蟻生十兵衛の戦いの記録 陥落編
「ぽ、ぽぽぽ」
蟻生を貪っていた怪異たちは、八尺様が声を掛けると一斉にそちらを向く。
『左様で御座いますか。この痴れ者を捕らえることが出来たのも貴方様のお陰。心ゆくまでお楽しみくださいませ』
人語を話せる怪異の返事を皮切りに、怪異たちは蟻生から手を離して左右に分かれ道を作る。一旦凌辱から解放された蟻生はよろよろと上体を起こし、八尺様を見上げた。怯えと不安を滲ませるシャンパンゴールドの瞳の奥にはしかし、まだ微かに理性と反抗心の残り火が燻っていることを彼と目を合わせたうつくしい怪異は見抜く。この火を消すことが出来たとき、少年は自らの意思で自分に跪き従属を誓ってくれるだろう。
帽子やシャツと同じ真っ白なスラックスを寛げ、獲物のこれまでの痴態により既に臨戦態勢になった陰茎を取り出す。それを見た蟻生はひゅ、と息を呑んだ。巨砲。その一言に尽きる。赤黒く血管の脈打つソレの長さ太さは女の肘から下ほどあり、亀頭はその先に付いた握り拳のようだ。あんなものを突っ込まれたら壊れてしまう。ずり下がろうとする蟻生の腕を、広い歩幅で一気に距離を詰めてきた八尺様が捕まえる。ふるふると首を振り吐息のように零したむりだ、の言葉が聞き入れられることはなかった。
八尺様は蟻生を抱え上げようとして、今のままでは彼の全身に刺さっている針が邪魔になることに気付いた。ひとまず蟻生の両手首を一纏めに片手で掴んで逃げられないようにし、もう片方の手で一本一本針を抜いていく。
針の毒は抜けるときにすら蟻生を苛み、皮膚から針が離れていくたびじわりとした快感が身体に広がった。針が抜け落ちた所からは血が流れ確かに痛みがあるのに、血液が皮膚を伝う感触すら気持ち良い。化け物たちの性処理道具として都合の良い身体に作り変えられてしまった屈辱に歯噛みしながら、全ての針が抜けきるまで蟻生は「ん…、ン……♡」と小さく声を漏らしその身をぞくぞくと震わせていた。
針を取り終えぐったりとした蟻生の背後から腹部に腕を回し、八尺様は今度こそ彼を抱え上げる。凌辱の痕が色濃く残り閉じきっていない穴に、亀頭が擦り付けられた。
「や……めろ、そんなの挿入るわけない……!」
力が入らないなりに八尺様の腕から逃れようと藻掻く蟻生だが、怪異たちに雄の咥え方を教え込まれ媚毒で高められた淫穴は、本人の意思と裏腹に男根に吸い付き蹂躙される悦楽を求めている。素直な身体の反応に辛抱ならず、八尺様は自らを蟻生の後孔に捩じ込み始めた。
「ッぁ、………が……っ♡、裂、ける゙……っ」
本来排泄にしか使われない小さな穴は、健気に目一杯口を拡げ巨根を受け入れようとする。ぴきぴきとした縁の痛みは、先程二体の怪異に同時に犯されていたときよりもずっと酷い。それでもこのおかしな世界全体にかかった不思議な力のせいか、穴が切れることだけはなかった。入る筈がないと思っていた亀頭も次第に呑み込まれていき、気づけば一番太い箇所が入口を通過しようとしていた。そこさえ通ってしまえばあとは簡単で、押し入ろうと力を込めていた八尺様は勢い余って一気に結腸弁の先まで挿入を果たす。
「ぉ゙ッッッ!?♡♡♡♡♡」
ぴんと伸びた足は、それでも床に届かず宙を掻く。イった。挿れられただけで。もう出すもののなくなった蟻生のそれは何も吐き出してないけれど、絶頂を与えられた内壁は悦びでぐねぐねとうねり、侵入者を締めつけ歓待している。「ぽ、ぽ」と恍惚混じりの声を漏らした八尺様は、まだ入りきっていない根元の方まで挿れようと突き当たりに先端を押しつける。
「あ゙っっ♡む゙り、むりだッ♡♡もうな゙い、もう先ないから゙っ♡ひ、ィ゙ッ!?♡♡♡」
