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「そんなつもりはなかった 」無自覚な差別や偏見をなくすためにはどうする?|細野まさみさんインタビュー・後編|【連載】びびずむ

2024.11.29

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前編に続きニューヨークで自身のサロン『VACANCY PROJECT』を経営している美容師であり、国内外のメディアで、LGBTQ当事者のアクティビストとして声を上げている細野まさみさんに、日本とアメリカの性的指向や性自認(SOGI)に関する理解のギャップや、日常で感じる差別・偏見についてお話を聞いていきます。
後編のテーマは、もし、自分がその「偏見」を向けられる立場になった時や、周りの人が差別を受けている時、どんな行動を取れるのかについて。

インタビュー前編はこちら

この記事を読むためのキーワード解説

※1 SOGI(ソジ)
Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字を取ったもので、日本語訳では性的指向と性自認と訳す。LGBTQに限らず、異性愛者なども含む全ての人の属性を表す略称。

※2 マイクロアグレッション
直訳すると「小さな攻撃」。発言した本人に悪意があるとは限らず、無意識の偏見や無知、思い込みによって、意図せず対象者を傷つけてしまうこと。何気なく無視をしたり、話を遮ったり、ステレオタイプの考えを押し付けたりするなど、発する側に悪意がないことも多い。受け手は日常的にその小さな攻撃を受け、ダメージを蓄積している。

※3 アクティブバイスタンダー
アクティブ=行動する、バイスタンダー=その場に居合わせた傍観者/第三者、という意味。誰かが差別をされていたり、危険な状況やハラスメントを受けている現場に第三者として居合わせた時、積極的に行動を起こす人を指す。被害者を助けるために行動した人をさらに周囲の人たちがフォローする。これが当然であるという意識を社会の皆が持つことで、アクティブバイスタンダーとしての行動を誰もが起こしやすくなる。

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思い込みや無知から生まれる「偏見」は、知ることで変わる

 ――「知らなかった」「そんなつもりはなかった」という無知やアップデートされていない思い込みから、マイクロアグレッション※2 や差別は生まれます。傷つく人を減らすために、必要なことは何だと思いますか?

差別やマイクロアグレッションなどを減らしていくのに大事なのは、やっぱり教育だと思います。小学校の時、性教育で「このくらいの年齢で、”異性”に惹かれるようになっていく」ということを教わったのですが、もしあの時の授業で「同性に惹かれる人や、他者に性的な関心を抱かない人もいる。人それぞれ性的指向や性自認(=SOGI※1)は違う」ということを教えてもらっていたら、どんなに良かっただろうと思います。知識がないから、他者のSOGIを揶揄したり傷つける言葉を使ったりしてしまう。
日本は性教育がタブー視されていた背景があるので、あらゆるSOGIの理解が進むのに時間がかかるのかなと思います。

「教える/教えられる」ことをコツコツ続けていく

――もし、自分が差別を受けたときや、周りで差別を受けている人がいる場面に遭遇した時、どうしますか?

状況や相手との関係性にもよりますが、「教える」というのは、当事者としても、第三者としても、できることのひとつだと思います。
例えば先日、同性婚について母と話をしていた時、母が「お母さんだって、結婚には特にこだわりがなかったんだよ」と言いました。人生、結婚が全てではないよという趣旨の話だったのですが、”法律上結婚ができるのにしない”ことと、”法律上結婚できない”というのは、全く違う状況。前提条件が違うんだよということを母に伝えました。すると母も「そうだね……」と納得していたので、きっと今後、このような表現を使わないと思います。今回の場合、直接指摘できるような関係だったから、私も言えたことなのかもしれません。
やはり、目の前にいる人の差別的な発言について、本人が指摘するというのは勇気がいることだと思います。だからこそ、第三者が言ってあげることが助けになると思います。
私はもし自分がマイクロアグレッションや差別になり得る言葉を使っていたら、できればその時に教えてほしいです。きっと、これを読んでくれている方の中にも、そういう状況になったときは、教えてほしい/教えてあげようと思う人が多いのではないでしょうか。こういうコミュニケーションの積み重ねが大事だと思います。

