなったのは、障害児を育てる母親が感じた“生きづらさ”でした。

 

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配信期間12/13(金) 午後7:30-12/20(金) 午後7:57

重度知的障害の人が働くことを可能にしたシステム

川崎市中原区にある、野菜を栽培し販売する店舗。障害のあるなしに関わらず、誰もが働ける職場を目指し、去年オープンしました。

ここでは、5人の知的障害のある人たちが野菜の栽培作業を担っています。

野菜の収穫や袋詰め。さらに種植えの作業など、細かな仕事もこなしています。

ここで働く鎌谷麗奈さんは、重度の知的障害があります。

記者

仕事をしているときと、していないときは、どちらの方が楽しいですか?

鎌谷さん

仕事の方が楽しいです。

お仕事が好きなんですね。

はい!

鎌谷さんが働くことを可能にしたのは、AIを使い、「合理的配慮」を導き出す最新のシステムです。

「合理的配慮」とは、障害のある人との対話を重ねながら、問題や困りごとを解決する対応をとることです。

例えば「車いすの利用者に対して、机や作業台の高さを調整する」「聴覚障害のある人には筆談でやりとりを行う」「体調にあわせて小まめな休憩を認める」などがあります。

鎌谷さんが働く店舗で使われているシステムは、数字や時間などの問題に答えてもらうことで、どんな情報を認識できるか分析。

結果は200項目以上にわけて数値化されます。

鎌谷さんは、聴覚から情報を取得することが苦手な一方、視覚からの情報取得はおおむね問題ないということが分かりました。

この結果からAIが導き出したのが写真付きのマニュアルの作成。

作業工程や注意事項が一目でわかるように工夫されています。

記者

写真があるとわかりやすいですか?

鎌谷さん

はい。写真のほうがいいです。

さらに、鎌谷さんは左右の概念を理解しづらい、という特性も見えてきました。

そのため野菜の種類や場所などはトレーの色やアルファベットなどの簡単な文字を使って理解できるよう工夫されています。

こうした合理的配慮によって、今では障害のない人と遜色ない作業時間で仕事ができています。

鎌谷麗奈さん

職場の同僚は、自分たちの仕事の効率も上がったと感じています。

従業員
「作業一つ一つの項目に確認事項があるので、それ通りにやれば間違いなくミスを防げます。仕事のやりやすさは、すごくよくなったなと感じます。前向きな方と働くと、僕もすごく頑張らなければと思うので、切磋琢磨(せっさたくま)できるなと思います」

野菜の製造・販売をてがける会社 浅井司社長
「経営的なプラス面はかなりあります。より効率よく業務できるようになりました。障害のある方と一緒に働くということは、自分たちが過ごしやすい環境にますますなってくるということだと思うんです」

知的障害の子どもを育てる母親が開発に関わる

このシステムを開発した会社の社長、高橋陽子さんです。

開発のきっかけとなったのが重度の知的障害がある、長男の存在。

障害があることで本人や家族が生きづらさを感じてきたといいます。

システムを開発した会社 高橋陽子社長
「ある朝、保育園に行ったら、進級テストの合格者が張り出されていました。私たち家族は、テストの日すら教えてもらえずにテストが終わっていました。こうやって障害がある子どもや家族は、自分の意思とは関係なく、周りが勝手にできないと決めてそのチャンスすらもらえないで、どんどん違う世界に排除されていくのだと感じました」

長男の遼さんは現在、高橋さんの会社で就労にむけた訓練を行っています。

環境や職場を変えることができれば誰もが働ける。その思いでシステムを企業に提供しているといいます。

高橋社長
「誰にでも力はあるので、誰が見てもその力が分かる、客観的な能力の見える化ができるツールを開発して、一人一人の得意をどんどん伸ばしていきたいです。

私自身は、障害者という概念をなくしたいと思っています。これまで、自分の意思とは関係なく多くのことを諦めてきた障害者が、環境要因が変わることによって障害がある人も含めて、誰もが働くことにチャレンジできる社会づくりに、彼ら自身が貢献できるのではないかと考えています」

