でも自分は大逃げを持っていないので、いつ逆噴射してもおかしくありません。
その時は3、4日に1本のペースに戻ると思うので、よろしくお願いします。
「改めて、自己紹介をしようか」
時は夕方、割り当てられたトレーナー室にて。
俺は改めて、自分が担当することになるウマ娘、ホシノウィルムと対面していた。
……改めて観察すると、ホント美少女だな。
セミロングに伸ばされた柔らかい淡めの鹿毛。前髪には一筋だけ、長い黒鹿毛が垂れている。
勿論、ウマ娘特有の耳と尻尾も持っているが……あまり動かない。感情が淡白な子なのかもしれないな。
顔のパーツは……これに関してはウマ娘共通だけど、綺麗に纏まってるな。伏し目がちな青みがかった白色の瞳、引き締められた薄い唇が、彼女の物静かな雰囲気を引き立てる。
そして小柄で細身であるという体格。それは怜悧な美貌に反し、彼女が未だ成長しきっていない子供であることを主張していた。
総じて、ホシノウィルムというウマ娘は、幼い少女の可愛らしさと大人の女性の美しさを併せ持つ、どこかアンバランスなようで複雑に組みあがった魅力を持っている。
もし元の世界でこのビジュアルだったら、芸能界が放っておかないだろうな。
とはいえ、この世界におけるウマ娘はアスリートだ。
アイドル性を兼ねているとはいっても、あくまで主眼はレース。そこを忘れてはならないだろう。
俺は彼女のファンでもなく、友人でもなく、トレーナーだ。公私混同は控えねば。
「俺は堀野。トレーナー、あるいは堀野と呼んでくれればいい。
今日から君を担当することになったトレーナーだ。
まだ新人で経験も足りず、迷惑をかけることもあるかもしれない。そこも含めて、君と二人三脚で走っていきたいと思っている。よろしく頼む」
うむ、我ながらなんと完璧な自己紹介。
面白味がないと言えば否定できないが、やはりまずは真面目に行くべきだろう。
何せ新人だ。経験も実力もない奴が軽口を叩くと、俺ならちょっとイラっとくるからな。
ああいや、せっかくの自己紹介だ、何か趣味とか言うべきだったか? やはり情報を開示して相互理解を深めるべきだったかも……。
でも俺、趣味とかないしなー。
ここまで20年、ひたすら自分磨きしかしてこなかった。どちらかと言えば仕事感覚でやっていたので、趣味って感じはないのだ。
……あー、前世も趣味なくて話題に困ったりしたんだよな。これからはウマ娘とのコミュニケーションのためにも、何かしら趣味を持った方がいいだろうか。
いや、仕事のために趣味を得るって、それホントに趣味か? 仕事のためにするっていうのなら自分磨きだってそうなんだが。
仕事に一切関係ないところで、自分の好きなものを見つける……? お、俺にそんなことができるだろうか……。前世も今世も仕事人間だったこの俺に……。
「……トレーナー?」
「いや、すまん。以上だ。よければ、君も自己紹介してくれるか」
聞くと、彼女はすべて予想していたと言わんばかりに頷き、すらすらと言葉を紡いだ。
「中等部1年、ホシノウィルム。北海道出身です。
好きな食べ物はにんじんのグラッセ、趣味は自己研鑽。特技は集中力を途切れさせないこと。
地元では、正式なコースではありませんが2400メートルまで走っていました。ダートはあまり肌に合いませんでしたが、走れないわけではないと思います。
改めて、よろしくお願いします」
あ、あ……待って待って、そんな完璧な自己紹介しないで、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
一応社会人経験もある、しかも人生2回目の俺が、10代の女の子に自己紹介で負けていいんか? 人生経験4倍近くあるんだぞ?