硬い腹筋を無視して、蟻生の腹にぽこりと陰茎の先端が浮かび上がる。ここが現世であったならばとっくに内臓が損傷しているだろう。男根すべてをナカに収めきった八尺様は、満足そうに蟻生を改めて抱え直し放送設備の方へと歩き始めた。
「ぁッ♡あ、ぁ゙♡とま゙、れ♡♡♡ゆらす、な゙ぁッ♡♡♡んぅ゙ッ♡♡♡」
歩行の振動に加えて軽く体を揺すられるせいで、絶頂が止まらない。快楽を逃そうと仰け反った拍子に、捕食するように唇に噛みつかれた。人外である八尺様の舌は常人より長く、蟻生の口内を好き勝手荒らし回る。快感と酸欠で意識が飛びそうになる直前、放送設備の前まで辿り着いて体を降ろされた。まだ陰茎は入ったままだが、ようやく足を床につけることが出来て少しだけ息をつく。
蟻生は放送設備の設置された長机に上半身を突っ伏して、尻を背後の八尺様に向け突き出すような姿勢を取らされた。体格差はあれど高身長で脚も長い蟻生が、生徒向けに低めに設計された机に上半身を預ければ尻は上向きになる。八尺様としてもそれほど抽挿するのに苦労は無いようだ。
動き出す前、八尺様はマイクの頭を下げて蟻生の顔に向ける。
(あぁ…そういえば、放送をしていたんだったか)
怪異たちの暴行によって、すっかり頭から抜け落ちていた。思い返せば序盤の方はまだマイクにも意識を割いており、声を抑えようとしていたような気もする。奴らが設備のスイッチを切るような気遣いを見せてくれる筈もなし、今までの出来事は全て学校中に筒抜けだったのだろう。疲弊しきってまともに働かない頭で、仲間たちに随分と恥を晒してしまったと蟻生は小さく嘆息する。普段の彼であれば発狂ものだっただろうが、今はもう絶望する気力すら無い。
ここに蟻生を連れ戻した大男は、何を望んでいるのだろう。羞恥心を思い出させ、必死に声を殺そうとする姿でも愉しみたいのか。それともより鮮明な悲鳴や喘ぎ声を放送させ、まだ逃げ回る監獄生たちを恐怖させたいのか。首だけで振り向いてちらりと見上げた端正な顔は口元に笑みを湛え、愉快そうに蟻生を見ていた。その目に浮かんでいるのは、好奇心…だろうか。
("俺"の、出方を伺っている…?)
何か特定の行動を望んでいるというより、この怪異は目の前の人間がこの状況でどんな行動に出るのかを見たがっているようにも思えた。
「ぽ」
「ぅ……ン……っ♡〜〜〜〜〜っ♡♡♡」
八尺様は何かを促すように、先程とは違うゆっくりとした腰遣いで蟻生のナカに侵入してくる。そして結腸まで行けば無理矢理押し入ってくるようなことはせず、輪をかけてじっくり抜き去っていく。その繰り返しに、ぞわりとした快感が背筋を駆けるが思考が飛ぶほどではない。……やはり恐らく、試されている。
かといって、今蟻生が好きに動かせるのは口くらいだ。つまり与えられている選択肢は、何かを話すか、口を噤むか程度。
(ならば"俺"は……)
何もかもを抑圧されていたところに与えられた少しばかりの自由の中、自分は何を選ぶべきか。何をしたいのだろうか。今の自分に、出来ることは。数秒間考えてから、答えを決めた蟻生は口を開く。
「……ぁー、すまない、っん、随分と、聞き苦しいものを聞かせた……、ッ♡"俺"自身の経験から、まだ、ぁ♡死んだ奴はいないと仮定して、言わせてもら、う…」
放送室にこれだけの怪異が集まって、みな蟻生を犯せど、殺そうとするものは一体たりとていなかった。偶然色情怪異ばかりがここに来たとするのはあまりにも無理がある。この学校は"そういう"場所なのだろう。探索していた頃に聞こえた悲鳴の主も、どんな目に遭わされているかは知らないが命までは取られていない筈だ。
