【2022年メギドの日】メギド質問箱

ヴァイガルドには方言が存在します。

地方によってイントネーションや単語の用法が異なるなど、我々の世界における方言と同じ感覚です。一方で、メギドラルにはそういう地方性による方言というものはありません。他と話し方が異なるメギドがいたとしても、それはそういう「個性」として認識をされるだけです。

生まれながらに変わった話し方をするメギドもいれば、後天的な理由（たとえば、より威厳を出したいとか、もっとカワイらしくしたいとか）で話し方を変えるメギドもいます。

まず、メギドたちがアクセサリーを身に着けるのは、「お洒落」というよりは自らの「威容」を他者に示すためである場合が多いのです。

トゲが生えていたり鋭く尖ったアクセサリーは強そうに見えるため、好んで身に着ける者が多いようです。

また、特定の強力な幻獣の体の一部などもアクセサリーとして人気があります。その幻獣を倒せるだけの実力を持っていることを言外に示せるからです。

あるいは、メギドラルでは、戦争に勝利した際に「戦利品」として敵のメギドが身に着けていた武器や装飾品を奪うこともあります。それらも、身に着けることで「俺はあの軍団に勝ったんだ」と示せる絶好のアクセサリーとなるでしょう。

共通のアクセサリーをしているメギドがいたら、それはたまたま同じメギドから奪った「戦利品」か、あるいは同じ幻獣から採取した体の一部なのかもしれません。

肌に塗りつけるような基礎化粧品の類には、ヴァイガルドにおいても海藻が使われることが多いようです。ヌメヌメわかめも使われているに違いありません。

ただ、ヴァイガルドの化粧品事情は我々の世界と少し違います。どちらかといえば原料よりも、産地や生産者のほうが気にされるのです。厳密に言うと、原料に「大地の恵み」が豊富に含まれている化粧品が喜ばれるのです。ほとんどのヴィータには大地の恵み（フォトン）が視えないので、それが含まれているのではないかと期待できそうな情報源は２つしかありません。１つはいかにも大地の恵みが豊富そうな土地、自然豊かな地で採れるものを原料に使っているかどうか（この場合、原料自体がなにかということはあまり問題にされません）。もう１つは実際に効果があった！と評判の高い生産者の化粧品かどうかです。

大地の恵みが多く含まれる化粧品ほど実際に効果が高いというのは、この世界においては当たり前の事実として知られています。フォトンの多い土地では収穫が多く、動植物すべてが活気に溢れています。そうした土地で採れるものを原料にした化粧品ならば、フォトンを扱うことができないヴィータであっても（ほんの僅かながら）恩恵を受けることができるのです。この世界においてはよい化粧品を選び、長く使い続けることで、お肌の状態を健康的なまま維持できます。

ちなみに、ヴァイガルドには化粧品を扱う企業のようなものはありません。化粧品のようなものは大抵の場合、村や有志の共同体の中でそれぞれの作り方を共有していて、さまざまな化粧品を作ることを仕事としている者がいる、あるいは一定期間で交代しながら担当者を割り当てるなどして生産しています。こうして作られた化粧品は、共同体の中で安く安定して手に入る消耗品でした。しかし腕のいい者というのはいるもので、質の高い化粧品を数多く生産できる場合、余剰分をキャラバンに預けて共同体の外でも売るようになります。

こうして、産地や生産者について評判が良い化粧品は、キャラバンの商品の中でも大変人気のものとなります。中には評判を聞きつけて、生産者の下まで遠方から買いに来る者もいます。いずれにせよ、工業的な大量生産はほとんど行われないヴァイガルドの話なので、良い化粧品を入手するというのは多少の困難（手間）が伴い、ヴィータたちを日常的な意味で悩ませる問題の１つとなっています。それが手に入らないことに腹を立て、ヤケクソになってヌメヌメわかめを直接顔に張り付けて不貞寝するヴィータの女性もどこかにはいるかもしれません。

教育に熱心な領主がいる裕福な土地では公金によって「学校」が設立され、専門の教師を外部から招聘したりしますが、そういった事例はそこまで多くはありません。

多くの小都市、村では個人の屋敷の一間や集会所などが子供たちに読み書きや町のルールなどを教える場として流用されています。「教師」も、そういった専門の人員がいるわけではなく、その時に手が空いている大人が交代で担う場合がほとんどです。 フィロタヌスはそういった集落に足を運び、自ら「教師役」を買って出て、人々に勉強を教えているのです。

また、現在王都の学校はとある事件を機に休校状態になっており、王都の学校に通っていたシャックスやマルファスはそれに合わせて休学中の扱いになっています。それ以外の地域の学校に通っている生徒は、今でも忙しい合間の時間にたまに学校に通っています。我々の世界の学校とは異なり、ヴァイガルドの学校は登校する義務などもないので、どうにかなっているようです。

