「生活保護の受給要件をみたしているのに…」相談者の7割近くが申請断念 行政の“水際作戦”「実態と背景」とは【行政書士解説】
日本国民が最低限度の生活を営む権利は「憲法」が保障
まず、前提として、福祉事務所が従うべき「ルール」がどのような構造になっているか、押さえておく必要があります。 日本の統治機構では「三権分立」の仕組みがとられています。 すなわち、まず「国会」が、国民の人権を制限し義務を課するルールである「法律」を定める権限を独占しています。次に、「内閣」等による行政活動はこの法律に従って行われます。もし、行政活動に法令違反があれば、「裁判所」が司法府として裁きます。 そして、国会が作るあらゆる法律の上位にあるのが憲法です。つまり、憲法25条で保障される「日本国民が最低限度の生活を営む権利」は、本来、3段階で厳重に守られる仕組みになっているのです。 したがって、生活保護にかかわる行政(福祉事務所)の活動や、判断の内容も、国民自身が選んだ政治家が国会で作った法律とその下位規範の「政令」「省令」等に則って行われなければなりません。具体的には「実施要領に従って適正に仕事をすること」と法令で定められており、職員は「実施要領」や「生活保護手帳別冊問答集」を調べながら対応することになります。 職員の「感情」や「私的判断」によるものではなく、法令のルールに則って判断されなければならないのです。 私の事務所でも常に最新版の「実施要項」を購入し常備していますが、分厚い辞書のようなサイズの何百ページにも及ぶものです。
水際作戦の背景…福祉事務所の「裁量」ってなに?
では、なぜ、「水際作戦」と呼ばれるような行政対応が横行しているのか。その背景には、行政の「裁量」というものがあります。 裁量とは、公務員が法令の範囲内で、自ら判断して行動を選択、決定できることを言います。 生活保護制度は、全国画一的に運用されているわけではなく、地方公共団体、福祉事務所の裁量による取り扱いが広く認められています。 なぜなら、生活保護の相談者や保護受給者が抱えている問題は多様なので、裁量によって、それぞれの事情に配慮した血の通った行政対応が求められているからなのです。 分かりやすい実例を挙げてみます。 ・厚生労働省による通達で「エアコンの経年劣化による故障のとき、原則一時扶助は支給しない」とされても、実際には、自治体、福祉事務所の裁量により、エアコンの購入費が支給されているケース ・病院が遠方で交通費がかさむため、通常の生活保護費とは別に医療扶助の一環として交通費が支給されているケース ・病院が遠方で交通費がかさむため、「近場の歩いて行ける病院に転院してください」と指導するケース 他にも、フリースクールなどに通学するときの交通費補助など、いろいろあります。 このように、裁量は本来、個々人の事情や地域の事情に応じたきめ細かな対応が行われるために認められているはずのものです。 国は、福祉事務所の個別の判断のための具体的指針を、自治体レベルで示し、適切な現場対応をすること、すなわち地方公共団体レベルの裁量基準の策定を促してもいます。 また、裁量の行使が権力の濫用的に行われてはいけないので、裁量基準というものも設けられています。
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