(交論)伸びる小政党 辻田真佐憲さん、水島治郎さん
10月の衆院選では、日本保守党が国政政党の要件を満たす結果となり、れいわ新選組や参政党も党勢を拡大しています。新興の小政党が伸長する背景には何があるのでしょうか。SNS時代の社会の変化や、諸外国との比較から考えてもらいました。
■安倍支持層の一部の受け皿に 辻田真佐憲さん(評論家・近現代史研究者)
――衆院選では、日本保守党と参政党が各3議席を獲得しました。
「どちらも右派的な政党で、掲げる主張には極端なものが含まれます。日本に新たな極右勢力が出現したという見方もあるようですが、私はそう思いません」
――なぜでしょうか。
「極右的な主張や陰謀論にはまる人は昔からいて、いまになって急に増えたわけではないからです。右派的な問題意識を潜在的に抱いていた人たちを、SNSで掘り起こしやすくなったということでしょう」
「私はプロパガンダの歴史を研究しています。プロパガンダの効果は、足し算ではなくかけ算です。ゼロに何をかけてもゼロであるように、最初から興味がない人には効きません。極端な政治的主張も同じで、もともとそう思っていた人にしか響かないのです」
――これまでにも、次世代の党(日本のこころ)など、右派的な政党はありましたが、支持は広がりませんでした。なぜ保守党や参政党は伸びたのでしょう。
「背景にあるのは、安倍晋三政権の支持層の解体です。安倍支持層の中核をなしていたのは、経済政策を重視する人たちでした。生活が苦しく、経済の立て直しを求める人たちの大きなかたまりを、保守的なイデオロギーという薄い『皮』で包んでいたのです」
「それが安倍氏の死で壊れてしまった。『中身』にあたる経済重視の人たちは『手取りを増やす』を掲げた国民民主党のような『中道』に流れました。一方、『皮』にあたる少数のイデオロギー重視の人々は『中道』には行かない。その受け皿になったのが保守党や参政党なのだと思います」
――ばらばらになった安倍支持層の一部を、小政党がすくい上げたのですか。
「SNSの影響力をうまく使った部分が大きかったでしょう。かつては、極端な主張を多くの有権者に届けるのは難しかった。大手メディアには、そうした主張をはじくフィルタリング機能があったからです。しかし、いまはフィルタリングがないSNSや動画サイトを通じて、潜在的な支持層にアプローチできる。極論を掲げる政党が票を集めやすくなっているのです」
「いまの社会では、動画の影響力がどんどん大きくなっています。今回の衆院選や兵庫県知事選でも、新興動画メディア『ReHacQ(リハック)』などの存在感が目立ちました。動画で注目を集めることで、小政党が支持を広げられる環境ができています」
――既存メディアへの不信も指摘されています。
「それは大きな要因ではないでしょう。若い人たちは、最初からSNSや動画サイトしか見ておらず、テレビも見ないし新聞も読まない。既存メディアにそもそも接触しないので、不信感も何もないのです」
――保守党や参政党が議席を得たのは、一過性の現象なのでしょうか。
「今後も、左右を問わず、極端な主張を掲げる小政党は現れると思います。そのまま政党として巨大化することはないでしょうが、怖いのは、トランプ氏が米共和党を乗っ取ったように、極端な主張を掲げる小政党の政治家が既成政党を乗っ取ることです」
――小政党が既成政党とどう結びつくのでしょう。
「まず考えられるのは既得権批判でしょう。『中道』の既成政党の支持者には、高齢者の既得権のために現役世代が損をしているという不満が根強くあります。一方、小政党は、左右を問わず、さまざまな既得権益層を批判しています。既得権批判を一致点として、小政党が既存政党に対して影響力を強めることは十分にありえます」
――来年には参院選があります。
「衆院選に比べ、全国の有権者が投票する比例区がある参院選は、小政党が議席を伸ばしやすい。さらに、少数与党の状態で衆参ダブル選挙になれば、小政党が躍進して、キャスティングボートを握る可能性さえあります。現に国民民主党は、衆院の28議席だけで主導権を得ています。それを考えれば、いまは議席が1桁の小政党も無視できる存在ではないでしょう」
――欧州でも、右派政党が躍進しています。
「これまで軽視されてきた極右政党が議席を伸ばし、政治を左右するようになってきています。日本でも同じことが起こるかもしれません。『小政党はどうせ長続きしない』という先入観は捨て、動向を見ていく必要があると思います」(聞き手 シニアエディター・尾沢智史)
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つじたまさのり 1984年生まれ。政治と文化・芸術の関係などを主に研究。著書に「ルポ 国威発揚」「『戦前』の正体」「たのしいプロパガンダ」など。
