韓国 大統領の弾劾議案 採決は見通せない状況【5日の動き】

韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案について、与党「国民の力」は党として反対する方針です。議案の可決には与党から少なくとも8人の賛成が必要で、採決の行方は見通せない状況です。

5日の動きをお伝えします。

弾劾議案 採決の行方見通せない状況

与党「国民の力」 ハン・ドンフン代表

「非常戒厳」を一時宣言したユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案をめぐり、韓国の与党「国民の力」のハン・ドンフン(韓東勲)代表は「混乱によって生じる被害を防ぐため」として、反対する考えを改めて強調しました。

一方、国会で過半数を占める最大野党「共に民主党」は、7日午後7時前後の採決を目指すとしています。

可決するには国会議員の3分の2以上の賛成が必要ですが、野党側だけでは届いていないため、108議席の「国民の力」から、少なくとも8人が、党の方針に反して賛成に回ることが必要で、採決の行方は、見通せない状況です。

「非常戒厳」をめぐっては市民からも批判の声が相次ぎ、韓国の国会では大統領の退陣を求める集会が5日夕方も開かれました。参加者たちはろうそくを手に「弾劾なくして韓国の未来はない」などと声をあげていました。

「共に民主党」の首席報道官は「『国民の力』が民意に逆らうなら『内乱加担罪』というくびきを避けることはできない」と述べて、弾劾に反対する与党に揺さぶりをかけました。

また「共に民主党」は、「非常戒厳」を宣言したユン大統領について「憲法や法律を完全に無視し、国会の憲政秩序をじゅうりんする『国家反乱』の目的だった」として、内乱をたくらんだ疑いで5日、警察に告発しました。

韓国の世論調査 ユン大統領の弾劾 “7割が賛成”

韓国の世論調査機関「リアルメーター」は5日、「非常戒厳」を宣言した韓国のユン・ソンニョル大統領の弾劾について、7割が賛成したという調査結果を発表しました。調査は4日、韓国国内で電話で行われ、504人が回答しました。

それによりますとユン大統領の弾劾について
73.6%が「賛成」と答え
24.0%が「反対」と回答したということです。

また、ユン大統領が「非常戒厳」を宣言したことが内乱罪に該当するかどうかについて尋ねた質問では
「該当する」と答えたのが69.5%だったのに対し
「該当しない」と回答したのは24.9%だったということです。

専門家“日韓 日米韓に悪影響を及ぼしかねない”

元外交官でキヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦理事・特別顧問は、韓国のユン・ソンニョル大統領が「非常戒厳」を宣言したあとの内政の混乱が長引けば、日韓関係、さらには日米韓の連携にも悪影響を及ぼしかねないという考えを示しました。

宮家氏は、ユン大統領の外交について、中国や北朝鮮の情勢をめぐって日韓関係を早期に改善する必要がある中で「ようやく正常な状態にしてくれた」と述べ、評価しました。そのうえで韓国の内政の混乱が長引くなどした場合について、宮家氏は「日韓関係改善のプロセスが一時的にせよ中断する、もしくは歩みが遅くなる可能性は十分あると思う」と指摘しました。

また宮家氏は、アメリカのトランプ次期政権の具体的な政策が見通せないことに加え韓国の内政が混乱したとして「日米韓の連携がうまくいっていたところに、2つの不確実性が出てきた」と述べて、3か国の連携に懸念を示しました。そして、日本の今後の対応については「国際的な状況を見て戦略的に韓国の将来を考える人たちが現政権、そして野党側にも必ずいるはずだ。共通の利益を見据え、次の政治的な変化に備えるべく今から準備をしていかなければいけない」と述べました。

日中の有識者も韓国情勢を懸念

日本や中国の有識者が集まったフォーラムでは、東アジアの安全保障への影響を懸念する声も聞かれました。

3日から都内で開かれた日本と中国の元高官や学識経験者らが意見を交わすフォーラムでは、最終日の5日、安全保障をめぐる分科会で韓国の情勢についても意見が交わされました。

このうち、自衛隊の統合幕僚長を務めた河野克俊氏は「ユン政権の政治力が急速に低下するのは不可避で、北朝鮮を抑止するための日米韓のこれまでの枠組みが不安定化するおそれが非常にある」と述べ、韓国の国内情勢の不安定化による東アジアの安全保障への影響に懸念を示しました。

また、中国のシンクタンクの研究員、張※ダ生氏は「国民から政権への支持率が低い状態は、韓国が最たる例であり、日本にも存在する。これは地域の安全にとっての課題になる可能性がある」と述べました。
(※ダ=さんずいに蛇のつくり)

