真の格差は支配層の中に
真の格差は支配層の中に
チーフ・USポリティカル・コメンテーター ジャナン・ガネシュ
FINANCIAL TIMES
2020年12月7日 2:00 [有料会員限定]
米国では再び少数エリートが国を動かそうとしている。大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領は、次期財務長官候補に連邦準備理事会(FRB)の前議長を指名した。国務長官にも名門大学出身で、過去の政権で要職を歴任した官僚を起用し、国家経済会議(NEC)委員長には資産運用大手ブラックロックの幹部を選んだ。
彼らは出世階段を上る過程で数多くのライバルを追い落としたはずだ。経営学修士号(MBA)を取得しても金融界で大成できるのは一握りで、ベテラン官僚もほとんどは大統領スタッフまでは昇進できない。一流エリートには及ばないものの、ある程度の成功を収めているため世間からは同情されにくい「負け組」の鬱憤はいかほどか。
今注目される学者ピーター・ターチン氏はそうした鬱憤を定量化し他の要素との関係も調べ、現代の政治対立が起こる理由はエリートの過剰生産だと結論づけた。誰もが高い地位に就けるわけではないのに大卒者が急増した。その結果、自分より成功した仲間にやりきれぬ悔しさを覚える末端エリート集団が生まれる。生活が厳しい時代には、鼻を折られた末端エリートと本当にぎりぎりの生活を強いられている大衆の間に連帯感が生まれるという。
ターチン氏の学説を知れば、トランプ政権誕生について見方が変わってくる。英国の欧州連合(EU)離脱もそうだ。さびれた英国の工業地域に住む労働者階級の白人だけで国民投票の過半数をとることはあり得なかった。EU離脱支持派が十分な票と旗振り役を集めるには、一見裕福な人々を多く取り込む必要があった。
この理論は右派ポピュリストだけでなく左派にも当てはまる。社会正義や人種差別に対する意識の高まりは、満足できる職に就けない多くの文系大卒者の叫びとしても捉えられる。
ターチン氏の説が正しければ、リベラル派は高等教育の普及が期待に反する結果を生んだことも受け止めなければならない。大卒者数の伸びに追いつくほど憧れの仕事が増えなかったため、人々の不満が鬱積し、どこかではけ口を必要とするようになった。
一方、ポピュリスト勢力にはかなりの難題が突きつけられたことになる。彼らの運動が末端エリートと、国の繁栄から取り残された白人層を結び付けるものである以上、双方を同時に満足させる政策など打てるはずがない。政権を担う期間が長くなるほど、両者の利害対立が透けて見えてくる。
これはトランプ政権の4年間ではっきりした。仮に同氏が経済分野でもポピュリスト的嗅覚で富裕層に増税しインフラ投資に充てていたら、再選を果たしていたかもしれない。もっとも、保守系のFOXニュースの司会者や気前よく寄付してくれる後援者、高所得層の支持も失っただろう。彼らがトランプ氏に好意的だったのは、自分たちより若干上層にいる目障りなトップエリートに一泡吹かせてくれたからだ。真に困窮からの救いを求め、トランプ氏に一票を投じた人々とは異なる。ターチン氏によると、政権運営に失敗したポピュリスト勢力は今後、街頭での抗議活動に新たな活路を見いだす可能性がある。油断はできない。(2日付)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67021680U0A201C2TCR000/
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