「絶対に、逃げ切れブルーロックス、っ♡この世界から、脱出しろ…!」
──"おれ"はきっともう、むりだけど。
「"俺"、が、全力でサポートする…!」
抽挿の合間に一呼吸だけ息を吸って吐いて、蟻生は覚悟を決めた。
「観自在菩薩…っ、行深般若波羅、ァっ♡、蜜多時…」
突然再開された読経に、背後にいた怪異の何体かが黒板を引っ掻く音を聞いてしまったかのような悲鳴を上げる。怒りの唸り声を上げる獣怪異、屈辱的な罵声とともにやめろと怒鳴る妖。けれど思った通り、先程のように蟻生に襲い掛かってくる者は誰もいなかった。後ろの八尺様が、機嫌良さげに笑っているからだ。「ぽぽ、ぽ、ぽぽぽ」といっそ蟻生の経に合わせ鼻歌でも歌っているかのような彼は、行動観察続行を望んでいる。八尺様が目溢しをしてまぐわいを続けている以上、格下共は手出しできない。
「空不、異色…、色即是空、ぅ♡」
般若心経ではここにいる怪異を倒せない。だが後ろの例外みたいな一部の連中を除いて、ダメージを与えることはできる。自分の読経音声は少なくない怪異を弱体化させ、仲間たちが逃げる隙を作るのに役立つ筈だ。
化け物たちの怒りを買い、周りを固められ一際強い怪異に囲われた蟻生は脱出を望めない。待っているのは精神が擦り切れいずれ完全に壊れてしまって、怪異の肉人形となる未来だけ。
それでも。そうだとしても、"蟻生十兵衛"という人格が喪われる最期の一瞬までは、自分に誇れるオシャな自分でいたかった。
仲間を、友を、恩師を護るんだ。せめてお前たちは一人でも多く、この地獄から。
「依、はんにゃ、ぁ♡、波羅みぃ、多…、…?」
(なんだ…?甘い、香り?)
快楽に呑まれぬよう机に爪を立てていた蟻生の鼻腔を、くらりとするほど甘ったるい花のような香りが擽る。
「ちゅーす、蟻生頑張ってんな〜」
「……………お、とや……?」
風鈴のように涼やかで心地の良い声。嫌味っぽくない軽薄さを纏うその声の主を、蟻生はよく知っていた。何しに来た、ここは危険だから早く逃げろと言おうとして入口を見ればそこに立っていたのは思っていた通りの人物……ではあったのだが。
彼の、乙夜影汰の背には大きな翠の翼が一対生えていた。
「その、姿は………」
上手く羽を畳んで入室してくる彼が身に纏っている衣服も、男を煽るためだけにあるような露出度の高い和服だ。蟻生の知っている乙夜は自ら進んでそういったものを着るようなタイプではなかった筈だが、無理矢理怪異に着せられたにしては平然とし過ぎている。
そこまで考えて、蟻生は周りが静かすぎることに気付いた。突然の人間(で合っていると信じたい)の登場に、怪異連中のざわめきが聞こえないのだ。辺りを見渡せば、どいつもこいつも白目を剥いてひっくり返って、声も出せずに精液やら諸々を垂れ流しにしながら気絶していた。
「……………は?」
「ぽ、ぽ」
呆然とする蟻生をよそに、八尺様に何かを言われた乙夜がぺこりと会釈をする。
「こんちは、声からなんとなく分かってたけど、やっぱ八尺様かぁ」
「……はっしゃくさま…?」
「そ、この人(?)の名前。けっこー有名な都市伝説だと思うんだけど、知らねぇ?」
「…あまりそういう俗っぽい怪談には触れてこなかった」
「ふ~ん、そっか。じゃ、今度機会があれば教えてやるよ。本人に説明してもらっても言葉分かんねぇっしょ?」
蟻生の疑問に、異様なほど普段通りの様子で答える乙夜。元々感情の起伏がそこまで激しい男ではなかったが、何故こいつはこの状況でここまで平然としている?怪異とすら親しげに話しているのはどういうことだ?周りの化け物たちに何をした?その翼は何だ?…本当に、目の前の存在はあの乙夜影汰なのだろうか?