■志向多様に、組織離れは世界で 水島治郎さん(千葉大学教授)
――衆院選では、左右の小政党の伸長が目立ちました。
「左派ではれいわ新選組が9議席を獲得し、共産党の8議席を上回りました。右派では自民党よりも保守的な日本保守党と参政党がそれぞれ3議席を得ました」
「自民党が石破茂総裁、立憲民主党が野田佳彦代表になって中道に近づいたからだ、という面もありますが、これを日本独自の現象ととらえるのではなく、世界の政治の文脈の中で理解することが大切です。今回の衆院選で明らかになった変化は、世界各国で起きている政治の潮流と共通しています」
――日本と世界に共通する変化とは。
「例えば日本の共産党は長い歴史を誇り、全国各地に組織があり、多くの地方議員もいて、党員が組織的に活動してきました。その政党が、山本太郎代表が5年前に立ち上げたれいわ新選組に議席数で抜かれてしまいました」
「ここには、団体や党組織の弱体化という、世界に共通の潮流がみられます。従来は労働組合や宗教団体、地縁団体、農業団体といったさまざまな団体が社会に根を張り、政党の支持基盤となってきました。そうした構造は高度成長時代の日本だけでなく、世界中でできあがっていました。それが21世紀の組織離れの時代に入り、明らかに衰えています。欧米では教会や労働組合など、政党の支持基盤が弱体化しました」
――ポピュリズムやアウトサイダー・ポリティクスと呼ばれる現象と関係しているのでしょうか。
「ポピュリズムは、近年起きている反エリート、反グローバリゼーションの動きに加え、右翼なら反移民、左翼なら格差是正などを訴える形で起きています。欧州各国でも、米国でもみられます」
「そして、既成政党や従来型の団体、官僚組織を飛び越え、アウトサイダーとしてのリーダーを待望する動きが高まっています。アルゼンチンのミレイ大統領はその一例ですが、東京都知事選の『石丸現象』もこれに近いでしょう」
――英国や米国では二大政党制が定着し、日本も政権交代が可能な政治のために、それを目指そうとしていました。
「保守政党と左派政党のような、二つの政党で十分でしょうか。現代は個人個人のライフスタイルや志向が変化し、政治に求めるものが多様化しています」
「その点では、オランダの政治が興味深いです。既成の大政党にはくみ上げられない、現実に存在するニーズが小政党によって提示され、政治にインパクトを与えています」
――どのような小政党があるのでしょうか。
「日本では思いつかないような、多様な政党があります。例えば高齢者の利益を守る政党があり、『地区ごとに高齢者IT講座を』『全列車にトイレを』といった要求をしてきました。少数派のイスラム教徒を代表する政党もあります。また、『動物党』は動物の権利を憲法に明記することを訴え、動物虐待防止や動物実験の原則禁止を掲げています。もう20年近く議席を有し、定着しています」
――小政党の存在する意義とは何でしょう。
「積極的な意義は、社会で起きている様々な変化を政治の世界に届けることでしょう。20世紀型のがっちりした二大政党制は、多様化した社会における新しい動きや考えを素早く吸収するのが難しいと思います。小政党が様々な声を政治の世界につなぐことで、イノベーションにつながる可能性が出てきます。動物党の掲げるアニマルウェルフェアの発想は、今や主流化しました」
――そこまで小政党に大きな役割を期待できるのでしょうか。
「すべての小政党がそうした存在になるわけではありません。現実には、すぐに消えてしまうような党も多いと思います。しかし、民主主義における価値とは、政策が実現するかどうかは別にして、多様な声を発することにあるのではないでしょうか」
「民主主義は一種のフォーラム、広場だと思います。その広場には、なるべく制限をせず、多くの人が入れる方がよい。逆に、そもそも有力な大政党に属さなければその広場に入れないのなら、政治は一部のエリートのものとなり、市民の不信感は一層高まるのではないでしょうか。民主主義を広場のように開放していくことが、重要だと思います」(聞き手・池田伸壹)
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みずしまじろう 1967年生まれ。政治学者。オランダの政治史を専攻。著書「ポピュリズムとは何か」(石橋湛山賞)など。編著「アウトサイダー・ポリティクス」(仮題)を来春刊行予定。
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