……あー、なんか途端に自分が精神的おじさんっぽく感じて死にたくなってきたな。同年代と価値観が乖離してるようなことはないと思うけど。
あれなのか、やっぱり史実つよつよウマ娘はステータスに表示されないところもスペック高いの? ルドルフもダジャレの発想力以外はスペック高いもんね。
しかし……ふむ。
自己紹介からしても、彼女のレースへの、そして勝利への姿勢が伺えるな。
趣味の自己研鑽は自主トレのことだろうし、集中力を切らさないというのは連続したトレーニングが可能というアピールだろう。
つまるところ、自己紹介の内70%くらいは自分の走りについての情報提供だ。
どれだけストイックなのかが伺える。似たもの同士、上手くやっていけるといいな。
彼女の中の闘争本能は本物だ。
体力が削れた状態で自主練なんて、普通はしない。トレーナーに言われて初めて取り組むものだ。
実際、俺の新人研修中に体力を7割残してるのに、限界だ無理だと言っていたウマ娘を見かけたこともあった。
あの時は懇々と自分の限界に挑む意義を説き、1人のウマ娘をトレーニングジャンキーに目覚めさせてしまった。
後日自主トレのし過ぎで事故を起こしかけたと聞いた時には、顔を青くしたものだ。
きちんと休養の大事さを語って方向修正はしておいたが、彼女は今も楽しく走っているだろうか。今度トレーナーが付いたか確認しに行ってもいいかもしれない。
や、話が逸れたな。
そんなウマ娘も決して珍しくない中、ホシノウィルムは自分の体力をほぼ使い切るまで、一日中走り続けていた。
その勝利への貪欲さ、より速くなることへの執念は本物だ。
……同時に、少しばかり不安定さを感じることもあるのだが。
「さて、君のことだから、より速くなる方法を聞きたがるのではないかと思」
「はい、是非教えてください」
「……うむ。熱意があって非常に結構」
いや少しばかりというか、この前向きすぎる姿勢は不安定どころではない気もするが。
想像してみてほしい。直前まではクールで物静かな印象だった子が、いきなり胸倉掴み上げるような勢いで詰めてくる姿を。
正直本当にビビるし、仮面が剝がれかけるので勘弁してください。
「とはいえ、難しいことはない。
君もウマ娘、距離や脚質の違い、適性は理解できていると思うが、」
「すみません、私には殆ど知識がありません。教えていただけると嬉しく思います」
「…………うむ。了解した」
わざとか!? わざとやってないかこの子!?
噓でしょ、ウマ娘って闘争本能すごいから、基本的に勝つためには勉強を欠かさないって話だったじゃん!
距離とか脚質の区別はそう専門的な話じゃない。野球におけるピッチャーキャッチャーの区別と同じレベルだ。それに携わる人間であれば、知っていて当然の知識。
流石にそんな基礎的な部分知らないとは思わないんだけど!?
ああいや、待て待て。何を担当に不満を持っているんだ俺は。
俺は堀野家のトレーナーだ。ウマ娘を導く者だぞ。
ウマ娘が船を出せば舵を取る、コンパスを忘れたなら俺が用意する。
そうやって全ての不安要素を取り除き、彼女の旅路を照らすのが正しい在り方だ。
とはいえ……うーん、この癖ウマを導くことが、果たして俺にできるだろうか。
* * *
さて、適性の話をしようと思う。
少し遠回りになってしまうので、難しいと思ったら要点だけかいつまんで聞いてほしい。
まず、中央トレセンなど日本のウマ娘に関係する大体を取り仕切っている、URAという組織がある。
そのURAが主催している、トゥインクルシリーズと総称されるレース群。これがホシノウィルム、君が走る場所だ。
……もしかして、これも知らなかったのか? 名前は知っているが詳しくは知らなかった?
そうか。……そうかぁ。
ああいや、問題はない。そういう生徒もいるだろう。
さて、君はトゥインクルシリーズのレースを走ることになるのだが、これには様々な区別がある。
まずはその話からだな。
最初に、レーンに芝が生えているか、砂が詰められているか。前者は芝、後者はダートと呼ぶ。
君は芝を得意としているようだが、少なくとも日本において、それは非常に有利に働く。トゥインクルシリーズの重賞は芝が多いからな。
……重賞というのもよくわかっていない?
……あー、なんだ、正直で結構。相互理解を図るためにも、これからもわからない部分があれば気軽に言ってくれ。
とはいえ、今回は重賞の話は置いておこう。君に関わるのは、しばらく後になるだろうしな。
さて、芝とダートで分かれた後、次は距離で区別される。
まず1400メートル以下の、短距離。瞬発力にものを言わせるスプリンターの独壇場だ。
次に1401から1800メートルの、マイル。殆どスタミナが関係しない短距離と違い、上手く使い切る戦略性が求められる。ここを主戦場にする者をマイラーと呼ぶ。
その先は1801から2400メートルの、中距離。スタミナやスピード、パワーをバランス良く持つウマ娘が勝つ距離だな。トゥインクルシリーズで活気がある距離はマイルと中距離の2つだ。君も挑むことになるだろう。
最後に2401メートル以上の、長距離。高いスタミナを求められる長期戦だ。驚異的なガッツを持つステイヤーたちの巣窟だな。
……頭に入らなかったか? まぁ、教科書なりで字で読んだ方が覚えやすいだろう。そう待つこともなく授業で習うことになるから安心しなさい。
とにかく要点を言うと、芝、ダートで分かれた後は、短距離、マイル、中距離、長距離と種類が分かれる。
とりあえずこれを覚えておいてくれ。
む、質問か。構わない、どうぞ。
中距離を走るウマ娘は何と呼ぶのか?
