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The Works "呪い" is tagged "悠脹".
呪い/Novel by ゆご

呪い

1,478 character(s)2 mins

修行期間中の短い話
生きてほしい

1
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 荒廃した街。湧く呪霊たち。
 ぴちゃり──足下に広がる赤黒い水溜り。取り残され逃げ遅れた人の痕。
 拳が裂けた。爪が割れた。骨が軋んだ。
 止まることはできない。俺には動き続けなければならない義務がある。この心臓が止まっても。


「悠仁、少し休め」

 そう言って両目を手で覆われた。じんわり感じる手の熱。
 ああ、これは人だ。人の体温だ。やっぱりこいつは人だ。こいつの弟達もだ。

「…死ねよ俺」
「死ぬな悠仁」

 目を覆う手に力が入る。泣きたくなった。俺に泣く資格なんてないのに。

「生きてくれ、悠仁」


 呪いだ。
 そうやってお前は俺を呪うから、

俺は死ねない。


✻✻✻✻✻


「脹相ぉー」
「どうした、悠仁?」
「疲れた。キスしていい?」

「ああ、いいぞ」、そう言ってこちらに顔を向ける薄い唇に、ちゅ、と軽いキスをした。
 そのまま、ソファに腰掛けるこいつの膝に頭を預けて、ゴロンと寝転んだ。硬い膝枕だ。決して寝心地がいいとは言えない。

「百斂マジむずい。練習し過ぎて手の平ジンジンする」
「悠仁は頑張り屋さんだな。大丈夫だ。すぐ出来るようになるさ」
「今は箸握るのさえ無理そう」
「それは大変だ。少し休むといい」

 フッ、と目元を綻ばせると、肉厚の大きな手が俺の目を覆った。真っ暗な視界の中、じんわりとした心地よい温かさに目を瞑ると、微かな眠気が誘ってくる。
 静かだ。無駄な音を出すものがないこの部屋は、時を刻む秒針の音だけがやけに響く。


「悠仁はまだ死にたいのか?」

 うとうと、と微睡んでいると男は言った。
 そういえば、あの時もこうして目に手を当てて休ませてくれたな、と思い出す。
 きっとこの男も同じことを思い出したのだろう。

「んー、死にたくないと言ったら嘘になるけど、」

 すり、と自分の腹を撫でる。ここにいる。

「こいつらを死なせたくない」

 声なんて聞こえないけど、確かにここにいる。お前の大切な者たち。
──『オマエの中で生きられるのなら』──
 お前の大切な者たちを飲み込んだあの日、お前は言った。慈愛に満ちた優しい笑顔で。
 亡骸は俺の中で再び生を受けた。六体の新しい魂が俺の中にある。この体は俺だけのものじゃなくなった。

「お前を一人にさせたくない」

 俺の中で生きるこいつらはそう願ってる。

「だから、お前と一緒に生きたい」

 そして、俺も。

 俺が抱えた罪の重さに許されないとしても、俺はこの男と進む未来を欲している。例えそこが仄暗い場所でも、光当たらなくても、この男となら生きていける。


「……?脹相?」

 ふと、目を覆う男の声が聞こえない事に気付いた。
 不思議に思って名を呼ぶと、目を覆う手が微かに震え、ずびっ、と鼻を啜る音が聞こえた。
 思わず瞼を上げたが大きな手で覆われた視界は、目を開ける前と変わらず闇だった。

「……俺も悠仁と生ぎ、だぃ"」

 段々と震えていく声に、思わず笑いそうになる。

 暗闇の中、体の線を辿りながら頬に手を置いた。手のひらで濡れた頬を拭っていると、また大きく、ずびっ、と鼻を鳴らした。

「…うん、生きよ」

────みんな一緒に


声なんて聞こえない。でも感じるんだ。

──生きたい
    ──生きたい

────お兄ちゃんと生きたい
    ─────みんなで生きたい


──『……俺も悠仁と生ぎ、だぃ"』──



 呪いだ。
 そうやってお前たちは俺を呪うから、

俺は生きたい。



Comments

  • 惷彩:しゅんさい

    なんか凄く読了感が癒されました みんなで生きてほしいなとしみじみ感じさせられた素敵な話ですね

    May 9th
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