アサド政権崩壊なぜ?シリアでいったい何が?
首都ダマスカスを制圧したシリアの反政府勢力は、アサド大統領の追放を高らかに宣言しました。
「反政府勢力の攻勢は国際社会もシリア政府もこの時期はないだろうと油断していた」
シリア情勢に詳しい東京外国語大学の青山弘之教授は、今回の事態についてこう分析します。
反政府勢力がなぜここまで一気に攻勢を強めることができたのか。今後のシリアはどうなるのか。青山教授に詳しく聞きました。
(国際部記者 勅使河原佳野)
そもそもシリアってどこにある?
30年にわたり独裁的な政権運営を続けた父親の死去に伴い、2000年に34歳で大統領になったバシャール・アサド大統領が強権的な統治を続けてきました。
シリアってどうなっていた?
2014年には内戦の混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートがシリアとイラクにまたがるイスラム国家の樹立を一方的に宣言。
その後ISは弱体化、2020年にアサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦合意を交わして以降は、大規模な戦闘は起きずこう着状態となっていました。
なぜこの時期に反政府勢力が攻勢?
また、攻撃はレバノンのヒズボラとイスラエルが停戦に踏み切った、まさにその時期で、国際社会全体も、シリア政府側も、この時期に攻撃に踏み切ることはないだろうというふうに油断していた。そういう時期をねらって攻撃に踏み切ったと考えることができます。
今回の戦闘で特徴的なのは、反政府勢力側がかなり高性能の無人機を戦力の1つとして位置づけ、航空戦力の能力を高めるために長期間、準備をしてきたと見られること。
そして、主力の部隊、エリート部隊の戦術などを見ても極めて高度に訓練されているなど、戦闘員や武器の確保など、一朝一夕にできるものではないと思います。
なぜ事態がここまで急展開?
それが、そうした国などと連携しているシリア政府の能力低下にもつながり、押し返すことができない状況に追いやられていたということが1つ。
反政府勢力側は、いくつか主要な軍の拠点を攻撃しましたが、シリア政府軍はほとんどが逃げる、あるいは撤退をするという形になりました。本格的な戦闘に入ることすらできないぐらい士気が低下していて、装備などの面でも不足があったと見られます。
また、シリア政府は、民間人の犠牲者を出さないために軍隊は市街地の外に出て防衛線を張るということを主張していました。
実はシリアでは2020年に戦闘が収束して以降、シリア軍が街の中に検問所を設けたり、兵士を駐留させたりして陣地を築くということはなくなっていました。
そうした状況が一般的になっていたために、反政府勢力がそれぞれの都市の中に入ってきても市街地に陣地をつくることができず、まちの外には展開するが何もできず、主要都市の陥落を招いてしまったということが言えるかと思います。
反政府勢力の圧勝 予想できなかった?
なぜなら最近、(一部の反政府勢力を支援してきた)トルコのエルドアン大統領が「シリア政府との関係改善を望んでいる」ということをたびたび発言するなど、トルコとシリアの関係がよくなる状況にありました。
そうした中で、反政府勢力は主要な紛争当事国にとって無用の長物になり始めていて、彼らがこうした大胆な行動をとっても周辺の紛争当事国が阻止するであろうという見立てがあったので、今回のような大規模な攻撃は想定もしていなかったです。
ただ、逆に言うと、シリア情勢をめぐる各国の関係が良好になっている、シリア政府とトルコ政府の関係が改善するのではないか、そうした楽観的なムードを反政府勢力、また、それを支援する勢力、武器や兵站を提供する勢力が利用して、今回のような、誰も予想できなかったような、大胆な行動に出たというふうに考えることもできます。
アサド政権支援してきたイラン ロシアは?
一方でロシアは、シリアの地中海沿岸地域にロシア軍の海軍と空軍の基地があって、これをロシア政府が手放すとは到底考えられません。カタールでのドーハフォーラムでもラブロフ外相は「徹底的に戦う」ということを主張しています。
現段階で断言することはできませんが、シリア国内にあるロシアの権益、特に地中海側にある海軍と空軍の基地が何らかの形で攻撃を受ける、また、撤退を余儀なくされるようなロシアにとって不当な環境ができてしまった場合には、極めて大規模な形での反抗がある可能性はあります。
アサド大統領がどうこうということとは別に、地中海の東岸に権益を維持したいというロシアがどういう動きをとるのか、注視していく必要があると思ってます。
中東情勢にも影響与える?
「抵抗の枢軸」は、イランからイラク、シリアを経由してレバノンのヒズボラにさまざまな支援を送るという1990年代以降続いてきた仕組みですが、シリアがアサド政権ではなくなることで寸断されてしまいます。
今後、イスラエルの安全保障というのはこれまで以上に高まり、それに対してイランをはじめとする「抵抗の枢軸」側の能力というものは低下する、かなり大きなバランスの変化が見られるかと思います。
国際社会とシリアの関係はどうなる?
