だからデートの待ち合わせの変更も、「今日飲みに行こうぜ」という急なお誘いも、当時は会社の電話を使わざるをえない。「私用電話」である。
実際に第4話で、彼氏(大鶴義丹)が職場の電話を使って、のぞみ(松嶋菜々子)に「指のサイズを聞く」という私用電話のシーンがあった(のぞみももちろん職場の電話で応対している)。
彼氏は途中から上司の目を気にして、顧客との応対を装い始め、デートの約束を「面談の申し込み」と言い換えて話していた。
個人の通信機器がいまほど発達していない時代であった。
ついでにこのドラマのヒロイン名は「南田のぞみ」であるが、東海道新幹線に「のぞみ」号が登場したのは、この舞台の翌年、1992年になってからである(放送されていた1996年にはもうお馴染みであったわけだが)。
携帯電話がなかった時代はどう過ごしていたのか、というのは、「汽車も電車もない時代に東京から京都までどうやって移動したのか」というのと同じくらいにもはや歴史の向こうの風景になってしまっている。
携帯なくてもふつうに過ごしていたし、電車なくても不便だとおもわず暮らしていたばかりである。
みんな煙草吸いすぎ…
もうひとつ、この時代のドラマを見ていて驚くのはやはり「喫煙」である。
1990年代はまだ「どこでも煙草を吸っていい」という時代だったのだ。
吸ってはいけない場所が指定され、それ以外は吸ってよかった。
1990年代は、たとえば東京ディズニーランドでも、アトラクション内などの屋内施設以外は、だいたいどこで喫煙してよかったのである。屋外どこでもオッケーだった。書いていて自分で嘘みたいとおもってしまうが事実である。当時、喫煙者だったのでよく覚えている。
いまでもアトラクションに乗ったときの案内に、シートベルトを締めてください、飲食はダメですというのと同じ並びで「喫煙はダメ」と出て、かなり違和感を感じるが、あれはアトラクションを出ればどこでも喫煙できていたころの表示の名残りなのだ。