何があった!?イラクから戻った旅行者の異変

香田さんがヨルダンに来る前にワーキングホリデーで滞在をしていたのがニュージーランド。私も世界一周前半はオーストラリアやニュージーランドに長期滞在していたので、そのあまりの平和さに日本にいる時よりもさらに平和ボケしてしまったほど治安が良い国だった。3か月以上滞在していてもとりたてて面白いハプニングも起きなければ、犯罪も極めて少ない。いつも平和で長閑。そんな印象だった。

冒険心の強い男性ならもう少し刺激的なところへ行きたいと思っても何らおかしくないと思う。それに加え、香田さんは海外支援などに関心を強く持っていたという。香田さんはイスラエルへ向かい、ヨルダンへと入国。当時、欧州からのバックパッカーがイラクへとちらほら足を運んでいた。

 

私がトルコのイスタンブールで泊まった宿でもイラクから帰ってきたフランス人女性バックパッカーがいたが、彼女はイラクから戻り、完全に心身喪失してしまっている状態だった。目は充血したままずっと血走り、瞳孔が開きっぱなしで話しかけてもろくに喋ることすらできない。

共同ドミトリーの中で毎晩彼女は悪夢に魘されているようで、真夜中に突然泣き叫びはじめ、朝方まで泣き続け、誰も彼女に話しかけることはできなかった……憔悴しきった状態だった。

イラクに行った彼女の身に何があったのか誰も分からなかったが、心身を喪失するほどの出来事を体験したのかもしれない。その後、彼女は宿主の勧めで病院に行き、二度とその宿に戻ってくることはなかった。

ペトラ遺跡にいる観光客相手に商売するヨルダン人。写真提供/歩りえこ