「ストーカー」がいなかった
もうひとつ、気になったのはヒロインの弟の達彦くん(遠藤雅)を追いかけまわす女性の存在である。
図書館で知り合った女子大の一年生の真紀ちゃん。
彼女が達彦くんを好きなあまり、その言動がおかしい。
手編みのマフラーをどうしても受け取ってもらおうと異常な行動に出る。
ドラマ第1話冒頭は、みんな寝ている朝方に、ヒロインの部屋へレーガン元大統領の顔のかぶりものをした賊が忍び込んでくるところから始まるが、これは達彦くんにマフラーを届けようと忍び込んだ彼女の仕業だったのだ。
ちょっとおかしい。というか、かなりおかしい。
どうやら少し付き合ったが、男のほうが距離を置こうとしており、女性が異様に接近してくるばかり、ということのようだった。
彼がいなくても家に上がり込んで帰るのを待ちますと言い放ち、いまみるとかなり怖い存在である。
でも1991年当時の家族は、そんなに邪険にしない。
さほどいやがっていない。この感覚がちょっといまはわからない。
つまり1991年当時、ストーカーという言葉が存在しなかったのだ。
言葉が存在しないから、そういう概念も共有していない。
「熱烈な愛情のちょっと行き過ぎたもの」ととらえているばかりで、怖がっていない。
あらためて、言葉ができたからこそ、それにまつわる怖さも共感できるようになったのだなとわかる。
もちろんこの女子大生の行為は異常だというのはまわりの大人も気付いていて、まずそれを指摘したのは「桃子さん」である。
近くに住むヒロインたちの叔父の妻。
演じているのは川島なお美である。
川島なお美が若くて元気という姿を見るだけで、いろいろ訴えかけてくるものがある。