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「触れられない存在として扱われる」LGBTQ当事者と考える、日常にある差別 | 細野まさみさんインタビュー・前編|【連載】びびずむ

2024.11.29

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2024年10月末、東京高裁は「同性婚を認めない法律規定は憲法違反である」という判断を下しました。また、時を同じくして、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)からも、夫婦別姓の導入などに加えて同性婚を認めることを促されるといった日本政府に対する「最終見解」が話題に。
そこで今回は、ニューヨークで自身のサロン『VACANCY PROJECT』を経営している美容師であり、国内外のメディアで、LGBTQ当事者のアクティビストとして声を上げている細野まさみさんに、日本とアメリカの性的指向や性自認(SOGI)に関する理解のギャップや、日常で感じる差別・偏見について聞いてみました。 


この記事を読むためのキーワード解説

※1 SOGI(ソジ)
Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字を取ったもので、日本語訳では性的指向と性自認と訳す。LGBTQに限らず、異性愛者なども含む全ての人の属性を表す略称。

※2 マイクロアグレッション
直訳すると「小さな攻撃」。発言した本人に悪意があるとは限らず、無意識の偏見や無知、思い込みによって、意図せず対象者を傷つけてしまうこと。何気なく無視をしたり、話を遮ったり、ステレオタイプの考えを押し付けたりするなど、発する側に悪意がないことも多い。受け手は日常的にその小さな攻撃を受け、ダメージを蓄積している。

※3 アクティブバイスタンダー
アクティブ=行動する、バイスタンダー=その場に居合わせた傍観者/第三者、という意味。誰かが差別をされていたり、危険な状況やハラスメントを受けている現場に第三者として居合わせた時、積極的に行動を起こす人を指す。被害者を助けるために行動した人をさらに周囲の人たちがフォローする。これが当然であるという意識を社会の皆が持つことで、アクティブバイスタンダーとしての行動を誰もが起こしやすくなる。

同性婚が認められているアメリカ、認められていない日本

 ――細野さんは、アメリカのニューヨークに住んでいらっしゃいますが、日本とアメリカで、性的マイノリティへの理解の違いを感じますか? 

 理解度は全然違うと思います。アメリカでは同性婚が法的に認められているので、そこからして日本とは明らかに違いますし、ざっくり言うと、アメリカではSOGI ※1 の違いによって、受けられる制度などが変わるということはありません。異性愛者の人もクィアの人も同じ所で生きていることが当たり前で特別視もされてないし、話題にも上がらない、という感じです。例えば、日本でいう“新宿2丁目”みたいなゲイタウンと呼ばれるような街すらありません。

政権交代でマイノリティへの風向きが変わるかも

 ――アメリカでは大統領選で共和党のトランプ氏が当選しましたが、クィアの方たちを取り巻く状況は変わると思いますか?

 変わると思います。カマラ・ハリス氏を擁立した民主党は、大々的にLGBTQへの理解を示す言葉を掲げ、誰もが生きやすい世の中にするという目標を打ち出していましたが、トランプ氏を立てている共和党は、基本的にはそういう話には触れていません。LGBTQだけに限らず、さまざまなマイノリティに厳しい政権になっていくのではないかという不安は感じています。
ただ、
民主党のバイデン政権がイスラエルを支援していることに反対をしている人も多かったため、今回の大統領選は、どちらの政党も支持できないという意見も多く見られました。今、アメリカは、いろいろな問題が重なり、混沌としています。

――これまで、アメリカで人種差別を感じたことはありましたか?

 ニュースにもなっていたように、コロナ禍ではアジア人へのヘイトクライムがたくさんありましたし、実際に暴力被害を受けた人もいました。その時は私も怖いなと思っていましたが、ニューヨークは人種のるつぼ。皆それぞれが、さまざまなルーツを持っていて一緒に暮らしているので、「アジア人だから」という理由だけで差別を受けることは、今は特にありません。ニューヨークにいると、アメリカ出身の白人がそもそも少ないですし、逆にその人たちの方がちょっと肩身が狭いのかな? なんて思うこともあります。というのも、今の時代の白人・ストレートの男性って、“マイノリティを理解しなきゃいけない”という役目を背負わされている気がするんです。みんなが“Ally(※アライ。LGBTQなどのマイノリティへの理解者・支援者)”にならなければいけないというか……。いわゆる“マジョリティ”と呼ばれている人たちにとっては、そういう課題もあるのかなと思います。逆に、“マイノリティ”とされているアジア人は、何か特権を持っているわけではないですが、マイノリティとして意見を発信しやすい立場ではあるなとも感じています。

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「私もゲイの友達いるよ」何気ない一言がマイクロアグレッション 

――では、SOGIに関することで、差別や“マイクロアグレッション※2 ”を感じた経験は?

