ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ユキカゼ・ラン・アンド・ガン3

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「ナンデ無駄な抵抗するんです? ナンデ?」

 

 「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 地面をオークが一人這っていた。いや、そのブザマさからするに、もう一匹と呼んだ方がいいだろう。

 

 逃げようとしていたオーク。眼帯が特徴の奴隷商、ゾクトの目の前にカタナが突き立った。ウスガミ一枚、持ち手の加減が誤っていれば鼻を垂直に割られていたであろう絶妙なコントロールで突き立った白刃が視界を真っ二つにし、再び情けない悲鳴が上がった。

 

 「私、淑女的にアイサツしてドアもノックしましたよね? しかも三回」

 

 「ざっ、ざけ、ざけんな! マゾクスレイヤーの犬がカチコミかけてきたら誰だって……ぎゃぶっ」

 

 「ソレ、理由になります? ねぇ、人に鉛玉叩き込む理由になりますか? オカシイと思いませんか? あなた」

 

 カタナの担い手、葉月はメンポの下で心底どうでもよさそうに、そして僅かに不愉快そうに唇を歪めてゾクトの背中を踏みつけていた。サツバツナイトの犬扱いされたことは、これといって問題ではない。

 

 むしろ、人狗族的にちょっとゾクッと来る響きだったのでカンニンブクロを暖める火勢を強くはしなかった。

 

 「ねぇ、ナンデ?」

 

 「分かった、悪かった! 謝る! 何だってする! だから背中から足を退けてくれ……息が、息ができねっ……!!」

 

 肩甲骨の間、鳩尾の裏側、ここを抑えられれば人型の生物は物理的に立ち上がれなくなるウィークポイントだ。

 

 彼女が怒っているのはシンプルな理由。師から指令を賜って、ただ大人しく話を聞ければよしと〝拷問〟ではない普通のインタビューをしに来ただけなのに、鉛玉で返答を喰らったからである。

 

 扉越しに吹き荒れた鉛の嵐は、彼女がニンジャ聴力と第六感を持っていたから回避できたものであって、そうでなければネギトロになっていただろう。

 

 しかし今宵、ネギトロになったのは彼女ではなく、彼女がネギトロにしたのだ。

 

 ゾクトのアジトは正しくツキジめいた惨劇の場と化していた。

 

 アイサツ前のアンブッシュは一度のみ見逃せば良いが、あろうことか奴儕はアイサツをした後の葉月にアンブッシュを見舞った。

 

 ならば情けは無用。一息に皆殺しにしろと教えられていた彼女は、カタナで壁を切り抜いて内部に侵入し、ゾクトの傭っていた用心棒と護衛を全員撫で斬りにした。問答無用、武器を捨てて命乞いする者も含めてだ。

 

 その中には珍しく銃を扱う魔族もおり、跳弾を用いた360度全域から襲いかかる攻撃は正しくタツジンと称賛するに値するワザマエの持ち主。

 

 だが殺した。

 

 「油断ならぬ護衛でしたが、それを嗾けた理由は?」

 

 弾頭は小さく、そして僅かな風で乱れる物だ。それを知っている葉月はカラテの間合いに中々踏み込ませてくれないと判断するや否や、敵の〝銃口間近〟に突風を巻き起こして弾道を攪乱。得手とする戦法を完全に頭から叩き潰された護衛は、細やかな反撃の後に惨たらしく斬り殺された。

 

 「だからっ……マゾク……スレイヤー……には……なんっども……ひでぇめに……」

 

 「でもセンセイはあなたを殺してませんよね? 理由になりますか?」

 

 「だから……おれが……わるかっ……」

 

 「まぁ、いいでしょう」

 

 酸欠で窒息死一歩手前まで追い込まれたゾクトがブザマに謝罪するのを受け容れて、葉月は足を背中から退けた。

 

 彼女のすらりとした真っ白な足は、今では800kgの重しを乗せて三十分のプランクに耐えるだけの筋力があるため、それはもう壮絶な圧を掛けていた。

 

 やっと解放されたゾクトは数度転がって仰向けになり、深く息を吸おうとし……。

 

 「ひぃっ!?」

 

 失敗した。斬首された配下のクビと間近で見つめ合うことになったからだ。

 

 咳き込む奴隷商を軽蔑の目線で見やった後、葉月は懐紙を取りだしてカタナを拭う。タツジンの手捌きで振るわれた刃には血糊一滴、血脂一つ浮いていなかったが、戦いを終えるルーティンは滞りなく行われ納刀される。

 

