【詳しく】ユン大統領の弾劾議案 廃案に 大統領は職務継続

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案は、7日、国会での投票に与党のほとんどの議員が参加しなかった結果廃案となりました。ユン大統領は大統領の職務を継続することになりますが、野党側は、今月11日にも再び弾劾を求める議案を提出する構えを示していて、政治の混乱は今後も続く見通しです。

韓国の国会では、「非常戒厳」を宣言したユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の弾劾を求める議案の採決がきのう行われましたが、与党のほとんどの議員が投票に参加しませんでした。

ウ・ウォンシク(禹元植)議長は与党議員に対して投票を呼びかけましたが、午後9時すぎになって、投票した国会議員が200人に達しなかったことから「投票が成立しなかった」と述べ、議案は廃案となりました。

これによってユン大統領は職務を継続することになりましたが、与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は7日夜「ユン大統領の退陣まで大統領は事実上職務から排除される」と述べました。

一方、最大野党の「共に民主党」は強く反発していて、ユン大統領の弾劾を求める議案を今月11日にも再び国会に提出する方針を明らかにしました。そして今月14日に、採決を行うとしています。

議案の採決を前に、ユン大統領は国民向けの談話で「国民に心からおわび申し上げる。法的・政治的責任を回避しない。第2の戒厳は決してない」と述べました。

ただ7日は、本会議が開かれた国会前に、警察の推計で一時15万人余りが集まったということで、大統領の退陣を求める声が夜まで続きました。国民からは、今回の非常戒厳に批判的な声が依然根強く、政治の混乱は今後も続く見通しです。

【解説動画】7日の動き 今後の焦点は

国際部の矢野デスクと政治部の瀧川記者の解説です。
※動画は8分47秒 7日23時すぎのニュースで放送しました
※データ放送ではご覧になれません

【動画】専門家 “今後のポイント 1つは世論の動向”

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案が廃案となりユン大統領が職務を継続することについて、韓国の政治に詳しい慶應義塾大学の西野純也教授は「野党にとっては与党が全く協力しないばかりか大統領に加担しているというふうに印象づけることも場合によってはできる。こういった状況を来週もまた繰り返していくことになると思う」と指摘しました。

また、今後の政権運営については「大統領自身がもはや前面に出てくることは難しい状況なので、国務総理を中心とする政権の閣僚たちが安定的に国政運営を担っていくことになるだろう。その中で大統領は退陣のスケジュールを先延ばしにしながらもめどを立てていくことになると思う。与党の代表はできるだけ早く退いてもらうと言っているが場合によっては野党のイ・ジェミョン代表が抱えているさまざまな裁判の結果が出るまでは引き延ばしたいと思っている可能性もある」という見方を示しました。

また、今後の注目点としては「ポイントの1つは世論の動向で、国会の前や市内中心部でいわゆるろうそくデモが行われているが、これがさらに広がっていく可能性がある。世論が収まるのはなかなか難しいと思うので、こういった状況が長期化する可能性もある」と指摘しています。

==【7日の動き】==

集会に参加した市民は

ユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案が廃案となったあとの7日夜、弾劾を求めて国会周辺で大規模な集会に参加していた市民に話を聞きました。

与党のほとんどの議員が投票に参加しなかったために議案が廃案になったことから、30代の男性は「残念だ。投票しなかった与党議員たちに全く共感できなかった」と話していました。

また、50代の男性は「与党議員たちもある程度は野党に同調して議案を可決させるだろうと考えていた。もっと多くの人が集会に参加して国民が声を上げるしかない」と話していました。

与党代表「退陣まで大統領は事実上職務から排除される」

韓国の与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は、ユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案が廃案となったあと、記者団に対して「ユン大統領の退陣まで大統領は事実上職務から排除される」と述べました。

最大野党 弾劾議案を来週11日にも再提出の方針

韓国の最大野党「共に民主党」の国会議員は7日夜、記者団に対してユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案を来週11日にも再び国会に提出する方針を明らかにしました。そして来週14日に、国会の本会議で採決を図るとしています。