……何というか、気になるのはそこなのか? まあ構わないが。
他に比べ、これといった通称はない。精々がミドルディスタンスホースだな。中距離は最も一般的な距離であり、他の名称はこれと差別化するために定着した、などの説がある。
さて、レースの区別の話はここまで。
次は脚質の話に入る。そう長く続けないので、得意の集中力でしっかり聞くように。
脚質は、主に4つの区別がある。
レース序盤から速度を出してリードを広げ、その貯金で最後まで首位をキープする、逃げ。
逃げに続いて前方を走り、隙あらば追い抜いて先頭を狙う、先行。
少し後方で足を溜め、最後に先行と逃げを一気に追い抜かす、差し。
最後方からレースを俯瞰し、ラストスパートで全てを抜き去る、追込。
君が前回のレースで取った作戦は差し。それは認識……できているようだな。良し。
さて、長々と話してきたが、いよいよここから適性の話だ。ここが一番大事で、すぐに終わるから集中して聞いてほしい。
芝、ダート。短距離、マイル、中距離、長距離。そして逃げ、先行、差し、追込。
これらはウマ娘によって、向く向かないがある。
例えば、芝の短距離、かつ逃げに特化したウマ娘もいたり。
芝もダートも走れ、距離もマイル中距離長距離と範囲が広く、更には先行差しの両方が可能と、なんでもできる万能なウマ娘もいる、など。
ここにおける、向いていることを「適性がある」、向いていないことを「適性がない」、と言うのだ。
この適性に関しては……あまり言いたくないことだが、いわゆる血筋と才能が大部分を決める。
付けようとしても簡単に付けられるものではない。
並々ならぬ努力があれば壁を超えることもできるかもしれないが、基本的には適性がある部分を伸ばすのが王道と言えるだろう。
……さて、ここまで語れば、何故この話を君にしているのか、わかるのではないか?
…………。
いや、わからないならわからないと言いなさい。きちんと解説するのがトレーナーの役目なんだから。
簡単な話だ。
君は模擬レースにおいて、マイルの距離を差しで走っていたが、それは君に向いていない。
君の持つ多分な持久力とスピードは、中距離や長距離でこそ輝く。
そして、その末脚の伸び悩み方から考えて、適性のある脚質は逃げだろう。
あー、つまるところ、非常に簡潔に述べるなら、だな。
君は非常に不利な戦いをしていた、ということだ。
* * *
長々と話して、少し頭が痛くなる。
堀野のトレーナーとしての仮面を被るのは、馬鹿な俺には骨が折れるんだ。
面白くもない話を真面目に聞き続けていたホシノウィルムと違い、俺は集中力がない。少し気を抜けば簡単に仮面が剥げてしまう。
だからあまり話さないようにしているのだが、こういう時は仕方ないよな。
むしろ、これからはインタビューに答える機会もあるだろうし、こっち方面も鍛えていかねば。
「理解できたか、ホシノウィルム」
「はい」
素直にこくりと頷く彼女に、内心胸を撫でおろす。高い賢さは飾りではなかったか。
……うん、やけに知識はない気がするが、幼少期の環境次第ではそういうこともあるのかもしれない。
地頭は悪くないようだし、これから俺が支えていけば軌道に乗るはずだ。
「つまり、中距離から長距離を逃げで走れば、勝てるのですね」
「……まぁ、確実に勝てるとまでは言い切れないがな。君は優秀だが、不足している部分もある。それはこれから、トレーニングで伸ばしていこう」
「はい!」
気持ちの良い答えが返ってきたが、なんとも不安になる。
俺の脳裏には、どことなくホシノウィルムに似た反応をする、1人の大逃げウマ娘の顔が浮かんでいた。
普段はクールで何を考えているか分かりづらいところとか。
常識外れな程、長時間走り続けていたところとか。
どこまでも勝ちに拘って、話を聞いているのか判別しかねるところとか。
似ている。すごく似ている。よりにもよって残念なところだけが。
もしかして才能のある逃げウマ娘は、こうなってしまう宿命にあるのだろうか。
……あぁ、セイウンスカイが恋しい。あの何も聞いていないようでしっかり聞いてる、油断も隙もない性格、すごく育てやすかったんだよなぁ……。アプリの中の話だけども。
さて、ひとまず適性の話は終わりだ。
中距離長距離のペース配分や逃げの走り方は、これからデビュー戦までにきちんと教え込んでいけばいい。ああ、焦る必要がないって素晴らしい。
次にする話は……そうだな。彼女の高すぎるステータスについて、か。
「さて、次にもう1つ、非常に重要な話をするが。……その前に、1つ尋ねてもいいか」
「私に答えられることならば」
うーん、キリッとしてかっこかわいいんだけど、こんな知的そうな雰囲気で全然レースのこと知らないんだよなぁ。
人を見た眼で判断してはいけない。ウマ娘も同じく。
「では尋ねるが。君は自らの異常性に気付いているか」
「…………、それは、どういう意味でしょうか」
