レジェ・クシオにはハルマゲドンの作戦に必要な小規模研究施設のようなもの、レジェ・クシオ自体の都市機能維持のための施設、統一議会場や裁判所などがありますが、全体から見ればほんの一部を占めているにすぎません。人間社会のように、重要なものが都市に集中しているわけではなく、逆に大事なものほど他のメギドから隠すため、レジェ・クシオとは違う場所に用意されているのです。また、メギドたちにとって軍団とは人間社会の会社のようなものに相当しますが、レジェ・クシオに社屋のようなものはほとんどありません。メギドの軍団というのは、基本的にはホームレスなのです。
レジェ・クシオに専用の居住スペースを持っているのは限られた者だけになります。たとえば議会を運営する者たちはあまりレジェ・クシオからは出て行かないので、ある意味仕方なく専用の居住スペースを持つのです。またダゴンや有力なメギドたちは、軍団を収容できるほどの広大な専用スペースを与えられています。これも権力があるから得られたというより、議会に深く関わっている軍団だからレジェ・クシオに縛り付けられていたと考えるほうがメギドたちの感覚に近いです。
大部分の、普通に戦争しているメギドたちは用があるとき以外は寄ってこないので、実はレジェ・クシオの建物の8割以上は「必要に応じて役割を作るフリースペース」、つまり公共の空き家です。
統一議会中は、それらのほとんどが外から来た者たちが滞在するための、即席の居住施設になります。いわゆる宿ですが、ヴィータ社会の宿とは違い、早い者勝ちで空いているところを探して勝手に入り込みます。面倒なのでレジェ・クシオを運営する組織(議会とは別にそういうものがあります。フリアエの所属する裁判所もこちらの管轄になります)も、いちいち届け出のようなものを求めてきません。軍団単位で建物に入り込んで抑えている関係上、あまり表沙汰にはなりませんが、スペースを巡って軍団同士の戦闘(武器を持たずヴィータ体のまま格闘する、つまりケンカ)が頻繁に起こっています。そうしたいざこざは当事者間で勝手に収束しますが、役割が決まっている場所、あるいはレジェ・クシオ定住者の専用スペースに外部の者が侵入した場合は深刻なトラブルになります。外から来た者たちにもわかりやすいよう、そうした役割を持つ建物は、外観や区画によって分けられています。
レジェ・クシオには商業施設のようなものはありませんが、最低限ヴィータ体の機能を維持するための食事を提供する場所があちこちに用意されています。そこは一貫して用途が定められた施設で、外から来たメギドも気楽に入ることができる場です。そこそこ広いですが憩いの場とは言い難く、基本的に食べるものを食べたらすぐに出ていくような場所です。そこでは戦闘で使えなくなった幻獣や獣、適当に拾ってきた植物をどろどろに煮た、はっきり言ってかなり不味いものを提供しています。メニューはありません。それぞれの場所で、それぞれに作られた微妙に違うものが出てきます。
他に、外から来る者はほとんど知りませんが、レジェ・クシオにずっと居住している者や外で活動する傍らおいしいという感覚に目覚めたメギドたち有志による運営で、秘密の食堂がいくつか存在しています。その食堂では、簡単ですが一応味のついた料理と言えるものが出てきます。ただしメニューはありません。
ヴィータ体の機能を維持するためといえば、ヴァイガルドでは医者の類が必要ですが、メギドラルではそうしたメンテナンスは個の問題と割り切られています。よってレジェ・クシオ内に医療施設はありません。その代わり、メギドの力を使ってもよい特別解放場が用意されています。これは監視付きの体育館のような施設で、そこを利用することで一時的にメギド体に戻って自分を治癒する、あるいは各軍団や、定住メギドの中にいる回復機能を持つメギドに力を貸してもらう(劇中でもソロモンを助けようと名乗り出た者たちがいます)、というのがメギドたちの日常感覚です。
レジェ・クシオの中には、外からいろいろなものを持ち込む者が大勢います。そうした物品の提供場所として、空いている建物の中で突発的に商店のようなものが作られることがあります。そのような商店はレジェ・クシオの管理側からはグレーゾーンギリギリなので、場所を特定せずゲリラ的に開催され、ある程度の時間で閉じられます。品物が少ない場合は1人で露店のようなことをやるメギドもいますが、これはメギドラル的には相当危ない行為です。ただ、統一議会前後はメギドが多く出入りするため、商店は飛躍的に増え、管理側もあえて無視することが多くなります。
商店の中で特に多いのが、武器屋に相当するものです。武器の所持や持ち込みはレジェ・クシオでは特に制限されていないので、ここで変わったものや掘り出しものを求めるメギドも多いのです。ときには、武器や道具を作ることを専門にしているメギドが出品していることもありますが、多くは軍団の一員が死んだときに残したものを処分するためのものです。これらは同じ場所で同じ時間にあるというものではなく、たまたま空いている場所を見つけたメギドがたまたま処分したいものを出品しているだけなので、知らないと行けないし、たまたまそれを知るという機会もそうあることではありません。ヴィータの街のように、ここには店があるというような導線が用意されているわけでもありません。情報源は口コミだけです。それでも、なぜか武器や道具の類は多くのメギドたちに行き渡っているようです。
トイレだけは、ヴィータ体の生活に必要なものなので多数の施設が用意され、案内のようなものまで出ています。身体から出されたものは、すべて地下で処理されます。そこには特別に行動を許された虫のような幻獣がいて、出されたものを自身の分泌液で固めて巨大なゼリーのようにしてしまいます。それを一か所に運んで、まとめて分解してフォトンを取り出し、残った残骸は自分で食べたり繁殖に利用したりします。
ここで取り出されたフォトンは、別の幻獣を経由して仕事を任されたメギドに渡されて議会へと運ばれますが、そこで大部分は携帯フォトンとなって再利用されます。それらは主に議会からの補填や報酬として分配されます。実は、マラコーダから受け取ったソロモンたちの携帯フォトンは、もとはと言えばそのように作られたものだったのです。このことは8魔星マモンも含めてメギド72のメギドたちは誰も知りません。