与党「弾劾による悲劇を繰り返すことはできない」

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案が廃案になったことを受けて、与党「国民の力」はコメントを出し「弾劾による国政のまひと憲政の中断の悲劇を繰り返すことはできない。8年前の憲政史上初の弾劾が残したのは、国民の激しい分裂と混乱だった」としています。

その上で「この非常事態を前に、政権与党に与えられた責任と役割を果たす。弾劾よりも秩序ある責任ある方法で、この危機を早期に収束していく」としています。

21:20すぎ 議長「国会を代表して国民におわび」

韓国国会のウ・ウォンシク議長は午後9時20分過ぎ「投票した議員数が規定数である在籍議員の3分の2に達しなかった。このため大統領の弾劾案に対する投票は成立しなかった」と述べました。その上で「このような重大な国家の問題について投票さえ成立しなかったことは非常に残念だ。国会を代表して国民におわびする」と述べました。

ハン・ドクス首相“早期に収束に全力”

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案が廃案になったことを受けて、ハン・ドクス(韓悳洙)首相がコメントを出し「国民の気持ちと大統領の言葉を重く受け止めている。現状が早期に収束し、国家の安全と国民の日常が維持されるよう、首相として全力を尽くす」としています。

また「すべての閣僚と省庁の公務員は国民の日常が安定して維持されるように、任務を忠実に遂行してほしい」と呼びかけました。

最大野党代表「必ず弾劾する」

韓国の最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表はユン大統領の弾劾を求める議案が廃案になったことについて「韓国最悪のリスクになっているユン・ソンニョル大統領を必ず弾劾する」と述べて、大統領の退陣を求める立場を強調しました。

21:30ごろ ユン大統領の弾劾議案 投票成立せず

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案をめぐり、韓国の国会で7日午後、投票が行われましたが、与党「国民の力」のほとんどの議員が退室して投票せず、ウ・ウォンシク国会議長はさきほど、投票に参加した国会議員が200人に達しなかったことから投票が成立しなかったと述べました。これによってユン大統領は大統領の職務を続けることになります。

日本の外務省幹部「日本人の安全確保に緊張感もってあたりたい」

外務省では、担当部署の幹部や職員が登庁し、ソウルの日本大使館とも連絡を取り合いながら、弾劾の議案の行方を見守っていました。

外務省幹部は、NHKの取材に対し「議案がどうなるか読めなかった。国会の周りでは、大規模な集会が開かれており、今後、韓国国内で混乱が生じる可能性も否定できない。現地の日本人の安全確保に緊張感をもってあたりたい」と述べました。

その上で「弾劾の議案は廃案となったが、韓国の国政が混とんとするのは間違いない。ユン大統領と与党がどのような政権運営を行うつもりなのか見極めなければならない。外交当局間の意思疎通は続けており、北朝鮮への対応などで地域の安全保障に空白が生じないようにしなければならない」と述べました。

外務省幹部はNHKの取材に対し「これで『すべておしまい』ではなく、内政の状況がもとに戻るわけではない。今後、何回か同じような議案が国会に出される可能性もあるほか、韓国の国民が、ユン大統領の続投をどう受け止めるかなど、状況を注視していく必要がある」と述べました。

その上で「日本を取り巻く安全保障環境や国際情勢を踏まえれば、互いの内政の状況にかかわらず日韓関係が重要であることに揺らぎはない。引き続き外交当局どうしの交渉を続けていく」と述べました。

採決には国会議員300人のうち200人以上の投票が必要

韓国メディアによりますと、弾劾を求める議案の採決は議案が国会の本会議で報告されてから72時間以内に手続きを終える必要があり、今回の場合は、8日午前0時48分で72時間となります。