 しかし、イアイドも嗜む彼女に向かって刃向かえば、即座に刃は再び真っ白な光を放ってゾクトを襲うだろう。そのことを自身の配下が織りなすツキジめいた惨状から重々理解した彼は、腰に刺さっていた拳銃を放り棄てて服従の意を示す。

 

 「何でも、何でも聞いてくれ!!」

 

 「じゃあシンプルに行きましょう。私、そういうのに向いてないので。幻影の対魔忍に関するネタはありますか?」

 

 またかよ! と叫びたくなったゾクトであるが、余計な口を訊いたら叩き斬られそうな予感がしたので、愛用の軍用ラップトップに縋り付いて必死に検索をかけた。

 

 そして、アンダーウェブのヨミハラ・フォーラムにヒットする案件があった。

 

 「こ、これか? バニーめいた対魔忍装束……ち、小さいがヒットがあったぜ!」

 

 「ふーむ、何処ですか?」

 

 後ろから覗き込まれて、顔の間際で葉月の相対的に豊満な胸が揺れたが、そんなことを気にしていられないゾクトは、投稿をドラッグして強調表示して見せた。

 

 「ちょ、超一流用のVIP席にだけ現れるって噂になってる! 今はコソコソした怪しいもんだし、もう随分前に話を聞かなくなったが幻影の対魔忍つったら、そりゃ名が知れたモンだった! 今も忘れてねぇってヤツは多い!」

 

 「ほぅ、それは何処ですか?」

 

 「ちょ、ちょとまてちょっと待て……」

 

 カチャカチャとオークタイピング力で素早く検索用クローラーを起動したゾクトは――ヨミハラのネットは地上より更に掃き溜めめいているため、検索にコツが要るのだ――該当する内容を急いで読み込んで端的に伝えた。

 

 恐らく、長調子で語ったら「口の過ぎる男は嫌いです」と斬られかねないことを本能的に理解したのだろう。

 

 「アンダーエデン! アンダーエデンって店だ! 三件も書き込みがある!」

 

 「それは多いですか?」

 

 「情報ツウの書き込みだ! 信頼性は高い!」

 

 ふむ、と一つ頷いて、葉月は懐からUSBを取りだした。

 

 師曰く、オテガル・クラック装置なるもので、米連製の優れた情報収集装置であるらしく数ペタバイトの記憶媒体でも十数秒で完全コピーできる優れものだ。言うまでもなく一般流通しておらず、彼が米連との個人的な和平条約を締結するにあたってイーオから譲り受けたものだ。

 

 商売道具たる情報が引っこ抜かれている様を為す術もなく眺めるしかないゾクトであったが、命には変えられない。生きてこそ浮かぶ瀬もある、彼の座右の銘であり、人界の連中も上手いこと言った物だと心に掲げて生きてきた言葉に縋るのだった。

 

 「し、しかし、人が悪いぜマゾクスレイヤーも……話が聞きてぇなら普通の対魔忍……情報交換役のアセットをよこしゃこんなことにゃ……」

 

 「先生はオヌシは信用できぬ、と仰せでした」

 

 「ヒデぇ……」

 

 しかし、対魔忍に情報を流しているから奴隷商売を目溢しされているような存在を藤木戸が頭から信用するはずがない。何か罠が仕掛けられていないかと勘ぐるのは当然だし、土壇場で裏切られることも考えて動くのは至極当たり前だ。

 

 裏切り者は容易く裏切る。一度目のそれは難しいが、二度目ともなると簡単な物だ。

 

 ダブルスパイを作るのは苦労するが、トリプルスパイに転向させるのは簡単というメッソドは諜報員界隈において、この上なく有名なのだから。

 

 「じゃあ、これを持ってください」

 

 「は? え、線香……?」

 

 野太いセンコの束を手に持たされたゾクトは、いつもと違って誰ぞの生首に咥えさせるのではないかと思ったのだが、葉月は予想を裏切って着火する。

 

 そして、笑顔で言った。

 

 「燃え尽きるまで持っていてくださいね。それまで動かないように」

 

 「あ? え? それだけ?」

 

 「ええ〝燃え尽きるまで〟ですよ?」

 

 言葉を脳味噌がゆっくり咀嚼した後……ゾクトの顔から血の気が引いた。

 

 センコは約800度、煙草よりも高熱でじんわりと燃える。

 

 それを、消えるまで、手で持っていろ?