日韓の8自治体の会議 韓国側「トップは参加できない」

対馬海峡を挟んで向かい合う日本と韓国の8つの自治体は、友好促進などを目的に、毎年、自治体トップが参加する会議を開いています。

ことしは、日本側から福岡や佐賀など4県の知事が、韓国側からはプサンやチョルラ南道など、1市3道の首長が参加して、7日から佐賀県嬉野市で開かれる予定でした。

しかし、4日、韓国側から「自治体トップは参加できない」という連絡が佐賀県にあった一方で、5日夕方には「開催を強く希望する」との要望が寄せられたということです。

このため、日韓の自治体間で協議した結果、トップの参加を取りやめ、副知事など代理が出席する形で予定どおりの日程で会議を開くことを決めたということです。

この会議をめぐっては、非常戒厳の宣言をきっかけに韓国国内で混乱が続くなか、佐賀県は、日程の再調整も難しいとして、一時、中止を決めていました。

《日本側 反応》

日本商工会議所 小林会頭“現時点で大きな影響なし 内政安定を”

日本商工会議所の小林会頭は5日の会見で、韓国のユン・ソンニョル大統領による非常戒厳の宣言をめぐる動きについて、韓国に進出する日本企業の間でいまの時点でビジネスに大きな影響は出ていないことを現地の事務所を通じて確認したと説明しました。
そのうえで日韓関係について「岸田政権とユン大統領のもとで日韓関係は大きく改善した。順調にシャトル外交もするとして石破政権に引き継がれたが、停滞することを危惧している。日本と韓国にはサプライチェーンがあり、分断されれば韓国経済に大きな影響が出て、結果として日本につながるので非常に憂慮している」と述べました。

また、韓国と北朝鮮との関係を念頭に「朝鮮半島の南北の状況の流動化を一番心配している。そういうことが起きないよう、韓国の内政が安定してほしい」と述べました。

石破首相「日韓関係の改善 努力損なうことがあってはならない」

石破総理大臣は衆議院予算委員会で「日韓は今予断を許さない。しかし、韓国がどうなっていくか、国内的には非常な批判や反発があっても、ユン大統領が日韓関係の改善を進めてきた。そうした努力を損なうようなことが、かりそめにもあってはならない」と述べました。

林官房長官「引き続き事態を注視」

林官房長官は午前の記者会見で「日本政府として引き続き特段、かつ重大な関心を持って事態を注視している。日韓は国際社会のさまざまな課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国どうしであり、日韓関係全体の取り組みについては、情勢を注視しつつ適切に判断していきたい」と述べました。

==【5日の動き】==

韓国 陸軍参謀総長 職を辞する意向

韓国のユン・ソンニョル大統領による「非常戒厳」の宣言をめぐり、戒厳司令官を務めたパク・アンス(朴安洙)陸軍参謀総長は、5日の国会審議でみずからの進退について質問を受けました。
パク氏は「4日、国防相にお話をした」と述べ、5日辞任が認められたキム・ヨンヒョン(金龍顕)国防相に対して陸軍参謀総長の職を辞する意向を伝えていたと明らかにしました。

国防次官 国会への部隊投入「国防相の指示」

韓国のキム・ソノ(金善鎬)国防次官は、5日午前の国会審議の中で「非常戒厳」をめぐって、誰が国会への軍の部隊の投入を指示したのか質問されたのに対し「国防次官は指示する立場にはなく、その兵力の投入の指示は国防相が行った」と述べ、5日、辞任が認められたキム・ヨンヒョン(金龍顕)国防相の指示だったと明らかにしました。

韓国 最大野党「弾劾採決7日で調整」

韓国の国会で過半数を占める最大野党「共に民主党」のチョ・スンレ(趙承来)首席報道官は、5日午前に開かれた党の会合のあと、記者団に対し、ユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案について、7日夜に採決する方向で調整を進める考えを明らかにしました。
首席報道官は、国会議長と協議する必要があるため、日時は変わる可能性があるとしています。

韓国 与党代表「ユン大統領の離党を求める」

韓国の与党・国民の力のハン・ドンフン(韓東勲)代表は、5日朝開かれた党の会合で「4日、ユン・ソンニョル大統領と面談したが、今回の事態に対する大統領の認識は、私や国民の認識と大きな違いがあり、共感するのが難しかった。党代表として、ユン大統領の離党を求める」と述べました。
一方、ユン大統領の弾劾を求める議案については「混乱によって生じる被害を防ぐために、成立しないように努める」と述べ、党として反対する方針を改めて示しました。