例えば、初対面の人からよく言われるのですが、「私もゲイの友達いるよ」という一言。これを言われると、またか……と思ってしまいます。会話を広げるために良かれと思っての発言かもしれませんが、その方の友達の性的指向は特に私に関係ないので、わざわざそれを教えてもらう必要はないのかなと。 

――「異性愛者の友達いるよ」とは、なかなか言いませんよね。もしかして“ゲイの友達がいるから偏見はないよ”というメッセージが含まれているかもしれませんが、友達がいることがイコール偏見がないことにはならないですし、何人もの人から言われ続けるとうんざりすることが想像できます。

逆に、不自然に感じるくらいそういった話を振られず、アンタッチャブルな存在に扱われることも、隠れたマイクロアグレッションのひとつだと思います。実は今、私のパートナーが妊娠していて、来年の2月に子供が産まれるんです。そのことを日本で友人などに話した時、悲しく感じるのは、あまり話を広げてもらえないこと。「すごいね」と言われて、早く話を終わらそうという雰囲気になるのを感じます。私は妊娠していないので、私の血が繋がっていない子というのは明らかで、そのことを気にしてくれているのかな? とも思うのですが、何人もの人から「この話には触れられない」と、コミュニケーションを閉じられてしまうと、疎外感を感じてしまいます。
日本のコミュニケーションの取り方って、「言わない」「聞かない」ことが思いやりという部分があるのかもしれないですが、それによって距離ができてしまうことも多いのかな? と、その時に感じました。

――それと似たような話をLGBTQ当事者の方から聞いたことがあります。仕事仲間の数人と食事をしていて、それぞれの私生活や恋愛の話になっても、不自然なほど、その人の恋愛話には触れられないことが傷つくと。

あるあるだと思います。私はメディアなどパブリックな場で問題提起をしたり、パートナーのことなどを話しているので、私の事情に関して知られていることも多く、周りはそこまで触れにくいという空気は、普段はありません。ただ、私のように表に立って話していない人がほとんどだと思うので、「誰からも聞かれない」「話を触れてもらえない」という寂しさや疎外感を感じている人は多いと思います。

――「話を聞いてほしい!」という単純な話ではなく、SOGI の違いによって対応を変えられるのはどうなんだろう? ということですよね。自分だけスルーされ続けるのは、誰しも傷つくことだと思います。そして、「きっと話したくない話題だろう」というのも、決めつけのひとつで、それらがマイクロアグレッションに繋がっているんですよね。

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「聞いてもいい? 嫌だったら答えなくていいから」相手の意思を尊重する一言を

 ニューヨークで暮らしていていいなと思っているのは、友達やお客さんに、パートナーの妊娠を報告すると「もしよかったら、聞いてもいい? 嫌だったら答えなくていいから」という言葉をかけてから会話を進めてくれることです。「女性同士だとどうやって子どもを授かるの? 精子提供? それとも違う方法?」などという踏み込んだ質問でも、このワンクッションあることで、相手の思いやりを感じますし、私を知ろうとしてくれているんだなということが伝わってきます。これって、誰にでも使える優しいコミュニケーションのテクニックだなと。質問すること自体が失礼だと思っている人って、実は多いと思うんです。でも、聞かない・言わないで終わってしまうと仲を深めることは難しい。相手の意思を尊重する導入の言葉を一言かけるのは、誰にとっても優しいんじゃないかなと思いました。

ーーその他によく起こりがちなマイクロアグレッションにはどんなものが挙げられますか?

英語だと、She/Heの代名詞を間違えることが結構あります。性別が分からない人に対しては、She/Heと決めつけるのではなく、性別を明らかにしないTheyを使うのがベターなのですが、会話の中で間違えてしまうことって、結構あるんです。ただ、これって、言われた本人が代名詞を正すのって、なかなか難しい。面倒な人と思われるな……とか考えちゃうだろうし。なので、もし、そのことに気づいた人がその場にいるのであれば、その第三者が正してあげるのがいいなと思います。代名詞についても当事者が日々感じているマイクロアグレッションの一つではありますが、単純にミスでもあるので、みんなでコミュニケーションを取り合うことで、マイクロアグレッションを減らすことができるのかなと思います。

 ――“アクティブバイスタンダー(行動する第三者)※3 ”ですね! それについては後編でお話を聞いていきたいと思います。

インタビュー後編はこちら

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Interview&Text:Yumiko Ito Photos:Tami Kanamori

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