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政治・国際
2023年07月21日
文/大橋史彦 写真/中国SNS「小紅書」より
7月、卒業シーズンを迎えた中国のSNSには、死んだふりをする卒業生の写真が次々に投稿された。大学を出ても就職先がない境遇を表現しているとされる
日本学生支援機構(JASSO)によると、2022年度の外国人留学生の数は23万1146人に達している。そのうちの半数近い10万3882人が中国人で、国・地域別で圧倒的に1位だ。そもそも中国人留学生の数は、コロナ禍で一時的に減少したものの、それ以前はずっと右肩上がりが続いていたのだ。
しかしなぜ多くの中国人は日本への留学を目指すのか。『中国人が日本を買う理由』を上梓したジャーナリストの中島恵氏が説明する。
「中国は『超競争社会』です。大学受験はその最たるもので、全国統一大学入試『高考(ガオカオ)』は一発勝負のため、日本の比ではない厳しい競争を強いられます。中国には大学が2800校ほどありますが、レベルの高い『重点大学』は約100校しかありません。それに対して受験生は1000万人以上なので、明らかに学校の数が足りていない。あまりにも努力が報われないので、日本の受験の"公平性"が魅力的に映るのです」
しかも日本は中国から近く、学費は欧米より安い。円安で家賃や生活費が割安なのも、中国人を惹きつける要因となっている。富裕層であれば欧州という選択肢もあるが、中間層にとって、日本は手頃な留学先なのだ。
そうした費用面の理由に加え、中国国内の事情も大きく影響している。中国では苦労して難関校に入れたとしても、極度の就職難のため、将来は安泰ではない。卒業しても就職できないため、大学院に進学する人も増えている。
中国の全国統一大学入試、「高考」の会場で、子供を迎える保護者たち。熾烈な受験戦争の集大成であるその点数が、のちの人生を決定づけるともいわれている
たとえば習近平国家主席を輩出した名門・清華大学によると、2022年の学部卒業者の79.6%が大学院などに進学し、企業に就職したのはわずか9.4%に過ぎない。こうした状況も中国人が海外に目を向ける要因になっていると、中島氏は指摘する。
「いい大学を出るよりもインフルエンサーになったほうが経済的に成功できるというケースもありますし、海外の情報だって入ってくる。中国人の親の考え方も変わってきています。中国の名門大学を卒業したからといって就職先が保証されるわけではないので、海外に出ていこうという気運が高まっているのです」(中島氏)
日本の大学を志望する中国人が増えたことで活況なのが、中国人専門の予備校だ。日本の大学を目指す中国人の多くは、語学学校に通うための学生ビザで来日し、昼間は日本語学校、夕方から予備校に通うダブルスクールの生活を送る。
その受け皿となるのが、中国人専門予備校なのだ。特に東京・高田馬場は15校以上が乱立する集積地となっている。なぜ高田馬場なのだろうか。
「元々日本語学校が多く、予備校に通いやすいというのもありますが、新宿から高田馬場周辺は中国人コミュニティが確立されたエリアであることも、この地に予備校が集まる原因でしょう。かつて留学生だった30代から40代の若い中国人が立ち上げた学校が多いです。
自身が日本の大学受験で苦労したため、若い子を助けたいと思ってはじめた。中国人はノウハウがわかるとすぐに独立するため、予備校が乱立しているのです」(中島氏)
そこには、中国人だけで完結する世界が広がっている。
「校長から講師、事務員、生徒まで学校に関わるほとんどの人が中国人で、校舎の内装から文房具に至るまで、使用するものすべてが中国製。中華料理の"ガチ中華"と同じだと考えるとわかりやすいでしょう」(同)
進学希望者が増えることで、中国人の留学目的は多様化している。中国人予備校はそうしたニーズにも応えている。従来の文系・理系コースに加え、音楽や美術、建築など専門分野のコースを開設し、アトリエや音楽教室を備える予備校も登場している。
「中国には芸術系の大学が少なく、有名な大学は中央美術学院など10校もありません。才能があっても入れない人がたくさんいるので、海外の美大を目指す動きが十数年前からあります。なかでも日本の美大や音大は、現役のクリエーターやアーティストに学べることから人気です。
たとえば京都精華大学のマンガ学部のように、日本でしか学べない分野があるため、目的を持って留学する層も増えています。以前は、『中国でいい大学に行けないのであれば日本へ留学』という消極的な動機でしたが、いまは目的も選択肢も多様化しているのです」(中島氏)
選択肢が増えることで、いまや専門学校も中国人の進学先のひとつになっている。
「料理の専門学校で中国人の学生が増えていると聞きますし、映画やアニメの専門学校も人気です。中国では、これらを体系的に学べる学校があまりありません。日本で基礎的な知識や技術を学んで帰国すれば、高学歴エリートよりも『手に職を持っている』と重宝される場合もありますし、日本で働ける可能性もある。日中双方で活躍できる強みを持つことができるのです」(中島氏)
中国では当面、"就職氷河期"が続きそうであり、米中対立も解決の糸口が見えない。将来への活路を見出そうと、今後、日本留学を選択する若者がますます増えそうだ。
●中島恵(なかじま・けい)
山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主に中国や東アジアの社会事情を取材。著書に『日本の「中国人」社会』、『なぜ中国人は財布を持たないのか』、『中国人エリートは日本人をこう見る』、『中国人の誤解日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『中国人のお金の使い道』(PHP研究所)などがある
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