政治

2023.03.10 11:30

中国共産党、欧米企業の従業員にも支持表明を要求

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中国の会社法では、企業内に中国共産党委員会(党委)を設置することが義務づけられている。この法律が、中国内で事業を展開する西側諸国の企業にも適用され始めたとき、企業側は当初、それをさほど重くは受け止めていなかった。

たとえば、英大手金融機関HSBCホールディングスは2022年7月、外資系金融機関としては初めて、中国の証券子会社内に党委を発足させたが、同社はそのとき、これによって同社の方向性が左右されることはないし、党委が日常業務で正式な役割を担うこともないと述べていた。

しかし、中国全国人民代表大会の開催を前にした2023年2月末、4大監査法人の1つである会計事務所EY(アーンスト・アンド・ヤング)の中国部門(EYチャイナ)北京支社内に設置された党委が、党員に対して党員バッジの着用を求めたことが報道された。

西側諸国の金融機関内に党委が設置されたからといって、中国共産党がその顧客の資金を管理下に置いたことにはならないだろう。しかし、中国で事業を展開する西側企業にとって「党委」はトラブルをもたらす可能性がある。

中国共産党は、法律を盾にして領土拡大を試みるローフェアや、法律を巧みに活用して戦略的目標を達成することにかけては達人だ。近年は法的手段を繰り出し、いくつかの改革に着手して、実業界における党の支配力を強めてきた。

中国政府は2020年1月、すべての国営企業に対して、定款を変更して企業統治体制に共産党員を含めるよう義務づけた。これにより中国の国営企業は、中国共産党の党書記を取締役会議長に任命し、党委を設置して共産党の活動を推進し、政府の政策を推し進めていかなくてはならなくなった。

中国共産党中央弁公庁は2020年9月に報告書を発表し、中共中央統一戦線工作部(UFWD)に対し、民間セクターで共産党の思想と影響力を広めるよう命じた。そこに盛り込まれていたのが、企業統治のあらゆる側面に党の指導を統合させることだ。

中国証券監督管理委員会(CSRC)は2022年夏から、外資系金融機関にも党委設置を義務付けるべく動き始めた。中国企業に設置される党委は、労働組合としての役目をもつが、一方で、企業幹部に党員を送り込むための手段にもなる。中国共産党の狙いは、民間企業を支配下に置いて連携し、国家目標を確実に達成させることのようだ。
次ページ > 西側の企業は決断しなければならない

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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経済・社会

2023.03.09 13:00

米国の対中国「半導体戦争」が激化 日本とオランダが加勢

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米国が中国の半導体製造業に対して続ける「戦争」が、新たな段階に突入した。米政府は昨年、半導体の国内生産を促進する「CHIPS法」を成立させ、中国に対し最初の一打を放った。同法は、半導体メーカーが国内で事業を設立・拡大する際に多額の補助金を提供し、中国への先端半導体と半導体製造装置の輸出を禁止するものだ。そしてこの1カ月間で、対中措置はさらに強化された。

米政府は、バイデン大統領が人工知能(AI)、量子コンピューター、5G、そして先端半導体といった中国のハイテク産業に対する米国からの投資を全面的に禁止する大統領令を間もなく出すことを示唆している。一方、日本とオランダは、米国と足並みをそろえ、中国への半導体や半導体製造装置の輸出を制限することで合意した。

オランダの決定は特に重要だ。オランダは世界で唯一、極端紫外線(EUV)リソグラフィ技術を用いた半導体製造装置を生産している。おそらく、今後も旧式の深紫外線(DUV)リソグラフィ装置の一部を中国に売り続けるだろうが、EUVに関する決定は中国政府の鋭気をくじくものだ。

今回の措置には、単に圧力を強めるだけではない新しい動きもある。これまでの対中輸出制限は人民解放軍との関係が明確な事業を対象としていたが、今回の措置はより全般的なものとなっているようなのだ。ただ中国の場合、商業と軍事を切り分けるのは困難ではある。

効果が出るまでしばらく時間がかかるだろう。日本とオランダは、輸出制限を実施するための法的整理に数カ月かかるとの見解を示しているが、関係企業は即時順守の意向を表明している。影響を受ける企業は、日本ではニコンと東京エレクトロン、オランダではEUVとDUVの半導体製造装置を生産する世界唯一の企業であるASMLだ。同社のピーター・ウェニンク最高経営責任者(CEO)は、同社の売上高の約15%が影響を受けることを認めている。

もちろん、これらの措置が中国を抑止するとは誰も思っていない。ウェニンクは、禁輸措置が中国を減速させるとの見方には同意しつつも、中国にはいずれ自前で機器を作れるだけの技術力があることは確かだと考えている。過去の例を見ると、そもそも中国はその準備を進めていたのだろう。

もし米国、日本、オランダの新たな措置が中国の野心をくじくことができないとすれば、この3カ国を含む他国による最近の措置は、より普遍的なメッセージを中国の指導部に送ることになる。そのメッセージとは、他の国が開放的な貿易政策を取っているのにもかかわらず、中国政府は他国を出し抜く戦略を推し進めてきたことを、貿易相手国がようやく認識したということだ。中国が技術や知的財産の完全な窃盗を含む不公正な貿易慣行を続けていることに、他国は反発している。そしてこれらの措置は何よりも、米国が欧州やアジアの同盟国と共に、かつて中国との経済関係や貿易で取っていた開放的な姿勢を、今や完全に放棄したことを明確に示している。