ヴァイガルドにも花言葉はあります。ヴァイガルドの花言葉は、我々の世界よりももう少し日常的な意味を持ちます。

花言葉のある花を贈ることによって直接言いずらいことを代弁したり、それとなく気持ちを伝えるという使い方をされます。そのため、厳選されたキレイなものがときどき店でも売っていたりします。 モーリュの花はヴァイガルドのどこでも見ることができ、群生したり花が咲いている時期が長いことから、集団的であることの喜びというポジティブなイメージが広く浸透しています。そのため、モーリュの花の花言葉は「仲間」を意味します。

軍団への帰属意識が強いメギドたちにも、モーリュの花は人気があります。（純正メギドの場合はあとから意味を教えられることになります。メギドラルには花言葉がありません）

花言葉としては「仲間」ですが、あえてその花を贈るという行為はヴァイガルド的には「あなたを信頼している」「あなたを頼りにしている」「（集団への貢献に）感謝している」というような意味を持ちます。

このように花言葉を持つ花を贈るという行為は、日常のさまざまな状況においても意味を持つことがあります。たとえば小さな共同体では、モーリュの花をわざと枯らしたり花びらを抜いたものを相手の家の玄関前に置くことがあります。共同体の仲間としてすでに許容できない立場に近付いているぞ、という警告です。直接言ってしまうと反発されやすいことでも、このやり方だと誰が贈ったかわからないことも含めて相手に考えを改めさせる機会を作ります。死者を埋葬する際にモーリュの花を添えたり一緒に埋めたりすることにも、「仲間として共に長い時間を過ごしたことへの感謝（あるいは敬意）」という意味があります。（人によってはモーリュの花そのものを自分の代わりの「仲間」として贈るなどの解釈をする場合もあります。また、埋葬といえばモーリュの花と決まっているわけではありません。添える人の気持ちに近い花言葉を持つ花を選びます）

このように花言葉を持つ花を状況に応じて贈ることで、言葉ではないなにかを表現するという他、ヴァイガルドではそうした意味を持つ花を肖像画の中に描いたり、額縁を飾る意匠に使うこともあります。そうしたモチーフから、絵にどんな意味があるのか、作者の気持ちはどうだったのか、想像するのも展覧会などの面白さの１つとなっています。

メギストスは幻獣を求めて常に各地をさまよい歩いていますが実際に幻獣に出会えるのはそう多いことではありません。

怪物と聞いて喜び勇んで足を運べば、ただの巨大な熊だったり、蛇に飲み込まれかけていた鶏だったりしたことが幾度もあります。

そんな中、彼が最も興味を惹かれた幻獣は、ソロモンたちから話を聞いた「ミュトス」です。実際に目にして観察したいと常々思っているのですが、ソロモンたちはミュトスを所持していないので、それはかないません。

ミュトスが高速で移動することを聞いたメギストスは暇があれば遠くの空を眺めています。そして高速に飛行する物体を発見しては駆け走り（大体はツバメなどの鳥なので）、ガッカリしているようです。

彼が執筆を続ける「幻獣図鑑」には、彼自身が見たことがない、伝え聞いただけの幻獣についても書かれている場合があるのですが、ミュトスだけは自分の目で確かめてから執筆したいと熱望しており「幻獣図鑑」には「ミュトス」とだけ書かれた空白の欄が今でも存在し続けています。

王都の外れに建てられた工房になります（ダディオの工房、というわけではなくメギド７２のために王都が貸与してくれた研究開発設備という扱いです）。

房内は許可を得ていない一般人は立ち入り禁止で本来の出入口は王都騎士団によって厳重に警備されています。しかし内部はポータルでアジトと繋がっているため、「癒猫軍団（メディカトゥス）」たちはそれを使ってタムスについてきたのでしょう。幻獣である彼らが王都内に入り込むこと自体はあまり好ましいことではないのですが、「癒猫軍団（メディカトゥス）」はその性質や立場もあり特別に許可されています（さすがに工房を出ることは許されていません）。

幻獣ではありません、あれもルシファーの一部です。

メギド体からヴィータ体になるとき、なぜか身体の一部が余剰分として飛び出してしまうようです。それがあの幻獣のような物体（？）で、ルシファーもどう説明していいかよくわからないようです。ルシファーにとっては、普段使わない身体の一部を切り離して傍に置いてあるだけ、という程度の認識です。ルシファーがメギド体になっている間は一体化しているらしく、どこにも姿が見えなくなります。

意思のようなものはなく、ただルシファーにくっついてふわふわ浮いていて、時々動きを真似したり興奮したような動きを見せたりしています。ルシファーがなにかを命じても動きませんし、あちらからなにかをしてくれることも一切ありません。ルシファーの意識とは同調せず、かといって独自の意識も持たないようなので、（今のところ）なにかの役に立つということはありません。