また、採決には国会議員300人のうち200人以上の投票が必要で、それに達しない場合、議案は廃案になり、採決が成立しなかったとみなされるということです。

議長「午後9時20分まで待つ」与党議員に投票呼びかけ

韓国国会のウ・ウォンシク議長は、弾劾を求める議案の採決でほとんどの与党議員が議場から退出したことをめぐり「午後9時20分まで待つ。投票に参加してほしい。投票が成立しなければ、弾劾の議案は自動的に廃案になる」と述べて与党議員に投票を呼びかけました。

議場に戻った与党議員1人 議案に反対の票投じる

韓国メディアによりますとユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決には、与党「国民の力」の議員のうち、これまでに3人が投票したということです。

このうち採決前に退場し、戻って投票した議員は弾劾の議案に反対の票を投じたことを明らかにしたうえで「ユン大統領は大統領の資格がないと思うが、党の決定に基づいて弾劾の議案には同意しなかった。ただ、それでも投票はしなければならないと考えました。国会議員の義務であり、役割だと信じるからです」と述べました。

20:00ごろ 与党「投票を拒否する考えを明らかにする」

韓国の国会で採決の手続きが続いているユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案について与党「国民の力」は7日午後8時ごろ談話を発表し、「投票を拒否する考えを明らかにする」とする党の方針を明らかにしました。

その上で議員たちは議場の外で開票を待っているということで「自由投票の意志を正面から否定する国会議長と野党『共に民主党』の正常ではない行為は嘆かわしいことだ」と批判しています。

韓国国会議長 採決参加呼びかけ 与党議員数人戻り投票

韓国国会のウ・ウォンシク議長は、与党議員のほとんどが議場から退出したあとに行われたユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決で与党議員に対して「採決に参加してほしい」と呼びかけました。

韓国メディアによりますと、数人が戻り、投票したということです。また、一部の野党の議員は投票をしておらず、採決が可能な8日午前1時前まで待っている可能性があると伝えています。

その後も与党議員の多くが戻らないことからウ議長は再び呼びかけを行い「採決の投票さえ成立しないままなのは、本当に恥ずかしい。韓国を超えて世界の人たちが見守っている。恥ずかしい判断をせずに、戻ってきて、本人の考えにしたがって、必ず投票して欲しい」と話しました。

専門家「次の大統領選へ政治的駆け引きをしている」

韓国の政治に詳しい静岡県立大学の奥薗秀樹教授は弾劾を求める議案の採決で与党議員のほとんどが議場を退出したあと、採決の手続きが終わらない状況が続いていることについて「このまま与党側の議員が1人でも多く投票してくれることをずっと待つ、延長してでも待つといったような状況になっているようだが、与党側の議員がさらに投票して議案の可決に必要な賛成8人という数字に達することは難しいのではないか」と指摘しました。

その上で現在の状況について「大統領に対する国民の怒りはかなりのものだ。大統領が任期満了まで持ちこたえられる可能性がもうほぼないことは与党も野党も踏まえた上で次の大統領選挙をどう戦うか、どう戦うのがより有利かということをもとに政治的駆け引きをしている」と述べました。

18:20ごろ 弾劾を求める議案の採決始まる

韓国の国会では、野党が提出していたユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決が午後6時20分ごろから始まりました。

これに先立って与党「国民の力」のほとんどの議員が議場を退場していて、韓国の複数のメディアは「事実上、否決される見通しとなった」と伝えています。

18:10ごろ 弾劾議案「事実上否決の見通し」メディア

韓国の通信社、連合ニュースなど複数のメディアは、ユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の国会での採決を前に与党「国民の力」の議員のほとんどが退場したことから「事実上、否決される見通しとなった」と伝えました。

17:45すぎ 弾劾を求める議案の説明始まる

韓国の国会で、野党が提出したユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の説明が午後5時45分すぎから始まりました。

これを前に与党議員数人がさらに議場を退出しました。

議案の説明に立った野党議員は冒頭で与党の議員について「たった1人だけ議場に残っている」と話しました。

弾劾を求める議案の説明をする野党議員は、議場から退出した与党議員ひとりひとりの名前を呼んで「早く戻ってきてください」と呼びかけました。

また、議場に残った与党議員1人の名前を読みあげた際には「ありがとうございます」とも述べました。

17:00すぎ 弾劾を求める議案の採決含む本会議始まる

韓国の国会では、野党が提出していたユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決を含む本会議が午後5時すぎに始まりました。

