シリア反政府勢力“首都解放” アサド政権は事実上崩壊 国外へ

内戦が続くシリアで、アサド政権の打倒を掲げ攻勢を強めていた反政府勢力は8日、国営テレビを通じて「首都ダマスカスは解放された。独裁者アサドを打倒した」と主張しました。
アサド政権は事実上、崩壊しました。
また、ロシア外務省は8日、シリアのアサド大統領が辞任することを決め、シリアを去ったことを明らかにしました。

ロシア外務省「アサド大統領がシリア去った」

ロシア外務省は8日、シリアのアサド大統領が辞任することを決め、シリアを去ったことを明らかにしました。

ロシア外務省は8日、声明を出し、「アサド大統領は大統領職を辞すことを決め、平和的に政権を移譲するよう指示しシリアを去った」としてアサド大統領がシリアを離れたことを明らかにしました。
どこに向かったかなど詳細は明らかにしていません。

またロシアはアサド大統領が今回の決定を行うにあたり、関与はしていないとしています。

シリア国内にあるロシア軍の基地については「厳戒態勢にあり、安全に対する深刻な脅威はない」としています。シリアでは8日、反政府勢力が首都ダマスカスに進攻しアサド政権は崩壊に追い込まれるなか、アサド大統領の行方は分からなくなっていました。

シリアでは11月27日以降、反政府勢力がアサド政権の打倒を掲げ、攻勢を強めていて、北部の主要都市アレッポや、ダマスカスに通じる中部の要衝ホムスなどを制圧しました。

さらに南部でも地元の反政府勢力が蜂起してダラアやスウェイダ、クネイトラなどを掌握したとされ、南北からダマスカスに迫りました。

反政府勢力は8日、占拠したとみられる国営テレビを通じて「ダマスカスは解放された。独裁者アサドを打倒した。シリアにいる罪のない囚人は全員解放された」と主張しました。また、アサド大統領が首都から逃亡したと主張していて、アサド政権は事実上、崩壊しました。

これについて、アメリカのニュースサイト「アクシオス」の記者はSNSでイスラエル政府関係者の話として、アサド大統領がロシアのモスクワに向かうため7日深夜、シリア国内にあるロシア軍の基地に移動したと伝えましたが、詳しいことは分かっていません。

ダマスカス 喜ぶ市民

ダマスカスでは大きな戦闘などは伝えられておらず、現地からの映像では市民が車から降りて音楽を鳴らしたり、軍が放置したとみられる戦車の上に乗ったりして喜んでいる様子が確認できます。

ロイター通信によりますと、ダマスカスの広場には車や徒歩で数千人の市民が集まっていたということです。

また別の映像では、広場に集まった人々が「神は偉大だ」とか、「アサドの魂に呪いを」と声を上げていました。

市民のひとりは「13年間の圧政と悲劇を経て、ようやく喜びを感じています。政権は私たちを圧迫し傷つけてきましたが、いま私たちは恐怖や弾圧もなく自由です」と話していました。

シリア首相 政権移譲に協力する考え

シリアのジャラリ首相は8日、インターネット上でビデオ声明を発表し「私はいま自宅にいる。私たちは反政府勢力に手を差し伸べる。彼らも手を差し伸べ同じシリア人に危害を加えないと約束してくれた」と述べました。

そのうえで「今後のシリアは国民が選ぶ指導者にゆだね、われわれはその指導者と協力する用意がある」と述べ、政権の移譲に協力する考えを示しました。また、「すべての国民の財産である公的機関へ被害を与えないようすべてのシリア人にお願いする」と述べて、国民に冷静な対応を求めました。

シリア 安定に向かうかは不透明

反政府勢力は、アサド政権を軍事面で支えてきたロシアやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、それぞれウクライナ侵攻やイスラエル軍との戦闘の対応に追われるなか、大規模な攻勢に乗り出し、アサド政権は守勢にたたされて一気に弱体化しました。

2011年から始まったシリアの内戦は大きな転換点を迎えましたが、反政府勢力は、今回の攻勢を主導した過激派組織やトルコが支援する勢力、それにアメリカが支援するクルド人勢力などが入り組み、情勢は複雑化していて、シリアが安定に向かうかは不透明です。

専門家「政府が油断していた時期狙ったか」

シリア情勢に詳しい東京外国語大学の青山弘之教授は、シリアの反政府勢力が一気に攻勢を強めた背景について「レバノンで停戦が発効した時期と重なっていて、シリア政府が油断していた時期を反政府勢力が狙ったと考えられる」としています。

またアサド政権による軍事的な抵抗が軽微だったことについて、「シリアでは2020年に内戦の主な戦闘が終わり、市民からは復興が進み生活がよくなるという期待があったが、経済制裁は続き生活は一向によくならなかった。その不満が軍の士気の低下につながり、加えて本格的な戦闘が終わったとして兵役や予備役が解除される動きもあり、兵力そのものが減っていたことが予想される」と指摘しています。

今後のシリア情勢については、「アサド政権が反転攻勢するにしても首都を奪われてしまうとなかなか容易ではない。一方で、政権の支配が残る地中海の沿岸地域にはロシア軍の基地があり、ロシアは徹底的にシリアを支援すると主張している。ロシアが今後どのように動くかも見ていく必要がある」としています。

また、反政府勢力を主導したのがイスラム過激派組織の「シリア解放機構」であることについて、「シリア解放機構が今のまま新政権を構築しても、アフガニスタンのタリバン政権のように国際社会からの承認は得られないだろう。このためいったん組織を解体して、ほかの武装勢力と合意をとりながら統治にあたるプロセスになると思う」と述べました。