傍から見るとちょっと気になる存在ですが、ルシファー自身はこれをほとんど意識していません。イタズラ好きのメギドが勝手に持ち去ってどこかに隠したとしても気付かないほどです。たとえ持ち去られてもメギド体に戻ればまた一体化するので、そこからまたヴィータ体に戻ればすぐ近くをふわふわ浮いています。一見マスコットのようですが、ルシファー自身の意識では自分の一部でしかないため名前などは付けていません。それを聞いたソロモンは、せめて名前くらい…と一生懸命考えています。

発生の由来から幻獣と大きく一括りにしていますが、実際には寄生生物レベルからドラゴンレベルの超生物まで多種多様なものが存在します。当然、ちょっと種族が違うだけでかなり極端な知能差があります。

頭がいいと分類されるような幻獣たちの中でも、さらに細かく知能差は存在します。それに加え、言語を習得する環境にいたのかどうかも結果に大きく関係します。カタコトしか話せないような幻獣は（そもそも話せるというだけで幻獣としてはかなり知能が高い部類なのですが）、もともと他種族と意思疎通できるような言語に触れる機会があまりなかったのです。野生の暮らしでは「ガウ」とか「ガウガウ」とかだけでなんとなく伝わって会話の必要がなかったのに、マグナ・レギオに捕まって軍団から部下として扱われるようになったため、急に言語を学ばされた場合にはカタコトしか話せない幻獣になります。それも、カタコトで話せるのは優秀な個体だけで、種族全体的には相手の言うことを理解するのがやっとという場合がほとんどです。言語を無理やり覚えさせたり改造されて会話できるようになった幻獣は、言語能力と本来の知能がアンバランスになっていることが多いです。

バンキン族やセタンタはかなり特殊な幻獣で、そもそも知能がずば抜けています。道具を使う、それなりに物事を考えられるなど、元の種族自体がかなり優秀なのです。それに加え、彼らには幸運だったという共通点があります。幻獣と気さくにコミュニケーションを取ってくれるメギドと出会えたことです。バンキン族やセタンタはその機会を生かして学習してきたから、あのように親しみのある会話ができるのです。

幻獣とは、本来メギドラルにいないはずの生物です。メギドラルで自然発生した動植物とは全く別の存在で、元からある生態系には組み込まれていない異物です。

外来生物という言葉がありますが、それを次元的に拡大した意味での外来生物が幻獣です。それも、三界（輝界、臨界、宵界）のいずれでもない世界からの侵入者なのです。

侵入方法も独特で、メギドラルの動植物のみならず、命のない無生物まであらゆる物質を媒体にして発生します。発生した幻獣は原種となり、生物の一種としてメギドラル内で繁殖して数を増やしていきます。そしてメギドラル内のフォトンを貪り、どこかへ運び去って深刻なフォトン不足をもたらしています。また、自然発生したゲートを通じてヴァイガルドにも侵入し、そちらでも別種として繁殖するなど急激に生息範囲も大きく広げています。

メギドもまた幻獣同様に、本来のメギドラル生態系からは独立した生物です。メギドは幻獣をメギドラルから駆逐するために発生したカウンター生物で、幻獣発生のプロセスを乗っ取る形でメギドラルに生まれてきます。メギドが一個体一種族であり、何らかの生物進化の結果ではない超個体なのは、幻獣の原種を依り代としているためなのです。（ただしメギドたち自身は、メギドになり損なったものが幻獣だと逆の認識をしています）

メギドと幻獣は、前振りもなく世界に突然発生した存在なので、メギドラルの生態系からすれば異物以外の何物でもありません。メギドラルで普通に自然発生した動植物とは根本的に違うものなのです。メギドと幻獣は、他の生物が持つ進化系統や分類からは完全に独立しており、繋がりは一切ありません。単独発生の生物です。見た目がいかに生物的であろうと、既存の動植物に似ていようとも、本質的にはまったく別の存在なのです。

尚、メギドラル固有の生物は傾向的に巨大で攻撃性の強い生態を持つことが多いため、一般的なヴィータが関わった場合は単純に危険です。ヴァイガルドの生物同様に食べられるものは多いかもしれませんが、狩りや採取をする段階で命を落とすことも多そうです。またそこまでのリスクを負うほど、メギドラルの動植物がヴィータにとって美味しいということもありません。

変わった修練といえばニバスです。戦闘ではなく芸の修練、というだけではありません。

ニバスにとっては笑顔をうまく見せることや、口上を繰り返して完璧に覚えることまで含めて修練なので、何も知らない者からはなんの意味があるかさっぱりわからないのです。大抵のメギドは単純な戦争脳なので、修練といえば武器や肉体を駆使して模擬戦を繰り返すというものになります。鏡に向かってニコーッとするのを繰り返したり、１人中庭でパントマイムの練習をするのは、芸をよく知らないメギドからは少し不気味にすら思えるのです。

また、オリエンスは模擬戦用の弾をちゃんと作っているのですが、撃たれればそこそこ痛いし一方的なのでみんな嫌がってあまり相手をしたがりません。そこでオリエンスはアジトの外に木製の的を作って、そこに弾を打ち込むという修練をしています。この修練はのちにマモンやネビロスも参加するようになりました。