今後、シリアで政権を握る勢力がもし「シリア解放機構」※であるならば、国際テロ組織との国交樹立や外交関係というものは相当慎重に行うことになります。例えば、アフガニスタンの場合、中国やパキスタンがタリバン政権と実利的な関係は結んでいますが、いわゆる国交樹立している国というのはいないわけです。
シリアで今回、「シリア解放機構」が政権を握ったことで何らかの形でオフィシャルに外交関係を結ぶような国が出てくるのであれば、それは911以来続いていた国際社会のアルカイダやタリバンに対する制裁のスキームそのものが崩壊するということを意味しているかと思います。
11月27日以降の反政府勢力の攻勢を主導している過激派組織。
2011年のシリア内戦開始後に結成され、アサド政権との間で戦闘を続けてきた国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」が母体となっている。「ヌスラ戦線」の分裂をへて立ち上げられ、ジャウラニ指導者のもとでシリア北西部イドリブを拠点に活動していた。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラは「シリア解放機構には最大3万人の戦闘員がいると推定されている」と伝えている。
今後のシリアはどうなる?
具体的には明らかにはなっていませんが、「シリア解放機構」が国際テロ組織に指定されている都合上、政府をこのまま構築したとしてもアフガニスタンのタリバン政権のように国際社会の承認を得られないわけです。
それはシリアという国をつくる上であまりにもメリットがないので、組織としては消滅をさせてアルカイダが統治を行っているという体裁を取らない形にしようとすることが予想されます。
その段階で今回の戦闘に参加した、シリア南部の武装勢力やアメリカが支援する勢力など、彼らとの何らかの合意に基づくような仕組みを作る。また、反体制派の政治家の多くが国外に逃れているので、彼らについてもかつてイラクでサダム・フセイン政権が崩壊したときのように国内に呼び戻して移行期の統治であるとか、今後のシリアの政治をつかさどる、そうした任務に就かせようとしていることが考えられます。
「アラブの春」を経てこの結末 どう見る?
一般の民衆が平和的なデモによって政権を倒し民主化への道を進めるというのが理想的なものですが、実際にはそうではなく2010年代を通じてさまざまな国でテロが発生したりテロリストがばっこしたりするという事態を招いてしまいました。
本来、民主化を目指していた「アラブの春」が、そうした国際社会にとってテロ組織だと見なされているものの統治を招いてしまったということは、極めて悲劇的なことだと思います。
(12月8日 ニュース7で放送)
勅使河原 佳野
2019年入局 松山局を経て2024年9月から現所属
中東・アフリカ地域を担当
WEB
特集 アサド政権崩壊なぜ?シリアでいったい何が?
「独裁者アサドを打倒した」
首都ダマスカスを制圧したシリアの反政府勢力は、アサド大統領の追放を高らかに宣言しました。
「反政府勢力の攻勢は国際社会もシリア政府もこの時期はないだろうと油断していた」
シリア情勢に詳しい東京外国語大学の青山弘之教授は、今回の事態についてこう分析します。
反政府勢力がなぜここまで一気に攻勢を強めることができたのか。今後のシリアはどうなるのか。青山教授に詳しく聞きました。
(国際部記者 勅使河原佳野)
そもそもシリアってどこにある?
30年にわたり独裁的な政権運営を続けた父親の死去に伴い、2000年に34歳で大統領になったバシャール・アサド大統領が強権的な統治を続けてきました。
シリアってどうなっていた?
2014年には内戦の混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートがシリアとイラクにまたがるイスラム国家の樹立を一方的に宣言。
その後ISは弱体化、2020年にアサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦合意を交わして以降は、大規模な戦闘は起きずこう着状態となっていました。
なぜこの時期に反政府勢力が攻勢?
また、攻撃はレバノンのヒズボラとイスラエルが停戦に踏み切った、まさにその時期で、国際社会全体も、シリア政府側も、この時期に攻撃に踏み切ることはないだろうというふうに油断していた。そういう時期をねらって攻撃に踏み切ったと考えることができます。
今回の戦闘で特徴的なのは、反政府勢力側がかなり高性能の無人機を戦力の1つとして位置づけ、航空戦力の能力を高めるために長期間、準備をしてきたと見られること。
そして、主力の部隊、エリート部隊の戦術などを見ても極めて高度に訓練されているなど、戦闘員や武器の確保など、一朝一夕にできるものではないと思います。
なぜ事態がここまで急展開?
それが、そうした国などと連携しているシリア政府の能力低下にもつながり、押し返すことができない状況に追いやられていたということが1つ。
反政府勢力側は、いくつか主要な軍の拠点を攻撃しましたが、シリア政府軍はほとんどが逃げる、あるいは撤退をするという形になりました。本格的な戦闘に入ることすらできないぐらい士気が低下していて、装備などの面でも不足があったと見られます。
また、シリア政府は、民間人の犠牲者を出さないために軍隊は市街地の外に出て防衛線を張るということを主張していました。
実はシリアでは2020年に戦闘が収束して以降、シリア軍が街の中に検問所を設けたり、兵士を駐留させたりして陣地を築くということはなくなっていました。
そうした状況が一般的になっていたために、反政府勢力がそれぞれの都市の中に入ってきても市街地に陣地をつくることができず、まちの外には展開するが何もできず、主要都市の陥落を招いてしまったということが言えるかと思います。
反政府勢力の圧勝 予想できなかった?
