中国から出られない外国人が急増 米国人だけで100人 習政権が発明「巨大な鳥かご」◇ノンフィクション作家 譚璐美【コメントライナー】

2024年10月31日14時00分

 中国の出国禁止措置により、中国から帰国できない外国人が急増している。2014年に「反スパイ法」が施行され、23年7月には改正「反スパイ法」が制定されたことで、スパイの定義が拡大され、それに伴う罰則規定も多様化したためだ。特に「出国禁止措置」に関する法律は18年以降、「国家監察法」など少なくとも5本が成立し、関連法規も15項目に上っている。

始まりは外国メディアへのどう喝

 最初は外国メディアに対するどう喝の一環だった。18年、北京駐在のオーストラリアABCニュースのマシュー・カーニー記者は、「中国の法律に違反した」としてビザ発給を停止され、10代の娘と共に強制的にビデオ撮影で反省文を読まされた。取材対象の中国人が起訴され、彼は家族と急きょ中国を離れた。

 20年に中国とオーストラリアの外交関係が緊張すると、オーストラリア国籍の別の記者2人が出国を制限された。2人の出国禁止は数週間後、外交交渉の末に解除された。

 在中国外国記者協会は公開状を発して「大いなる懸念」を表明したが、今やそれが外国人全体に広がり、長期にわたって帰国できない事例が多発している。

出張でトラブル、4年も足止め

 米国のある人権団体の調査によると、少なくとも100人前後の米国人が出国禁止の対象になっているという。ロサンゼルスのあるビジネスマンは、出張で中国へ行き、取引相手の中国企業とのトラブルが発生。帰国しようと空港へ行ったところ、出国禁止になっていることが発覚した。

 中国企業からは、身に覚えのない高額の損害賠償を請求する書類が送られてきた。反論しようにも訴えるべき公的機関がなく、4年間も中国で足止めされている。

 行動は自由だが、毎日やることもなく、携帯電話は盗聴され、米国の家族との電話連絡は週に1回5分間だけに制限されている。いつ解決するかも分からず、途方に暮れているという。

米は「中国へ行かないように」

 出国禁止になる事例の多くは、ビジネス上のトラブルと推測されるが、中国政府、警察、公安、出入国管理局、企業が連携している可能性が高い。日本人ビジネスマンも注意が必要だ。

 米国務省は20年10月、「観光目的であっても中国へ渡航する場合、出国制限のリスクがある」と警告し、「できれば中国へ行かないように」と注意喚起した。カナダ、オートスラリア、英国、日本などの各国政府も、同様の注意喚起や警告を発している。

中国人は数十万人が旅券没収

 中国公民の場合はより深刻だ。スペインの中国人権擁護団体「セーフガード・ディフェンダース」の報告(23年12月)によれば、パスポートを没収され、出国禁止の対象になっている人は推定で数十万人に上る。中央官僚、地方公務員、大学教授、弁護士、医師、記者、芸術家、企業家らである。

 理由は明らかにされていないが、汚職犯の国外逃亡や、資産の海外持ち出し、政治亡命が疑われたり、国外で対中批判や人権擁護活動を行う恐れがあると判断されたりした人々のようだ。

娘の葬儀にも参列できず

 人権派弁護士だった唐吉田さんもその1人だ。日本の日本語学校に留学中の娘、唐正琪さんが19年、病に倒れ意識不明の重体になったため、21年6月に日本へ渡航して娘に会おうとした。ところが、「国家の安全」などを理由に出国を禁止され、その後拘束された。

 唐吉田さんは23年1月に保釈された後も、厳重な監視下に置かれた。24年春、唐正琪さんは日本で亡くなったが、父親は告別式にも参列できなかった。なんと無慈悲でひどい仕打ちではないか。

 21世紀の習近平政権は、中国を「巨大な鳥かご」に仕立て、誰も逃げられない新たな刑罰を発明したのである。

(時事通信社「コメントライナー」を加筆修正しました)

【筆者紹介】譚 璐美(たん・ろみ) 東京生まれ。慶應義塾大学卒。慶應義塾大学講師、同校訪問教授などを経て、作家業に専念。日中近代史を中心に、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。近著に「帝都東京を中国革命で歩く」(白水社)、「中国『国恥地図』の謎を解く」(新潮新書)、「宋美齢秘録」(小学館新書)。

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