引き止め切れなかったことをずっと後悔

香田さんは彼女のようにイラクに足を踏み入れた体験をイスラエルで欧州のバックパッカーから直接聞いて刺激を受けたのかは分からないが、「傷ついたイラクの子供たちを助けに行きたい」と周囲に語っていたそうだ

渡航の動機は……今となっては誰も知ることができない。海外支援に興味があったのなら青年海外協力隊など他にも色んな選択肢があったはずだ。サーメルは自分が引き止め切れなかったことを生涯後悔し続けるだろうと、毎日自分を責め続けていた

当時はまだスマホもなかった時代だ。私は外務省の渡航情報を事前にチェックし、退避勧告が出ているような国にうっかり行ってしまうことのないようにネットカフェで情報を収集するのが日課になっていた。

 

遥か遠い国の情勢がリアルタイムでニュースとして入ってくることもなく、「行けばなんとかなるだろう」「自分は大丈夫。危険なことなんてない」と思ってしまうことも多いのだが、安宿にある情報ノートや世界各国のバックパッカーと毎晩のように宿で情報交換してリアルな危険情報を集めることも多かった

治安が良い日本とは異なり、未知の世界に対して甘い認識で旅に出ると、日本に残されたほうは毎日24時間心配をすることになる。当人にはそれが分からないが、残された家族、恋人、友人は胸を切り裂かれそうな思いをして待っていないといけないのだ。大事な人をそんな気持ちにしてまで危険な国に行く必要なんてどこにもない

私も当時婚約していた恋人と旅している場所が原因で別れた。「欧米、オセアニア辺りならまだ耐えられるけど、中東・アフリカを君一人で旅するなんて心配過ぎて心がおかしくなってしまう。耐えられないから一旦別れよう」と。無事帰国してから彼とは復縁したが、私も逆の立場なら間違いなく心配で別れていたと思う。

でも簡単に別れられる恋人と家族は違う。何か遭った時に一番悲しむのは日本にいる家族だ。家族だけは悲しませてはいけない。自分の行動によって両親より先に死ぬなんて絶対あってはいけないことだ。

夕陽を見ながら死海に浮く。写真提供/歩りえこ