韓国の通信社、連合ニュースなど複数のメディアは、国会でのユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決を前に、与党「国民の力」の議員が議場から退出していると伝えました。

韓国メディアは、ユン大統領のキム・ゴニ(金建希)夫人の疑惑に関する特別検察官の任命をめぐる法案の採決に参加したあとに、与党議員が退場しているとしています。

ただ、一部の与党議員が議場に残っている姿も韓国の公共放送KBSの放送でうつされています。

16:43ごろ ユン大統領の弾劾議案 与党反対方針 複数メディア

韓国の通信社、連合ニュースなど複数のメディアは、韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案について、与党「国民の力」は国会での採決で、党として反対する方針を決めたと伝えました。

ただ、採決は無記名で行われるため、実際にすべての議員が党の方針に従うかは不透明です。議案の可決には、与党から少なくとも8人の賛成が必要で、与党議員の動向が焦点となっています。

ソウルでは弾劾求める 反対する市民がそれぞれ集まる

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決を前に、ソウルにある国会議事堂の周辺では大統領の弾劾を求める市民が数百メートルにわたって道路を埋め尽くし、その数はどんどん増えています。

韓国の連合ニュースによりますと、国会議事堂の周辺には、警察の推計で7日午後5時半現在およそ14万9000人が集まったと伝えています。

集まった人たちは、プラカードを掲げ、「弾劾せよ」などと声を上げました。

このうち50代の男性は、「ユン大統領には自分の過ちを認めて早く退陣してもらい、安定した国に早く戻ってほしい」と話していました。

一方、7日午後、ソウル中心部にある広場では、ユン大統領の弾劾に反対する大勢の市民たちが集まり、「大統領を守れ」などと訴えていました。

参加した70代の女性は「ユン大統領を弾劾せず守るために来ました」と話していました。

一方、7日午後、ソウル中心部にある広場ではユン大統領の弾劾に反対する大勢の市民たちが集まり「大統領を守れ」などと訴えていました。

参加した70代の女性は「ユン大統領を弾劾せず守るために来ました」と話していました。

【動画】韓国 ユン大統領談話(1分25秒)

午前 ユン大統領 談話で謝罪

韓国のユン・ソンニョル大統領は「非常戒厳」の宣言について、7日午前、国民向けの談話を発表して「心からおわびする」と謝罪し、「私の任期を含めて政局を安定させる方法はわが党に一任する」と述べました。

ユン大統領の弾劾を求める議案は7日夕方に採決されることになっていて、大統領の談話を受けた与党議員の動向が焦点となっています。

韓国のユン・ソンニョル大統領は、7日午前10時から国民向けの談話を発表しました。

この中でユン大統領は「非常戒厳」の宣言について、「国政の最終責任者である大統領としての切迫感から始まったが、国民に不安と不便をかけ、誠に申し訳なく、心からおわび申し上げます」と謝罪しました。

そして「法的、政治的な責任を回避しない」とした上で、「私の任期を含めて政局を安定させる方法はわが党に一任する」と述べました。

一方、みずからの進退については言及しませんでした。

ユン大統領 談話全文

韓国のユン・ソンニョル大統領が、国民に向けて発表した談話は次の通りです。

尊敬する国民の皆様、私は12月3日夜11時に非常戒厳を宣言しました。
およそ2時間後の12月4日午前1時ごろ、国会の戒厳解除の決議に基づいて軍の撤収を指示し、深夜の閣議を経て戒厳を解除しました。
今回の非常戒厳の宣言は、国政の最終責任者である大統領としての切迫感から来るものでした。
しかし、その過程で国民に不安と不便をおかけしました。
大変申し訳なく思い、とても驚かれた国民の皆様に心よりお詫び申し上げます。
私は今回の戒厳宣言と関連して法的、政治的責任問題を回避しません。
国民の皆様、再び戒厳を発動するという話がありますが、はっきり申し上げます。
第2の戒厳のようなことは決してないでしょう。
国民の皆様、私の任期を含め、今後の政局を安定させる方法はわが党に一任します。
今後の国政運営は、我が党と政府がともに責任を持って行っていきます。
国民の皆様にご心配をおかけしましたこと、改めて頭を下げてお詫び申し上げます。