その後の進展はありません。フルカスの部屋は相変わらず拷問器具でいっぱいです。

ベッドの上にまで物騒な拘束具や、鉄の仮面などが置かれており、寝る時は体を横向きにしなければいけないほど侵食されています。見かねたアラストールが一部の器具を引き取ろうとしましたが、フルカス自身はインテリアとして気に入っているためそれを断りました。

夜、食事を終えてみなで談笑していると、それまで楽しそうにしていたフルカスが唐突に表情を曇らせ部屋に戻ってしまうことがあります。そんなとき、フルカスはいつも部屋の拷問器具のどれか（大抵は拘束用の椅子です）に腰掛け、何かを思い出すように天井を眺めているそうです。

アジトに来た最初の頃の悲劇です。

加減が分からず、自分の料理に辛くなる粉を大量にかけてしまいました。アイムに交換しましょうか？と聞かれたマスティマは、それではこの料理が捨てられてしまう、それはさらなる悲劇なのだと言い張って涙目になりつつも完食しました。たしかに悲劇でしたが、食べ終わったマスティマはその場の者たちから拍手を受けたので、結局はまんざらでもなかったようです。

また、バルバトスが気まぐれに披露した悲恋話にひどくダメージを受け、「なんという悲劇！」と叫ぶと部屋に閉じこもってしまいました。バルバトスによれば思春期の子供でもあそこまで感情移入しないということでしたが、創作としての悲劇に馴染んでいなかったマスティマにとって、その内容は想像をはるかに超える悲劇に思えたようです。しかしたまたまアジトに現れたヴェルドレが同じ話を聞いて、失恋なんて三日三晩酔っぱらいながら踊り明かしたら忘れちゃうわよとどんちゃん騒ぎを始めると、ようやく部屋から出てきて笑顔を見せました。ただし今度は慣れないお酒でひどい頭痛になり、部屋に閉じこもってしまいました。なんという悲劇。

他には、悲劇なのかどうかわかりませんが、なぜかフルーレティが作家名で呼ばれるとビクッとします。理由を尋ねても、悲しそうな顔をするだけで詳しいことは話そうとしません。

人気なのは揚げ物です。

焼く、煮るなどの単純な調理法はメギドラルでも行われることがあるため、純正メギドたちもそこまで驚きはしません。しかし油で揚げるという行為は独特で珍しく感じるのでしょう。特に素揚げではなく、穀物の粉を衣にして揚げた物や、砕いたパンを衣にした揚げ物は食感もよく人気があります（純正メギドは味よりも食感を重視する傾向があるようです）。

あまりに揚げ物を気に入り過ぎて、なんでも揚げればおいしいのではないかという試みが「食事班」で行われたこともありました。意外にも評判が良かったのはプリンです。素揚げにするとトロけてしまうのですが、アミーの発案で衣に包んで揚げることで絶品のスイーツになりました。逆に最も評判が悪かったのは魚卵です（誰の発案かは伏せておきます）。

これまで大きなトラブルがあったことはありません。

楽器などをつい触ってしまい、音を出してしまうメギド（主にアスラフィルとアバラム）、突然気分のまま歌を歌ったりするメギド（主にバルバトスとロキ）の隣部屋は、最初からトラブルになりやすいと判断されて現在も空き部屋になっています。もっともそれが始まると隣部屋だけの騒ぎではないので、近くの部屋で我慢できない者はみんながいる下の大広間まで降りてきて時間を潰します。

トラブルエピソードではありませんが、タナトスが部屋を選んだ経緯は少しアジトで物議を醸しました。タナトスは、かつてアジトが騎士団の詰め所として使われていた時代、「中で誰か死んでいたのが発見された部屋」がないかどうか、わざわざ王都の記録を調べてもらっているのです。その上で、ここがいいと部屋を選んだということは―― 軍団員として部屋をもらっただけで、タナトス自身はあまりアジトにいないタイプなのですが、興味本位で空き部屋だった隣の部屋にフルーレティがひと晩住み着きました。そしてタナトス不在にも関わらず「隣からたしかになにかの気配と物音がした」と言い出したのです。いやそれは忍び込んだグリマルキンだろ、いやインプじゃね？違う上の部屋の音だ、違う逆隣と間違えたんだ、いやぁぁぁ！怖い、怖いですぅ、オマエそれ小説のネタだろ！？と、大広間ではしばらく盛り上がったようです。

ついでに隣部屋関係ではないのですが、グリマルキンが猫の姿で勝手に入ってきていつの間にかベッドで寝ているという苦情、というかこれどうしたらいい？という報告が、時々ソロモンの下に届くことがあります。

アジトでもし運動会が開かれるとしたら――

メギドはお祭り騒ぎが好きな者が多いので、全員ではないですが参加者は多いはずです。軍団内を２チームに分け、模擬戦争という形でいくつかの競技を行い、総合的に勝敗を競います。