世界各国が過去に取ってきたアプローチは、中国の発展加速に大きく貢献した。しかし今や、オープンな敵対関係とは言わないまでも、競争関係に移行したことで、中国はこれまでなかった足かせをはめられる。中国政府は、すべてを自分の思い通りにしようと焦るがあまりとってきた行動の明らかな代償を背負っていかなければならない。

forbes.com 原文

翻訳=Akihito Mizukoshi・編集=遠藤宗生

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北米

2023.03.09 12:00

TikTokに中国向け「バックドア」が存在、内部告発者が証言

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中国のバイトダンスが運営する短編動画アプリTikTokの使用を制限する動きが高まる中、対中強硬派として知られる米共和党のジョシュ・ホーリー上院議員は、ジャネット・イエレン財務長官に宛てた書簡の中で、匿名の内部告発者の証言を引用した。

同議員は3月7日付けの書簡で、TikTokとバイトダンスの中国を拠点とする社員らが、米国人のデータにアクセスすることを防ぐための制限は、控えめに言っても「表面的」で「まったく存在しない」に等しいと述べている。

8日のニュースサイトAxiosが最初に報じたこの書簡の中で、TikTokの匿名の元従業員は、同社の社員らが中国と米国のデータを簡単に切り替えることが可能で、TikTokのアプリには中国人エンジニアがアクセス可能なバックドアが存在すると証言している。

さらに、米国のデータにアクセスする際に用いる、Aeolusと呼ばれるツールは、管理者とデータセットの所有者のみの承認があれば使用できると元従業員は主張しており、中国在住のエンジニアが中国以外のデータセットをバックアップし、分析するのをその場で目撃したと述べている。

昨年9月の議会でTikTokのCOOのバネッサ・パパスは「当社は誰が、どのようにデータにアクセスするかを厳格に管理している」と証言した。しかし、内部告発者の主張は、彼女の証言と食い違っているとホーリー上院議員は述べている。

TikTokは、フォーブスに宛てたEメールで、内部告発者の主張を否定し、元従業員が言及したツールは「データの分析」のためのもので、データに直接アクセスすることはできないと述べた。また、エンジニアは米国で管理・保護された米国人ユーザーのデータセットにアクセスできないと主張した。
次ページ > 高まり続ける疑惑

編集=上田裕資

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経済・社会

2023.03.07 16:30

徴用工問題の解決、米国は日韓に何をやらせようとしているのか

Photo by Demetrius Freeman/The Washington Post via Getty Images

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「日韓による本日の(徴用工問題を巡る)発表は、米国の最も近い同盟国である両国による協力とパートナーシップの新たな章の始まりだ」。米ホワイトハウスが現地時間の5日付で発表した、バイデン大統領の声明だ。「待ちに待った」という感情があふれ出すような、大統領のコメントだと言って良いだろう。

徴用工問題などにより、当時の韓国の文在寅政権と日本政府との関係が冷却化するなか、米国はこれまで散々苦労して、両国の関係を修復しようとしてきた。外務省局長級や次官級、外相、首脳レベルに至るまで、「イヤイヤ」をする日韓両政府の手を引っ張り、日米韓3者協議を何度も繰り返した。

努力していたのは、米国務省だけではない。在韓米軍や在日米軍は、朝鮮国連軍の基地も兼ねる在日米軍基地に韓国の軍や国会議員らを招き、日米韓安保協力の重要性を説いていた。

昨年6月、訪日したラカメラ在韓米軍司令官は関係者に対し、日米安保条約の事前協議制度があるため、在日米軍を韓国に派遣するためには日本の理解が欠かせないことを強調した。同時に、韓国が拒めば、日本は在外邦人を救出する自衛隊を韓国に送れない点も指摘した。ラカメラ氏は「日韓が対話して、お互いにもっと多くのことを知るべきだ」と語ったという。

こんなに汗をかく米国に対し、日本のなかでは「こんなに日本と韓国のことを考えてくれて、ありがとう」という人から「日韓安保協力なんて要らない。余計なおせっかいだ」と怒る人まで、様々な意見があるようだ。

でも、間違えてはいけないのは、米国は自分の国益のために動いているという事実だ。米政府には、ジャパニーズ・アメリカンもコリアン・アメリカンもいるが、彼らは祖国である米国のために忠誠を尽くしているに過ぎない。
 
米国が現時点で「日韓関係の改善」が必要不可欠とする政策課題は大きくみて、2つある。一つはサプライチェーン(供給網)の再編、もう一つが安全保障分野での「統合抑止」(integrated deterrence)、だ。

バイデン政権は、米国やロシアなど権威主義陣営に頼らないサプライチェーンの構築に邁進してきた。その象徴が半導体だ。バイデン政権は昨秋、中国向けの半導体輸出規制の強化策を発表。今年2月24日には、ロシアの防衛産業を支援したとして、中国企業を含む約90の企業を半導体などの輸出規制の対象に指定した。

そんな米国が不満を抱いてきたのが、日本の韓国向け半導体素材の輸出管理措置だった。日本が19年夏、この措置に乗り出した当時、米国政府関係者は「サプライチェーン再編で忙しいのに、日本と韓国は内輪で何をもめているんだ」と怒っていた。
次ページ > 米国はこんな居心地のよいポジションを放り出したくないだろう

文=牧野愛博

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