78年、エースの松岡さんは6月1日の中日戦で4勝目。まずまずのペースで白星を重ねていた。しかし、同5日の阪神戦を最後に、マウンドから遠ざかった。
「広岡さんが急に、『シーズン持たないから、俺の言うことを聞いてやってみろ』と。それで、聞いたふりをしてやらなかったら、試合に出られなくなっちゃって。聞かなくても勝てるという自信があった。毎年10勝前後していたので」
広岡監督の「俺の言うこと」とは何だったのか。
「臍下丹田。何を言っているのか分からなかったよね。へそと急所の間に、自分の力が集中するところがある。自分の体の中に、集中すればどこか1点に力がたまる。そうすると、雑念が消える」
難解なテーマをなかなか受け入れられなかった。堀内庄投手コーチ(10年死去)に相談すると、「聞かないことには試合に出られない。聞いたふりをしなさい、やってみなさい」と言われた。そこで、ようやく広岡監督の言葉に耳を傾けることにした。
「毎日ゲーム前に1時間『俺の言うことをやれ、目の前で』と言う。ホテルに帰っても、ぱっと呼び出しを受ける」
次第に、新しい感覚が体に宿るようになった。
「集中したときに、自分の体にグーッと力がたまる。だから、今でも、右足1本で自分が軸を作れたと思うところが分かる。すっと立てる。絶対に動かない場所がある。だから疲れなくなる。何か知らないけど、言うこと聞いてよかったのかな、とだんだん思うようになった」
7月2日の中日戦で約1カ月ぶりに登板し、1失点完投勝利。その後は夏場に調子を落とすこともあったが、先発と救援で初優勝・日本一までフル回転した。
「自分の一番の財産になったよね。何をしていても、いい形で歩いてるなとか、どこか力が入っている、抜けているというのが分かる。丹田、気なんですよ。やる気、本気、根気。気を広岡さんに教わったよね。その時の教えを、今のアマチュア野球の人に教えることができる。あの時は大嫌いだったけどね」
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