ーーアクティブバイスタンダー※3 の考えがより多くの人に広まってほしいです。

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差別をしてしまう人の多くは傷つける意図がない

 ――発言している本人も誰かを傷つけたいわけではないことがほとんどですよね。「こういう表現は傷つく人がいる」というのを知れば、きっと多くの人は、配慮できるはず。

差別と知った上でそんな言動をとるのは、もはや“攻撃”です。悲しいことに、ほとんどの差別的発言は、悪意がない人から生まれるもの。ただ、そもそも自分が差別発言をしているかどうかを考える機会自体が少ないというのもあると思います。だから、こういう話題を誰かと話すことって、すごく大事ですよね。

 これから自分たちの子供が生まれる上で思うこと

「子供はハーフ?」、「ハーフいいね!」というのも、日本だといまだによく使われる表現です。おそらく褒め言葉として言っている人が多いと思うのですが、日本特有の言葉で、当事者の受け止め方はそれぞれあるのでセンシティブな表現です。来年には、私も“ハーフ”の子を持つ親となると思うと、クィアのこととはまた違う壁に直面していくのか……という不安もあります。

ただ、私は今の若い世代に、大きな期待と希望を持っています。Z世代やα世代は、デジタルネイティブ。生まれた時からインターネットと共に暮らしていて、メディアがテレビだけじゃないし、SNSですぐ世界中と繋がれるから、世界とのカルチャーギャップも少ないと思います。性別関係なくメイクもネイルも自由に楽しんでいるし、女の子たちが制服でトラウザーをはいているのを日本で見かけた時は、めちゃくちゃ嬉しい気持ちになりました。みんな、堂々と着ているし、それが変といじめられることもない。私が学生の時は、女子はスカート、男子はトラウザーと制服に選択肢は与えてもらえなかったけど、きっとあったらあったでそれを選んでいたら「変わってる」って言われていたんだろうなと思います。まだ知識や教育が行き届いていなかった時代を生きていたんだなと。
でも今は、誰がどの制服を着ていようがそれに対して周りの人から何も言われることはない。自由な選択をできることが当たり前になっているのは、いい流れだなと思います。

自分が新しい世代の当たり前に付いていけてなかったと、ハッとしたこともありました。パートナーの妊娠が分かった時、私が友人に「子供が生まれて、学校に通わせるようになったら、『あの子にはパパがいない』とか言われるのかな……」と、ぽろっと心配事を話したことがあって。それに対し友人から「そんなこと誰も言わないよ。今の子たちは、ただ、“こういう親なんだ”と理解して、話題にもしないから」と言われ、あぁ、そうか、時代はどんどん変わってるんだと気付かされました。 

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知識のアップデートは自分と大切な人のため

――最後に、細野さんがアクティビストとして発信するときに気をつけていることがあれば教えてください。

誰かと話をしていて、「あれ? この人、ちょっと考え方が古いな」と感じる瞬間ってあると思うんです。でもいつ自分が、そう思われる側になるかなんて分からない。時代は流れ、どんどん新しい価値観に変わり、今までの“当たり前”がそうでなくなることもある中で、人とのコミュニケーションや知識をアップデートすることを怠れば、考え方は古いまま。だからこそ、もしかして自分も知らない間に誰かを傷つけているんじゃないか? 時代に合っていない発言をしているんではないか? ということは、常に考えるようにしています。
ただ、それでも自分だけで気づけないことあります。なので発言する前に、ネットで調べたり、誰かに意見を聞いたりフィードバックをもらうのって本当に大事だなとつくづく感じています。
知ることは、自分のためでもあり、周りの大切な人のためでもある。 「これについてどう思う?」と周りの人と意見を交換して、自分が凝り固まった意見になっていないかを客観的にチェックしてもらいながら、発信を続けていきたいなと思います。 

Interview&Text:Yumiko Ito Photos:Tami Kanamori

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