議案は、採決で国会議員の3分の2以上が賛成すれば可決されますが、野党側だけでは3分の2以上に達しておらず、与党議員の動向が焦点になっています。

ユン・ソンニョル大統領 国防相の辞任認める

キム・ヨンヒョン(金龍顕)国防相

韓国大統領府は、ユン・ソンニョル大統領が「非常戒厳」に関連して「国民に混乱を与え、心配をかけた」として4日、辞意を表明したキム・ヨンヒョン(金龍顕)国防相の辞任を認めたと発表しました。後任に、サウジアラビア大使で韓国陸軍出身のチェ・ビョンヒョク(崔秉赫)氏を起用するとしています。

大統領府高官は、チェ氏について「豊富な経験と高い見識をそなえ、日米韓の連携や確固たる軍事体制を維持する上で適任だ」と説明しています。チェ氏は、今後、国会での聴聞会を経て正式に就任することになります。

大統領の弾劾議案 国会報告 採決6日にも

韓国のユン・ソンニョル大統領が非常戒厳を宣言したことをめぐって、最大野党「共に民主党」など野党6党は4日、憲法違反にあたるとしてユン大統領の弾劾を求める議案を国会に提出しました。

これを受けて国会の本会議が開かれ、5日午前1時前に議案が報告されました。国会での報告後、24時間以降、72時間以内に議案の採決が行われることになっていて、早ければ6日にも採決が行われることになりました。採決で国会議員の3分の2以上が賛成すれば可決され、大統領の職務は停止されます。ただ、議案を提出した野党側だけでは3分の2以上に達しておらず、与党議員の一部が賛成にまわるかどうかが焦点です。

こうした中、与党「国民の力」は議員総会を開いて、党として弾劾の議案に反対する方針を決定し、採決の行方が注目されています。

一方、韓国大統領府の関係者は4日、ユン大統領による非常戒厳の宣言について、国政を正常化するための試みであり「すべて合法的な枠内での行動だった」と主張しました。

ユン大統領自身は、非常戒厳の解除以降、公の場に姿を見せていませんが、4日午後に与党の幹部らと対応を協議したことがわかっていて、今後、何らかの立場を示すのかどうかに関心が集まっています。

【解説】最新の動き 今後のポイントは?

ソウル支局の山下涼太記者の解説です。
(※動画はデータ放送ではご覧になれません)

Q.最新の動きはどうなっている?

「5日未明の本会議で弾劾の議案が報告されたことで、手続き上は6日未明以降に採決が可能になりました。野党側としては、なるべく早く採決をしてユン大統領を弾劾に追い込みたい構えです。
野党は、4日に続いて5日も集会を開く予定で、ユン大統領への批判の声が高まっている世論も味方につけ、与党側への圧力を強めるものとみられます。
これに対し、与党『国民の力』の議員は、5日未明の本会議を欠席して議員総会を開き、党として議案に反対する方針を決めました。弾劾をめぐる与野党の駆け引きが活発になっています」

Q.今後のポイントは?

「一部の韓国メディアは『弾劾議案の採決の行方は、与党の造反議員がどれほど出るかにかかっている』と伝えています。弾劾議案の可決には国会議員200人以上の賛成が必要です。野党と無所属の議員をあわせれば192人になるため、与党・国民の力の議員8人以上が賛成すれば、議案は可決されるということになります。
その与党は、議員総会で党として反対する方針を決めましたが、4日未明に、非常戒厳の解除を求める決議案を採決した際には、与党議員の一部もこれに賛成しました。
ユン大統領に対する国民の批判が高まるなかでも党の方針どおりに与党議員全員が反対するのか、それとも造反が出て弾劾議案が可決されるのか、注目されています」

日本政府は韓国国会の状況など注視

日本政府は、韓国の国会の状況などを注視するとともに、一連の事態が日韓関係の悪化につながらないよう、事務レベルでの意思疎通を続ける方針です。

石破総理大臣は4日午後「良好な日韓関係は、地域の平和と安定のために極めて重要で、重大な関心を持って事態を注視している」と述べました。そして、夜、岩屋外務大臣や中谷防衛大臣らと総理大臣官邸で対応を協議しました。

今回の事態を受け、政府内では「早期実現を目指していた首脳間の『シャトル外交』は当面、実現が難しくなった」という見方が広がっているほか、早ければ今月中の韓国訪問を調整していた中谷大臣は、今の情勢では困難だとして見送る方針です。

また、日韓関係は、岸田前総理大臣とユン大統領との間で大幅に改善した経緯があることから、政府内では、ユン大統領の弾劾をめぐる展開次第では、関係が後退しかねないという懸念も出ています。

このため、政府は、韓国の国会の状況や、ユン大統領自身の対応を注視するとともに、一連の事態が日韓関係の悪化につながらないよう、事務レベルでの意思疎通を続ける方針です。

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