与党代表「早期退陣は不可避だ」

ユン大統領の談話を受けて、与党「国民の力」のハン・ドンフン(韓東勲)代表は「大統領は正常な職務遂行が不可能な状況で、早期退陣は不可避だ。大韓民国と国民にとって最善の方法を議論し、考えていく。首相と党が国民の暮らしや重要な状況を緊密に議論していく」と述べました。

最大野党代表「最大のリスクはユン大統領の存在そのもの」

韓国の最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表はユン大統領の国民演説のあと会見を開き「非常に失望した。韓国の最大のリスクはユン大統領の存在そのものだ。大統領の即時辞任か弾劾による早期退陣以外に道はない」と述べ、ユン大統領を強く批判しました。

こうした中、野党側が提出したユン大統領の弾劾を求める議案は、7日午後5時からの本会議で採決される予定です。

与党「国民の力」は、7日朝から緊急の議員総会を再開して党としての対応を協議しています。

大統領の談話について、与党のハン・ドンフン代表は「大統領は正常な職務の遂行が不可能な状況で、早期退陣は避けられない」と述べましたが、党としての方針については言及しませんでした。

議案の可決には、与党から少なくとも8人の賛成が必要で、大統領の談話を受けた与党議員の動向が焦点となっています。

専門家「与党に対する意思表示という側面も」

韓国のユン・ソンニョル大統領が7日発表した談話について、韓国政治に詳しい静岡県立大学の奥薗秀樹教授は「国民に対する談話といいながら一方では与党に対する大統領としての意思表示という側面もあったと思う。きょう予定されている弾劾訴追案の議決を前に、与党から8人以上の造反が出て可決されるのをなんとか避けたかった」という見方を示しました。

その上で、「与党に対して任期の短縮とか、あるいは自分が第一線から退いた状態で挙国内閣を構成するといった方法でこの事態を収拾できないか与党に対して呼びかけたという意味合いがあると思う。なんとか自分の職務停止というところまでは至らずに、解決策を与党のほうにお願いしたいということで一任するという大統領の意思がうかがえる内容だった」と分析しています。

米識者「大統領の地位にとどまる意思か」

アメリカ ホワイトハウスの元高官で、現在は首都ワシントンにあるCSIS=戦略国際問題研究所で韓国部長を務めるビクター・チャ氏はNHKのインタビューに対し、ユン大統領が発表した国民向けの談話について「戒厳令を出すという軽率な判断を下してしまったことに対し、後悔の念を表明しようとしたようだ。間違いを償い、韓国で政治的な影響力を維持して、大統領の地位にとどまり続けようとしているのだと思う」と分析しました。

また、アメリカから見た韓国の現状についてチャ氏は「北朝鮮と中国、北朝鮮とロシアとの関係が強まり、北朝鮮がロシアに何千もの兵士を派遣したり、大量の弾薬を供給したりするなか、韓国でこうした政治的混乱が続くことは理想からほど遠い状況だ」と指摘しました。

そのうえでアメリカ政府の立場については「当初は戒厳令が出されたことに驚かされたと認めていたが、その後は『状況を見守っている』と慎重に表現し、どちらの側にもつかないようにするとともに、国内でどんな政治的対立があろうとも、憲法にのっとった平和的な解決をはかるよう強調している。この週末以降、何が起きてもアメリカはこの立場を一貫してとるはずだ」と述べました。

与党「国民の力」午後2時半から緊急の議員総会 再び開催

韓国の与党「国民の力」は7日午後2時半から緊急の議員総会を再び開くと明らかにしました。

午後5時から開かれる国会の本会議で採決が行われる予定のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案について、対応を協議する見通しです。

