南海トラフ臨時情報「結果論での批判はやめよう」 一井康二・関大教授

防災リレーコラム

南海トラフ地震臨時情報が出され、「遊泳禁止」の看板が掲げられた白良浜海水浴場=8月9日、和歌山県白浜町(張英壽撮影)
南海トラフ地震臨時情報が出され、「遊泳禁止」の看板が掲げられた白良浜海水浴場=8月9日、和歌山県白浜町(張英壽撮影)

今年の夏に初めて南海トラフ地震臨時情報が発表されました。近い将来の発生が懸念される南海トラフ巨大地震の発生可能性が通常より「相対的に」高まっているという情報です。ご存知のように、幸い実際には起きなかったのですが、海水浴場が閉鎖されたりしました。そして、経済的な影響を受けた方も多く、さまざまな所から「情報の伝え方が悪い」というような不満が出ていると報道されています。

ただ、新型コロナウイルス禍の時もそうでしたが、結果論、としか言いようのないコメントが多いように感じます。もし地震が起きていたら、「よく事前に言ってくれた」となっていたでしょう。少なくとも現在の科学技術では、地震の発生を確実に予測することはできません。つまり、伝えられていた情報に間違いがあったということではなく、「結果的に」無駄となった努力や、対策行動の「結果」として引き起こされた経済的な損失に対する不満が吐き出されているように感じます。

不満がある時に、何か(誰か)のせいにしたくなる事はよくあります。例えば、私の推しの野球チームが今年は歴史的失速で優勝戦線から脱落し、「監督の采配が悪い」と子供と一緒に毎日愚痴をこぼしました。これは、明らかに結果論で文句を言っているだけです。野球なら、そういった(理不尽かもしれない)クレームをファンから受けることも仕事のうち、かもしれません。ただ、日本の今後の防災のあり方につながる事例を結果論で議論することは、決して適切だとは思いません。

例えば、相対的に地震の発生確率が高まっている、というのは、雨天時の車の運転で相対的に事故のリスクが高まっている、という状況と非常によく似ています。雨の日の運転を気にしない人もいれば、雨の日は慎重に運転し、不要不急の遠出をしない人もいます。このように身近なリスクに置き換えて、発表された情報の意味をきちんと理解する能力「リスクリテラシー」を高める教育が大切であり、マスコミの報道などにもそのような視点が必要だと思います。(関西大社会安全学部教授、一井康二=いちい・こうじ)

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