反政府勢力とは

11月27日以降の反政府勢力の攻勢を主導しているのは、「シリア解放機構」と呼ばれる過激派組織だとされています。

2011年のシリア内戦開始後に結成され、アサド政権との間で戦闘を続けてきた、国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」が母体となっています。

「ヌスラ戦線」の分裂をへて、「シリア解放機構」が立ち上げられ、ジャウラニ指導者のもとでシリア北西部イドリブを拠点に活動していました。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、「シリア解放機構には最大3万人の戦闘員がいると推定されている」と伝えています。

今回の攻勢についてシリア解放機構のジャウラニ指導者は、アメリカのCNNテレビのインタビューで目的はアサド政権の打倒だとしたうえで、「目的達成のためすべての手段を使う」と主張していました。

シリア内戦とは

シリアでは2011年、民主化運動「アラブの春」が波及する形で、民主化を求めるデモが起こり、アサド政権がこれを武力弾圧したことをきっかけに反政府勢力との戦闘となり、激しい内戦に発展しました。

2014年には内戦の混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートが、シリアとイラクにまたがるイスラム国家の樹立を一方的に宣言して勢力を伸ばしたほか、少数民族クルド人勢力もアメリカの支援を受けて独自の戦いを展開し、内戦は泥沼化します。

2015年、劣勢に立たされていたアサド政権は、ロシアから空爆の支援を得て息を吹き返し、反政府勢力やISの支配地域を次々に奪還します。

ただ、アサド政権の攻撃は多くの民間人を巻き込み、化学兵器も使用したとして国際社会の批判を浴びてきました。

一方の反政府勢力は分裂して支配地域は北西部イドリブ県などに追い詰められ、ISも弱体化し、アサド政権は内戦での軍事的な勝利をほぼ手中に収めていました。

2020年にアサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦合意を交わして以降は、大規模な戦闘は起きず、戦闘はこう着状態となっていました。

国連が主導し、政治的な解決を目指すプロセスは行き詰まり、内戦の終結が見通せないなか、国連によりますと2011年からの10年で30万人を超える民間人が命を落とし、いまも680万人が国外避難をしているほか、720万人が国内での避難生活を余儀なくされています。

アサド大統領 2000年に大統領職継承

バシャール・アサド大統領は59歳。

30年にわたり独裁的な政権運営を続けた父親のハーフェズ・アサド前大統領の死去に伴い、2000年に34歳で大統領職を継承しました。以来、24年にわたって父親同様、強権的な統治を続けてきました。

2011年に「アラブの春」がシリアにも波及すると、アサド大統領は武力で弾圧し、これに反発する反政府勢力との間で戦闘となり、内戦に発展しました。

欧米諸国などはアサド大統領の退陣を求め、反政府勢力を支援しましたが、アサド大統領はロシアやイランなどの支援を受けて政権運営を続けてきました。

また、内戦では反政府勢力を北西部などの一部地域に追いやり、軍事的な勝利をほぼ手中に収めたとみられていました。

内戦が始まってから行われた過去の大統領選挙は、政権の支配地域のみで行われ、3年前の選挙ではアサド大統領が95%を超える得票で当選しました。

イラン大使館壊される

首都ダマスカスでは、アサド政権を支援してきたイランの大使館に武装グループが押し入り、建物などが壊されました。

イラン国営テレビが放映した映像には、イラン大使館の窓ガラスが割られ、書類が散乱した様子が映っています。大使館員の安否は分かっていません。

イランはシリア内戦を通じてアサド政権を一貫して支援し、軍事精鋭部隊の革命防衛隊や民兵を派遣するなどしてきました。

アサド政権が事実上崩壊したことについて、イラン政府は今のところ声明などを出していません。

国連 “37万人以上が住まいを追われた”

国連は6日、シリアでは11月27日以降、少なくとも37万人が住まいを追われたと明らかにしました。

現地では、厳しい寒さの中、路上や車内で寝泊まりをせざるをえない人もいるとして、国連は戦闘の一刻も早い停止を呼びかけていますが、首都をめぐる攻防戦となれば、市民を巻き込んで戦闘が激化することが懸念されます。

米大統領補佐官「アサド氏の軍は形骸化」

アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は7日、国防に関するフォーラムの中でシリア情勢について「アサド大統領を支援するイラン、ロシア、ヒズボラはいずれも弱体化したり、ほかに目を向けたりしているため、アサド氏は期待していたこれらの3つの勢力の支援を受けることができず、丸腰の状態に置かれている。アサド氏の軍は形骸化している」と述べ、シリア軍が機能していないことが、反政府勢力の急速な進攻につながっていると指摘しました。

NSC報道官「バイデン大統領 非常事態を注視」

アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は7日深夜、日本時間の8日午後1時すぎ、SNSに「バイデン大統領とそのチームはシリアにおける非常事態を注視している。この地域のパートナーと連絡をとりあっている」と投稿しました。

トランプ氏 SNSに相次ぎ投稿

シリア北東部などには、過激派組織IS=イスラミックステートの勢力が再び拡大しないよう、アメリカ軍の部隊およそ900人がいまも駐留しています。

そうした中、アメリカのトランプ次期大統領は7日、現在のシリア情勢をめぐってSNSに投稿し「シリアは混乱しているが、われわれの友人ではない。アメリカは関わるべきではない。これはわれわれの戦闘ではない。巻き込まれるな」と主張しました。

また8日には「アサド大統領は去った。自分の国から逃げた。後ろ盾のロシアはもはや彼を守ることに関心がなかった。ロシアはウクライナのためにシリアへの関心をすべて失ったのだ」と投稿しました。

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