これに先立ち、ユン大統領は午前中に発表した談話で「私の任期を含めて政局を安定させる方法はわが党に一任する」と述べていました。

国会議長 7日午後5時から本会議を開くと発表

韓国の国会議長は、7日午後5時から本会議を開くと発表しました。

ユン・ソンニョル大統領のキム・ゴニ(金建希)夫人の疑惑に関する特別検察官の任命をめぐる法案を審議を行ったあと、ユン大統領の弾劾を求める議案を取り扱うとしています。

ソウル市民「場当たり的」「これが謝罪だとは理解できない」

韓国のユン・ソンニョル大統領が「非常戒厳」を一時宣言したことを謝罪したことについてソウルの30代の男性は「本心なのか、国民を落ち着かせたくて話しているだけなのかが疑わしいと思った。きょうこれから弾劾の議案の採決があるので、場当たり的なものとしてやったようにも見えた」と話していました。

また、6日に退陣を求める集会に参加したというソウルの30代の女性は「これが謝罪だとは理解できないし、今後も続けていくと言っているようにも聞こえた。謝らない方がまだましなような謝罪だった。その座から降りてくることが謝罪だと思う」と非難していました。

「非常戒厳」宣言当時 国会に投入の軍で何が 軍幹部証言

韓国で「非常戒厳」が一時宣言されたなかで、当時、国会に投入された軍のなかで何が起きていたのか、軍幹部の証言で少しずつ明らかになってきました。

韓国の公共放送KBSは「非常戒厳」が宣言された際に、国会に展開した部隊を指揮した陸軍の第1空挺特戦旅団のイ・サンヒョン旅団長のインタビューを6日に伝えました。

それによりますと、イ旅団長は司令官から国会に進入する指示があり、国会到着後に受けた連絡では、非常戒厳の解除に関連し「議決しようとするはずだからドアを壊して中に入り、国会議員を引っ張り出せ。だめなら、電気でも止めろ」と伝えられたということです。

イ旅団長は、これに従わなかったとしています。

その理由について「政治的中立を損なうためだめだと思い、国会内で議員の秘書官と接触している大隊長にいったん後ろに退けと指示した」と証言しました。

その上で当時を振り返り「精鋭部隊として危険な特殊任務を担う部下たちが、政治の道具にされたようで胸が痛む」と述べた上で、軍の責任は自身を含む指揮官たちにあると述べました。

弾劾議案の提出理由の詳細

韓国の最大野党「共に民主党」など野党6党が国会に提出したユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案には、議案を提出した理由が盛り込まれています。

議案ではユン大統領による「非常戒厳」の宣言について、国家の非常事態やその兆候もなく、戒厳の宣言を国会に通告する手続きをしなかったなどとして、憲法で定められた要件を満たしていないとしています。

そして「同じ民族どうしが争う悲劇的な記憶を呼び起こす、国民への裏切り行為だ。ユン大統領は不法に軍隊の動員を指示し憲政秩序の中断を図った」としています。

また、今回の議案は「非常戒厳」のほかにも、キム・ゴニ夫人に関するさまざまな不正疑惑に触れているほか、ユン大統領の外交姿勢も批判しています。

外交については「地政学的なバランスを無視して北朝鮮と中国、ロシアを敵対視し、日本中心の奇異な外交政策に固執した」としています。

そして「日本に傾倒した人物を政府の要職に任命した」とした上で、日本との関係を重視するユン大統領の政策によって「北東アジアで孤立を招いて戦争の危機を触発した」という主張を展開しています。

過去の韓国大統領の弾劾は

韓国の国会では、大統領の弾劾を求める議案が可決されたことがあります。

2004年には、当時のノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領が、大統領選挙をめぐる側近らによる不正資金事件の責任などを理由に弾劾の議案を可決され、職務を停止されました。

