その日から私は雨が降ろうと風が吹こうと、毎日必ず管理人のおじさんに話しかけることを義務にした。このマンションの住人の多くは、ホスト、スカウト、キャッチ、待機所の風俗嬢、そしてヤクザだ。ヤクザはむしろ礼儀の正しい方々が多いのだが、私はこのマンションでもっとも挨拶のできる住人であることを自負している。
3カ月ほど経ったころ、いつものように挨拶をすると管理人のおじさんは私を呼び止めた。
「國友さん、もう管理人室の中で話そうよ」
そして私は、念願でもある歌舞伎町ヤクザマンションの管理室に足を踏み入れたのであった。おじさんによれば、確かに昔のここはめちゃくちゃだったという。それはヤクザに限ったことではない。非合法な商売が行われている部屋がいくつもあったそうだ。
約15年前のこと。毎日監視カメラを見ていたおじさんはあることに気が付いた。午後6時頃になると、マンションのある一室に女性が1人ずつ入っていく。3人ほど入ると今度は男性が1人、また1人、続々と入室していく。そのパターンが毎日必ず続いていた。
周りの住人からの苦情もあり、おじさんは合鍵で突入することを決意。男性が10人は入室したであろう夜の11時頃、そっと部屋の扉を開けると女3人と男10人が、ピラニアが肉塊に群がるように重なり合っていたという。
男たちは入場料を払って入室。女たちはその売り上げの一部を報酬として受け取っていた。クローズドのハプニングバーが毎晩のように営業していたのである。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。新刊「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)が話題。