競技はいろいろ用意されると思いますが、ヴァイガルドのような世界のものであることを考えると、現代的なものよりもちょっと大掛かりかつ乱暴で危険なものが多くなりそうです。例えば、ザガンの本職である競技やガープの奴隷時代の競技のように、暴れる動物を使ってなにかをするというのがあると思います。

ある程度の広さのある囲いの中に、両チームから選り抜きが１０名ずつ参加します。そこに興奮した牛が放り込まれて、一定時間逃げ切って最後まで立っている者が多いチームが勝ち（子供は参加禁止）というような競技はいかにもありそうです。牛を興奮させて相手チームの者のほうに誘導するなどは自由、ただし牛や相手チームの者を直接攻撃するのは禁止、囲いの外に出るのは禁止、牛に突き飛ばされたらダメージに関わらず即退場というルールです。メフィストやザガンは出たがると思います。何人残るか、密かに賭けも行われそうです。 他には大きな豚に乗ってゴールまで競走するというレースもありそうです。こちらは体重の軽いセーレや馬を乗りこなすグラシャラボラスが出たがると思います。どの番号が一着か、密かに賭けも行われそうです。

騎馬戦のようなものも行われると思います。ただし、よりハードです。３人が手を組んで土台となり、上に１人誰か乗る、までは同じような感じですが、木製の武器を持ちます。そして同じく木製の鎧を纏います。見た目にはハリボテの巨人のようになった異形の戦士が、上に乗った１人を叩き落とすまで戦闘します。両チームから３組ずつ出場し、どちらかが全滅するか一定時間まで戦います。ハックは土台側の正面に、マルチネは上の乗る者として名乗りでそうです。同様にバロールやモラクスも名乗り出ると思います。筋肉や総重量で強さが決まる、本気の肉弾競技です。どの組が一番強いか、密かに賭けも行われそうです。

一応お祭りのようなものなので、コミカル路線もあると思います。競技の合間にはニバスの芸や、ベバル、アバラムを始めとした音楽隊の演奏などで和ませます。その裏ではうめき声を上げる怪我人にバティンが罵声を浴びせながら治療を施します。この辺りで参加者の間にお酒も回りそうですね。

普通の運動会らしく、最後は玉入れのような競技で締めるかもしれません。この玉入れは、両チームから選出された逃走役の担いだ籠目がけてみんなで玉を投げ入れるという競技です。ただし玉は荒縄を丸く固めた頑丈で少し重量のある玉です。籠に入るほど重くなり、逃走役の動きを鈍らせます。さらに、この玉は逃走役に直接ぶつけても相手チームの者にぶつけてもいいのです。最終戦争の始まりです。大抵この競技は、逃走役が潰れて動けなくなり、戦意を失って座り込む者が多い中、最後まで立って籠に（もしくは倒れたままの逃走役に直接）玉を投げつける者が多いチームの勝利と判定されます。ヴァイガルドなので、ルールもちょっといい加減で乱暴なのです。この段階で、賭けもうやむやになってきます。

ちなみにソロモンは競技に参加できません。確実にシバが見に来ているはずなので、その接待役という名目で、参加メギドたちが本気で暴れられるように密かに配慮されます。

可能だと思われます。

追放メギドやアルスノヴァ血統は、メギドの塔が造られた時代には全く想像できなかったものです。これらの要素が、塔の内部で制限されているなんらかの条件を一気に覆す力になることは十分ありえます。

ただし、予測不能の結果になる可能性も高いので、実際に試すのはリスクが高すぎると判断されます。最悪、ソロモンの指輪が壊れるか、指輪自体が失われてしまうかもしれません。もしそうなった場合、たとえソロモンが生きていても、追放メギドたちの力を解放することができなくなってしまいます。それはヴァイガルドを守るための力が大幅に削られるということです。メギドの塔になにがあるのかはわかっていませんが、防衛のための切り札を賭けてまで手に入れるべきもの（あるいは情報）とは思えません。

賢明な軍団のメギドたちや、王都のシバやガブリエルは、そういったリスクの高い行為を許しません。可能かどうか試してみようという話自体はあったかもしれませんが、実行されることはまずないと思います。

基本的にはできません。

召喚されるということは、契約するということです。契約するということは、相手側から提示された制限を受け入れるということです。ソロモンの許可なく変身することはできない、指輪からなんらかの干渉があってしたくてもできないというのが基本的な状況です。

ただし本人の意気込みによっては可能だろうということは予測されています。柵を無理やり乗り越えたり、鍵のかかった扉を力任せにこじ開けるような、感情に任せた内なる力で制限を破るのです。その瞬間護界憲章によって粛清されてしまう可能性も高いのですが、そうなる場合とそうならない場合を分ける場合があるかどうか、またその条件のようなものについてまではなにもわかっていません。ですから、意識的にそれを試すのはかなりのリスクが伴う、ということは純正メギドたちもちゃんとわかっています。