乙夜はそこで思い出したように八尺様の方を向く。
「あ、そうだ、自己紹介遅れてごめん。俺は乙夜影汰、鴆鴆様の巫女兼お嫁さんで〜っす。あとそこの蟻生の元チームメイト」
よろしくね、と伸ばされた手を八尺様が握ろうとした瞬間。
「ほいじゃまぁ、お近づきの印にアンタにもプレゼント!」
不意をついて、乙夜がその翼をはためかせた。室内に羽が舞い、先程とはまた違った甘い香りがする。
「ぽ…!」
「ぇ…、ぁ……?♡♡♡」
(なんだ、これ……あたまがふわふわする………)
よろけた八尺様は口元を抑えて二、三歩後退し、蟻生のナカから楔が抜け落ちる。
「ッあ♡」
その場に崩れ落ちた蟻生の顎を、屈み込んだ乙夜の手が掬い上げて顔を覗き込んだ。
「ありゃ、トロットロ。この媚毒ヒトには効かない調合にしたはずなんだけど」
「……っ、♡……???♡♡♡」
乙夜が何か言っているのに、内容が理解できない。性感帯ですらない頬を撫でられるのさえ心地良くて、もっと触れてほしいと自分より少し体温の低い掌に擦り寄る。
「こ〜りゃ若干眷属化始まっちゃってんね」
乙夜の言う通り、人ではないものの精気を多く注がれ、心も自身の安全は諦め八尺様に屈しそうになっていた蟻生は気付かない内に人間の枠から外れかけていた。まだ半分以上ヒトではあるから、怪異にのみ効く毒なら弱いものには何も感じない。けれどそれが強力なものであれば、多少は身体が反応してしまうようになっていた。乙夜の羽の毒が本来人外に発揮する威力を考えれば、効き目は相当マシな方だが。
「ここまで持ち堪えたガッツは良かったんだけど。この程度で前後不覚になるんじゃ、鴆鴆様のハーレムには加えらんないかぁ」
「ぁ♡あ♡」
手慰みに蟻生の耳を弄ってやりながらぼやいていれば、ぬっと背後から乙夜の頭を掴もうと伸ばされる大きな手。それを避けた乙夜は窓の方へ軽やかな足取りで移動する。
「おっと!ごめんごめん、流石に人外の仲間入りしたばっかの俺じゃアンタみたいな超高名怪異サマは倒しきれないね」
八尺様の力でとっくに魔除けの紙が焼け落ちていた窓は何者も拒むことなく、白魚の手によって開放され外の空気を運び入れる。
「お邪魔しました〜っと。んじゃ蟻生、ご主人様と仲良くな〜。完全に眷属化したら空目様にご挨拶に行こーぜ、俺もついてってやるからさ」
それに対して蟻生からの返事は無い。むしろ乙夜が離れたことにすら気付いていないだろう。
そのまま乙夜が大空へと飛び立った後、しんとした部屋で忌々しそうに窓をぴしゃりと閉めてから、八尺様はへたり込む蟻生を床に押し倒した。脚を開かせ腰を掴んで、媚毒により一層ビキビキと大きく硬くなった肉棒を一息に挿入する。
「あ゙ぁぁぁぁぁぁッ!?♡♡♡♡♡」
これまでの行為と乙夜の毒でとろとろに解れた雌穴は痛みを覚えず、一度目よりもずっと熱く激しく雄を迎え入れ快楽と子種を得ようとする。
「ぽ…!ぽ、ぽ!」
「ん゙ぁッ♡あッ♡ひ、ッぃ゙♡」
その名器っぷりに堪らず、八尺様はバツバツと音を立てて力強く何度も抽挿を繰り返す。奥を突かれるたびに蟻生は性器からびしゃびしゃと潮を溢していた。毒で侵された頭はすっかり馬鹿になって、もうきもちいいこと以外、何もわからなくて。蟻生の口からは、言葉を成していない喘ぎ声だけが吐き出される。
飛んでいってしまうような、どこまでも落ちていくような不思議な浮遊感を覚えるほどの強い快感が嬉しくて恐い。何かに掴まって安心したくて、目の前の体に腕と脚を回して縋りつく。八尺様は一瞬驚いた顔をして、それから蟻生の一番奥に雄を押し込み大量の精を吐き出した。
「ぁ、ぁーーー………♡♡♡」
胎に吐き出された熱には多幸感さえあって、蟻生は幸せそうにへらりと笑う。真っ赤な粘膜の覗く口に八尺様が口づけた。最初に抱いたときと違って、蟻生も快感を求め自ら積極的に舌を絡めにいく。
煽られた八尺様はまだまだ治まりそうにもない熱情を再び蟻生にぶつけ始め、蟻生も悦んでそれを受け入れた。一人と一体のくぐもった吐息と、淫靡な水音だけが閉ざされた部屋に木霊する。
それ以降、学校のスピーカーから経が聞こえてくることは二度と無かった。