「男か女しかない世界で存在否定され続けた」ノンバイナリーの第一歩
ノンバイナリーの関西在住の50代が、「長女」と書かれた自分の戸籍の記載を、性別によらない表記に変えるよう、近く京都家裁に申し立てる。公的書類で常に男か女かを選ばされる日本では「社会にエントリーするための最初のドアが開かない」と感じてきた。
小さい頃から、女性にしかつけない名前を自分の名前として受け入れられなかった。学生時代、野球の応援に行けば、男子は応援団、女子はチアガール。制服も役割も、男性か女性のいずれかでいることを求められた。「生まれてから一度も男だとも女だとも思ったことがない。なのに社会も周囲も女性扱いをしてくる。ずっと存在を否定され続けてきました」
「死にたい」と思わない日はなかったが、死後、自分の身体を誰かに見られることを想像すると耐えられず、踏みとどまった。
居場所を求めた半生
大学卒業後は非正規で働いてきた。「ジェンダー規範が強く男女の役割分担が当然視される日本の組織のなかで、そのプレッシャーが正社員よりは薄いように感じたから」。長く勤めると私的な部分を同僚に話すよう求められ、短期間での転職も繰り返してきた。
平日は息を潜めるようにして働き、休みの日は一日中部屋に引きこもる。「ドアを開けた瞬間、男か女しかない世界だから」
性的少数者が集うグループに参加したこともある。そこで、「クィア(特定の枠にあてはまらない人)」という言葉に出会った。自分のことだと思い、自身の性自認についても少しずつ話すようになったが、当時は同性愛者として扱われたり、「本物のトランスジェンダーではない」「自分と向き合うことから逃げている」などと言われたりすることがあった。性的少数者の中にも「男か女か」を基準にした区分や序列があると感じ、足が遠のいた。
40歳を過ぎ、「このまま女性として人生を終えるのは嫌だ」と男女以外の性別を認めるカナダに移住、永住権も取得した。
カナダでは性別欄に当たり前のように3番目の選択肢があった。「三つ目の欄にチェックを入れられる解放感。ノンバイナリーであることを伝えると、周囲はすぐ理解した。尊重され、社会の一員である実感があった」
だが家族の事情などで帰国せざるをえなくなった。
申し立てを第一歩に
日本に戻り、公的書類の性別欄にチェックを入れずに提出すると記入漏れと見なされる。ネットで買い物をしようと思っても、入力項目には男女しか選択肢のない性別欄が当たり前のようにある。
申し立てを決心したのは、日本でも「死ぬまでに人間として平等に扱われたい」と思ったからだ。「男性、女性と同じように生まれながらに社会へのドアが開く。そんな未来が来てほしい」
申し立てはその第一歩だと考えている。
男女以外の性別認める国は18カ国
国際的な性的少数者団体「ILGA」のデータベースによると、地方レベルも含め、男女以外の性別を認めるのはパキスタンやニュージーランド、インド、アイスランド、デンマークなど18カ国にのぼる。
ドイツは2017年、連邦憲法裁判所が、身分登録に性別を必要とするのに男性と女性以外の選択肢がない現行制度は違憲と判断。19年から身分登録の性別欄に、男女のほかに、ドイツ語で「多様」を意味する「Divers(ディバース)」という選択肢ができた。
識者「自分のあり方を否定されない意義大きい」
ドイツのゲーテ大学で性的少数者をめぐる制度について研究する石嶋舞研究員は、男女以外の性別アイデンティティーを持つ人にとって、法的性別ができた意味を「公的な書類だけでなく、職場などでも男女以外の性的アイデンティティーの存在が無視されなくなってきた。あらゆる生活圏で自分のあり方が否定されない意義は大きい」と評価する。
カナダも17年、パスポートの性別について、男性(M)と女性(F)に加え、それ以外(X)を選べるようにした。
カナダの法制度に詳しい浦和大学の本田隆浩准教授によると、パスポート以外にも、もっとも基本的な個人の公的証明書である出生証明書でも多くの州で、Xを選んだり、性別を非表示にしたりすることができるという。「カナダでは性別だけでなく、性的指向、性自認における差別も人権法で禁止され、当事者が差別的だと感じた制度が見直されている」という。
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