空気が張り詰める。彼女の瞳がより鋭く引き絞られ、もはや睨まれているようにすら感じた。
ま、それも当然だろうな。
何せ彼女の圧倒的な身体能力は、これまではっきりと披露されたことがない。
昨日の模擬レースでは本領と異なる脚質と距離で走ったために、並みのそれにしか見えなかった。
そして彼女がそれ以前の模擬レースに出走していなかったことは確認済みである。
つまるところ、彼女の視点からすると、俺が彼女の飛びぬけた身体能力を知っているはずがないのだ。
彼女が警戒しているのは、俺がストーカーであると疑がっているためで違いないだろう。
出身地である北海道にいた頃の自分を追っかけてたのか、それはキモいぞお前、と。
……ふ、我ながら名探偵。
そしてその反応も予想していたからこそ、言い訳は考えてある。
「無論、君の力のことだ。それだけの力に、まさか自分で気づいていないわけではあるまい」
「……どこでそれを知ったのですか」
「簡単だ」
が、正直、これを言って納得してくれるかは怪しい。
だが、現時点で「アプリ転生」によるアドバンテージを活用でき、なおかつウマ娘が納得してくれそうな説得方法など他に思いつかなかった。
ここで関係が悪化することは避けたい。下手をすれば、今後何か月にも及ぶ時間が無駄になる可能性すらある。
……だが。彼女の望む勝利を確実にもたらすには、「アプリ転生」の情報を使うことは必須条件。
頼む、ホシノウィルム。
ここで、この瞬間だけでいい。
類まれなる鈍感力を発揮してくれ……!
「君がとてつもなく仕上がった体を持っていることはわかっている。
何故なら、俺はウマ娘の足を見れば、その仕上がり具合が完璧にわかるからだ……!」
「なるほど、そういうことでしたか。納得しました」
……ん? んん?
あれ、え、そんなストンと納得するの? 結構無理筋な説明じゃない?
困惑を押し殺して彼女の様子を伺うが、どうやら本気で腑に落ちたようで、どこか安心したような雰囲気まで出ている。
これは、もしや……。
……通った!?
恐るべし、類まれなる鈍感ウマ娘、ホシノウィルム……!
実のところ、これは危険な賭けだった。
明確な説明ができず、なおかつもしも欠片程度でも疑われれば、俺は言い訳しようがないからだ。
まず、正直に都合を打ち明けたとしよう。その場合、何が待っているか。
簡単だ。狂人扱いで信頼関係完全崩壊である。
「実は俺は異世界から転生してきて、ここはゲームの世界だから俺には君のステータスが見えてるんだ!」
すごい、頭から足まで完全に狂人だ。こんなこと言ってるヤツを信頼する人がいるとすれば、多分苦労性だと思う。強く生きてほしい。
では逆に誤魔化すとすれば?
「偶然北海道に行った時に君の野良レースを見ていたんだ。その時偶然君は中距離を走っていて、差しではあったけどなんかこうすごい強そうだった!」
うん、これも無理だ。そもそも彼女はずっと差し、つまりは本領を発揮せずに走ってきている。潜在的な能力を見抜くのならば明確な説明が必要だろうが、俺にはそれを示すだけの論理的根拠がない。
更には、この先彼女の体力や事故率、トレーニングを管理する際に、「アプリ転生」の力を使おうとするなら、再び誤魔化しが必要になる。流石に非効率的に過ぎるわ。
故に、俺は「よくわかんないけどトレーナーは不思議な力を持っているらしい」というなんともガバガバな認識を持ってくれることに賭けたのだ。
これに成功すれば、以降「アプリ転生」を使う際に再度の説明は不要になる。
問題があるとすれば、幼気な子供くらいしか信じてくれなそうってコトだ。
なので、ひたすら空気作りとか言い方などを模索した。
昨日の夜は「ウマソウルとかその辺もぼんやりとしていてよくわからないし、そういう空気に乗っかればなんとかいけるか……いやしかし俺普通の人間だし……」などと3時間考えていたくらいだ。
そしてその模索は、完全に結実した。
ああ……これが努力が報われるという感覚か。勝利の美酒、久しく味わっていなかった気がする。
まぁこんなことで味わいたくはなかったけども。
「ふむ、納得してもらえたなら問題ない。ありがとう」
「? 何故感謝するのですか?」
「感謝は大事だからな。俺は隙あらば感謝するようにしている。感謝感謝」
ヤバい、テンションが高くなって仮面剝げて、てきとうなことを口走ってる。
チャックチャック。こういうとこが妹にからかわれる原因だったんだよなぁ。
「ん、ん。とにかく、俺は君のコンディションやステータスを知ることができる。恐らくは他のトレーナーよりもかなり正確だろう。
故に、少し変わった育成方針を打ち出すこともあるかもしれない。
変わった判断だと思ったら迷わず訊くように。きちんと理由は伝える」
「はい、頼らせていただきます」
あ、あれ。なんか視線に……僅かながら、信頼? 尊敬? そんな色が混じったような。
えーっと、えー……なんでだ?