 

 「いや、ちょ、まっ……」

 

 「配下を嗾けられたら、こうしろとセンセイは仰ってました。それまでに落としたり、持つのを止めたりしたら……分かりますね?」

 

 「アッハイ」

 

 両手でしっかりセンコを握ってしまったゾクトは絶望した。これからこれが燃え続ける限り――掌中で完全に根元まで燃え尽きることはなかろうが――一瞬が永劫に近く感じる時を耐えねばならぬのだ。

 

 そして、ヤツは何処からか見ている。

 

 途中で熱さに負けて投げ捨てれば、今度は地面に転がることになるのは己の首だと直感的に判断した彼は、懸命にも自分の肌が持つ水分で燃焼部分が尽きるまで耐えるしかないと悟るのだった。

 

 「えーと、UNIXのチャット機能を使ってと。便利になりましたねー、ヨミハラも」

 

 後ろで必ず来たる激痛に冷や汗を流しながら見守っているオークを余所に、人狗族は気楽に軍用PDAを弄って情報を送信した。今ではヨミハラも中継局で衛星回線に繋がっているから、大容量データでも遠方に送れるようになったので、昔に比べたら大変便利になったものだ。

 

 「ヨシっと」

 

 ゾクトから巻き上げたデータとアンダーエデンの名を伝達し終えた葉月は、同じく別の場所で活動しているツバキに電話をかける。

 

 「あ、カメーリエ=サンですか? ドーモ、オーギュストです」

 

 『ええ、カメーリエよ。こっちは片付いたけど、連絡してきたってことはそっちも?』

 

 「はい、少々手間取りましたが」

 

 数コール間を空けて応答したのは、別方面に情報を探りに行っていたツバキだ。例によって使い捨ての符丁を使っており、盗聴されても大丈夫なように気を払っている。

 

 最近では電子戦と魔導戦を同時に行う胡乱な技術も出回っているとかで、うかうか電波に載せて大事な話もできないときた。秘匿回線でなければ、大量のデータで覆い隠すか、拾うのも難しい一瞬の短文で終えるかしないとハックされるのが便利なようでいてやりづらい。

 

 米連もそこら辺の技術に力を注いでいるのだが、サイバネに人造魔族、そして科学と魔法の融合など、一体何本の研究ラインを持っているのだろうか。金を湯水の如く使っても、賞味期限切れまでのスパンが怖ろしく短い追いかけっこに追随するのは凄まじいが、それにつき合う側は面倒で仕方がなかった。

 

 「例の名前、合致しました?」

 

 『ええ、こっちも貰った情報と同じよ。ああ、ちょっとまって、片付けるから』

 

 「うわっ」

 

 スピーカーの向こうから音が割れる程の悲鳴が響いたので、葉月は犬耳の方に寄せていた携帯を遠く離した。聴力が人より優れている彼女には、物理的な耳に毒であったようだ。

 

 「カメーリエ=サン、また暴れました?」

 

 『アイツの弟子にしては慣れてないわね。根切り上等、恨みは買ってナンボ、来た順に殺すの弟子にしては色々手ぬるいわ』

 

 「まぁ、大事にされてきたので」

 

 ふふんと胸を張りながら、葉月は後から入って来たのに事務所の上役になってしまったツバキに、自分が大事に大事に育成されていたことを誇った。

 

 師がカイデンとまではいかないが、完全な単独行での高難易度任務を許してくれるようになったのは、彼がヨミハラに帰ってから。カゼ・トン・ジツとカタナを組み合わせた、いわばソニック・イアイドとでも呼ぶべき斬撃は、師のメンポに切り傷を入れる領域に至った故の赦しであった。

 

 未だ一撃は徹せた自覚はないのだが、藤木戸は他ならぬアイデンティティーの一角たるメンポへの傷を〝徹った〟とカウントしたらしい。

 

 つまり、今の葉月を殺せる人間はヨミハラ広しと言えどそういない。

 

 その段階に至るまで、彼は完全に手綱を離すことを嫌がったのだ。

 

 これを師の愛と言わず何と言おう。

 

 『あっそう』

 

 しかし、反応は至極冷淡であった。

 

 葉月が藤木戸にとって完全な庇護対象でなくなったとするのであれば、ツバキは最初から共に戦う相手だった訳であって、どちらが軽いか重いかは人に拠るだろうが、ツバキにとっては完全に後者に天秤が傾く。

 

 あのカラテマシーンに〝足手まといでない〟と判断されるのがどれだけ大変なのか、わかっていないのだろうかと呆れるほどだ。

 

 「っと、メッセージが」

 

 通話中でも通知音が鳴る設定していたので、師からの素早い返信に気付いた彼女は、内容を読んで耳と尻尾をパタつかせた。

 

 主の帰還だ。二週間ぶりの…………。

 

 




オハヨ!!

ハヅキ=サンもちゃんと成長していますし、ツバキ=サンも良い腕していて原作よりバックアップ要員が豊富だからトントン拍子にことが進む。ゾクトは恐怖で叩きのめしてあるので裏切りフラグは折れました。
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