しかし、憲法裁判所は「罷免する重大な職務上の違反には当たらない」として棄却し、ノ大統領は職務停止からおよそ2か月で大統領職に復帰しました。

2016年には、当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領が、知人による大統領府高官の人事への介入などを理由に、弾劾の議案を可決され、職務を停止されました。翌年、憲法裁判所は弾劾を妥当とする決定を言い渡し、パク大統領は韓国の大統領として初めて、罷免されました。

大統領が職務停止になってからの流れは

韓国では、大統領の弾劾を求める議案が国会で可決されると、大統領は一時的に職務を停止されます。

その場合、首相が大統領の職務を代行することになります。

その後、憲法裁判所が180日以内に弾劾が妥当かどうか、最終的な決定を言い渡すことになっています。

憲法裁判所の裁判官の定員は9人ですが、3人が退任したあと後任が決まっていないため現在、裁判官は6人となっています。

韓国の憲法では大統領の弾劾を決定するためには裁判官6人以上が賛成しなければならないとしていて、憲法裁判所での審理がどのように進むかが次の焦点となります。

仮に憲法裁判所で弾劾が妥当だとする決定が言い渡されれば大統領は罷免され、60日以内に大統領選挙が行われることになります。

◆「非常戒厳を宣言」これまでの経緯は

▽3日午後10時半ごろ:ユン大統領「非常戒厳を宣言」
▽4日未明:国会で解除要求する決議案 可決
▽4日午前4時半ごろ:ユン大統領「戒厳を解除」
▽4日午前5時ごろ:閣議開かれ非常戒厳を解除
▽4日午後:野党 弾劾求める議案を国会に提出
▽7日午前:ユン大統領謝罪「任期含め党に一任」

韓国での一連の混乱は、ユン・ソンニョル大統領が3日夜、緊急の談話を発表し、「非常戒厳」を宣言したことをきっかけに始まりました。宣言の理由として、ユン大統領は、来年の予算案に合意しない野党側の対応などをめぐり「国政はまひ状態にある。憲政の秩序を守るためだ」としました。
韓国で非常戒厳が出されたのは1987年の民主化後、初めてのことでした。これを受けて戒厳司令官が政治活動の禁止や、メディアに対する統制などを盛り込んだ「布告令」を発表し、軍の部隊が国会の建物に突入する事態となります。

また、非常戒厳が出されたあと、軍のおよそ300人が中央選挙管理委員会の庁舎などに展開していたこともわかりました。選挙管理委員会によりますと、軍が夜間の当直などの5人から携帯電話を押収したほか、庁舎の出入りを制限し、3時間半近く庁舎を占拠したということです。資料の持ち出しはこれまでのところ確認されていないとしています。

4日未明になって、韓国の国会は本会議を開き、与党議員を含む190人が非常戒厳の解除を要求する決議案を全会一致で可決しました。午前4時半ごろユン大統領は再び談話を発表し、閣議を通じて非常戒厳を解除すると明らかにしました。非常戒厳は、宣言から6時間で解除されました。

4日午前、最大野党「共に民主党」はユン大統領に直ちに辞任するように要求し、午後には野党6党がユン大統領の弾劾を求める議案を国会に提出しました。これに対し、与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は5日、ユン大統領に離党を求める一方で、党としては弾劾の議案に反対する考えを示しました。

弾劾の議案は5日未明、国会の本会議で報告され、野党側は、7日の本会議で議案を採決する方向で調整を進める考えを明らかにしていました。採決では国会議員の3分の2以上が賛成すれば可決され、大統領の職務は停止されますが野党側だけでは3分の2以上に達しておらず、大統領と距離を置く与党議員もいるなか与党「国民の力」の動向が焦点となっています。

ハン代表は6日午前、党の会合で「ユン大統領の早急な職務執行停止が必要だと判断する」と述べ、韓国メディアは弾劾の議案に事実上、賛成する立場を示唆したものだと伝えています。また、ハン代表は6日午後、ユン大統領と会談したということで弾劾の議案をめぐる与党の対応に関心が高まっています。

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