仲間になった経緯によっても違いますが、ソロモンは仲間のメギド体を戦闘中に初めて見たといった場合が多いです。

そのときそのメギドの真の姿だけではなく、身体の大きさにも驚いたということはあります。

ただあまりにメギド体が大きい場合は、仲間本人から予め警告を受けているのでソロモンの側で変身の状況を配慮します。ただ純正メギドの中には、そういった配慮を忘れてなにも警告を出さないままでいた者がいたため、狭いところでメギド体に変身させられてしまったことがありました。そのときは天井に頭をぶつけて、なにも攻撃できないまま元に戻ってしまいました。

ソロモンとしては一応、戦闘メンバーを選ぶ際にある程度ロケーションを考慮に入れて存分に活躍できるメギドを選んでいるようです。そのおかげか、天井に頭をぶつける以上に想定外のトラブルには遭ったことはありません。

特別好きというほどではないですが、普通程度に歌は好きです。

照れなどもあるので、人前では自分で歌うよりも上手い人の歌を聴いているほうが好きです。ただ１人でリラックスしているようなとき、気分が乗っているときは自然と知っている歌やメロディを口ずさんでいることがあります。

また人前でも誘われれば、場の空気にもよりますが大抵は断らずに一緒に歌います。ソロモン本人は周囲に歌の上手いメギドが多いせいか、特に練習もしてないような自分の歌を人に聞かせるのがちょっと恥ずかしいと思っています。

シバとの仲介以外ではほとんど接点がないように見える２人ですが、王都で一度危ないところを助けてもらったことがあります。

助けたのはルネ、助けられたのはソロモンです。

ガラの悪い酔っ払いたちが、人通りの少ない道でゲヘゲヘ笑いながらソロモンに絡んだ末に、無理矢理ソロモンの指輪を取り上げようとしたことがあったのです。その酔っ払いは王都に住んでいましたが、メギドやソロモン王についての情報に疎かったので、ソロモンのことを子供のクセに派手な指輪をしてイキってる半端な流れ者だと思ったのです。ソロモンのほうでも、王都というシバの目が行き届いた街でそのような絡まれ方をするとは思っていなかったので、１人でフラフラ歩き回っていたという油断した状況でした。

ソロモンが指輪を渡すまいとするほど酔っ払いたちはムキになり、暴力を振るってでもこの派手な指輪を取り上げて悔しがらせてやると掴みかかってきたとき、バーーーンと派手に扉を開けてすぐ前の店から出てきたのがルネでした。ルネはたまたまシバのお使いで、その道にあった小さな店を訪れていました。そして店の中からソロモンの様子を見て、ピンチになったのを見かねて飛び出したのです。ルネはびっくりして固まっているソロモンと酔っ払いたちの前ですうっと息を吸い込むと、「皆さーーーーーーーんっ！！なんと、酔っ払いが大勢で金目の物を奪おうとしてますっ！大変です、騎士団をよんでくださーーーいっ！」と大声で叫び出しました。突然の大声と騎士団という言葉に我に返った酔っ払いたちは、捨てセリフも忘れて一目散に逃げ出していきました。こうしてソロモンはルネに助けられたというわけです。ちなみに後日、ソロモンは助けられたことのお礼として、メギドへの贈り物に時々作っているアイスピュアベリーをプレゼントしました。

数字には特に意味はありません。

ソロモンもメギド自身も、その数字を知りません。

ただ、祖であるかどうかについては軽く意味があるようです。

昔は大らかだったので、テーブルを囲んで一定間隔で座るような話し合いではありませんでした。

みんな、リヴァイアサンの上に腰掛けたりフラフラ飛び回っていたりと思い思いに寄り添っていたのです。いちいち大きな声で叫ばなくても、聞こえる範囲になんとなく集まっては、あーでもないこーでもないという議論に明け暮れていました。興味がなければ少し離れるし、飽きれば勝手に帰るし、並列で別の話を始めるなど、あまり会議という形式には収まらない、自由な異世界の話し合いだったのです。

ただ議論がヒートアップすれば大声も出ましたし、なんなら海水を掛けられたり触手で締め上げられたりといったこともあったようです。

基本的にメギドたちは意思疎通を大事にしますが、会話というのは手段の１つでしかないとも考えています。そもそも戦争だって逆のベクトルで意思疎通の１つです。

メギドの中には声帯を持たないタイプもいますが、そういう者は体表を振るわせて疑似的に声を出したり、ジェスチャーを駆使するなどしていました。眼球を持たなければ触って確かめる、エコーロケーションで知るなど、各々が独自に意思疎通のための工夫をするのです。メギドには１個体１種族という考え方がまずあるので、「同じ会話能力がある」ということ自体、前提でもなんでもなかったのです。言葉で会話できるというのは単に多数派であるというだけで、本来ならメギドは個体によって表現手段が違うのは当たり前なのです。それよりも表現された内容、根底になにがあるのか、どういう意思なのか、ということをいかに知るか、いかに伝えるか。そうした姿勢があるため、メギドたちは議論好きが多いのです。

