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エコノミスト(英国)

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大川原化工機事件や袴田巌の無罪確定など冤罪事件が続いている原因として、日本の人質司法への批判が高まっている。長期勾留や自白の強要に近い取り調べ──日本で逮捕されると、被疑者はどんな扱いを受けるのか。他の先進国との違いを英誌「エコノミスト」が指摘する。

出世欲から事件を「捏造」


2020年、横浜市にある化学機械メーカー「大川原化工機」の社長ら3人が逮捕された。容疑は、生物兵器に転用可能な機器を中国へ輸出したというものだった。

3人は約11ヵ月間勾留された。5回の保釈請求は、いずれも裁判官によって却下された(6回目で許可)。捜査官たちは罪を認めれば釈放するとほのめかしたが、彼らは応じなかった。

1人は勾留中に胃がんが見つかり、適切な治療を受けられないまま亡くなった。最終的に全員の無実が証明された冤罪事件である。

この事件は、日本の刑事司法制度が抱える根深い問題を浮き彫りにしている。それは被疑者の長期勾留と自白への過度の依存だ。近年、こうした「人質司法」システムに対する批判の声が高まっている。

大川原化工機の社長らへの起訴が取り下げられた後、捜査関係者の一人が、捜査員が「個人的な欲」から事件を「捏造」し、出世のために有罪判決を勝ち取ろうとしたと公に認めた。このような告白は「前代未聞」だと、大川原化工機側の代理人を務めた高田剛弁護士は言う。

東京五輪の汚職事件をめぐって逮捕され、226日間勾留された出版大手KADOKAWAの角川歴彦・元会長は2024年6月、人質司法は「違憲」だとして国を提訴した。このような訴訟は日本で過去に例がない(角川は最近出版した手記で、拘置所の医師から「死なないとここから出られません」と言われたと記している)。

また9月には、死刑囚として34年間収容されていた袴田巌の無罪が確定(逮捕から釈放までは、実に47年7ヵ月を要した)。裁判官は、逮捕の根拠となった証拠は捏造されたものだと指摘した。

これらの事例は、起訴されれば99.8%有罪になるという、日本の極めて高い有罪率に疑問を投げかけている。

他の先進国との違い


日本はある意味、犯罪に対して寛容な国だ。犯罪率は低く、人口に占める受刑者の割合も他の先進国よりはるかに低い。

日本の人口10万人あたりの受刑者数はわずか33人で、米国の541人、英国の140人と比べると際立って少ない。罪を認めて謝罪した軽犯罪者は、厳重注意だけで終わることも珍しくない。

だが、ひとたび起訴が決まると、検察には並外れた権限が与えられる。他の先進国と異なり、日本の検察は物的証拠よりも自白に大きく依存しており、起訴される事件の9割は被疑者の自白が決め手となっている。

起訴前、検察は被疑者を最長23日間拘束できる。これは他の民主主義国と比べてすでに突出して長いが、23日経過後すぐに別の容疑で再逮捕されることも少なくない。2022年には約9万人、実に被疑者の96%が勾留された。

拘置所の環境は厳しい。独房は清潔だが極めて狭く、通常5平方メートルほどで、日差しは入らない。収容者は番号で呼ばれ、運動は週30分程度しか許されず、常に看守の監視下にある。

「有罪が証明されてもいないのに、なぜ犯罪者のように扱われたのでしょうか」と、逮捕された大川原化工機の元役員、島田順司は問いかける。

自白を迫る取り調べ


被疑者は勾留されているあいだ、長時間の取り調べに耐えねばならない。日本の被疑者1人あたりの平均取り調べ時間は22時間にもおよび、米国の2時間、英国の30分と比べて著しく長い。

他の多くの国々と異なり、弁護士の立ち会いは認められず、黙秘権という憲法上の権利すらたびたび踏みにじられる。2018年に逮捕された弁護士の江口大和は、黙秘権を行使したにもかかわらず、21日間で計56時間もの取り調べを受け、捜査官から「ガキ」呼ばわりされたという。

こうした弁護士なしの長時間の取り調べは、被疑者に対し、釈放されるためだけの自白を迫る圧力として働いている。その自白がたとえ虚偽であっても構わないのだ。

2020年における初公判前の保釈率は、自白した被疑者が26%であったのに対し、無実を主張し続けた被疑者ではわずか12%だった。

再審のハードルが高すぎる


今年、大川原化工機事件について質問を受けたある閣僚は、検察は被疑者の勾留を「人権に充分配慮して」おこなっていると答えた。この発言は、司法制度の改革を望む人々の期待を裏切るものだった。

それでも、多少は改善の動きが見られる。2019年から、一部の取り調べが録画されるようになった。

今年3月には、百数十人の国会議員が再審に関する法律の改正を目指す超党派の議員連盟を結成した。現行法では、冤罪を主張する人の再審請求を検察が容易に阻止できるようになっている。袴田の釈放までに長い年月を要したのは、まさにそのためだ。

近年、大川原化工機や袴田事件など冤罪が相次いだことも、この国の刑事司法制度を見直すきっかけになっている。「少しずつでも前進してほしいと願っています」と大川原化工機元役員の島田は語る。


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