第28話 サキュバスの角 - 一触即発、爆裂の青炎 -
花の都・フリージアは、広い。
恐らく、東京ドーム3,000個分(分かり辛い)はあろうかという広さだ。
――で、東京ドームってなんだっけ。
いかんな。最近、記憶が変になってる。健忘症の疑いありだな、俺。
そんな広い都の中だが、もうだいぶ歩き尽くしたので、どこに何があるか大体把握している。
今日はリースとデート。
さあて、どこへ行こうか。
現在地は、以前に祭りがあった『シンビジウム』にいるが。
そうだな、リースと行くなら――。
考え事をしながら歩いていると、なんだか薄暗い路地にいた。
「……あれ。ここって」
以前、従妹のベルと会った裏路地じゃないか。未だに従妹なのか疑わしいところだが、懐かしい気持が込みあげるから、確かなのだろう。俺はそう信じたい。だって、ビキニアーマーだし。
それで……確か、この先には『サキュバスのえっちなお店』があるんだとか。
「………………」
「サトルさん? どうしたんですか?」
……あぶない。
今は、リースとデートしているんだ。だから、サキュバスのえっちなお店に行く必要はない。でも、なんだろう……足が勝手に向かってしまうような、不思議な魔力を感じざるを得ない。これは、いわゆる後ろ髪を引かれるってヤツかな。
だが、我慢だ。
今は必死に耐え、いつか、きっと、行こう……。
グッと堪え、戻ろうとしたのだが――
「あれ。そこにいるのは、理くん?」
この潺のような――落ち着く優しい声。
まさか。
俺は振り向き、その声の主の顔を見た。
「やっぱりか、ベル」
「少しぶりだね。……おや、その子。理くんは、エルフを連れているんだね。へえ、なんて可愛らしいエルフちゃん……とても珍しいね。
よろしく。わたしは『ハーデンベルギア』だよ。『ベル』と呼んでくれると嬉しいな」
「よ、よろしくです。あの、サトルさん。このキレイな方は……」
「あぁ、リース。この、やたら露出度の高いビキニアーマーの姉ちゃんは、俺の従妹でね。もしかしたら、俺の家に転がり込んでくるかもしれないから、今後よろしくな」
「そうなんですね……? よろしくです」
「うん。今のところたまに遊びにいく程度だけれど、よろしくね、リースさん。それじゃ、わたしは向こうに用事があるから、またね」
向こうって――サキュバスの。
俺も行きたいな。
「なんだ、ベル。お前もサキュバスのえっちなお店を利用するのか?」
「あは。それはたまにね。けど、今日のはちょっと違う用事」
……え?
たまに利用するのかよ!!
ベル、まさかのそっちか! そっちなのか!?
「ちょっと知り合いがいてね。たまに顔を出しているのさ。それじゃ、わたしは馬に蹴られる前に」
――と、ベルは、本当にサキュバスのお店があるらしい裏路地へ消えた。
「ふーむ……」
◆
お店をぐるぐる回っていると、珍しいアイテムを見つけた。
「あれ、これって……」
『サキュバスの角』じゃないか!
祭り当日は、1,000万プルもしたのに、今は『90%OFF』の激安セールしているみたいだ。なんと100万プル! 安い!! めちゃくそ安い!!
冷静に考えれば、100万プルはとても高額。
だが、これは……
買うしかないだろ。
「買った!」
「買った!」
!?
誰かと同時に手が伸びた。
まさか、同タイミングで買おうとするヤツがいようとは……。
誰だ、俺のアイテムを横取りしようとする輩は――!
「……うわっ、あんた!」
俺は、目の前の騎士に驚く。
コ、コイツは………………!
誰だっけ。
「おい、騎士さん。これは俺が今買おうとしたんだぞ! 手を放せ!」
「いや、これは我が今買おうとしたんだ! 貴様のような一生モテなさそうな庶民に買う権利はない。手を放せ!」
騎士は手に力を込め、『サキュバスの角』を奪おうとした。モテなさそうとは失礼な! これでも可愛い仲間が俺にはいるんだよ。――って、そりゃいい! そんなところに怒りをぶつけている場合じゃない。
まずい! 取られてなるものか! これは俺のモンだ。
一度でいいから『楽しい夢』を見てみたいんだよ、俺は!
「譲るものかぁぁぁ! おりゃあああ!!」
「き、貴様ァ! なんて馬鹿力……しかし、我とて『炎の使い手』にして……アーカム家! 負けるワケにはあああああああああああ!!」
グググググ……と力が拮抗する。
そんなに引っ張ったら壊れちまうだろ!?
ん? アーカム家? どこかで聞いたような。
そんな事はどうでもいい。
くそっ……この赤髪騎士も中々のパワーを持っているな……とか関心していると、騎士の方がふと俺の顔を見た。
「おのれ、このォ! …………ん、貴様どこかで……。あぁっ! き、貴様! 貴様貴様貴様ぁぁぁ! 『鉄の街・ジャービス』で我を打ち破り、肥溜に捨ておった……!!」
「……そうだっけ? 覚えてないな」
俺に、こんな赤髪優男の知り合いはいないぞ。
「あの後、悪臭を取るのに大変だったんだぞ! しかも、それが原因で、幼い頃からずっと仲の良かった妹には嫌われてしまうし、おかげで『聖者祭』では街で妹の……アグニの後ろ姿を追うことしかできなかった……。散々だったんだぞ!」
アグニ……?
そいや、城にいたような。あの赤髪のスレンダー少女か。釣り目だったけど、ツインテールで可愛かったなぁ。
……って、まさか!
妹ってそういう事か。
目の前にいる赤髪の騎士。
以前は、兜をしていたから、素顔までは分からなかったが……なるほど、あの時の俺に突然襲い掛かってきた『炎の騎士』だとかいう。
「グレン・アーカムか……」
「き、貴様……なぜ我の名を?」
「以前、氷の騎士にそう教えてもらってな。それに『聖者祭』で、あんたの妹さんを見かけた。アグニ・アーカム。あのコだったんだな」
「こ、氷の騎士だと……『チャルチ・ウィト・リクエ』様か! 話したのか!?」
「あぁ、話したよ。なぜかしつこく結婚を迫られたけどな」
「……なんだと」
騎士の表情が曇る。
なんだ、様子が……。
「貴様、今なんと言った……」
「だから、結婚を申し込まれ――」
その瞬間、俺の首筋付近に、刃の閃光が走った。
「――っぶねぇ!?」
スレスレを回避し、首チョンパは免れた。マジでギリギリだったぞ! AGIが低かったらヤバかったな。
「もう……『サキュバスの角』などどうでもいい。チャルチ様から結婚を……それだけは絶対に許さん!! 貴様をこの場で処刑してやる!!」
「おぉそうか! 『サキュバスの角』は譲ってくれるのか。あんたイイヤツなんだな」
「ああ……その『サキュバスの角』は、チャルチ様の為にと買おうと思ったのだが……。それより、貴様を地獄に送ってやる――『ファイアーボルト七連』!」
剣を振り上げ、魔法スキルを放ってきた。
青い炎がいくつもの刃となり、それが俺に向けられた。
んなッ!
コイツ、またいきなり!!
騎士道精神の欠片もねーヤツだな。つーか『七連』!? たしか、以前は『六連』だったぞ。ひとつ増えてやがる。ええい、仕方ない俺も……。
俺は【オートスキル】で反撃に出ようと思ったが。
「サトルさ~~ん。買い物済ませてきましたぁ~!」
リースが迫りくる『ファイアーボルト七連』の前に――!
「リース!!」
炎がリースに……。
くっ……、間に合うか――!
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