ただ、メギドラルの社会が複雑化するにつれて、次第に「共通の手段を持つ」ことが尊ばれるようになりました。今ではメギドたちがみんなヴィータ体を取ることが普通になっているのは、その「共通フォーマット」のあまりの便利さに依存してしまっているからです。ある意味では、それはメギドそれぞれの個から表現の追求や本質を探る思想を遠ざける結果となってしまっています。便利さと引き換えに、メギドたちが本来持っていた、それぞれが全然違う１個体１種族という魅力は薄れ、大して違わない薄味の個がただ群れているという社会にシフトしつつあるのが現状です。

サタンは犬が好きですが、すべての犬が同じように好きというわけではありません。

かつてメギドラルに迷い込んだ、とある犬がいました。それは黒い犬で、サタンにとって特別な意味で好きな犬というのはこの個体なのです。この犬は、サタンの後を付いてくるようになったあと、あちこち匂いを嗅いで調べ回ったり、保護下にあると思いきやときどき遠く離れてどこか冒険してくるのを繰り返していました。この迷い込んだ黒い犬が、現在の黒い犬の原型になったことは間違いありません。

また、サタン自身がメギド体よりヴィータ体を多く取るようになったとき、その両者の内面に違いはあるのだろうかと考えたことがあります。サタン自身の答えは、「違う部分は確実にある、問題はそれを己の拡大に繋げられるかどうか」だということでした。そしてヴィータ体になって新たな考え方、感じ方を得られるなら、ヴィータ以外の姿を模倣したらそれはまた別の感覚を得られるかもしれないという発想に至りました。

黒い犬という存在は、サタンのそうした経験と思想に基づいて生み出されたものです。サタンは、メギドにとって黒い犬はよい経験だと考えています。犬の姿で異世界をさ迷い、他のメギドにはない知見を得る。そうして黒い犬の姿を捨てるとき、そのメギドは極めて優秀な者となるだろうと。黒い犬はただの間者ではなく、サタン直属のエリート養成組織でもあるのです。

黒い犬は、外見だけが犬で中身はメギドです。サタン自身は、犬や動物をそのまま配下として使うことには賛成しません。しかしメギドの中には、幻獣ではなくあえて動物を使おうとするメギドもいます。メギドたちの多くは幻獣に強い不信感を持っています。そんな中、たまたま懐いた動物というのがいれば、それを気に入って身の回りに置くメギドは少しはいます（ペットのようなものです）。そこから、その動物が役に立つと見込めば、一緒に戦ったり届け物のような仕事を頼んだりすることもあります。また、仲の良い特定の個体ではなく、動物そのものの習性や能力を生かし、戦術的に運用するということもありえます。ただし動物はメギドや幻獣に比べて遥かに戦闘力が低く、寿命も短くすぐ死んでしまうため、実際の例としては決して多くないと思われます。

戦術によって交友関係が固まるということはあまりなさそうです。

楽器持ちのメギドたちは単に同好の士というか、合わせたほうが練習になるので一緒にいることが多いだけです。趣味が同じなら話も合うし、自然に仲が良くなる…という現象に過ぎないと思います。

そもそも寝るのが好きという共通点のあるフルフルとアロケルですが、特別仲がいいということも同じ戦術を駆使している様子もありません。結局は趣味が同じだろうと戦術が同じだろうとそれは切っ掛けに過ぎず、仲良くなる者は自然と仲良くなってるだけだと思われます。

最近はニスロクの真似をしてるつもりなのか、ちょっとだけ手の込んだ悪夢を作り続けています。

・マッシュポテトを冷やしたスイカの汁に浸したものを作りました。

・膨らませたシュークリームの皮の中に、トマトの中身のどろっとした部分だけを取り出して絞り入れました。クリームは入っていません、トマトの中身だけです。（シュークリームの皮を膨らませるまではフルフルが作りましたが、寝落ちしたところを奪われています）

・コーヒーとイカ墨でローリエの葉を煮込み、ブラック×ブラックと名付けました。作り方を聞いて一瞬「お？」と思ったらしい何名かが冷めないうちに飲んでみましたが、衝撃で全員目の前が真っ暗になったそうです。その破壊力故にブラック×ブラック×ブラックと改名されました。

味覚には個人差があるので、ひょっとするとバラム同様においしいと感じられるかもしれませんが、真似をする際はくれぐれも自己責任でお願いいたします。

庭園にも様々なものがありますが、多くの貴族などの有力者にとって、庭園は自らの富を誇示する手段です。

広く美しい庭園を維持するには、それなりの資金が必要だからです。

一時期、貴族の間ではそうした庭園でティーパーティーなどを行い、客人に庭園を自慢することが流行していました。

最近ではそうした露骨なやり方よりも、庭園が見えるよう設計された回廊に客人を通し、さりげなく庭の美しさを目に触れさせることが洒落ているとされています。

いずれにせよ、庭を美しく保つために庭師という職は重要です。

腕のいい庭師ともなれば、それを専有したい貴族の間で取り合いになることもあります。

アザゼルもそうした人気庭師の１人ですが、彼は多くの人々と交流してヴァイガルドのことを学びたいという考えがあるため、特定の貴族の専属庭師になるつもりはないようです。