なぜなら最近、(一部の反政府勢力を支援してきた)トルコのエルドアン大統領が「シリア政府との関係改善を望んでいる」ということをたびたび発言するなど、トルコとシリアの関係がよくなる状況にありました。
そうした中で、反政府勢力は主要な紛争当事国にとって無用の長物になり始めていて、彼らがこうした大胆な行動をとっても周辺の紛争当事国が阻止するであろうという見立てがあったので、今回のような大規模な攻撃は想定もしていなかったです。
ただ、逆に言うと、シリア情勢をめぐる各国の関係が良好になっている、シリア政府とトルコ政府の関係が改善するのではないか、そうした楽観的なムードを反政府勢力、また、それを支援する勢力、武器や兵站を提供する勢力が利用して、今回のような、誰も予想できなかったような、大胆な行動に出たというふうに考えることもできます。
アサド政権支援してきたイラン ロシアは?
一方でロシアは、シリアの地中海沿岸地域にロシア軍の海軍と空軍の基地があって、これをロシア政府が手放すとは到底考えられません。カタールでのドーハフォーラムでもラブロフ外相は「徹底的に戦う」ということを主張しています。
現段階で断言することはできませんが、シリア国内にあるロシアの権益、特に地中海側にある海軍と空軍の基地が何らかの形で攻撃を受ける、また、撤退を余儀なくされるようなロシアにとって不当な環境ができてしまった場合には、極めて大規模な形での反抗がある可能性はあります。
アサド大統領がどうこうということとは別に、地中海の東岸に権益を維持したいというロシアがどういう動きをとるのか、注視していく必要があると思ってます。
中東情勢にも影響与える?
「抵抗の枢軸」は、イランからイラク、シリアを経由してレバノンのヒズボラにさまざまな支援を送るという1990年代以降続いてきた仕組みですが、シリアがアサド政権ではなくなることで寸断されてしまいます。
今後、イスラエルの安全保障というのはこれまで以上に高まり、それに対してイランをはじめとする「抵抗の枢軸」側の能力というものは低下する、かなり大きなバランスの変化が見られるかと思います。
国際社会とシリアの関係はどうなる?
今後、シリアで政権を握る勢力がもし「シリア解放機構」※であるならば、国際テロ組織との国交樹立や外交関係というものは相当慎重に行うことになります。例えば、アフガニスタンの場合、中国やパキスタンがタリバン政権と実利的な関係は結んでいますが、いわゆる国交樹立している国というのはいないわけです。
シリアで今回、「シリア解放機構」が政権を握ったことで何らかの形でオフィシャルに外交関係を結ぶような国が出てくるのであれば、それは911以来続いていた国際社会のアルカイダやタリバンに対する制裁のスキームそのものが崩壊するということを意味しているかと思います。
11月27日以降の反政府勢力の攻勢を主導している過激派組織。
2011年のシリア内戦開始後に結成され、アサド政権との間で戦闘を続けてきた国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」が母体となっている。「ヌスラ戦線」の分裂をへて立ち上げられ、ジャウラニ指導者のもとでシリア北西部イドリブを拠点に活動していた。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラは「シリア解放機構には最大3万人の戦闘員がいると推定されている」と伝えている。
今後のシリアはどうなる?
具体的には明らかにはなっていませんが、「シリア解放機構」が国際テロ組織に指定されている都合上、政府をこのまま構築したとしてもアフガニスタンのタリバン政権のように国際社会の承認を得られないわけです。
それはシリアという国をつくる上であまりにもメリットがないので、組織としては消滅をさせてアルカイダが統治を行っているという体裁を取らない形にしようとすることが予想されます。
その段階で今回の戦闘に参加した、シリア南部の武装勢力やアメリカが支援する勢力など、彼らとの何らかの合意に基づくような仕組みを作る。また、反体制派の政治家の多くが国外に逃れているので、彼らについてもかつてイラクでサダム・フセイン政権が崩壊したときのように国内に呼び戻して移行期の統治であるとか、今後のシリアの政治をつかさどる、そうした任務に就かせようとしていることが考えられます。
「アラブの春」を経てこの結末 どう見る?
一般の民衆が平和的なデモによって政権を倒し民主化への道を進めるというのが理想的なものですが、実際にはそうではなく2010年代を通じてさまざまな国でテロが発生したりテロリストがばっこしたりするという事態を招いてしまいました。
本来、民主化を目指していた「アラブの春」が、そうした国際社会にとってテロ組織だと見なされているものの統治を招いてしまったということは、極めて悲劇的なことだと思います。
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2019年入局 松山局を経て2024年9月から現所属
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