塩野義製薬と筑波大学発ベンチャーのピクシーダストテクノロジーズ(以下、PxDT)が共同で開発した「ガンマ波変調技術」。現在エビデンスの構築中だが、認知機能改善効果の可能性が見込めるという。この世界初の特許技術を搭載したテレビスピーカー「kikippa(ききっぱ)」が好調だ。そのメカニズムや開発の経緯、将来の展望などについてPxDT 代表取締役社長 COOの村上泰一郎(むらかみ・たいいちろう)氏に話を聞いた。
CESでも好評、波動制御をコア技術とする筑波大発ベンチャー
――最初に、PxDTの概要について教えてください。
当社は2017年5月に設立した筑波大学発の研究開発型ベンチャーです。現在は約90人の社員が在籍しており、2023年8月に米国ナスダック市場に上場しました。
大学発ベンチャーは研究室で発明した特定のシーズを形にするために起こす場合がほとんどで、自社だけでは大規模な開発や商品化、販路の開拓は難しいのが実情です。一方で我々は大学発・自社開発の技術群を連続展開することを旨としているため、今回の塩野義製薬様とのように外部のプレイヤーとオープンイノベーションで連携して、さまざまなプロダクトを出していく形を取っています。ミッションに「『社会的意義』や『意味』があるものを連続的に生み出す孵卵器となる」を掲げているのはそうした理由からです。
――コアとなるのは波動制御技術だそうですが、この技術はどんなものですか。
音、光、電磁波などはすべて波として扱えるため、それを解析したり、シミュレーションしたりして制御・計測する技術です。この技術を多様な分野に適用してプロダクトを開発しています。例えば屋内の位置情報を電波によって高精度測位できるソリューションである「hackke(ハッケ)」、アンファーと共同開発した超音波スカルプケア(頭皮ケア)の「SonoRepro(ソノリプロ)」などがあります。
年頭に開催された国際展示会「CES 2024」では、音響メタマテリアル技術を活用した透明吸音材「iwasemi RC-α」を出展し、「CES 2024 Innovation Awards」を受賞しました。この会議室に貼っている透明パネルはiwasemi RC-αによるものです。コンピューターシミュレーションを駆使して素材を問わずに吸音特性を付与することに成功しました。その可能性は幅広く、吸音パネル以外にも遮音性能と通気性を両立した音響メタマテリアルの研究開発なども行っています。
ガラス張りの会議室は急増していますが、音が反響してWeb会議が話しづらい事例が多発しています。しかし、従来の吸音材はグラスウールやウレタンスポンジなど柔らかい素材が主流で、ガラスとはマッチしません。そのため、ガラスに貼れる透明でデザインを損ねない吸音パネルが望まれていました。
iwasemi RC-αのパネルはまさにそのニーズに合致した素材です。しかも今回のモデルには植物由来のバイオプラスチックを使用しました。環境負荷が低く、なおかつ高機能な、サステナビリティを意識した潮流にも即しています。これまで乃村工藝社様やイトーキ様と協業して製作してきましたが、形がこれだけ違っても基本的な吸音性能はほとんど同じ。この柔軟性の高さが我々の技術の特徴です。
塩野義製薬と共鳴、画期的な特許技術を共同開発
――個性的なプロダクト群の1つがkikippaです。塩野義製薬とはどこで知り合ったのですか。
2019年末に経団連のピッチイベント「KIX」でプレゼンした際に初めてお会いしました。波動制御の社会実装例をいくつか発表したところ、非常に興味を示してくれたのです。その場ではヘルスケアに関連した話はできませんでしたが、「塩野義製薬の強みと我々の技術を組み合わせて何かできないか」ということで、お互いに知恵を出し合いながら共同開発がスタート。アイデアの1つが、音の力で認知機能改善を目指すプロジェクトへとつながりました。
――一見するとテレビスピーカーですが、世界初の特許技術「ガンマ波変調技術」を搭載しています。ガンマ波変調技術とは何でしょうか。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のリーフエ・ツァイ博士らが、音や光の刺激によって脳内にガンマ波を出すことで、マウス実験レベルで脳内のアミロイドβが有意に減り、認知機能が改善したとのエビデンスが得られたことを科学誌に発表しました。その後さらに研究を重ね、40Hzのパルス音が最も効果があることがわかりました。
実際に米国の研究機関では、40Hzのパルス音を使った認知症予防の研究が進められています。このパルス音はブザーのように聞こえる音で、ヘッドホンで1日1時間聞くという使い方です。しかし、試しにこれを聞いてみたところ毎日聞き続けるのは難しく、日常生活の中に取り込みづらい可能性があるのではとの課題感を覚えました。
ガンマ波変調技術とは、入力される音声に含まれる部分信号に40Hzの振幅変調を施して音声を加工する技術です。これによりパルス音ではなく、日常の音を変調することで生活に調和するガンマ波サウンドを提供することができます。塩野義製薬様と我々は、“ガンマ波を惹起する音の刺激を、日常にありふれた音の中に混ぜられる”ことを共同研究によって世界で初めて発見しました。この技術を搭載してプロダクト化したのがkikippaになります。