ヴァイガルドにおける本は、我々の世界のような販売形態とは異なるため、実売部数を確認する手段がありません。

ですからフルーレティの本がどれだけ売れているのかの詳細を確認することはできないのです。

それでもフルーレティが自分の本を「売れない」と評するのは、彼女自身が自分の処女作の発売後、本を扱う小売店の前でじっと本が売れるかどうかを観察していた経験から来ています。半日ほど観察を続けた結果、１冊も彼女の本を購入する人は現れませんでした。

どんな人間が自分の本を手に取るのだろうと期待していた彼女には、その体験が少々辛かったようで、それ以降彼女は、自分の本があまり一般受けのしないマニアックなものだと認識してしまったのです。

実際にはいくつかの作品は追加受注を受けていわゆる「重版」もしていますし、その印税も彼女の懐に入っています。しかしあくまで少部数なので、「売れている」という自信を持つほどには至らないようです。

メギドの記憶を取り戻す前、ヴィータの子供時代（見方によっては今でも現役で）、ゼパルはかなりお転婆な子でした。

小枝を拾っては振り回し、家畜のお尻を思いっ切り叩いては逃げ回るといった遊びが大好きだったのです。他にも勇気を示すため崖の上から飛び降りたり、男の子と駆けっこをしたり、誰が一番高い木に登れるかという競争で一番になったりもしました。危ないことを危ないと思わず、無邪気に友だち（主に男の子）に勝ってはしゃぐのが楽しかったのです。

そんなゼパルが、刃物に興味を持つのは必然だったのかもしれません。そしてそれが周囲の大人によって警戒されるのもまた必然でした。ゼパルから刃物を遠ざけろ――村には暗黙の了解が共有され、包丁はおろか草刈り用の鎌に至るまでさりげなく高いところに乗せられたり巧妙に隠されたりしました。しかし善意というものは時に逆の作用をするもので、かえってゼパルは刃物に対する興味を強くして、それを探しにあちこちうろうろするようになったのです。

そんなとき、ゼパルの住む村に通りすがりの殺人鬼が現れました。人懐っこく無警戒なゼパルは、その殺人鬼（ゼパルや周囲の者は商人だと思っていました）が刃物を隠し持っているのを目ざとく見つけてしまいました。そしてあろうことか、その刃物ちょっと触らせてー貸してーと殺人鬼にまとわりついたのです。衆目の中で人殺し用の武器を隠し持っていることを大声でバラされた殺人鬼は、ヤケになってゼパルを抱え込んで人質に取ります。そしてゼパルの頬を十字に切りつけ、近寄ったらこいつを殺す！と宣言して村から逃走を図ろうとしたのです。

ゼパルは、自分が傷つけられたことはわかったのですが、痛みを感じるより先に怒りを覚えました。燃えるような怒り、初めて火が付いた「闘争心」です。そのとき頭の中で異形の怪物が叫んだような気がしました。攻撃には攻撃を！刃物には刃物を！

ゼパルは殺人鬼が他にも隠し持っていた小さなダガーを素早く抜き取ると、相手の手を思いっ切り切り裂きました。反撃されるとは思っていなかった殺人鬼は思わず武器を取り落とし、ゼパルまで手放してしまいます。そのとき、殺人鬼の命運は尽きました。一斉に襲い掛かってきた村人たちがいかにゼパルを大事にしていたか、身を持って思い知らされることになったのです。

半殺しの目に遭った殺人鬼が領主の部下に引きわたされたあと、ゼパルは両親や村中から凄まじい勢いで怒られました。口々に刃物は危ない、怪しい者には不用意に近付くな、自分を大事にしなさいと説教されまくったのです。しかし、ゼパルはまったくめげませんでした。反省しなかったわけではないのですが、それよりもゼパルを支配していたのは勝利の高揚です。ゼパルは敵を退けた、戦闘に勝ったのです。

ゼパルがあまりに事件のことを引きずらないので、両親も村の人たちもすべて忘れたように明るく振る舞います。しかし、ゼパルの頬には殺人鬼がヤケクソに付けた十字傷が残されています。その傷を見る度、周囲は少し悲しそうにしたものですが、ゼパルのほうは全く気にしていません。これは、自分の好奇心が生んだ勇気と勝利の印なのだとして誇りにすら思っています。だからゼパルはその傷のことをまるで隠そうともしないし、それはそれとして、まだなにもわからなかった子供のときの話なので、自分から傷の理由を話すこともしないのです。だけどいつか理想の結婚相手が現れたら、この傷のことをどう思うだろう。それを考えると、ゼパルはちょっとだけわくわくするのです。