働く障害者の増加 課題も…

障害者の雇用を巡っては今、一つの転換点をむかえています。

法律で企業に義務づけられている障害者の雇用率はこれまで2.3%でしたが、2024年4月からは2.5%に。さらに2026年7月には2.7%まで引き上げられることも決まっています。 

働く障害者の数は年々増加し、推計で100万人を超えるとされています。

全国に店舗をもつ大手衣料品チェーンでは現在、障害のある人たち、およそ1200人を雇用。一店舗に一人以上、配属することを目指しています。

知的障害がある佐々木沙弥さんは、商品の補充や整理に加え、接客も担当しています。

お客さん

透けない色がいいんですけど…

佐々木さん

私のお勧めですと、ライトグレーでしたら、そんなにひびかないお色です。

佐々木沙弥さん
「自分が楽しくオープンにしていればお客さんに思いは通じるってわかったので、うれしいなって感じです」

障害者雇用の専門チームが中心となり、採用から定着までサポート。

障害の特性や働く上での配慮などをまとめたガイドブックを作成し、業務の幅も広げていくつもりです。

大手衣料品チェーンを展開する会社 人事担当 谷口大司さん
「これまで通り障害者の方の特性、あるいは合理的配慮をしながら店舗での雇用を進めていきたいと考えております」

一方、2023年6月の時点で、障害者の法定雇用率を達成した企業は50.1%と、半分にとどまっており、課題を抱える企業も少なくありません。

障害のある人たちの雇用を促進するため、川崎市が企業を対象に開いたセミナーでは、参加者から合理的配慮を実現することへの戸惑いの声が上がりました。

参加者

過剰な配慮をしてしまうことがあります。本人から要望されていないところを、さらに配慮してしまう。

参加者

職場の人が、障害者を腫れ物みたいに扱って、注意を言いにくい。本人の成長をひきだせていません。

企業を対象にした調査では、「サポート体制の構築ができていない」「社内周知が進んでいない」「業務の切り出しが難しい」といった課題が浮き彫りになっています。
(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「プライバシーガイドライン、障害者差別禁止指針及び合理的配慮指針に係る取組の実態把握に関する調査研究」2019年より。)

職場で合理的配慮を実現していく上で大切なポイントを、障害者雇用に詳しい、法政大学教授の眞保智子さんに聞きました。

(1)「一緒に考えて」必要な調整を
障害のある方と「一緒に考えて」必要な調整をしていくことが大切です。
雇用側だけで「得意なことだけやらせて、苦手なことはしなくていい」と判断し、本人の意思が反映されないことは、合理的配慮とは言えません。

(2)インターンシップで必要な配慮を検討
例えば「聴覚過敏」がある人が、どのような音・状況が辛いのか、実際の職場でなければ検討できないことも多いです。
具体的には、ペットボトルをつぶしてゴミ箱に捨てる音で頭が割れそうになると気づく。そこで、ペットボトルをつぶすことや、類似する音はその職場ではださないようにしようという配慮につながります。

(3)行政や支援機関を積極的に活用
例えば今年から始まった「障害者雇用相談援助事業」では、雇用の経験やノウハウがある事業所からどのような配慮が必要か、無料でアドバイスを受けられます。
担当者や企業だけで抱え込まないでほしいです。

障害の区分によって雇用の格差が生まれているという現実もあります。

企業に対して行った調査では、障害者を雇用するにあたってノウハウがあるかどうか、障害別に聞いたところ「十分ある」「困らない程度にある」と答えた割合は、身体障害ではおよそ45%なのに対し、精神障害はおよそ23%にとどまっています。

精神障害のある人が直面している課題について後編の記事でお伝えします。精神障害者を多数雇用する企業の取り組みについても取材しました。

発達障害を公表しているモデル・俳優の栗原類さんと、障害者の就労について考える「首都圏情報ネタドリ!」の配信はこちら↓

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