俺、明らかに胡散臭いこと言ってるよね? 自分の将来のことなんだから、もっと疑ってもいいのよ?
……いや、待て。
俺の脳に、一筋の光が駆け抜ける。
彼女の今までの態度。反応。言葉。高いステータスと素養。
まさか。
……いいや、これは、ひょっとしてそうなのか!?
彼女は、ホシノウィルムは……!
ひょっとして、メチャクチャに騙されやすいのでは……!?
察するに、高い能力が災いしたのだろう。わざわざ人を疑わなくても、筋肉でなんでも解決できた彼女は、面倒くさくなって疑うことをやめたのでは。
いいや、あるいは疑わず、騙されたと確信した時点で反撃を開始し、詐欺を働いた無法者に「勝利」してしまうつもりなのでは……!?
だが、物理的手段で解決できるのは初歩的な詐欺だけだ。本物の詐欺師は、騙されたことにすら気付かせないという。
どうしよう。
この子、ちょっと良い効果があるって言われただけで壺とか買っちゃうかもしれない。
1人サクラが混じっただけで羽毛布団たくさん買って帰ってくるかも。
……いいや!
パンッ!
「?!」
両の手を思い切り頬に打ち付ける。
何を甘えているんだ、俺はッ!
どうしよう、じゃない!
俺は誰だ? 堀野家のトレーナーだぞ!
担当ウマ娘に寄り添い、その思いを遂げさせるためにここにいる!
彼女が騙されることがあれば、地獄の底まで追い回して相応の対価を払わせる!
そしてそもそも騙されないように常に注意する!
それが、俺の役割だろうが!!
駄目だな。やはり俺は、まだまだ至らない。
理想のトレーナー……父に近づく日は遠そうだ。
「あ、あの……大丈夫ですか」
恐る恐るといった感じで、ホシノウィルムが声をかけてくる。
しまった、心配させてしまったか。
「大丈夫だ、ホシノウィルム」
「そうですか、それなら良いのですが」
「何があっても、俺が君を守る!」
「……ええと?」
心配する必要はない。いいや、彼女が心配する必要も感じない程、俺が努めなければならない。
彼女が何の憂いもなく走れるように。レースに勝利できるように。
俺が……彼女を
「トレーナー」
「なんだ、ホシノウィルム!」
勢いよく顔を向けた、その先で。
俺の担当ウマ娘は、両手で口を押さえ、小さく小さく、控えめに笑っていた。
「よく、ふふっ……少し抜けてるって、言われませんか?」
「な?! ホシノウィルム、どこでそれを知ったんだ!」
そう尋ねると、ホシノウィルムは更に楽しそうにクスクスと笑って。
……思えばそれは、初めて見た彼女の笑顔だったのだろう。
俺は無性に嬉しくて、彼女が恥ずかしそうに黙り込むまで、それを止めることもなく見守っていた。
堀野君は気にしていますが、精神は環境に大きく影響されるため、彼の精神年齢はむしろ前世より下がっています。ホシノウィルムも普通に中等部の女の子です。
実は50歳以上だけど、精神年齢は20歳程度。なんかファンタジー世界のエルフみたいですね。
次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、今後の予定の話。
(追記)
誤字報告をいただき、色々と訂正させていただきました。
半角全角の問題や、敢えてそういう言い回しをしている部分もあり、そのまま全てを使わせていただくわけにはいきませんが、これからも1つ1つ確認してきちんと修正していきます。
作者の知識不足や認識の齟齬、言い回しの伝わりにくさ、そして単純なガバが多く、ご迷惑をおかけします。
何かお気付きの点があれば、是非お気軽に指摘いただけると嬉しいです。すごく助かります。