エデンの来訪者   作:火取閃光

4 / 26
第4話

 何かと交流を深めて数ヶ月。

 

 キーファ達と接していつの間にやら俺がキーファ王子の従者見習いみたいな位置付けになってしまった。

 

 いや、正式な従者ではない。バーンズ王は寛大な王様だから貴族にポッと出てきた様な者よりも安心出来るらしく頼まれた様な感じだ。

 

 大人の王様が直々にお願いしてきたものだから友人として接するとだけ宣言して、後の責任は知らないと言う事でなんとかなっている。

 

 キーファも俺がいる時は剣術の訓練に一緒に参加してきて共に兵士長達に扱かれている。

 

 兵士長達も良い兆しと捉えており、前の様な王族の責任感から逃げるキーファからそれと向き合うキーファへなって涙を流している。

 

 まあ、それでも王城から脱走しては俺達が暮らすフィッシュベルへ来て剣術以外の訓練に参加をしている。

 

 キーファ曰く

 

「だってさ、アレンと戦う剣術や武闘は楽しいさ! でも、王城で習うダンスや歌、楽器とか教養ってヤツは一体何の為に習うんだよ?

 

 親父だって政務で忙しいから音楽やダンスをしているところなんて貴族の夜会以外でみた事ねぇよ。

 

 貴族の夜会なんて所詮は王族の仕事。これが出来るから、だからなんなんだよ……!! って感じさ」

 

 キーファはそんな時間があるなら自己鍛錬か、病弱の妹を笑わせる為のネタ造りをした方が時間の有意義だと主張した。

 

「確かに、キーファの言う通りかもしれない」

 

「だろ!? やっぱりそうなんだって!!」

 

 キーファと友人関係になった時には王子なんて肩書や口調は普段のままで良いと当人とその父に言われたからそうしている。

 

「だけどな、さっきお前の話であったじゃないか? 歌や踊り楽器などの教養は王族の仕事の一部って」

 

「……そんなの分かっている」

 

 視線を逸らすキーファはそれがとても大事な事である事を知っているが為に消化出来ないモヤモヤがあった。

 

 だから歳の近いアレンと切磋琢磨して汗をかきそのモヤモヤとした苦しみやら重みやらを解消していた。

 

 そんな友人の手助けがしたいと思った俺はキーファに自分の考えを伝える事にした。

 

「何も王族の仕事だからと学ぶ必要はないんだ」

 

「?? どう言う事だ?」

 

 訳がわからないとキョトンとするキーファに俺は俺の考え方や解釈の仕方を続けて話す。

 

「考え方を変えろって話さ。例えばリーサちゃんに喜んでもらえる様に楽器や歌、簡単な踊りを学んで一緒に行う。

 

 きっと部屋で退屈な彼女は喜んでくれるだろうから、これだけでも学ぶだけの価値があるとは思わないか?」

 

 キーファはその考えはなかったと思ったのか驚愕に少し呆然としていたが、確かにその為になら価値はあると思った。

 

「正直に言えば俺はキーファの環境が羨ましい」

 

「羨ましいだって? 俺だってこんなに重い王族の責務とやらを変わってくれるなら変わって欲しいからお前が羨ましいよ」

 

 キーファは思う。こんな小さな島1つでも偉大な父の様に民の暮らしを守る事が自分に出来るのだろうか?

 

 自分はアレンの様な柔軟な考えは出来ず、ただ剣を振っている方が性に合った。

 

 だから、本当にこの国を背負うべき存在は自分の様な者ではなくてアレンの様な人物じゃないのかと思っていた。

 

「お互いにある物、ない者ねだりだけど……俺ならダンスも歌も楽器も習いたいと思う」

 

「それはなんでだ?」

 

「キーファは疑問に思わないのか?」

 

「何を……??」

 

 唐突な質問にキーファはアレンを見るがその表情は正に真剣そのものでこの話の続きがそれほどのものだと察した。

 

「この世の中にはこの島しか今の所存在していない。まるで他の大陸や島が消滅でもしてしまったかの様に……」

 

「……確かに、言われてみれば変だよな」

 

 バーンズ達過去の王族もそのことに関しては不可解に思って調査した結果、何もわからないと言う謎が残った。

 

「それは何らか俺達が想像出来ない力によって消されたのか? それとも単純に自然災害でこの島だけがそれから逃れたのか? どっちだと思う?」

 

「……前者だな。後者は前者よりも信じられないと思う奇跡が起きないと無理だと思った」

 

 キーファは考えられる自然災害として津波を思い浮かべたが、果たしてこの小さな島だけを除いて全部沈むだろうか? と疑問に思った。

 

「そう言う事だよ。俺はいつの日か、その正体……他の島が消されてしまった理由が明らかになると思っている。

 

 それが俺達の時代なのか? それとも俺達の子供や孫、子孫の時代なのか? それは分からない。

 

 でも、必要だと思った時に正しく継承した人が居なければ俺はその人達に申し訳ないと思う。

 

 過去に王族の責務としてそれらを加えた人達がそこまで考えているとは思えないけど、もしもそうだったら浪漫があると思わないか?」

 

「浪漫がある……??」

 

 遠い目で空をぼんやりと眺めるアレンの姿はまるで老人の様なニヤリとした笑みだった。

 

「そうだ。大いなる力が他の島を消すことが出来たがこの島だけは消すことが出来なかった。

 

 そして、この島で生き残った人々は後世に託したんだ。自分達の島や人を消した存在に立ち向かう人々へ正しい力を継承する為に」

 

「立ち向かう為に継承された、か……。歌や踊り、楽器が何の役に立つんだよ?」

 

 アレンの壮大な話は面白かったがそれとこれがなんの関係があるのかとキーファは笑った。

 

「意外にもその大いなる存在に対抗する鍵が歌や踊りなのかもしれないよ? そうじゃなくともリーサちゃんは喜ばせられる」

 

 自身の笑い声にアレンも一緒になって笑う。

 

「……だな! お前と話すと心がスッキリする!」

 

「王城の中は貴族の視線とかあってどうしても鬱屈すると思うから仕方ないよ」

 

「でも、確かに本気で習ってみてからまた考えてみるさ!」

 

「その時は俺にも教えてくれよ? 俺も楽器とかダンスとか出来れば宴やお祭りの時の一発芸くらいにはなるだろ?」

 

「ハハッ!! そうだな、良いぜ!!」

 

 王族の自分をこう言う風に使おうとするアレンが面白くなりなんだか教養も良いなと思い始めた。

 

 そして、それからと言うもの何かと脱走したキーファ王子は脱走癖が穏やかになり、妹とアレン共に音楽を楽しむ様になった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。